2010/06/15号◆スポットライト「肺癌:新薬とその将来を見据えて」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/06/15号◆スポットライト「肺癌:新薬とその将来を見据えて」

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2010/06/15号◆スポットライト「肺癌:新薬とその将来を見据えて」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年6月15日号(Volume 7 / Number 12)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇
肺癌:新薬とその将来を見据えて

Dr. Michael Weitz氏の人生を変えることになった電話は母親からのものであった。2009年6月、夕方のニュースを聞き、同氏の母は試験中の抗がん剤で患者の肺癌が消滅したと知った。彼女は息子に電話をかけ、クリゾチニブと呼ばれる錠剤が治療に役立つかもしれないことを伝えた。

カリフォルニア州の救急医療担当医師で、タバコも吸わないWeitz氏は、可能な治療がないかあらゆる方法を模索していた。3年前の49歳の時、3児の父である同氏は非小細胞肺癌(NSCLC)の診断を受けており、その骨や脳も同疾患によっていずれ侵されてしまうことになるのはわかっていた。化学療法、手術、放射線、およびエルロチニブ(タルセバ)で治療を続けてきたが、今受けている治療がいつ奏効しなくなるか全くわからなかった。

そのとき聞いた新薬は大きな賭けであった。クリゾチニブの標的となる特異的な遺伝子変化が認められる肺癌は、100のうち5つにも満たなかったからである。しかし、Weitz氏の左肺は切除されており、検査に使用できる腫瘍組織は十分にあった。解析用のサンプルが担当医師からマサチューセッツ総合病院へ送付され、検査結果が陽性であったことから同氏は治療に適格であると判断された。

Weitz氏の腫瘍細胞には、一部の患者で本疾患を発現させると思われる2つの遺伝子(EML4およびALK)の融合が存在していた。同氏は試験に参加し、2カ月後のスキャンでは癌細胞に著しい減少が認められた。次回の検査までには、医師が「微小病変」とするレベルまで腫瘍は消滅していた。

「その結果は劇的なものでした」とWeitz氏は先日語った。「この薬によって状況は一変しました」。同氏のこれまでの治療法と比較すると、副作用はほとんど起こっていない。同氏は、この標的療法のすばらしさは、「健康な細胞が破壊されていないことです。異常な細胞が攻撃されるだけなのです」と言及した。

職場への復帰

同疾患はいつでも再発する可能性があることは分かっているが、Weitz氏は職場復帰して以前のように働いている。研究に対する資金援助に尽力している組織である全米肺癌財団(Lung Cancer Foundation of America)の科学諮問委員会にも加わった。一つにはこの支援活動のために、Weitz氏は今月初旬、 米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会が開催されるシカゴへ発った。

もう一つの理由は、彼が参加していたクリゾチニブ試験に関する発表を聞くことであった。結果は本会議で取り上げられたが、小規模の初期段階の試験にしては異例のことであった。しかし、結果は素晴らしいものであった。報告によると、治療から8週間後には、試験に参加した患者82人のうち87%に反応が現れ、多くの患者で腫瘍の縮小もしくは病勢安定が認められた。

「この試験は、私たちが最初の患者からわかったこと、つまりこの薬は患者にとって魅力的な選択肢であるということを裏づけるものです」と、試験結果の著者であるマサチューセッツ総合病院がんセンターのDr.Alice Shaw氏は述べた。しかしながら、同氏は、この特別なタイプの肺癌の自然史についてはほとんどわかっておらずさらなる研究が必要である、と警告した。

EML4/ALK融合遺伝子検査で陽性反応を示した100人を超える患者に対して、クリゾチニブが投与されているが、ほとんどの患者がまだ治療中であることから、試験の生存期間に関するデータはまだない、と試験結果を発表した韓国、ソウル大学医学部のDr.Yung-Jue Bang氏は言及した。

本会議での結果に関する議論の中で、メリーランド大学グリーンバウムがんセンターのDr. Martin Edelman氏は、すでに複数回の治療を受けた患者における同薬の「著しい効果」および「持続的な」反応について言及した。同氏は、「この早い時期での結果が後に大きく変化するとは思えません」と述べた。

生物学的マーカー

Edelman氏は、いくつかの歴史的背景についても報告した。医師らによってゲフィチニブ(イレッサ)に対する劇的な反応が観察された6年前、反応する可能性がある患者を同定する分子マーカーはまだ明らかになっていなかった。研究者らは、患者のサンプルをレトロスペクティブに解析することによって初めて、反応のバイオマーカー(EGFR遺伝子の変異)を発見した。

クリゾチニブは異なる道を歩んできた。異常に活性化されたALK タンパク質を産生するEML4/ALK融合遺伝子は、患者を選択するマーカーとして利用される。同薬は当初、c-Metと呼ばれるシグナル伝達タンパク質を阻害するために開発されたが、別のシグナル伝達タンパク質で、c-Metと同様に、チロシンキナーゼであるALKタンパク質に活性を示すことも明らかになった。

