2009/09/08号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2009/09/08号◆癌研究ハイライト

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2009/09/08号◆癌研究ハイライト

同号原文 

NCI Cancer Bulletin2009年09月08日号(Volume 6 / Number 17)

 

 

 

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

 

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癌研究ハイライト

・遺伝的研究が黒色腫に対する新たな治療法の可能性を示す
・膵臓癌では酵素療法よりも化学療法で生存期間が延長
・デノスマブは前立腺癌治療中も骨強度を維持
・ウエイトリフティングによって乳癌後のリンパ浮腫症状が軽減する
・西アフリカの女性では乳癌の大多数が予後不良

遺伝的研究が黒色腫に対する新たな治療法の可能性を示す

皮膚癌の一種である黒色腫(メラノーマ)の遺伝子変化を調べたところ、5例のうち1例程度に、ERBB4遺伝子の変異が生じている可能性が明らかになった。研究者らは、この変異が癌に寄与しており、同時にこの変異を標的とする治療に対して腫瘍を感受性にしていると考えている。こうした薬剤の1つラパチニブ(タイケルブ)は、数種の乳癌に使用されているが、実験ではERBB4遺伝子の変異を有する細胞の増殖速度を抑えることが確認された。

Nature Genetics誌 9月号に掲載されたこの試験は、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)および米国国立癌研究所(NCI)の研究者が進めている取り組みの一部であり、黒色腫の生物学的特徴の検討、および新たな治療対象となりうる標的の同定を目的としている。NCIの癌研究センター外科部長であるDr. Steven Rosenberg氏は、今回の研究を率いた一人であり、転移性疾患の患者より採取した組織を提供した。

NHGRIのDr. Yardena Samuels氏らは、79の標本を用いてチロシンキナーゼの遺伝子ファミリーの遺伝子配列決定を行い、このうち19%にERBB4遺伝子の変異を認めた。チロシンキナーゼは、細胞増殖の制御を助けるタンパクであり、このタンパクに変異が生じると、癌の発生につながる可能性がある。研究者が変異を有するキナーゼに関心をもつのは、このようなキナーゼがイマチニブ(グリベック)のような成果が得られた薬剤の基礎となってきたからである。

ラパチニブは、癌関連遺伝子を標的としており、ERBB4遺伝子に変異を有する細胞を消滅させた。「ラパチニブは、この変異を有する細胞を特異的に消滅させ、この変異が認められない細胞には影響しない」とSamuels氏は述べた。「今回の結果は、われわれが、かなりの割合の黒色腫にとって弱点となりうる標的を見つけ出したことを示唆している。」

Rosenberg氏は、患者に対する治療戦略を念頭に計画された試験を率いる予定であるが、「どのようなチロシンキナーゼ阻害剤も単独では、患者に劇的な効果を及ぼす可能性は低いとみられる」と注意を喚起している。しかし一方で、「今回の試験は、基礎科学が患者の治療に応用された洗練された一例であり、基礎研究の課題を追求することにより、われわれは、患者にとって重要な治療につながるであろう知見を明らかにすることができた」とも述べている。

今年の初めに、この試験責任医師らは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)ファミリーを対象とした類似の研究結果を発表した。研究者らは、「この試験で得られた知見は、MMP変異を有する腫瘍について、その治療法を明らかにしようという努力の成果である」と述べている。

膵臓癌では酵素療法よりも化学療法で生存期間が延長

進行した膵臓癌患者を対象に、酵素療法群を試験群としてゲムシタビンベースの化学療法との比較を行った臨床試験が実施された。化学療法群の平均生存期間は、酵素療法群よりも9.7カ月長かった。この試験は、「生存期間を評価項目とし、初めて逆症療法と代替療法プログラムの検討を行った対照臨床試験」の1つであった、とコロンビア大学所属の著者は述べている。この試験結果は、Journal of Clinical Oncology誌8月17日号に掲載された。

この試験は1998年にランダム化対照試験として開始されたが、試験参加者があまり集まらず、2001年に試験デザインを対照観察の形に変更した。1998~2005年の間に登録された人数は化学療法群で23人、試験群で32人であった。

化学療法群の患者には、彼らの担当医が選択したスケジュールで治療が行われた。試験治療群にはゴンザレスレジメンが用いられた。このレジメンは、患者に膵酵素の錠剤および栄養剤を服用させ、有機食品による厳格な食事療法に加えて、解毒プログラムを実施するものである。治療開始後の平均生存期間は、実験群で4.3カ月、化学療法群で14カ月であった。

