2009/05/05バイオインフォマティクス特別号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2009/05/05バイオインフォマティクス特別号◆癌研究ハイライト

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2009/05/05バイオインフォマティクス特別号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年5月5日バイオインフォマティクス特別号(Volume 6 / Number 9)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に関与する変異タンパク質
・乳房腫瘍検査によって化学療法に対する反応を予測
・小児白血病におけるさらなる遺伝子変異が見つかる
・デュタステリドが前立腺癌リスクを軽減か
・今後、数十年間で癌発生率が急増する見通し
・免疫療法により転移性前立腺癌の生存率が改善

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に関与する変異タンパク質

一部のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の発症にNF-κBシグナル伝達経路が関与していることが最近複数の研究で確認されている。今回新たな2つの試験により、またひとつ手がかりが見つかった。CARD11遺伝子などの変異がNF-κB経路を活性化して細胞増殖を促進すると、A20という遺伝子の変異がその経路上の自然の「ブレーキ」を取り除くとみられる。Nature誌電子版今週号で発表された知見によると、NF-κB経路における多数の病変が、成人で最も一般的なリンパ腫であるDLBCLに関与しているという。

「われわれは、恒常的活性型NF-κBが認められる大半のDLBCLにおいて、同一経路中のさまざまな部分を標的とする遺伝子障害を同定した。このことは、このような遺伝子異常を有する患者に有効な治療法をデザインできるようになるかもしれないことを示唆している。NF-κB経路を標的とする薬剤は開発途上にある」と、これらの試験の1つを主導しているコロンビア大学ハーバート・アーヴィング総合がんセンターのDr. Laura Pasqualucci氏は述べている。

Pasqualucci氏のチームは、DLBCLの168人の腫瘍検体を分析した。分析した活性型B細胞様(ABC)サブタイプの半数と、これよりは少ないが、胚中心B細胞様(GBC)サブタイプの一部で、NF-κB経路と関連のある多数の遺伝子内に変異が認められた。最も多く変化していたのはA20遺伝子であり、ABC-DLBCL患者の3分の1で変異および欠損によって両遺伝子は正常にコピーされず、不活性化を示していた。

2つ目の試験では、東京大学の研究者らがB細胞リンパ腫238の遺伝子障害について、ゲノムワイド解析を行った。A20タンパク質は、粘膜関連リンパ組織リンパ腫、ホジキンリンパ腫の一種や、これより少なくなるがB細胞リンパ腫など、癌のタイプによって頻回に不活化がみられた。両チームとも、研究室実験において、正常A2タンパク質は細胞増殖を抑制し、A20欠損細胞に再導入すると異常細胞を細胞死させることを確認した。

乳房腫瘍検査によって化学療法に対する反応を予測

腫瘍のHER2およびTOP2A遺伝子が正常である乳癌に対する治療を受けた女性は、再発予防のための追加化学療法剤のうちアントラサイクリン系からは利益は得られないとみられ、このような患者はアントラサイクリン系を含まない、より毒性の低い治療法から利益が得られる可能性がある、と研究者らは電子版Journal of the National Cancer Institute誌4月28日号で報告している

以前の試験では、HER2に変化がみられる女性はアントラサイクリン系をベースとする補助療法から得られる利益が少なかった(乳癌の約20%)。しかし、TOP2A遺伝子はHER2の近傍に位置しているため、アントラサイクリン系に対する反応がTOP2Aの変化と関連しているのではないかと考える研究者もいた。

この疑問について検討するため、トロントにあるサニーブルック・オデットがんセンターのDr. Kathleen Pritchard氏らは、カナダ国立癌研究所によるMammary 5試験の参加者710人中438人の腫瘍サンプルを用いて、これらの遺伝子を分析した。

腫瘍のTOP2A遺伝子が欠失または増幅(過剰コピーを有する)している女性では、アントラサイクリン系エピルビシンを含む化学療法を受けたときのほうが、同薬を含まない化学療法より、無再発生存期間および全生存期間は長かった。正常TOP2A遺伝子を持つ患者では、反応の差は認められなかった。TOP2AおよびHER2の変化は、アントラサイクリン系を含む治療法選択の指針として同程度に意味があると考えられると研究者らは結論づけ、どちらの測定がこれらの治療法に対する反応とより密接に関連しているか確認するには、より大規模な試験が必要であると述べている。

付随論説は、腫瘍のHER2およびTOP2A遺伝子が正常である女性にはアントラサイクリン系化学療法を投与すべきではないという意見に同意している。著者らは、薬剤の影響を受ける経路に変化がみられる患者には、トラスツズマブ(ハーセプチン)等の分子標的薬がもっとも有効であることが多いと述べており、現在は、標準化学療法薬に関しても同様である可能性があると考えられる。

