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2009/06/16号◆特別リポート「有効な標的治療薬のない遺伝子変異には太刀打ちできないのか」

  • 2009年6月23日

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年06月16日号(Volume 6 / Number 12)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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特別リポート

有効な標的治療薬のない遺伝子変異には太刀打ちできないのか

すべての癌のうち、およそ3分の1でKRAS遺伝子に変異が認められるが、この遺伝子変異を標的とする治療薬はない。KRASが特殊なのではなく、その他の一般的な癌遺伝子もまた、「それらを標的とした治療薬がつくれない」とされてきた。

しかしながら、新たな2つの研究が示すように、これらの遺伝子によって生じる癌細胞は、別の種類の攻撃に弱い可能性がでてきた。RNA干渉と呼ばれる技術は、「正常遺伝子」のなかでも癌細胞の生存に不可欠なものを同定することができ、これらが癌細胞の一つの急所となるかもしれないのである。

ハーバード大学医学部の研究者らが率いる2つのチームは、この方法を用いて、KRAS遺伝子に変異をもつ癌細胞の脆弱性の可能性を調べたところ、両チームは、タンパク質キナーゼなど、細胞の生存能力に必須であるタンパク質を発見した。これらは、治療薬によって阻害することのできる有望なターゲットである。イマチニブ(グリベック)がその一例である。

Cell誌5月29日号で報告されたように、研究者らはRNAの小さな断片を用いて、細胞の個々の遺伝子を標的として不活性化を試みた。患者において、このアプローチが功を奏するかどうかは臨床試験を行ってみないとわからない。この知見は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の薬剤標的候補を明らかにした研究をはじめ、他の小規模な研究においても支持されている。

「こうしたスクリーニングが、新たな癌治療薬の開発につながる可能性がある」と、この研究の主導者の一人であるDr. Stephen Elledge 氏は述べ、「腫瘍が依存しない非癌遺伝子の一連のネットワークが存在するはずだ」と指摘する。しかし、それらの遺伝子は変異や変質を伴わないため、発見するのが非常に難しい。

彼のチームは、治療標的になりうるPLK1と呼ばれるものの他、有糸分裂に関連するたくさんの遺伝子を同定した。腫瘍細胞内では、KRAS変異によって有糸分裂の精度が低下し、これらの遺伝子が阻害されると細胞は死滅する。このようにKRAS変異を有する細胞は、こうした遺伝子を標的とする抗有糸分裂剤に対して脆弱である可能性があると研究者らは述べている。

癌細胞のシグナル伝達が再配線される

研究者らの発見は、癌を誘発する変異のある細胞において遺伝子は再配線され、この過程を通じて新しい依存性を獲得する、という見解を支持するものである。例えば、成長と生存の経路は癌細胞において広範囲にわたって再生され、そして多くの非癌遺伝子はこれらの経路が作用する上で極めて重要な役割を果たす。

癌と関連のない遺伝子の一つであるSTK33は、Dr.William Hahn氏およびDr. Gary Gilliland氏ら主導の第2の研究の最有力候補であった。この遺伝子はKRAS変異遺伝子依存性細胞の生存にとって必要不可欠であるため、研究者らはSTK33タンパク質を阻害することによって、KRAS変異遺伝子に関連するさまざまな腫瘍を治療することが可能となる旨を提言した。

付随の論評において、スローンケタリング記念がんセンターのDr. Charles Sawyers氏は、「これらの結果を臨床現場へ導入することは“重要かつ即時的な”影響がある」と述べた。また、「STK33及びPLK1阻害剤をつくることは比較的容易であるはずで、そのような臨床試験は、一般的には、1、2年内に開始することが可能であろう」と、癌の標的治療薬開発を主導したSawyers氏は言及した。

当面、これらの研究にとって重要性なことは「RNA干渉技術によって、現在まで標的とする分子がなかった癌遺伝子阻害剤を開発する手段が提供できると示すことだろう」と、Sawyers氏は電子メールにて述べた。KRAS変異は非常に一般的で、そのため阻害剤を開発することがその分野において長年の目標であった。

その技術が到来した

1997年に、フレッド・ハッチンソン癌研究所の研究者らは、癌細胞が遺伝子依存性を有し、それらは薬剤開発において活用することが可能であると予測した。しかし、つい最近までこれらの関連性を発見するために利用できるツールはなかった。Elledge氏、Hahn氏、およびGilliland氏らによる報告は、腫瘍細胞から1つの遺伝子が「なくなった」ときに何が起こるかを、ゲノムスケールで如何にして観測できるかを示した最初の知見の1つである。

RNA干渉スクリーニングが将来さらに一般的なものとなるか否かは費用によるところがあるとみられる。Gilliland氏のチームは一般の学術研究者らでは手の届かない技術を用いたが、同氏ら以外のチームが用いたツールは入手しやすく、価格的にも購入可能なものである、とSawyers氏は言及した。

「われわれはこれらの遺伝子スクリーニングを行う人材をさらに必要としている」とElledge氏は述べた。また、これを実行するための情報と道具を提供したことで、お膳立てすることができたのではないかと願っている」と、同氏は述べた。

癌の複雑さに加え、単一の薬剤に対して耐性が生じるという腫瘍の性質を考えると、この疾病を患う人々を治療するためにさらなる標的が確実に必要である。遺伝子スクリーニングはこの問題に対する解決策の一部となり得るだろう。

「重要なのは、癌細胞には潜在的な脆弱性が多くあり、それらを発見するための技術が今到来したということである」とElledge氏は述べた。

— Edward R. Winstead

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野中 希、佐々木 了子 訳

後藤 悌(呼吸器内科医/東京大学大学院)監修

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