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癌の免疫療法/スローンケタリング記念がんセンター

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癌の免疫療法/スローンケタリング記念がんセンター

原文
癌の免疫療法(第1回)
スローンケタリング記念がんセンター* センターニュース
2007年4月

(写真は原文参照)

免疫系を利用して体を癌と戦わせる

癌の免疫療法が始まった当初から、スローンケタリング記念がんセンターの医師および研究者らは、免疫反応を誘発して癌細胞を標的化および破壊する新たな方法の開発において最先端にいた。(本稿は、癌と戦うために免疫系を利用する種々の方法を取り上げるシリーズの第1回目である)。

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110年以上前、ニューヨークがん病院(スローンケタリング記念がんセンターの前身)のDr. William B. Coley氏は、癌切除術後に感染症に罹患した患者の方が非罹患者と比較して経過がよい場合が多いことを発見し、免疫系には感染症だけでなく癌細胞を攻撃する能力があるという結論に至った。この発見を元に、Coley’s toxin(コーリーの毒)が開発された。これは不活化細菌を混合したもので、腫瘍内に接種すると腫瘍が完全に退縮する場合がある。1900年代初頭に放射線療法が開発された後、Coley’s toxinに対する関心が薄れ始めたが、体の免疫系を利用して癌細胞を認識および攻撃させるという理論に向けた準備段階に入った。

癌の免疫療法は、免疫系を利用して感染性物質を標的とするのと同じように腫瘍を攻撃させるという考え方に基づいている。免疫系は、種々の白血球細胞(Bリンパ球[B細胞]、Tリンパ球[T細胞]、およびその他[ナチュラルキラー細胞、単球、好酸球、好塩基球など])からなる。免疫細胞は体内を循環し、異物(抗原として知られる分子)を認識して除去する役割を担っている。ワクチンは、不要な侵入物質によって運ばれる抗原を免疫系が認識および防御する上で役立つ。(通常、疾患の原因となる感染性ウイルスや細菌を標的とすることにより)疾患の発症を予防する従来のワクチンとは異なり、治療用癌ワクチンの目的は、癌が発見されて一般的な方法(化学療法、放射線療法、手術など)で治療を受けた後の再発を予防することである。

(現在、ウイルスを標的としたワクチンの中には、癌を予防するものもいくつかある。B型肝炎ワクチンは、特にアジア諸国にて肝臓癌の主因となっているB型肝炎疾患を予防する。ヒトパピローマウイルス[HPV]に対するワクチン[昨年の夏、米国食品医薬品局【FDA】が承認]は、子宮頚癌の大半の症例にて原因となっているHPV株に伴う感染症を予防する。)

過去数十年にわたって、癌免疫学の分野(特に、治療用癌ワクチンの開発)は、多様かつ目覚しい発展を遂げてきたが、停滞していた部分もある。スローンケタリング研究所の免疫学プログラム主任のDr. James P. Allison氏は「1980年代、治療用癌ワクチンが臨床に導入された際、初期のワクチンの多くは患者への治療用になり得るものとして開発されたが、期待していたほど効果的ではなかった。」と述べ、さらに「問題点は、臨床癌免疫学の分野について、種々の免疫反応に関する基礎研究および我々の理解が遅れているということである。」と続けている。しかし、現在ではスローンケタリング記念がんセンターの研究者らの間の一般的認識では、免疫学者、化学者、医師らは可能な限り解明しつくし、臨床試験が現在実施されている患者用ワクチンやその他の免疫治療法は癌再発を制御する上で非常に有望であると考えられている。

Dr. Lloyd J. Old氏は、スローンケタリング研究所における癌免疫研究の主任を務めてきた研究者の1人である。現在、同氏は本研究所内の免疫学プログラムのメンバーであり、国際ルートヴィッヒ癌研究所(Ludwig Institute for Cancer Research)ニューヨーク支部の所長でもある。また、ルートヴィッヒがん研究所と癌研究所(Cancer Research Institute)との間の提携機構である癌ワクチン共同研究所(Cancer Vaccine Collaborative)の所長も務めている。Dr. Old氏によると、より有効な免疫療法を開発する上で重要な点が3つある。それらは、「免疫系がどのように癌を認識するのか」、「免疫系が標的とする抗原は何か」、「どのように免疫反応を強化すればよいか」である。

Dr. Old氏が行ってきた研究の多くでは、抗原の特定に重点が置かれてきた。腫瘍細胞から種々の細胞培養を樹立させることで、細胞表面上にある腫瘍特異的抗原を調べることが可能なシステムを開発した。その後、抗原をクローニングするための方法を開発し、これはT細胞の認識を研究するために使用されるようになった。同氏が研究してきた抗原の重要な種類の1つに、癌精巣(CT)抗原がある。CT抗原は、多くの固形癌の発達段階で発現する腫瘍関連の抗原であるが、精巣を除いて正常な細胞には認められない。CT抗原の1種類であるNY-ESO-1は、さまざまなワクチンの標的である。現在、これらのワクチンについて、種々の固形癌を対象として初期相の臨床試験が数多く実施されている。