小児白血病におけるさらなる遺伝子変異が見つかる

1月、研究者らは、小児癌でもっともよくみられる急性リンパ性白血病(ALL)の新しいサブタイプについて報告した。この小児では、IKAROS(またはIZKF1)と呼ばれる遺伝子が変化しており、再発リスクが高い。研究者らは、一部の症例はタンパク質キナーゼ遺伝子の変異と関連があると予測していた。タンパク質キナーゼ遺伝子とは細胞のシグナル伝達で何らかの役割を果たし、癌において変化していることが多い遺伝子である。今回、新たな研究によって、この予測が裏付けられた。

小児癌TARGETイニシアチブに関わっている研究者らが実施した小児ALLリスクの高い187人の遺伝子解析により、JAKキナーゼ遺伝子ファミリーのうち3つに変異が認められた。JAK遺伝子の変異は、細胞の成長および増殖に関与する経路を活性化させると考えられる。このような変化はその他の癌、特に骨髄増殖症候群として知られる血液の癌とも関連している。

ALL症例の約10%では、3種類のJAK遺伝子のいずれか1つが変異していた。IKAROSも変化した症例も認められ、このような小児は転帰が不良であった。IKAROSとJAKの両方とも変異した小児の70%超が4年以内に再発したのに対し、どちらにも変異がなかった患者の再発率は23%であった。

JAKキナーゼタンパク質の過剰発現を阻害する薬剤は開発途上にある。研究室実験に基づき、研究者らはこれらの薬剤がこのような変異を持つ患者に利益をもたらすであろうと考えている。研究室では、JAK遺伝子の変異は正常細胞を癌化させ、実験用JAK阻害物質は変異を有する細胞を死滅させた。

研究チームには、聖ジュード小児研究病院、ニューメキシコ大学がんセンター、Children’s Oncology Group臨床試験協力団体、およびNCIの研究者らが含まれていた。聖ジュード病院のDr. Charles Mullighan氏は、先月デンバーで開催された米国癌学会(AACR)年次会議において、TARGETチームの代表としてこれらの知見を発表した。

Mullighan氏は、JAK遺伝子はダウン症候群を併発していないALL小児でも変異していたと指摘している。最近のいくつかの報告によると、ALLとダウン症候群を併発した小児のJAK2遺伝子は 変異していた

「ALL患者の一部におけるJAK遺伝子変異の活性化発見は極めて重要な観察結果であり、臨床的に関連があることは明白である」と、NCI癌療法評価プログラムおよびNCI TARGETイニシアチブリーダーであるDr. Malcolm Smith氏は話す。プロジェクトでは、ALLに対して役割を果たすと疑われる120個超の遺伝子を体系的に配列決定しているところである。

JAK阻害物質をJAK変異ALL患者の治療プログラムに組み込むことは、積極的に取り組むべき極めて有望な臨床研究であると、首席著者であるニューメキシコ大学のDr. Cheryl Willman氏は述べた。Willman氏はモデルとして別のキナーゼ阻害物質であるイマチニブ(グリベック)の成功を引き合いに出した。

「研究者らは実験モデルを用いてJAK阻害物質について試験を行っているところであり、最終的には患者へ応用したいと考えている。遺伝子検査は、IKAROSおよびJAK遺伝子の変化について患者をスクリーニングするよう作られており、その結果から治療法が導き出されるとともに、再発リスクのある患者を同定することができるだろう」と、Mullighan氏は述べた。

デュタステリドが前立腺癌リスクを軽減か

4月27日シカゴで行われた米国泌尿器科学会年次総会において、 dutasteride〔デュタステリド〕(Avodart〔アヴォダート〕)は、前立腺癌リスクが高い男性の罹患予防に役立つ可能性があると、大規模国際臨床試験の初期データで示されたことが報告された。

REDUCEと呼ばれるこの試験では、前立腺特異抗原(PSA)値が高い前立腺癌高リスク男性8,200人に対して、デュタステリド治療とプラセボを比較した。全員、試験参加前6カ月以内に受けた前立腺生検で陰性であった。

2年後および4年後に行った追跡生検により、デュタステリド群ではプラセボ群に比べ、前立腺癌リスクが23%減少したことが明らかになった。

また、デュタステリド群では高悪性度の前立腺癌リスクがプラセボ群と同程度であることも明らかになった。「これは、われわれに大きな希望を与えてくれる知見である」と、主任研究者であるワシントン大学医学部のDr. Gerald Andriole氏は声明の中で述べている。本研究はデュタステリドの製造元であるグラクソスミスクライン社による助成を受けている。

本研究結果と類似したものに、以前行われたNCI主導による前立腺癌予防試験(Prostate Cancer Prevention Trial: PCPT)があるが、これはフィナステリド(Proscar)という同系統の薬剤を用いた前立腺癌予防試験である。PCPTによる初期の知見は、フィナステリドは前立腺癌リスクを減少させる一方、より悪性度の高い癌においては発生リスクを増加させる可能性を示唆するものであった。NCIの研究者らにより行われたその後の調査では、フィナステリドが高悪性度の癌の発生を助長することはなく、実際にはそのリスクを減少させることが示された。フィナステリドおよびデュタステリドは共に前立腺肥大症の治療薬として承認されている。

