2009/09/22号◆スポットライト「感染から発癌までの経路」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/09/22号◆スポットライト「感染から発癌までの経路」

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2009/09/22号◆スポットライト「感染から発癌までの経路」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年09月22日号(Volume 6 / Number 18)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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スポットライト

感染から発癌までの経路

癌に感染する人はいない。しかし、世界中の癌患者のほぼ5分の1は、ウイルス、細菌、他の微生物などの感染性病原体が原因で癌になる。このような感染性病原体による発癌は、米国のような先進国では約12人に1人である一方、開発途上国では約4人に1人とより多くみられる。

発癌原因となる感染性病原体は非常にありふれたもので、世界中で数百万人が感染している。しかし、感染により癌を発症することはまれであり、さらに発症までには長期間かかる。「感染から癌が発生するには、多くのことが起こっているか、または、起こっていない可能性もあります」と、NCIの細胞腫瘍研究所(Laboratory of Cellular Oncology)の所長であり、腫瘍ウイルス分子生物学の担い手であるDr. Douglas R. Lowy氏は述べた。

世界的に癌に関与する感染とされる微生物は、胃癌の原因細菌であるヘリコバクターピロリ、子宮頸癌や他の癌の原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)の発癌株、肝癌の原因であるB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスである。これら4種類の微生物だけで、世界中の癌の15%以上を引き起こしている。

これ以外の癌で感染性病原体との関連が知られているのは、白血病、リンパ腫、肛門癌、陰茎癌、膣癌、外陰癌、舌癌、咽頭癌などである。先週、研究者らは悪性度が高い前立腺腫瘍とウイルスの関係に関する新しいエビデンスを発表した

免疫システムの役割

微生物は、まだ完全には解明されていないさまざまな機序により癌を引き起こすことができると、NCIの感染・免疫疫学支部(Infections and Immunoepidemiology Branch)のチーフであるDr. Allan Hildesheim氏は説明した。HPVの発癌株は細胞周期を乱し、p53のような腫瘍抑制タンパク質を不活性化することが知られている。つまり、遺伝子の損傷を蓄積することができ、結果として癌を発症させるとHildesheim氏は続けた。ヘリコバクターピロリは慢性炎症を誘発すると考えられ、それが萎縮性胃炎を引き起こし、長期間のうちに胃癌の発生リスクを増加させる。

「B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの場合は、感染そのものよりも免疫応答の問題かもしれません。感染と闘うために、免疫システムがサイトカインや他の炎症性タンパク質を放出し、組織の損傷を引き起こす可能性があります」とHildesheim氏は述べ、「これが長期にわたると、肝癌の強い病因である肝硬変を引き起こすことがあります。」

免疫システムの慢性的抑制は、感染に関連するもうひとつの発癌原因である。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して免疫システムが弱体化した人や、臓器移植を受けて移植片の拒絶反応を防ぐための免疫抑制剤を服用している人は、免疫システム機能が正常な人より感染に関連する癌になりやすい。

似た分子プロセス

感染誘導性の癌に導く分子的事象の連鎖は、非感染性の発癌プロセスと似ていると、ピッツバーグ大学癌研究所の分子ウイルス学プログラムを指導するDr. Patrick Moore氏は述べた。「非感染性癌で変異しているのと同じ腫瘍抑制シグナリング経路が、ウイルスによっても不活性化されます」とMoore氏は述べた。「実際、発癌遺伝子と腫瘍抑制シグナリング経路について判明していることの多くは、ウイルスによる発癌の研究を通じて学んだものです。」

ヒトの癌に関連していると考えられている最近発見された2つのウイルスは、どちらもMoore氏の研究所で確認された。1993年、Moore氏と彼の妻であるDr. Yuan Chang氏が率いるグループが、おそらくカポジ肉腫の原因で、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)とも言われるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスを発見した。また同チームは2008年に、メルケル細胞ポリオーマウイルスと呼ばれる新たに発見されたウイルスが、まれだが致死的な皮膚癌であるメルケル細胞癌のほとんどの原因である動かぬ証拠を示した。

介入の機会

感染が原因で発症する癌に対しては「それぞれ独自の介入方法があります」とLowy氏は述べた。「現在、ウイルス感染を防止することで癌を防ぐことができる2つのワクチンが、B型肝炎とHPVに対してあります。次に、少なくとも理論上は、感染性病原体によって作られた遺伝子またはタンパク質に狙いを定めることができます。この方法のこれまでで一番良い例は、HIVに対する抗ウイルス療法です。これが上手くいった理由は、抗ウイルス治療は、自分自身の遺伝子やタンパク質より、ウイルスによって作られた遺伝子やタンパク質に対してより強力な効果があったためです。」

