2009/07/14号◆クローズアップ「カロリー制限-癌を予防する-」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/07/14号◆クローズアップ「カロリー制限-癌を予防する-」

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2009/07/14号◆クローズアップ「カロリー制限-癌を予防する-」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年07月14日号(Volume 6 / Number 14)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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クローズアップ

カロリー制限-癌を予防する-

私たちの摂取する食物、例えば赤肉(動物の肉)、ビタミン、ミネラル、または食物繊維が多いなどの食物が、癌発症リスクにどのように影響するのであろうか。この問題を解明しようとこれまで大きな努力がなされてきた。また、世界中で確実に増加する肥満の割合に後押しされ、食事に含まれるカロリー量についても同様の疑問が示されている。私たちが単純にカロリー摂取量を減らした場合、何が起きるのだろうか。

癌細胞を含むすべての細胞は、生存および増殖のためにエネルギーを必要としている。1900年代初めには、科学者らはこの原則を癌治療に生かす方法を理解していた。実験でカロリー制限により、マウスに移植した癌細胞の成長が阻害されることを明らかにしたのである。

この問題は現在最も広く研究されている課題であり、哺乳類の生存期間を延ばすために有効な戦略である、と話すのは、元NCI癌予防部門の副部長であり、現在はテキサス大学栄養科学部で主任教授を務めるDr. Stephen Hursting氏である。

「これは最も強力で広範囲に効果をもたらす食事介入であり、実験動物モデルでは実際に癌を予防しています」と、同氏は述べている。Science誌7月10日号に掲載された研究では、アカゲザルに通常の食事よりも30%カロリーの低い食事を給餌した結果、この食事が疾患の進行を遅らせ、余命を延ばす可能性を示す複数のエビデンスが得られた。これは、霊長類を対象とした初の長期介入試験であるが、ヒトに対して、また実生活で効果が得られるかどうかという疑問には、まだ回答は得られていない。

私たちは何を食べているのか

動物実験で行う食事介入は、食餌エネルギー制限(dietary energy restriction:DER)とも呼ばれている。自由摂取(Adlibitum)とは、動物に欲しいだけ自由に餌を摂取させることを意味する用語であるが、DERでは、通常この自由摂取量よりも10~40%カロリーを制限する。

コロラド州立大学Cancer Prevention Laboratory(癌予防研究所)の所長であるDr. Henry J. Thompson氏は、「動物試験では、エネルギー摂取量のわずかな差も結果に影響することが明らかになっています」と述べ、さらに「実際に、自由摂取量に比べてわずか10%カロリーを減らしただけでも、大きな健康効果につながります」と説明した。

DERをどのように行えば、こうした効果が得られるのかについては、まだはっきりしていない。単純にカロリー摂取量の総量を減らすのか、運動でカロリー消費量を増やせば同じ効果が得られるのか、または、この最適な2つのアプローチを組み合わせて行うのか。研究者らは、すでにいくつかの手がかりを得ており、現在人に対するいくつかの臨床試験で基準として採用している。

ネズミからヒトへ

DERでは代謝率が低下するため、活性酸素の生成が抑制され、細胞増殖因子および細胞増殖シグナルの生成も低下し、これにより血管新生阻害、および組織破壊の促進が得られると考えられる。また、蓄えられていたエネルギーも、成長や発達ではなく基本的な細胞の生命維持に用いられるため、DNA複製回数は減少し、正常細胞から癌細胞への形質転換に使えるエネルギーも少なくなると思われる。

このような関連性を検討するため、マウスの給餌量を抑えることは簡単である。毎日の給餌量を通常よりも少なくし、一般には115カロリー/週の範囲内に制限すればよい。

しかし、ヒトを対象にDERの試験を行うことは、はるかに用心が必要である。観察試験を除けば、食事制限と癌予防に関する大半の臨床試験が、過体重または肥満の被験者、すなわち、現在の体重のままでは(癌も含めて)健康リスクがあるため、明らかにこの食事介入が妥当な被験者を対象としているためである。

