2009/03/24号◆クローズアップ「ケモブレインのメカニズムについて考察する」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/03/24号◆クローズアップ「ケモブレインのメカニズムについて考察する」

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2009/03/24号◆クローズアップ「ケモブレインのメカニズムについて考察する」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年3月24日号(Volume 6 / Number 6)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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クローズアップ

ケモブレインのメカニズムについて考察する

―読者リクエスト記事―

乳癌のステージ2で手術、化学療法、放射線治療を行った後、ロリーさん(ファーストネームしか明かされていない)は、働く2児の母としての忙しい通常の生活に戻ることを待ち望んでいた。

しかし、都市設計家としてのフルタイムの仕事に戻って数週間後に、彼女は何か異変を感じた。「働くことが出来ない。考えることが出来ない」と彼女は語った。以前は一度に複数の仕事をこなすことが習慣となっていたが、現在は疲れきってしまう。また家庭では、家族のために夕食を考えるといったことに彼女が対処できなくなっているのに気づいた。

「脳がとても重く感じそして疲れます…全てが鈍く曇っているように感じるのです」と彼女は語った。

ロリーさんは、ケモブレイン(chemobrain)の典型的症状を呈している。ケモブレインとは、癌や癌治療に伴う認知的変化で、多くの場合、集中力、記憶、マルチタスク、計画能力などに困難が生ずる。これらの変化は、通常、化学療法中に生じ(そのためケモブレインという名がついた)、そして、およそ20%のサバイバーでは治療終了後も継続する。

説明はさらに複雑

最初にケモブレインを特定し命名したのは乳癌サバイバーであったが、研究者らによると、現在は、同じような一連の症状は他の癌サバイバーにも認められることが明らかとなっている。化学療法後の認知機能に関する初期の研究では、化学療法による認知的変化があるサバイバーは17%から75%まで幅があると推定されていた。

研究者らは、化学療法の前と後の両方で癌患者の認知機能測定を開始した時、化学療法前に20~30%の患者は彼らの年齢や教育水準から予想される認知能力より低いことが判明し驚いた。その後の研究でも同様の結果が相次いで示されている。

「これは癌生物学の側面が認知機能に影響を与えているか、または軽度な認知的変化と癌の発症に対してまだ認識されていない共通のリスク要因があることを示唆しています」と、スローンケタリング記念がんセンターでケモブレインの研究をしているDr. Tim Ahles氏は述べた。

「化学療法以上に複雑な問題です。化学療法のみの癌治療を受ける患者はほとんどおらず、他の治療も認知機能の変化を理解するうえで同様に重要かもしれません」とAhles氏は付け加えた。

脆弱性が増す

例えば、動物実験や画像研究のエビデンスによると、ホルモン受容体陽性の乳癌治療に広く用いられているタモキシフェンは認知機能や脳の他の機能に障害を与えるかもしれないことを示している。さらに、いくつかの研究は、ゴセレリンやリュープロリドといったホルモン剤は前立腺患者の認知に悪影響を与えるかもしれないことを明らかにした。

fMRI(機能磁気共鳴撮像法)を用いた複数の研究は、化学療法を行った患者の構造的な脳の異常を特定した。PETを用いた研究では、5年から10年前に化学療法を受けた乳癌サバイバーは、化学療法を受けていない対照被験者と比較して、短期記憶作業を行うのに多くの脳を使っていた。つまり化学療法を受けた乳癌サバイバーの脳は作業を完了するためにより活動しているという徴候である。

ダートマス医科大学のAhles氏らによる予備的研究結果は、アルツハイマー病のリスク増加に関連するε4と呼ばれるアポリポタンパク質E遺伝子(APOE)の一種あるいはアレル(対立遺伝子)は、ケモブレインに対して脆弱になった遺伝子マーカーであるかもしれないことを示している。乳癌とリンパ腫の長期サバイバー80人が参加したこの研究は、最低でも1つのε4アレルを保有する患者はε4アレルを持たない被験者に比べて、視覚的記憶と空間能力の標準検査スコアは有意に低く、精神運動機能スコアは低い傾向であった。

Ahles氏らのチームは、現在、癌に関する認知的変化の発症における遺伝子多型の役割を調査する大規模研究のデータ解析を行っている。また、患者の細胞が化学療法によって損傷したDNAを修理する能力が低下している場合にケモブレインのリスクが高いという仮説の研究も行っている。

UCLAのジョンソン総合がんセンターのDr. Patricia Ganz氏らは、コントロール不良の炎症がケモブレインの原因かもしれないと考えている。「認知障害を持つ私たちの乳癌サバイバープログラムの患者の多くが、疲労感、睡眠障害や抑うつの症状をもっています」と彼女は述べた。「私たちの仮説は、免疫システムを管理する遺伝子多型によって一部の患者は一連の症状に対して脆弱化してしまうというものです」。

手術、放射線、化学療法や免疫療法などの癌治療の多くは炎症を増加させ、その炎症は治療後も消散しないこともあるとGanz氏は付け加えた。「炎症と癌関連の疲労に関わるインターロイキン-1インターロイキン-6をコードする遺伝子の特定の一塩基変異多型と、治療後の疲労との関連性を明らかにしました」と彼女は説明した。「私たちの研究は、免疫調整の乱れが認知障害の発症に関連しているかどうかを調査することです」。

ケモブレイン治療の研究

ケモブレインの治療研究はまだ非常に初期段階である。Ganz氏は乳癌サバイバーのリハビリテーション方法の予備的試験を始めている。いくつかのエビデンスでは、中枢神経系を刺激する薬剤は認知に対する悪影響を抑制するかもしれないことを示している。

ロリーさんは興奮剤のAdderall(デキストロアンフェタミンとアンフェタミン)を服用することで多少の改善が得られた。また、運動や十分な睡眠をとることが頭を冴えた状態にする助けとなることにも気づいた。

ケモブレインの一番大変な点は、目に見えないことだと彼女は語った。「元気そうに見えると、調子がよいと思われてします。しかし私の脳はまだ不調です」。

NCIの癌サバイバー室長のDr. Julia Rowland氏は、この新たな研究によって治療中や治療後に多くのサバイバーに影響を及ぼす認知問題に対する関心と科学的理解が高まってきていることに勇気づけられている。「癌に起因する記憶や思考の問題が呈している本当の課題は、理解が不十分であり、サバイバーからの報告がしばしば取り上げられないことです」とRowland氏は述べた。「これらの研究結果は、認知問題(特に治療後)を改善するために何ができるかを医療関係者に尋ねる権利をサバイバーに与えるはずです」。

— Eleanor Mayfield

画像原文参照
【画像下キャプション訳】人間の脳のこの画像は、2人の神経学上の違いを示すために色と形を用いている。不鮮明な脳の前頭部は複雑な思考と関係している。(画像提供:ロサンゼルス・カリフォルニア大学のArthur Toga氏)

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Nogawa 訳

原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)監修

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