2009/11/17号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2009/11/17号◆癌研究ハイライト

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2009/11/17号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年11月17日号(Volume 6 / Number 22)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

PDFはこちらからpicture_as_pdf ____________________

癌研究ハイライト

・癌細胞の「標的とならない」とされるターゲットを阻害する新薬
・膵臓癌治療では腫瘍内微小環境が標的となる可能性
・乳癌手術後数年は通常痛みを伴うことが調査により明らかになる
・ホルモン補充療法の使用が’良性の乳房状態’に関与
・進行した白血病の高齢患者に標的治療が有効
・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療に有望な治療戦略

癌細胞の「標的とならない」とされるターゲットを阻害する新薬

研究者らは、従来の薬剤では直接作用できないと考えられていた「指令」タンパク質を阻害する新しい種類の薬を開発した。ハーバード大学のチームはこの薬を用いて、いくつかの癌において異常に活性化している成長促進経路であるNotchシグナル経路からのシグナルを抑制した。この経路が阻害されるとNotchシグナリングに依存する癌細胞は死ぬとDrs.Gregory L. Verdine氏やJames Bradner氏らはNature誌11月12日号に報告した

この薬の第一標的は、細胞の成長と生存に関わる遺伝子を調節する転写因子、Nothch1タンパクである。転写因子は様々な癌において変異しているが、これらのタンパク質は構造的な問題で直接標的化することが難しいことがわかっている。

この問題を解決するために、大学院生のRaymond Moellering氏が統率するハーバード大学のチームは、細胞内に入りNotch経路による細胞成長シグナルの伝達に不可欠なタンパク質同士の相互作用を妨げる薬物分子(SAHM1)を設計した。

T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)に罹患た患者の細胞やマウスモデルを用いてこの薬を試験した。Notch1遺伝子はT-ALL患者の半数で変異しており、異常に活性化したNotch1タンパクを産生していた。Notchシグナリングの活性化は肺癌、卵巣癌、膵臓癌、悪性黒色腫などの他のいくつかの癌でも確認されている。

「私たちは、標的にはならないと言われていたターゲットに対する薬を開発した。この研究により、新しい種類の分子、すなわち構造固定ペプチドを選択することによって転写因子を標的にすることができるという考えが正しいことが確認された」とVerdine氏は述べた。この治療戦略は、他の転写因子でもNotch1のものと分子論が似ているので通用する可能性があると彼は付け加えた。

付随論説においてDrs.Paramjit Arora氏とAseem Ansari氏は、このグループの「注目に値する結果は、タンパク質の二次構造を模倣した分子には、通常なら強固で作用できないタンパク質同士の相互作用を標的にできる可能性があることを明らかにしたことである」と述べた。

膵臓癌治療では腫瘍内微小環境が標的となる可能性

研究者らは、なぜアルブミン結合パクリタキセル(アブラキサン)とゲムシタビンの併用療法が、現在の標準治療であるゲムシタビン単剤療法より進行性膵臓癌の治療に有効であるか,その理由を示唆する手掛かりをつかんだ。

今春発表された本併用療法の初期相臨床試験の最新結果で、SPARC(酸性でシステインに富んだ分泌タンパク質)として知られるタンパク質を豊富に産生する腫瘍を有する患者において、特に期待できる反応があることが示された。ボストンで行われた米国癌学会、米国立癌研究所、欧州癌研究治療機関の共同開催による分子標的・癌治療学会議で今日発表されたマウスモデル研究の結果は、アルブミン結合パクリタキセル をゲムシタビンに追加することで、腫瘍の周囲の支持組織や間質が変化してゲムシタビンが腫瘍細胞に到達しやすくなり、治療に対する反応が部分的に向上する可能性があることを示している。

この試験結果は「有効な治療には手の込んだ新しい分子治療は必ずしも必要ではなく、すでに入手可能な薬剤を巧みに併用するだけでいいということを示しています」とこの試験の責任医師である、ジョンズホプキンス大学医学部のDr. Anirban Maitra氏は述べている。ゲムシタビンは膵臓癌の標準的一次治療薬である。また、タンパク質アルブミンに結合して送達しやすくするパクリタキセル(タキソール)の別型の製剤であるアルブミン結合パクリタキセルは、転移性乳癌治療に承認されている。

