2010/06/29号◆特集記事「前立腺癌の複雑さを解明するゲノム研究開始」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/06/29号◆特集記事「前立腺癌の複雑さを解明するゲノム研究開始」

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2010/06/29号◆特集記事「前立腺癌の複雑さを解明するゲノム研究開始」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年6月29日号(Volume 7 / Number 13)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

前立腺癌の複雑さを解明するゲノム研究開始

スローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)の研究者らは前立腺腫瘍の過去最大規模のゲノム解析を終了した。218 人の患者から収集した臨床情報とゲノム情報に基づくと、その結果はこの疾患で多くみられる遺伝子変化の概要を示し、悪性度の高い腫瘍を命にかかわらない腫瘍から区別できる方法など、研究の新しい方向性を指し示している。研究者らは公開のウェブサイトを通じてデータを公表、結果の要約は先週のCancer Cell誌電子版に発表された。

「私たちは現在、前立腺癌で共通の遺伝子変化についてかなり明確なイメージを描いています」と主任研究者であるDr. Charles Sawyers 氏は述べ、「より多くの試料を分析する必要がありますが、この結果はこの疾患の今後の臨床試験を立案するためのロードマップを提示するでしょう。分子標的抗癌剤を開発して臨床試験を実施する時には、患者をクラス分けできなくてはならず、何が変化しているかわからなければ理にかなった試験ができません」と続けた。

ゲノム研究により、膠芽細胞腫および肺癌、大腸癌、膵臓癌、乳癌に関する洞察が得られているが、前立腺癌は難題であった。前立腺の腫瘍は比較的小さく、腫瘍組織の適切な試料を採取するためには、専門の病理医が必要であった。大規模な前立腺癌プログラムと熟練した病理医の参加により、MSKCCはこれらの困難を克服することができた。

「Sawyers 氏らは前立腺癌研究の領域で極めて重要な貢献をしました」とNCI 副所長のDr. Anna Barker 氏は述べ、さらに「特定の腫瘍は採取と分析が困難な場合もありますが、この研究では高品質の試料と多次元のデータを用い、疾患を理解する新たな機会を与えてくれました」と続けた。

研究者らは、前立腺癌およびその他の癌に関連することが知られている157 の遺伝子の配列を決定した。これらの遺伝子の変異はまれであったが、研究者らはDNA のコピー数の変化(DNA の獲得や欠失)などの追加情報を含めることにより、PI3K 経路など、ほぼすべての転移性腫瘍と多くの原発腫瘍で変化しているいくつかの遺伝的経路を特定した。

「脳腫瘍で認められたのと同じように、さまざまな情報源すべてを統合すると、疾患で変化している経路に一貫性が認められます」と、共著者でMSKCCの外科部門長のDr. Peter Scardino 氏は述べた。「われわれは、限局性前立腺癌に予想外の多くの異常を見つけました」。

研究者らは、前立腺腫瘍の約11%で重要な役割を担うと考えられるNCOA2 と呼ばれる遺伝子も特定した。この遺伝子がコードするタンパク質はアンドロゲン受容体経路からの信号を増幅させることにより前立腺癌を成長させていると考えられ、この経路は早期および後期の前立腺癌で重要な役割を果たしている。

潜在的バイオマーカー

解析によりDNA コピー数の変化と手術後の再発リスクとの間に顕著な関連性があることも明らかになったが、この関連性はグリーソンスコアでは十分説明できなかった。Scardino 氏は、「これはこの研究の最も興味深い知見のひとつで、前立腺癌の悪性度を特徴づけるのに使用できるバイオマーカーになり得ます。これはわれわれが大いに必要としているものです」と述べた。

現在医師にとって、積極的な治療を要する前立腺癌と治療をしなくても有害ではない前立腺癌とを区別する方法がない。そのため、多くの男性は無用に治療を受けている。ゲノム検査により、例えば乳癌では予後情報を得られるが、前立腺癌ではまだそのようなものはない。

「新しい知見が確認されれば、前立腺癌の予後検査のようなものを開発する基本型となるでしょう」と、前立腺癌財団のCEO かつ会長であるDr. Jonathan Simons 氏は述べ、「これにより、疾患や補助療法の必要性の有無について、医師から患者への話し方が変わるでしょう。それほどこの知見は刺激的です」と付け加えた。

