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タンパク質の阻害により神経因性疼痛が緩和される可能性/ワシントン大学

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タンパク質の阻害により神経因性疼痛が緩和される可能性/ワシントン大学

ワシントン大学セントルイス校
2009年3月15日

神経細胞内から出る病的な神経の分枝を破壊し、末梢神経障害と呼ばれる疼痛を伴う状態を引き起こす可能性がある遺伝子が初めて研究者らにより特定された。末梢神経障害は一部の化学療法でみられる副作用で、癌や糖尿病、腎不全、ウイルス感染、神経変性疾患などの患者にも発生する。

ワシントン大学セントルイス校医学部の研究者らは、二重ロイシンジッパーキナーゼ(DLK)遺伝子の働きを阻害することで病的な神経細胞の分枝の変性が抑制され、末梢神経障害を予防する可能性があることを示した。[pagebreak]「末梢神経障害では極端な疼痛を伴うことがあるため、癌治療の結末がどうなるかに関わらず化学療法をやめてしまう患者もいます」と共著者で発生生物学准教授のAaron DiAntonio医学博士は話す。「ですから、DLK遺伝子に疼痛を軽減できる可能性があるとわかり、非常に興奮しています」

本知見は3月15日付けのNature Neuroscience誌オンライン版に掲載される。

神経細胞は損傷した分枝(いわゆる軸索)を除去する能力を持つことが、1850年から知られている。軸索の除去はヒトの正常な初期発生でみられる現象であるが、成熟した神経系で不適切に軸索が失われると、やけどや凍傷、電気ショックなどの感覚と比較されうるほどの強い疼痛を生じ、末梢神経障害と呼ばれる状態となる。

DiAntonio氏の研究室は以前、ショウジョウバエのDLKがシナプス(2つの神経細胞が相互伝達する接合点)の形成を助けることを明らかにした。一方、マウスではDLK遺伝子に同じ働きがないことも明らかにした。

哺乳類でのDLKの働きに興味を持ったDiAntonio研究室所属のM.D./Ph.D学生Bradley Miller 氏は共著者で神経学教授のJeffrey Milbrandt医学博士に相談した。Milbrandt氏は神経変性の過程で種々のタンパク質が果たす役割について研究している。両氏は同大学のHope Center for Neurologica Disorders(神経系障害のためのホープセンター)の協力を得て、変異型DLK遺伝子を有するマウスの坐骨神経の長い軸索では、外科的に切除した後の変性が抑制されることを示した。

追跡実験として、Miller氏とMilbrandt研究室所属の医学博士/学生のCraig Press氏は神経細胞を培養し、軸索に化学療法薬であるビンクリスチンを処置した。正常な軸索はビンクリスチンの処置後すみやかに変性したが、DLK活性を阻害した軸索では変性が抑制された。

「末梢神経障害による疼痛は、しばしば癌の化学療法で投与量を制限する大きな要因となっています」とDiAntonio氏は指摘する。「医師には患者がいつ治療を開始するかわかっているのですから、将来的には患者が化学療法を開始する前にDLK阻害剤を投与することで、強い疼痛を回避することができるかもしれません」

DLKは解体作業員を呼ぶ請負業者のような働きをするとみられる、とDiAntonio氏は述べる。DLKは軸索除去の決定に関わるが、実際に除去に携わるのはDLKにより呼び出された別のプロセスに任される。

「DLKによる決定内容を実施する分子反応の連鎖について、さらに理解を深めたいと思っています。そうすることで、薬物を用いてDLKの効果を阻害するためのさらに良いターゲットが明らかになる可能性があるからです」とDiAntonio氏は話している。

DiAntonio氏とMilbrandt氏は、緑内障による視神経の損傷や、脳卒中やパーキンソン病などによる中枢神経系への影響など、他の損傷やストレスによる神経変性をDLK阻害により抑制できるかについての実験も計画している。

<原文の図>
正常神経細胞に化学療法薬を処置すると軸索が変性するが(左)、DLKと呼ばれるタンパク質の遺伝子が欠損した軸索では処置後も変性しない。研究者らはDLKまたはDLKが作用するタンパクの1つを阻害することで末梢神経障害と呼ばれる強い疼痛を伴う神経状態を緩和したいと考えている。

—————————-

Miller BR, Press C, Daniels RW, Sasaki Y, Milbrandt J, DiAntonio A. A DLK-dependent axon self-destruction program promotes Wallerian degeneration. Nature Neuroscience, online March 15.

本研究は米国国立衛生研究所、Hope Center for Neurological Disorders、ワシントン大学アルツハイマー病研究センターおよびKeck財団の資金援助を受けている。

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橋本 仁 訳
北村裕太(農学/医学生)監修
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原文


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