この試験の実施にあたり、研究チームは、ジョンズホプキンス大学で作成された膵癌のマウスモデルで併用療法を試験した。併用療法を受けたマウスは、ゲムシタビンの単剤療法を受けたマウスより治療に反応する傾向が2倍高く、完全寛解率(少なくともいくつかの腫瘍の縮小)は57%であった。また、併用療法を受けたマウスは、「多くの線維性の間質」がみられることが有意に少なかった。この線維性の間質は、膵臓腫瘍の周囲に通常みられ、ゲムシタビンの単剤療法を受けたマウス、または治療をまったく受けていないマウスで多くみられた。併用療法を受けたマウスの腫瘍では、ゲムシタビンの単剤療法を受けたマウスより3.7倍も多くゲムシタビンが集積していた。

アルブミン結合パクリタキセル は最近FDAにより、膵臓癌患者および進行性黒色腫患者の希少疾病用薬として位置づけられた(特に、迅速なFDAの評価を受け、特許権保護期間が延長される資格が与えられた)。膵臓癌でゲムシタビンとアルブミン結合パクリタキセルの併用療法とゲムシタビンの単剤療法を比較する第3相試験は、現在参加者を募集中である

乳癌手術後数年は通常痛みを伴うことが調査により明らかになる

乳癌手術歴のある女性を対象としたデンマークの全国的な調査で、参加者の47%が乳癌治療後2、3年、慢性痛を訴えていることが明らかになった。このうち13%は重度、39%は中等度、48%は軽度の痛みを訴えていた。また、参加者の58%は感覚障害や不快感を経験していた。

この研究結果はJournal of the American Medical Association誌11月11日号に掲載され、慢性痛のリスクの高い患者を医師が特定するのに役立ち、慢性痛の予防や治療の進歩につながるかもしれないと研究者らは述べている。

慢性痛と感覚障害の両方のリスクが最も高いのは、乳房温存手術を受けた18歳~39歳の女性であることがわかった。術後補助化学療法では関連性はなかったが、術後放射線治療と慢性痛との間にも関連がみられた。腋窩リンパ節郭清術はセンチネルリンパ節生検と比較して、より痛みを伴う可能性が高かった。

この研究は、2005年~2006年に片側性の原発性乳癌の手術を受けたデンマーク人女性3,253人を対象とした。サンプルサイズ(対象者数)が大きかったことと、国家的なプロトコルに必要とされる標準的な治療法を用いたことにより、この研究は今までに類を見ないものとなった。

「われわれの研究結果は非常に明確な全国的な治療における大規模調査に基づいており、乳癌手術後の慢性痛の最も重要なリスク因子は何かを理解する助けになるとみられる」と上級著者であるコペンハーゲン大学のDr. Henrik Kehlet氏は述べる。

付随論説の共著者である南フロリダ大学H・リー・モーフィットがんセンターのDr. Loretta Loftus氏は同意を示しており、この研究結果は「より早期(手術前にでも)に慢性痛のリスクの高い患者を特定し、患者が長期間にわたって苦しまずにすむような集学的治療を開発できるように、痛みを伴う患者が多いことについて、われわれに注意を喚起するものである。」

ホルモン補充療法の使用が’良性の乳房状態’に関与

異型乳管過形成(ADH)と診断された女性は乳癌発症のリスクが3~5倍高い。ニューヨークにあるエルムハースト病院センターのDr. Tehillah S. Menes氏率いる研究チームは、閉経後ホルモン補充療法(HRT)とADHリスクの増加との間に、HRTと乳癌リスクとの間にみられるような関連性があることを発見した。この研究結果Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌の11月9日号に発表された。

研究者らは、1996年~2005年に40歳以上の女性に実施した2百万件を超える検診マンモグラムのデータを調査した。このデータは、NCIが資金提供をしている乳癌サーベイランス・コンソーシアムが収集したものである。この期間中、1,064人の女性がADH単独と診断されており、833人の女性がADHを伴う乳癌(同じ生検組織で発見)と診断されている。

ADH単独とADHを伴う乳癌の割合はどちらも、診断時にHRTを用いていた女性で有意に高かった。ADH単独の割合は1999年が最も高く、その後調査期間にわたって減少しており、2002年に著しい減少が始まっていた。ADHを伴う乳癌の割合は2002年が最も高く、その後調査期間にわたってやや減少している。

2002年以降の米国人女性の閉経後HRTの使用は女性の健康イニシアチブ(米国国立衛生研究所による閉経後の女性の健康に関する研究プログラム)の研究結果でHRTの使用と乳癌との関連が示されてから減少している。検診を受けたこの集団におけるADH単独とADHを伴う乳癌の割合も2002年以降低下しており、「この研究結果の一部は、閉経後ホルモン療法の使用率が低下していることで説明がつくかもしれない」と著者は結論している。