NCIが資金援助を行ったこの分野最大のプロジェクトが、Transdisciplinary Research on Energetics and Cancer (TREC: エネルギーと癌に関する学術的研究)イニシアチブである。2005年に開始され、5400万ドルの費用をかけたこの5年のプロジェクトは、分子生物学者、栄養士、臨床医、行動科学者、疫学者のほか、食事/運動/癌に関する分野で働く人々が、細胞に関して得られた知見をマウスの試験、その後は臨床試験に、さらに効率よく応用できるよう支援するためのものである。TRECプロジェクトの多くでは、肥満に寄与する因子を研究しているが、なかにはカロリー摂取量/カロリー消費量と癌との関連性を、さらに詳しく検討している試験もある。

例えばフレッド・ハッチンソン癌研究センターでは、Dr. Cornelia Ulrich氏とHutchinson TREC Centerの試験責任医師であるDr. Anne McTiernan氏が、過体重または肥満の閉経後女性を対象に、カロリー制限による体重減少、中程度の強度の有酸素運動、あるいはこの両方を実施するプロジェクトを率いている。この試験の目標は、マウスの試験で発癌およびDERとの関連が認められたバイオマーカーが、どう変化するのかを明らかにすることである。

CDC(米国疾病管理センター)が、50~70歳の一般的な米国人女性を対象に最近の1日または2日に摂取した食事を調査したところ、回答者のカロリー摂取量は約1,700~1,800kcal/日であることが明らかになった。McTiernan氏とUlrich氏の研究では、試験食であるカロリー制限食に割り付けた女性群に対して、試験開始時の体重を元に摂取カロリーを1,200~1,500kcal/日に制限した。目標は、最初の6カ月で体重を10%減少させることである。また、血液検査を行い、リンパ球のDNA損傷および修復のマーカーを測定した。さらに、インターロイキン6、血清アミロイドA、C反応性タンパクなどの炎症マーカーの検査も行い、癌発症リスクの上昇および癌患者の予後不良と関連していることがすでに明らかになっているこのようなマーカーに、今回の食事介入がどう影響しているかを調べた。

「私たちが知りたいのは、女性が定期的に運動すれば、あまり体重を減らさなくても癌を予防する健康効果が得られるのか、それともやはり体重の減少(カロリー制限により簡単に行える)が必須なのかということです」とUlrich氏は説明し、「私たちは、体脂肪の減少、およびこれ以外の身体組成の変化が、癌の危険因子を減らすために欠かせないのか、それとも運動量を増やすことが同じくらい重要なのか、ということについても答えが出せると思います」と述べた。

このグループを対象とした過去の試験では、運動療法(ウォーキングのような活発な運動45分/日、週5日)に参加した女性は、炎症マーカーの1つであるC反応タンパクが1年の試験期間中に10%減少しており、簡単なストレッチ運動のみを行った対照群では、このマーカーが12%増加していた。現在継続中であるTREC試験では、運動およびカロリー制限が行われているが、この試験の測定結果はこの2、3カ月以内に集計され、2010年前半に結果が公表される見込みである。

単純な引き算ではない

ほとんどのエビデンスが、人間は、現在の生活様式が非常に重大な疾患、最終的には死につながることがはっきりわかっていても、これを変えることには抵抗があることを示している。過体重や肥満について、この問題が特に複雑であるのは、社会経済的および文化的な要因が関わっているためである。

Dr. Linda Nebeling氏は、TRECイニシアチブを監督する一方、NCIの癌制御・人口学部門のHealth Promotion Research Branchのチーフでもあるが、TREC試験で得られた重要な成果は、臨床医にとって、簡単な食事療法と運動による体重減少が、一部の人々では他の人々よりも生理学的に困難である理由を理解するのに役立つだろうと話している。

「私たちは、体脂肪は何かの働きをもつものではなく、基本的には貯蔵タンクに過ぎないと考えていました。しかし、現在ではこれが全く間違いであることがわかっています」と同氏は説明した。「体脂肪はホルモンの分泌にも関わっており、生理的要求に対する身体の反応に影響します。褐色脂肪か白色脂肪か、脂肪が筋肉内に位置するのか毛布のように腹部周囲を包みこんでいるかなど、その種類によっても影響は異なります」と述べ、「癌発症リスクと、肥満、体重減少、食事エネルギー制限、および運動に関連するバイオマーカーを学ぶことは、いつか臨床医が、このようなマーカーと患者の間の相互作用を個別の患者に合わせて調節し、さらに効果的な癌予防戦略を立てるために役立つでしょう」と語った。

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波多野 淳子 訳

鵜川 邦夫(消化器内科医/鵜川医院)監修

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