今後、数十年間で癌発生率が急増する見通し

先週Journal of Clinical Oncology (JCO)誌の電子版に発表された研究によると、米国の癌患者数は、特に高齢者および少数民族において、今後20年間で急激に増加することが予想されるという。テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Ben Smith氏をはじめとする研究者らは、米商務省統計局による情報に加え、米国人口の約26%をカバーするNCIのSEERデータベースによる情報を用い、さまざまな手段によって2030年までに癌と診断される患者数を予想した。

研究によると癌の発生率は、2010年の1,600万人から2030年には2,300万人と、全体で約45%の増加が予想されるという。これは、増え続ける米国人の高齢者および少数民族人口における癌診断件数による部分が大きいと考えられる。研究では、高齢者では67%の癌発生率の増加が見込まれている一方、より若い世代の成人では11%の増加となっている。また少数民族では99%の増加が見込まれている一方、白人では31%の増加となっている。

肝臓癌、胃癌、膵臓癌、および肺癌などといった治療困難な癌は、相対的な増加率が最も多いと考えられる。それゆえ、これらの癌について、特に高齢者および少数民族に対する治療法と予防に大きな進歩がない限り、今後20年間で癌による死亡数は急増するであろうと研究は警告している。

JCO誌の電子版に発表された二つ目の論文では、癌治療における格差を取り上げさらに克服するためのロードマップ(計画表)が提案されている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)により作成されたこの「基本方針」の著者らは、数十年間にわたり行われてきた癌研究への投資およびその進歩にも関わらず、研究成果の恩恵を受けられる人と受けられない人との間の「深刻な差異」が存在する、としている。

論文では、少数民族への治療の質に関する研究を助成したり、臨床試験への少数民族の参加を促進するなど、医療格差問題への対策をまとめている。この方針は「この大変重要な問題に取り込むASCOの継続的活動の基となる」と、ASCO会長を務めるシカゴ大学のDr Richard L. Schilsky氏は記者会見で述べた。

会見の詳細および音声ファイルはASCOウェブサイトで閲覧可能である。

免疫療法により転移性前立腺癌の生存率が改善

先週シカゴで行われた米国泌尿器科学会年次総会において、転移性前立腺癌の男性で、研究中の免疫療法を受けた場合はプラセボ投与に比べ全生存期間が約4カ月延長したことが報告された。これは、sipuleucel-T(Provenge〔プロベンジ〕)の第3相ランダム化二重盲検試験であるIMPACT試験の結果に基づいたものである。Sipuleucel-Tとは患者の血中から抗原提示細胞を分離し、腫瘍特異的な免疫反応を活性化させ、再度患者に注入する免疫療法である。

試験に参加した500人以上の患者は無症候性あるいはわずかな症状のみの転移性アンドロゲン非依存性前立腺癌であった。免疫療法群では、sipuleucel-Tが1カ月に3回に分けて投与され、生存期間の中央値はプラセボ群に比べて22.5%改善した(25.8カ月対21.7カ月)。Sipuleucel-Tのより早期の2つの試験でもそうであったように、無増悪生存期間、つまり腫瘍の増殖が認められない状態で生存できる期間については、統計的に有意な改善はみられなかった。

試験の主導者のひとりである、南カリフォルニア大学のDr. David Penson氏によると、有害事象は軽度でわずかであるという。Sipuleucel-T投与の翌日に最も多く見られた事象としては、発熱、悪寒および頭痛があったが、これらの副作用は通常1~2日で解消した。全体として、免疫療法群では患者の約99%が3度の投与をすべて受けた。

生存期間に関するデータは、特に年齢、治療前PSA値、および骨転移の程度などによるサブグループ分析のすべてにおいて「極めて一貫していた」とPenson氏は説明している。「これは非常に心強い結果である」と彼は言う。

この試験のデザインにより、免疫療法群の全患者はプラセボ群とは違って、進行が認められればすぐにドセタキセルの投与を受けることができ、これはsipuleucel-Tに有利なバイアスを与える可能性があることをPenson氏は認めている。しかし、ドセタキセル投与の実施およびそのタイミングの両方について調整できるよう統計モデルはデザインされた、と彼は述べている。試験結果が学術誌に発表されれば、このデータ分析の詳細も入手可能となるだろう。

2007年3月、FDA諮問委員会では、より小規模な2つの臨床試験によるデータに基づき、この前立腺癌の適応症をもつ男性へのsipuleucel-T投与の承認が推薦された。しかしながら同年5月、FDAはsipuleucel-Tの製造元であるDendreon社に対し、「審査完了報告」通知を送り、この治療の市販への申請を承認するには有効性を示すデータの追加提出が必要であるとした。Dendreon社の担当者によると、同社の先の市販承認申請に対する修正として、IMPACT試験のデータを今年中にFDAに提出する予定であるという。

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北本 明子、河原 恭子 訳

林 正樹(血液・腫瘍医/敬愛会中頭病院)
榎本 裕(泌尿器科医)監修

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