またDr. Old氏は、早期膀胱癌の治療として初めて普及した癌免疫治療法であるカルメット・ゲラン菌(BCG)(ウシ型結核菌の不活化型)注射の開発に貢献した。この治療法はDr. Coley氏の方法の現代版といえる。なぜならば、癌細胞表面の抗原を特異的に標的としてはいないからである。実際には、その正確な作用機序は不明である。しかし、BCGを直接膀胱に注入するという治療法は、1980年代から使用されており、早期の非浸潤性膀胱癌に対して最も有効な第一選択治療であると現在でも考えられている。

メラノーマ(黒色腫)に対するワクチンの開発

癌ワクチンの初期研究の大半は、メラノーマを対象として行われてきた。また、最も将来有望なワクチンに関する現在進行中の試験の多くでも、この致死的な型の皮膚癌に焦点が当てられている。癌免疫学の第一人者であり、スローンケタリング記念がんセンターに30年間勤務しているDr. Alan N. Houghton氏によると、メラノーマがワクチンの初期研究の対象として選択されるには、いくつか理由がある。1つ目の理由としては、メラノーマでは化学療法や放射線療法の効果が少ないため、他の治療法を発見する必要があることである。もう1つの理由としては、臨床上のエビデンスとして、同疾患が自然に回復する可能性を有することである。このような回復は稀であるが、これはメラノーマに対する自然免疫反応が存在すると研究者らに示唆している。さらに、メラノーマ細胞は培養にて成長しやすいため、研究者らが研究を始める際の材料は豊富にある。患者(ヒト)のメラノーマに有効なワクチンはまだ現実化していないが、Dr. Houghton氏およびマンハッタンにある動物医療センターのDr. Jedd D. Wolchok氏(医師/科学者)らは、イヌを対象としてメラノーマに対するワクチンを開発し、先月、米国農務省(USDA)から暫定的な承認を得た。(USDAは動物に対する医薬品を承認する責任を担い、FDAはヒトに対する治療法を承認する責任を担う)。メラノーマ(特に口腔内)は、イヌにおける癌の中では致死的な型である。同ワクチンは有意に生存期間を延長させると示されており、多くのイヌが1年以上生き延びている。しかし、ワクチンを使用しない場合、生存期間は通常約3ヵ月である。動物やヒトについて、治療用の癌ワクチンが米国政府から承認を得たのは、今回が初めてのことである。

Dr. Wolchok氏は現在、スローンケタリング記念がんセンターの患者を対象としていくつかの臨床試験を主導している。その中には、イヌで良好な効果が認められたワクチンと非常に類似した黒色腫ワクチンに関する試験も含まれている。他にも、同センターにおいて現在進行している初期相の臨床試験が数多くあり、種々の癌(前立腺癌、乳癌、腎臓癌、卵巣癌、およびリンパ腫など)を対象とした治療ワクチンについて試験している。

同様に基礎研究も進んでおり、癌ワクチンを構築するための最善の方法を検討している。検討内容としては、ワクチンを効率よく運ぶ送達システム(すなわち「ベクター」)やワクチンの素材(ペプチド、タンパク質、またはDNA)についてである。

癌と戦うためのツールとしての免疫系利用

Dr. Allison氏によると、免疫系が癌に対して有効なツールでありうる多くの理由が存在する。免疫系には特異性があるため、タンパク質中にあるたった1つのアミノ酸変異を検出し、同タンパク質を異なる抗原として認識することができる。また、記憶能力もある。つまり、T細胞が体内に留まり、数年後までも疾患の再発を予防する。さらに免疫細胞は、個々の癌細胞および転移(癌細胞が原発腫瘍から体内の他の部位へ広がること)の始まりを標的とすることができる。

過去20年間にわたって、Dr. Allison氏はT細胞の活性化機序および免疫反応の統制機序について焦点を当てて研究してきた。同氏はT細胞活性化においていくつかの重要な分子(細胞障害性Tリンパ球抗原[CTLA-4]など)を発見した。CTLA-4の機能は、T細胞活性化の抑制である。これは、生体が自己免疫(免疫系が自分自身の体内の組織を攻撃すること)を回避する上で利用する重要な機序である。(リウマチ性関節炎やクローン病などの疾患は、自己免疫が原因となる)。

Dr. Houghton氏は、「自己免疫を回避するための生体機序は、癌ワクチンを開発する上で大きなハードルであった。」と述べている。さらに、「免疫系は自然にそれ自体を抑制する。癌細胞が発現する分子の多くは、正常細胞でも認められる。そのため、免疫系にそれらの分子を標的とさせることは困難となる。」と続けている。