感染関連の癌の多くの特徴は、いまだに明らかとなっていない。例えば、これらの癌のほとんどはごく一部のケースのみで感染が原因となっている。「一部の肝臓癌は肝炎ウイルス感染とは無関係です」とLowy氏は述べた。「口腔咽頭癌、外陰癌、陰茎癌の中にはHPV感染が原因のものもありますが、そうではない場合もあります。一方、子宮頸癌はほぼ全てでHPVが原因のようです。」

アフリカでのバーキットリンパ腫は、ほとんどの場合エプスタイン・バーウイルス(EBV)が原因であるが、米国では、ウイルスが原因のバーキットリンパ腫は半数以下であると、Moore氏は付け加えた。「以前は単一の癌と思っていたものが、よく似た2つ以上のタイプの癌、あるものはウイルスにより発癌、あるものはウイルスとは無関係であることが示されています。」

EBVなどの一部の微生物は、世界の異なる地域で異なるタイプの癌の原因となる。「南中国では、鼻咽頭癌 (喉の癌) がEBV感染による最も多い癌です」とHildesheim氏は述べた。「サハラ以南のアフリカでは、鼻咽頭癌をみることはほとんどありませんが、バーキットリンパ腫は比較的多くみられます。」

遺伝性癌

癌を引き起こす可能性のある感染はきわめて多いが、それらの感染のごく少数でのみ癌を発症するという事実は、感染者の遺伝子やその他の要素が、発癌を促進したり抑制したりしていることを示唆する、とHildesheim氏は続けた。「感染性病原体によって引き起こされる腫瘍の解明がなされ、少し遅れてわれわれは遺伝子革命に参加しました。学ぶことはとても多いです。」

最近彼らは、感染に対する免疫反応とDNA損傷の修復にかかわる遺伝子の一塩基多型(SNP:ヒトの遺伝子コードの一塩基変異による多型)の子宮頸癌との関連に関する報告を行った。彼らは、ある遺伝子多型がHPVに誘発される癌の前提条件となる持続性HPV感染のリスク増加に関係しており、また別の遺伝子型はHPV感染細胞の前癌状態や子宮頸癌へ進行しやすい傾向に関係していることに注目した。HLA遺伝子として知られる免疫制御遺伝子の特定の変化が子宮頸癌のリスクに影響を及ぼすと考えられることも、他の研究者らによる並行試験によって確認されている

「われわれは、個々の遺伝要素が、どのようにHPV感染と相互作用して感染を持続しやすくするのか、またはそれを防御するのか、また、どのようにして持続的HPV感染による遺伝子損傷の修復能を変化させるのかを理解しようと努めています」とHildesheim氏は説明した。「われわれは、HPV遺伝子の違いにより、感染者の中で癌を発症する人としない人がいることを説明できるかどうか、そして、EBV遺伝子の相違が世界のEBV関連癌パターンの地域差を説明するのに役立つどうかについても研究しています。」

発癌の原因となる感染をより理解し、「病気の原因となる感染を防止することで、または、癌を発症する前に感染を治療することで、より多くの癌を防げるようになるという希望を持っています」とLowy氏は述べた。

—Eleanor Mayfield

以下は国際癌研究機関によるヒトに対する発癌性がある・あると思われる感染性病原体の分類である。

感染性病原体 関連癌
ウイルス
エプスタイン・バーウイルス(EBV) バーキットリンパ腫ホジキンリンパ腫非ホジキンリンパ腫鼻咽頭癌 NK/T細胞リンパ腫
B型肝炎ウイルス(HBV) 肝細胞癌(肝癌の1種)
C型肝炎ウイルス(HCV) 肝細胞癌非ホジキンリンパ腫
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型、18型、その他 肛門癌子宮頸癌口腔癌口腔咽頭癌(舌、扁桃あるいは上部咽頭の基部の癌)陰茎癌膣癌外陰癌
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV 1) さまざまな免疫抑制関連癌肛門癌子宮頸癌結膜癌(目)ホジキンリンパ腫カポジ肉腫非ホジキンリンパ腫
ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV 1) 成人T細胞白血病・成人T細胞リンパ腫リンパ腫
カポジ肉腫ヘルペスウイルス・ヒトヘルペスウイルス8型(KSHV/HHV8) カポジ肉腫原発性体腔性リンパ腫
その他の感染性病原体
ヘリコバクターピロリ(細菌)
肝吸虫(寄生虫) 胆管癌(肝癌の1種)
住血吸虫属(寄生虫) 膀胱癌

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Nogawa 訳

金田 澄子(薬学)監修

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