NCIの補完代替医療局所長であるDr. Jeffrey D. White氏は、この報告について「ランダム化対照試験が行えない状況を考えると、今回の試験はできる限り高い厳格性をもった分析を可能にした優れた試みである」と述べている。「この試験では、同一の試験参加基準を満たす同時対照を置き、無作為化を行わないことにより有意なバイアスが生じた場合、これを許容できるかどうかチェックする統計手法を用いた。今回の試験と同様にランダム化が困難な他の試験にとっても、優れた方法である」とも述べている。

デノスマブは前立腺癌治療中も骨強度を維持

大規模プラセボ対照臨床試験の結果から、前立腺以外に転移がなく、一般的な前立腺癌治療を受けている男性にモノクローナル抗体デノスマブを投与したところ、骨密度(BMD)が増加し、骨折リスクが低下したことが明らかになった。この試験結果は、New England Journal of Medicine誌8月20日号に掲載された。

Hormone Ablation Bone Loss(HALT)試験は、非転移性の前立腺癌に罹患し、骨折リスクを高める可能性のあるアンドロゲン除去療法を受けている約1500人の男性を対象に実施された。この試験では、無作為割り付けが行われ、デノスマブを6カ月ごとに2回投与した群では、腰椎(背中の下部)のBMDが5.6%上昇し、プラセボ群では、同じ腰椎のBMDに1%の低下が認められた。デノスマブは、頸部および臀部など他の部位でも骨密度を増加させた。

「デノスマブ群にみられた有益な効果は、治療開始後1カ月という早い時期から認められ、3年間持続したことから、信頼性の高いものであるとみられる」と試験責任者であるマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のDr. Matthew R. Smith氏らは述べている。

デノスマブはRANKLと呼ばれる分子を標的として開発された初の薬剤であり、この分子は、骨を破壊する破骨細胞を活性化させる作用を有する。この薬剤は、ビスフォスフォネートなど、現在骨粗鬆症や骨損失の治療に使用されている他の種類の薬剤とは、異なる作用機序を有する。

この試験結果は、デノスマブに複数の適応を承認すべきか検討を行うFDA諮問委員会の開催と同時期に発表された。この委員会は、非転移性前立腺癌治療のためアンドロゲン除去療法を受けている男性に、骨損失の治療薬としてデノスマブを使用することについては、その承認に賛成したが、骨損失予防のための使用には反対している。その理由は、デノスマブを使用した複数の臨床試験により、わずかではあるが、皮膚や尿路の感染症リスクが上昇する可能性があることが認められたためである。

NCI癌研究センターの腫瘍免疫学・生物学研究室に所属し、FDA諮問委員会の投票委員でもあるDr. James L. Gulley氏は、「アンドロゲン除去療法を受けても、骨折リスクを高めるほどにはBMDが低下しない患者もいる」と説明した。同氏は「委員会全体としては、さらに安全性データが得られるまでは、BMD低下予防を適応とすることは推奨できないという空気が感じられる」と述べている。

ウエイトリフティングによって乳癌後のリンパ浮腫症状が軽減する

多くの乳癌生存者がリンパ浮腫を発症する。リンパ浮腫は上腕や手に生じる不快な腫脹(むくみ)で、時に痛みを伴い、消耗性で外観を損なうこともあるが、治療法はない。従来、乳房手術後には重い物を持ち上げたり動作を繰り返したりすることを避けるように推奨されてきた。これに反し、現在までに行われた大規模なランダム化比較対照試験では、ゆっくりした段階的なウエイトリフティングによって腕の腫脹の発症が増加することはなく、安全と考えられることが示されている。ウエイトリフティングを行っていた女性は体力の改善がみられ、リンパ浮腫症状も大幅に軽減すると本研究の著者らは述べている。

研究は8月13日発行のNew England Journal of Medicine誌に発表されており、ペンシルバニア大学アブラムソンがんセンターの助教授で運動生理学者のDr. Kathryn H. Schmitz氏による統括で行われた。研究者らは、プログラムが幅広く採用されることを目的として、YMCAなどの地域のフィットネスセンターで実施するように本介入研究をデザインした。

