2009/06/30号◆特別リポート「癌の検出と治療に有望なマイクロRNA」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/06/30号◆特別リポート「癌の検出と治療に有望なマイクロRNA」

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2009/06/30号◆特別リポート「癌の検出と治療に有望なマイクロRNA」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年06月30日号(Volume 6 / Number 13)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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特別リポート

癌の検出と治療に有望なマイクロRNA

50年以上前にワトソンとクリックがDNA構造を解明して以来、全世界で何万もの研究者が継続的に行ってきた実験により、分子生物学のセントラルドグマ (※1958年、両氏によって提唱された分子生物学の基本的概念)が導き出された。すなわち、遺伝子(DNA)がRNAをコードし、次にRNAがタンパク質の構造を決定する。こうして、遺伝子コードにより産生された数十万の固有のタンパク質が、さらにどの遺伝子をいつどの組織で発現させるかといった調節などの体の働きを制御する。

近年、マイクロRNAと呼ばれる長さがわずか20ヌクレオチド程度の小さなRNAを含む機能性低分子RNAが発見されたことにより、ヌクレオチドは遺伝情報の受動的な運搬役にすぎないと信じられてきた長年の概念が覆された。マイクロRNAはノンコーディングRNAすなわちタンパク質構造の情報を伝えないが、タンパク質と同様に遺伝子発現の強力な調節因子として働く。マイクロRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)に結合し、その翻訳を阻害するか、あるいはmRNAを細胞システムによる破壊の標的にする。

今では、マイクロRNAは、細胞増殖(細胞分裂)や細胞死(アポトーシス)などの細胞プロセスに関与するものを含む、哺乳類の全遺伝子の半分以上でその発現を制御していると考えられている。これらのプロセスがその制御に失敗してコントロール不能に陥った結果、癌になる可能性がある。

癌研究の拡大分野

「どのようなプロセスで遺伝子が発現し、どのように細胞システムが制御されているかを理解する上で、マイクロRNAはおそらくこの10年間で最も重要な分子生物学分野での発見であると思います」と、NCIの癌生物学部門の副部長Dr. Daniel Gallahan氏は述べた。「今や、癌プロセスに関連する新しいマイクロRNAの発見が日常的にみられています。」

これらの発見は、オハイオ州立大学ヒト癌遺伝学プログラムの責任者Dr. Carlo Croce氏の研究室で、慢性リンパ性白血病のほとんどの症例で2つのマイクロRNAが欠損、または下方制御(発現が抑制)されていることが示された2002年に始まった。これはヒトの癌でマイクロRNAの異常発現が見つかった最初の例であり、これによりこの分野の研究の門が開かれた。今日まで、調査されたすべてのタイプの腫瘍でマイクロRNAの異常発現が見つかり、癌の進行や転移に関連していた。

研究者らは現在、これらの知見をどのように癌臨床に応用できるかを研究している。マイクロRNAはそれぞれの組織に非常に特異的、すなわち脳には肝臓や膀胱とは異なるマイクロRNAが存在し、また同じ組織内でも細胞の種類により異なるため、研究者らはそれらの分子の診断的適用を探っている。「マイクロRNAは診断や予後診断に有用になることは間違いないと思います」とCroce氏は述べた。

例えば、最近の研究では、マイクロRNAにより原発巣不明の癌の正確な組織が90%以上の精度で区別できた。「この成果は今までのmRNA‐発現レベルを用いた時の最良の結果と比較しても遜色はなく、おそらくより多くのマイクロRNA発現の試料セットが収集されてプロファイリングされるにつれ、さらに改善されていくであろう」と、イスラエルのRosetta Genomics社のDr. Nitzan Rosenfeld氏とDr. Ranit Aharonov氏が率いるグループの著者らは結論づけている。

治療に関する将来性

発癌におけるマイクロRNAの役割は、マイクロRNAを有望な治療標的にすることでもある。特に期待される点は、ひとつのマイクロRNAが、ときに数百におよぶ標的遺伝子を制御している可能性があるという事実である。科学者らはヒトの体内に1000を超える異なるマイクロRNAが存在すると推定しているが、その標的遺伝子は、これまでごくわずかしか同定されていない。

「この分野では、マイクロRNAによりコントロールされた非常に影響力の強い表現型が、非常に強く制御されている少数の標的であるのか、それとも非常に弱く制御されている多くの標的であるのかということを理解しようとする熱心な取り組みが続いています。さらに、その制御の強さも、強いまたは弱いだけでなく、その間でさまざまな可能性が考えられます」とジョンズホプキンス大学の小児科および分子生物学・遺伝学部門の准教授であるDr. Joshua Mendell氏は説明した。

しかし、治療を目的とする場合、発癌を促進するマイクロRNAが同定できれば、その標的遺伝子をみつけることが常に必須であるとは限らない。最近、Mendell氏らはマウスを用いたproof-of-concept試験により、肝臓癌細胞の1つのマイクロRNAを正常に発現するよう修復すれば、このマイクロRNAが腫瘍のイニシエーターである癌遺伝子を標的としていなくても、十分な腫瘍縮小効果が得られることを示した。ここで使用した技術は、すでにマイクロRNAを発現している正常な肝細胞には、まったく毒性を及ぼさなかった。

この考え方により、KRAS遺伝子のように「undruggable targets(薬剤の標的とならない)」と呼ばれる遺伝子、すなわち治療標的とすることが極めて困難であることが実証されている癌遺伝子が引き起こす腫瘍についても、治療の見込みがでてきた。「特定の遺伝子を標的とする治療ができない癌では、私たちはショートカットに加えて制御を受けない下流のマイクロRNA、基本的には遺伝子変異の結果を標的とすることができる可能性がある」とCroce氏は説明した。

今後の方向性

マイクロRNAの研究は急速に増え、関心も一気に高まったことから、癌生物学部門(DCB)は、癌生物学におけるマイクロRNAに関する2日間のシンクタンクを開催し、マイクロRNAの生物学の分野で最先端の研究を行う研究者を集めた。

Gallahan氏は「私たちは、この分野が進む方向を見極め、この研究を進めていくために私たちにできることがあるのかどうかを検討したいと思いました」と述べた。

参加者らは、これらがあればマイクロRNAの研究が急速に進むとみられる領域を確認した。「具体的には、マイクロRNAの標的遺伝子を予測するためのさらに優れたアルゴリズム、既知のマイクロRNAの系統的な塩基配列決定法、トランスジェニックマウスモデルなどです。個々のマイクロRNAが癌に果たす役割を理解するために、役立つものだと考えています。もちろん、資金提供やこうした資源の共有方法についても確認しました」と、このシンクタンクを開催し、DCBのTumor Biology and Metastasis Branch(腫瘍の生物学・転移学課)のプログラムディレクターであるDr. Chamelli Jhappan氏は語った。

このシンクタンクの報告書全文は、年末までにDCBのウェブサイトに掲載の予定です。配布を希望する方は、Dr. Jhappan宛(jhappanc@dc37a.nci.nih.gov)にご連絡ください。

— Sharon Reynolds

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榎 真由、波多野 淳子 訳

大藪 友利子(生物工学)監修

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