Dr. Allison氏は、自身の発見を癌治療法の開発に適用する場合、CTLA-4を阻害することで抗腫瘍T細胞反応が大幅に活性化されると考えている。そのため、T細胞の働きが制限されないように、CTLA-4シグナルを阻害する抗体の作成を開始した。

マウスを用いて実験したところ、抗CTLA-4によって癌と戦うための免疫力が強化されると判明した。抗CTLA-4は、研究者らが免疫賦活剤と呼んでいる新規クラス生体製剤の最初のものである。現在、同剤はいくつかの多施設共同試験にて、単剤治療で、またはワクチンおよび従来の化学療法剤との併用で検討されている。

抗CTLA-4(ipilimumabまたはMDX-010とも呼ばれる)を開発しているメダレックス社およびブリストル・マイヤーズ・スクイブ社は、メラノーマや前立腺癌に関する試験に焦点を当てているが、腎臓癌や卵巣癌の治療についても評価を行っている。

スローンケタリング記念がんセンターのDr. Houghton氏およびDr. Wolchok氏は、さらに新たな免疫賦活剤をいくつか開発している。最も将来有望なものとして、抗GITRおよび抗OX-40があり、現在、非臨床試験が実施されている。Dr. Wolchok氏は「抗CTLA-4と同様に、これらの薬剤は他の治療法と併用すると、抗腫瘍反応を誘発すると考えられる。」と述べている。さらに、「これらの機能は類似しており、両者ともT細胞反応を誘発し、免疫系を癌に向かわせて腫瘍細胞の位置を『確認』させると考えられる。」と続けている。

同氏はまた、「われわれは、これらの治療法が併用療法において最も有効となると考えているが、過去において、ワクチンが化学療法との併用で用いうるとは一般的に考えられていなかった。なぜならば、化学療法は免疫系を抑制するからである。しかし現在、化学療法は、さらなる相乗反応を得るために種々の免疫療法と併用されている。使用時期が重要であり、ワクチンと免疫賦活剤を使用する絶好の機会は、化学療法が終了して免疫系が回復し始めたときである。」と述べている。

Dr. Allison氏は、「現在、免疫反応の利用が癌療法の主流になろうとしている。」と述べ、さらに次のように続けている。「癌生態学に関する最近の研究で明らかになったのは、癌に内在する遺伝的不安定性がタンパク質における様々な変異の原因となり、その結果、生体内にそれまではなく、免疫系によって即座に異物として認識されるべき新たな抗原が生成されることである。ワクチンや従来の治療法によっていくらか癌細胞を殺すことができれば、抗CTLA-4などの薬剤の使用によって、これらの新たな標的に対して強力な免疫性が誘発されることとなるであろう。したがって、大半の新標的療法は免疫補助療法であると考え、免疫反応を促進させるための新たなアプローチと共に使用することは妥当であろう。」

ルートヴィッヒセンターの新設

スローンケタリング記念がんセンターにおける癌免疫学研究の将来を担う上で重要な拠点は、新ルートヴィッヒセンター(Ludwig Center)となるであろう。同センターは、バージニアおよびD.K.ルートヴィッヒ癌研究基金からの2,000万ドルで2006年11月に設立された。スローンケタリング記念がんセンターは、ルートヴィッヒセンターとの協同研究を許可されている米国内6施設中の1つである。スローンケタリング記念がんセンターの敷地内に位置するルートヴィッヒセンターの特別な目的は、免疫学的研究およびトランスレーショナル・リサーチ(基礎研究から臨床への転換)を進め、免疫反応を利用して腫瘍を消失させるための新たな戦略を開発することである。同センター主任のDr. Allison氏は、「ルートヴィッヒセンターの研究は、スローンケタリング記念がんセンターの免疫学プログラムでの研究を超えるものである。基礎研究の科学者たちが、スローンケタリング記念病院内で種々の疾患を管理しているチームの主任らと協同し、動物モデルを用いた研究を行って最終的には患者においても検討可能な新治療法を開発している。」と述べている。

Dr. Old氏は、「われわれは癌ワクチン開発において新たな時代に突入している。」と述べ、さらに、「ワクチンを作成する上で重要な抗原を特定し、作成方法の研究も開始した。抗CTLA-4などの免疫賦活剤を用いれば、免疫反応が始まった際に、それを活性化することができる。また、免疫反応のモニタリングも可能であるため、これらのワクチンに最も効果を示す患者を特定すること、またワクチンを調整および改良し続けることもできる。最終的に、ヒトの利益こそが、われわれが求め続ける最も重要なものである。」と締めくくっている。

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斉藤芳子 訳
林 正樹(血液・腫瘍医)監修

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