女性141人の半数がウエイトリフティング群に無作為に割り付けられた。これらの女性は地元のフィットネスセンターに参加し、そこでトレーナーが有用な運動を教えて進歩を監督し、1年にわたってリンパ浮腫の発症をモニタリングした。対照群に割り付けられた女性は、現状レベルの運動を維持した。対照群患者は、リンパ浮腫発症に対して受けた治療回数がウエイトリフティング群患者よりも著しく多かった(195回対77回)。

ヒューストンのテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Wendy Demark-Wahnefried氏は本研究を、「ウエイトリフティングによる介入治療を支持する現在あるエビデンスに大きく貢献するものであり、(監督下でのウエイトトレーニングの)安全性についてより確実なものにした」と評価している。さらに、「幅広い職業レベルや教育レベルの女性と非白人女性を含めたことで研究結果は広く一般化できるものであると示唆され、(リンパ浮腫を発症することの最も多い)貧困層では特に価値があるかもしれない」と、述べている。

「本研究によってリンパ浮腫に対する理解が深まり、問題になっていたこの癌治療効果に、期待できる重要な管理戦略が加わった。この研究で用いられたリンパ浮腫の評価方法は、リンパ浮腫を早期発見して慎重にモニタリングすることを目的として、発症リスクのある女性の治療に携わる医師に浸透するであろう」とNCI癌生存者室のシニア・プログラム責任者、Dr. Noreen Aziz氏は述べている。

西アフリカの女性では乳癌の大多数が予後不良

西アフリカの女性における乳癌の型の分布を分析した結果、大多数の腫瘍はトリプルネガティブ腫瘍であり、さらにそれらは基底様型(正常な基底細胞に乳房の遺伝子特性が類似)または未分類のいずれかであることが判明した。本研究はシカゴ大学のDr. Olufunmilayo Olopade氏によって統括され、8月24日発行のJournal of Clinical Oncology誌に発表された。

乳癌はさまざまな型に分類され、それぞれ異なる予後を伴う。トリプルネガティブ乳癌はホルモン受容体とHER2タンパクの両者に欠け、予後が悪く、アフリカ系米国人女性で不均衡に多くみられる

研究者らは、西アフリカ人は「多くのアフリカ系米国人の創始者集団である」と説明しており、1996年~2007年に西アフリカの6つの地域で乳癌の女性507人から採取した組織標本の検査を実施した。

エストロゲン受容体陽性(予後が良い)の乳癌の割合は、西アフリカの女性で25%に過ぎなかった。西アフリカのコホート研究と同じ年齢分布のアフリカ系米国人女性の集団では、エストロゲン受容体陽性の腫瘍は55%と予想される。

「白人、アフリカ系米国人女性、アフリカ先住民の間で(みられる乳癌の型による分布の違い)は、環境曝露と遺伝的背景の両方が乳癌の型を決定することを示唆している」と著者は結論している。

さらに、トリプルネガティブ腫瘍が必ずしも基底様型に分類できるわけではないことが研究から明らかになった。つまり、基底様型乳癌でみられる分子マーカーをもたない、悪性度の低い未分類のトリプルネガティブ腫瘍が存在するということである。これらの未分類の腫瘍は、VEGFと呼ばれるタンパク質を発現させるかどうかに基づいて2つのグループに分けることができると考えられる。これら2つのグループは異なる腫瘍の悪性度パターンも示しており、治療に対して意味を持ちうることに著者は言及している。

 

 

Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention誌より9月1日発行のCancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention誌に発表された研究では、アフリカ系米国人は膵臓癌で死亡する可能性が白人より有意に高く、喫煙や肥満など、膵臓癌の既知のリスク因子をすべて調整した後にもその傾向は変わらないことが判明した。これらのデータは、未知の遺伝的リスク因子、環境曝露または遺伝子と環境との相互作用がこの健康上の差異において重要な役割を果たしている可能性のあることを示唆している。「われわれのデータからは何がこのような差異を生じさせているのかは説明できない。しかし、黒人が白人より高い割合で膵臓癌を発症して死亡する理由を研究者が探究し続けることを後押しすると期待している」と筆頭著者であるワシントン大学(セントルイス)のDr. Lauren Arnold氏は、付随する報道発表で述べている。

 

 

 

 

 

 

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波多野 淳子、川瀬 真紀 訳

小宮 武文(胸部内科医/NCI研究員・ハワード大学病院)
原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修

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