Scardino 氏はMSKCC で前立腺癌のSPORE研究(Specialized Program of Research Excellence:優れた研究の特別プログラム)を実施しており、そのグループは追跡試験を開始した。今回の研究は前立腺摘除術で採取された凍結腫瘍試料を用いて行われた。研究者らは今度はパラフィン包埋組織を用いた場合に、コピー数の変化が有用であるかどうかを検討する。うまくいくようであれば、針生検で得た細胞を検査する予定である。

ゲノム解析により、TMPRSS2 遺伝子とERG 遺伝子の融合がある腫瘍を有す一部の患者では3 番染色体の一部が欠損していることも明らかになった。この融合遺伝子は全前立腺癌の約半分で認められ、研究者らはその場合は他の遺伝子も関与しているのではないかと考えていた。

「3番染色体の欠失とこの融合とは、極めて強く関連しているようです」とSawyers 氏は述べ、「次の段階は、欠失領域内のどの遺伝子が疾患に関与しているかを調べることです。われわれははっきりとした今後の道筋を持っています」と続けた。

TMPRSS2-ERG 融合は2005 年にNCI の早期発見研究ネットワーク(Early Detection Research Network)の支援を受けたミシガン大学の研究者らにより発見された。当時は、融合は血液の癌に限られると考えられていたが、現在ではこれらの変化が一般的な癌でも同様に存在することが知られている。前立腺癌では20数個の融合が特定されている。

新しいクラスの遺伝子融合

今月初めに、Dr. Arul Chinnaiyan氏が率いるミシガン大学のグループは、RAF経路由来の前立腺癌の新規遺伝子融合を報告した。これらの融合の1つにはメラノーマに関与するBRAF遺伝子が含まれる。BRAFを標的とする薬剤が臨床試験中であり、研究者らの報告によると、細胞を用いた実験に基づきこれらの薬剤は最大2%の前立腺癌患者で効果があると考えられる。

Chinnaiyan 氏は、「この発見の臨床的展望は、RAF遺伝子融合を有する患者がこれらの変化を標的とする薬剤の候補になるということです。他の一部の癌と同様に、特に新しい阻害剤のいくつかが、この分子分類をもつ前立腺癌の治療に有用かもしれません」と述べた。

乳癌を有する女性がHER2タンパク質の過剰発現を検査してトラスツズマブ(ハーセプチン)の投与を受けるかどうかを判定するのと同様に、将来、前立腺癌生検を受ける全患者で遺伝子融合を調べるためにDNA 配列の解読を行うようになるだろうと、Simons 氏は予測した。「進行前立腺癌患者を治すために、われわれは少なくとも24 の方策を必要とします」と続け、「直面していることがわかったので、私たちは研究計画を立て仕事を進めることができます」。

さらに、「2 つの前立腺癌のゲノム配列が学会で発表されており、年内には公表されると思われます。複雑な疾患ですが、疾患の重要な特性は真っ暗闇の中の状態から完全な解明に向かって進んでいます。素晴らしいことです」と述べた。

米国国立ヒトゲノム研究所の研究者と共にがんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas:TCGA)計画を設立したBarker 氏にとって、MSKCC の研究は刺激的かつ喜ばしいものである。Sawyers 氏らは、基本的にTCGA のアプローチを踏襲して、高品質の腫瘍試料を分析し、臨床情報と多様なゲノム情報を統合して解析した。TCGA と同様に結果を公表し、この分野の研究者らが新しい洞察の手がかりになる情報を掘り当てることができるようにした。

「TCGA 開始時からの希望は、この分野で癌ゲノム研究を行っている研究者らにこのアプローチが採用されることでした」とBarker 氏は述べた。この研究が完成したため、TCGA の研究者らは今後前立腺癌のより大規模な研究を開始する際に、データを利用するであろう。

Barker氏は「この研究によって、前立腺癌に対してこれまでより格段によい出発点を与えられました。癌研究にとって素晴らしい日であり、患者にとってはさらに素晴らしい日です」と述べた。

—Edward R. Winstead

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榎 真由 訳
榎本 裕 (泌尿器科)監修

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