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2010/08/10号◆特別リポート「キトサンの粘性を活用した癌治療」

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2010/08/10号◆特別リポート「キトサンの粘性を活用した癌治療」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年8月10日号(Volume 7 / Number 16)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

キトサンの粘性を活用した癌治療


マウスにおける新しい研究によれば、免疫系を刺激して腫瘍を攻撃させる薬剤であるサイトカインの一種インターロイキン12(IL-12)が、再び臨床で有望になる可能性がある。本研究および同じ研究者グループによる先行研究の結果に基づいて、この治療法の膀胱癌患者に対する第1相臨床試験が計画されている。本研究は、Journal of Immunotherapy誌9月号に掲載される。

数十年にわたり集中的な研究の対象となってきたタンパク質IL-12は、免疫系の重要な構成要素を調節する。IL-12は、多数の基礎研究や動物モデル試験において劇的な抗腫瘍効果を示してきた。しかしながら、臨床開発は、静注または皮下注射によるIL-12投与は複数の臨床試験で重大な毒性が認められたため停滞していた。

毒性の問題を回避するために、NCI癌研究センター・腫瘍免疫学・生物学研究所のDr. John Greiner氏らは、IL-12をキトサンという化合物と混合した。キトサンは、合成分子や生物学的分子を組織に結合することができる生物学的接合剤である。IL-12とキトサンの混合物は、腫瘍に直接注射された。

エビなどの甲殻類の殻に由来する多糖類であるキトサンは、IL-12を「腫瘍環境に直接」届ける「送達システム」の重要な一部である、とGreiner氏は説明した。この治療はマウス試験において有効性が確認されたのみならず、毒性のある副作用はみられず、大変安全であることが示された。

本研究チームの先行研究において、キトサン/IL-12混合物は膀胱癌マウスの腫瘍を消失させた。今回の新しい研究では、大腸癌膵臓癌のマウスを使用した。まず、本研究で非侵襲的な画像技術を用いて示されたのは、腫瘍にキトサン/IL-12混合物を投与した後はIL-12が腫瘍微少環境内に1週間近く留まるのに対し、IL-12を単独で投与したときには1日だけしか留まらないことである。

IL-12を生物学的接合剤と混合するという着想の発案者である共同研究者のDr. David Zaharoff氏(アーカンソー大学)は、キトサンをメープル・シロップに例えた。「キトサンの高粘度により、同時に処方される分子の拡散が阻害されます」と彼は述べた。「その結果、キトサンはIL-12を腫瘍微少環境に長時間保持することを可能にします」。

2つ目の実験では、キトサン/IL-12混合物を週1回3週間、腫瘍内投与すると、90%のマウスで腫瘍が完全に消失することが示された。一方、IL-12単独では限定的な有効性しかなかった。GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)とIFN-γ(インターフェロン・ガンマ)という、免疫系を刺激しうる別の2つのタンパク質とキトサンを混合したときには、腫瘍縮小にも生存期間にもほとんど影響がなかった。「この腫瘍の完全退縮はキトサン/IL-12混合物に特異的である」と研究論文には書かれている。

キトサン/IL-12混合物による治療は、CD8陽性T細胞とナチュラルキラー細胞という2つの強力な免疫細胞の活性化を誘導した。 そして、特定の状況下では、治癒したマウスを腫瘍細胞に「再曝露」しても、初回治療のおかげで癌に対する免疫防御が持続した。 しかし、免疫防御の度合いはマウスに投与される腫瘍細胞の数、投与頻度によって異なり、「さらにヒトでの臨床と直接関連する動物モデル」で検証する必要がある、と著者らは警告している。

強力な抗腫瘍効果にもかかわらず、ヒト初回投与試験でIL-12によってもたらされた毒性のせいで、製薬会社はIL-12に関心を持たなかった、とフロリダ州タンパにあるH. リー・モーフィットがんセンター研究所のDr. Jeffrey Weber氏は説明した。 「しかし、この薬は研究を継続すべきであると私は今も考えています」と彼は述べた。

とはいえ、本研究には参加していないが、メラノーマなどの腫瘍のワクチン療法を研究しているWeber氏は、長期的に見てIL-12が単独療法薬として有望かどうかは疑問があるとし、これまでのエビデンスによれば、ワクチン療法の効果を高める補助療法薬(アジュバント)として開発するのが最善だと思われる、と述べた。また、腫瘍に直接投与しなければならないことも「この治療の魅力を減じ、適応例を制限します」と彼は続けた。

メリーランド州ベセスダの米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターで行われる第1相試験には、(膀胱壁の表面に癌が限定された)表在性膀胱癌で、標準の初回治療後に再発した患者が参加する予定である。 膀胱癌の場合、キトサン/IL-12混合物が強力な獲得免疫反応を誘導する(すなわち、免疫細胞が活性化され、病原体つまり将来同様の反応を要求する細胞を「記憶」する)と思われるため、「手術による膀胱切除の対象とならない、転移巣をもつ患者に対するこの治療法の評価をする機会」が得られる可能性もあると、Greiner氏は付け加えた。

たとえばウイルスベクターやリポソームにタンパク質を導入するなど、IL-12の腫瘍への送達を標的化しようとする類似の研究が進行中である。 しかし、IL-12をキトサンと混合することには、他の手法と比べいくつかの利点があるとみられる。 たとえば、血液凝固を促進したり胃での脂質吸収を減らすために、キトサンはすでにヒトに用いられており、安全性が確立していること、また週1回という治療スケジュールでは毒性を引き起こす全身的曝露の型が限定されていることを、Zaharoff氏は強調した。

さらに、IL-12の送達を改善する他の方法とは異なり、IL-12とキトサンの混合には溶剤やその他タンパク質を破壊する加工を必要とせず、文字通り患者の枕元で投与直前に調製することができる。

「これはとても単純な方法ですが、短期間でヒト臨床試験に移行できるよう、わざとそのように計画されたのです」とZaharoff氏は述べた。 「トランスレーショナル(基礎から臨床への橋渡し)研究で、これ以上に効率的なものはまずありません」。

—Carmen Phillips

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盛井 有美子 訳
辻村 信一(獣医学/農学博士・メディカルライター)監修
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