2007年8月に肺腫瘍における融合遺伝子の存在が日本人研究者らから報告されたとき、その薬はすでに他の複数の癌で評価されていた。融合遺伝子の検査は、マサチューセッツ総合病院の研究者らによって迅速に開発された。数カ月のうちに、彼らは肺癌患者を試験に登録し、3年足らずで、試験の暫定結果がニュースになった。

「この研究は、癌の生物学的特性を理解することの重要性を示しています」と、研究には関与していなかったが、スローンケタリング記念がんセンター胸部腫瘍科主任のDr. Mark Kris氏は述べた。同氏は、クリゾチニブは患者に投与したいと医師が常に思ってきた薬、つまりある患者の疾患の特異的な特徴に合う薬の一例であると続けた。

ASCO会議で、一部の肺癌専門医らは、この致死的な疾患に対して前向きに取り組んでいくためのモデルとしてクリゾチニブについて議論していた。研究者らは、肺癌のサブタイプに内在する遺伝子変化を発見しかつこれらの変化に対する治療法を開発することによって、世界中で癌による死亡原因の第1位となっている疾患に立ち向かっていきたいと考えた。

クリゾチニブの場合、選ばれた患者に対してその劇的な効果を明らかにするためには、患者の腫瘍を検査することが絶対不可欠であった。絞り込みを行わない肺癌患者100人に対してこの試験が行われていれば、同薬は疾患に対してほとんどもしくは全く活性を示さない、という結論に達していたかもしれない。

Edelman氏は、期待はずれの結果となった数多くの肺癌試験のスライドを表示して、標的薬の試験における患者選定の重要性を強調した。同氏は、「標的治療薬がその標的となる集団に投与されていたならば、いくつの試験で好ましい結果が得られていたことだろう」と言った。

より大規模なクリゾチニブ試験が計画中もしくは進行中であり、そこにはPROFILE 1007と呼ばれる第3相試験も含まれている。この試験では、ALK融合遺伝子陽性の再発NSCLC患者を対象として、クリゾチニブと標準的な二次化学療法を比較する。

特有の疾患

昨年、Shaw氏らは、EML4/ALK融合遺伝子を持つ患者のなかには同定可能な臨床的特徴を伴い、明らかに区別できるNSCLCの分類があると報告した。このような患者は、Weitz氏と同様に、他の肺癌患者よりもはるかに若く、非喫煙者で、腺癌の形態をとる傾向にある。

融合遺伝子を持つ患者がすべてクリゾチニブに反応するとは限らないが、この患者はすべてのALK標的薬剤に対して反応する可能性も高い。さらに、研究者らによると、遺伝子の融合が認められる患者の中には同薬に耐性を示すようになる患者もいた。それでも、多くの患者の経過は良好である(1人以上の患者がその薬を20カ月間服用してきた)。米国では毎年20万件を超す新たな肺癌が診断されているが、推計1万人の患者はこのような薬剤に適格であると推定される。「このような患者を見つけるのが私たち腫瘍専門医の仕事です」とKris 氏は述べた。

昨年秋に開始された『肺癌遺伝子変異コンソーシアム(Lung Cancer Mutation Consortium)』と呼ばれるプロジェクトが、その役割を果たすことになるかもしれない。EML4/ALK融合遺伝子を含む、標的薬がある10の遺伝子変化を対象として、国内の14施設において無料で患者の検査が実施される。患者は、各自の特別な腫瘍タイプに基づいて、適切な臨床試験に紹介される。

米国再生・再投資法案から助成金として520万ドルの資金援助を受けている、2カ年計画のコンソーシアムプロジェクトでは、進行した肺腺癌患者1000人を対象として特定の変異の頻度を割り出すことを目指している。試験担当医師らはまた、特異的変異と臨床的特徴・転帰との関連性を明らかにするために臨床情報の収集も行う。

「そのコンソーシアムは、ヒトゲノムに関する研究から得た知見を、どのようにして患者の治療薬に反映させていくかというものです」コロラド大学がんセンターの元総長でプロジェクトリーダーのDr. Paul Bunn氏は述べた。同氏は、例えば、癌ゲノムアトラスプロジェクトでは、2つのタイプの肺癌におけるゲノム変化の特徴が明らかにされていること、そしてこれらの結果を用いてバイオマーカーによる治療法が開発されることに言及した。

「再び未来が」

肺癌の研究を推進する仕事で、Weitz氏は、他の慢性疾患と同じように本疾患に取り組む方法を開発する上で役立つ可能性があると述べ、患者に腫瘍の検査
を受けるように勧めている。

同氏は、患者であることをチェスをすることに例える。「患者は数手先のことを考えなければなりません」と説明した。「そして今の治療法がうまくいかない場合に備えて、後ろのポケットには常にいくつかの治療法を準備しておく必要があります」。

とはいえ、近頃は癌以外のことも考えている。「友人や家族はとても協力的です」と同氏は語った。「3年以上にわたって、あふれんばかりの愛情に包まれてきました。今はエネルギーがありますし、旅行の計画を立てることも考えています。私に再び未来が戻ってきました」。

—Edward R. Winstead

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豊 訳
後藤 悌 (呼吸器内科医/東京大学大学院)監修

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