ADHを伴う癌は、同時期に発見されたADHを伴わない癌より、乳管内癌(DCIS:非浸潤性)または悪性度の低い浸潤癌(進行癌と比較して予後が良い)のどちらかである可能性が高かった。低悪性度と高悪性度の乳癌が別の経路で進行するという理論がこれによって裏づけられるとDr. Menes氏は報道発表で説明している。

進行した白血病の高齢患者に標的治療が有効

いくつかのタイプの白血病治療中における合併症リスクは、高齢者ではより高い。このため、55歳以上の患者はしばしば低用量レジメンで治療されるが、結果として病気の再発リスクは依然高い。この度、フレッドハッチンソン癌研究センターの研究者らは、放射性ヨード(I131)を結合させた抗体を用いることで、高齢者において健常部位を避けて病変部に放射線を集中させることが可能であることを示した。これにより、副作用は予後の良い若年患者でみられるのと同等でありながら、治療効率が向上した。この報告はBlood誌11月5日号に掲載された。

従来のどの治療でも治癒しなかった進行した急性骨髄性白血病(AML)やハイリスク骨髄異形成症候群(MDS)の高齢患者を対象として、低用量の化学療法、全身照射、造血幹細胞移植との併用で、放射性抗体の最大耐量を決定する第1相試験が計画された。50~74歳の58人の患者が参加した。

まず患者に、白血病細胞表面のCD45タンパクを標的とする微量の放射線抗体を投与した。その後3日間、研究者らは特別なカメラを用いて患者の体中の抗体集積部位と濃度を測定した。肝臓、肺、腎臓に比べて骨髄、リンパ節、脾臓に対して何倍もの放射線が抗体により運ばれることがこれらの研究により示された。

8~14日後、患者は治療量の放射性抗体を投与され、その後の3日間フルダラビンによる化学療法、全身照射そして造血幹細胞の移植を受けた。21人に投与された放射性抗体の最大耐量は、肝臓に対して24Gyであった。

全ての患者は治療後すぐに寛解し、また提供された幹細胞は移植後28日目までに生着した。この試験での1年生存率の推定値は41%(最大耐量で治療された患者では46%)であった。再発率は40%であり、著者らはまだ高率であると指摘するが、若年の患者群と同程度であった。

彼らの研究は、有効性を試験するようには計画されてはいないものの、この治療法は低用量レジメンで治療される必要があるAMLやMDSの高齢患者の治癒率向上のために使用可能であると、著者らは楽観視している。彼らはまた、他の放射性化合物やこの病気における他のターゲットに対する抗体も研究されるべきだと述べた。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療に有望な治療戦略

大人において最も頻度が高いリンパ腫である、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)のある型に対して有望な治療戦略を、別々に活動している2つの研究チームが発見した。各グループは、MALT1と呼ばれるタンパク質を阻害することで、活性型B細胞(ABC)型の患者から採取した細胞が死ぬという結果を得た。これらの患者は予後不良であり、この発見は新しい治療戦略につながる可能性があると研究者らは述べた。

MALT1は細胞内においてタンパク質を分解する酵素(プロテアーゼ)である。これまでの研究により、この酵素は核内因子κB(NF-κB)経路と呼ばれるABC型DLBCLの細胞成長を促進するシグナリング経路を活性化する働きがあることがわかっている。この新しい発見は、MALT1を阻害することによりこの経路が不活化し、結果としてABC型DLBCL細胞が死ぬことを示唆している。

「この発見は、腫瘍におけるNF-κB経路を阻害することを狙った新しい研究の始まりです」とスイスのローザンヌ大学のDr. Margot Thome氏と共にこの研究を指揮するNCI癌研究センターのDr. Louis Staudt氏は述べた。彼らの研究結果は全米科学アカデミー会報誌電子版11月6日号で発表された。

先月号のJournal of Experimental Medicine誌で発表されたもうひとつの研究は、ミュンヘン工科大学のDr. Jürgen Ruland氏が指揮をとる。両グループは同じ種類の細胞と阻害剤を用いて似た実験を行った。これらの阻害剤は臨床では用いられる可能性は少ないが、両グループが同じ結果を得たという事実は、MALT1がこのリンパ腫の将来の治療戦略において役割を果たす可能性があることを強く示唆するとStaudt氏は述べた。

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野長瀬 祥兼、川瀬 真紀 訳

林 正樹(血液・腫瘍内科医/敬愛会中頭病院)、原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修

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