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2010/08/10号◆癌研究ハイライト

  • 2010年8月17日

    同号原文
    NCI Cancer Bulletin2010年8月10日号(Volume 7 / Number 16)


    日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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    癌研究ハイライト

    ・骨治療薬は食道癌や胃癌のリスクを高めない
    ・免疫細胞の抗癌作用は高脂質値によって阻害される
    ・腫瘍血管の成長を調節するマイクロRNA
    ・多くの米国/カナダの腫瘍医は臨床での費用対効果の導入にいまだ準備段階

    骨治療薬は食道癌や胃癌のリスクを高めない

    過去の報告と相反して、英国とNCIの研究者らは、骨粗鬆症や骨密度低下を治療、予防する薬剤である経口ビスフォスフォネートは、服用量を問わず食道癌胃癌との因果関係はないことを明らかにした。この結果はJournal of the American Medical Association誌8月10日号電子版に掲載された。

    クイーンズ大学ベルファストのDr. Chris Cardwell氏らは、UK General Practice Research Databaseのデータベースから80,000人以上の患者の医療データを分析した。半数は1996〜2006年の間にビスフォスフォネート製剤で治療された患者、残り半数はビスフォスフォネート剤を服用していない患者であった。患者の大半は女性であり(81%)、平均年齢は70歳、追跡期間はビスフォスフォネート群で4.5年、対照群で4.4年であった。

    食道癌と胃癌の発生率は両群で同程度であった。ビスフォスフォネート剤を服用した41,826人中116人が胃癌もしくは食道癌を発症し、対照群では115人が発症した。

    2009年1月、FDAのDr.Diane Wysowski氏は食道に前癌病変を有する患者に経口ビスフォスフォネート剤を処方することに注意を喚起し、ビスフォスフォネート剤と食道癌の関連を調べる試験を求めた。しかし、今回の新たな結果をみて、「食道癌発症のリスクを理由として、骨治療薬の適応のある患者にビスフォスフォネート剤の投薬を控えるべきではない」と研究者らは述べた。

    免疫細胞の抗癌作用は高脂質によって阻害される

    癌を有するマウスやヒトでは、重要な免疫系細胞である樹状細胞内の脂質値が高い傾向があり、他の免疫細胞に癌攻撃を指令することが出来なくなっていると米国の研究チームが報告した。また、これら脂質分子の合成を阻害する薬剤によって、樹状細胞が再び抗癌反応を活性化できるようになることも示された。この研究はNature Medicine誌2010年8月号に掲載された。

    樹状細胞は癌細胞(ウイルス、細菌、その他の異物も同様)によって作られるタンパクやその他の分子を取り込んで処理し、他の免疫細胞に抗原として提示することで、攻撃を引き起こすことが出来る。H・リー・モーフィットがんセンターのDr.Dmitry Gabrilovich氏らは、癌のモデルマウスやヒト腫瘍標本中の樹状細胞では、脂質値(特にトリグリセリド)が健康なマウスやヒトの樹状細胞よりも高値であることを明らかにした。

    正常脂質レベルの樹状細胞は活発な免疫反応を引き起こしたが、高脂質の樹状細胞による反応は非常に弱かった。また、さらなる研究から、高脂質レベルの樹状細胞では、抗原物質の取り込み能力や処理能力が極めて低いことが示されたと研究者らは述べた。

    また、マウスでは、TOFAと呼ばれる脂肪酸合成阻害薬によって、「脂質が多い樹状細胞の数は減少し、同種T細胞を活性化する能力が回復した」と報告された。癌ワクチンとTOFAを組み合わせることで腫瘍は著しく縮小したが、ワクチン単独では抗腫瘍効果はほとんどみられなかった。

    この結果は癌免疫療法の新しい方法を提示しているとDr.Laurence Zitvogel氏とDr.Guido Kroemer氏は付随論説で述べている。「樹状細胞におけるトリグリセリド蓄積を阻害することにより、抗癌免疫反応を回復させ、治療ワクチンや従来の化学療法の効果を高める有望な手段となる可能性がある」と著者らは結論した。

    腫瘍血管の成長を調節するマイクロRNA

    腫瘍に必要な栄養を供給する血管の成長が、内皮細胞ではマイクロRNA(miRNA)と呼ばれる小さなRNA分子によって調節されている可能性があることが新たな研究から示唆された。研究者らはmiR-132と呼ばれるマイクロRNAを同定した。miR-132は内皮細胞成長の分子スイッチとして機能し、内皮細胞を通常の休止状態から新しい血管を作る(血管新生)状態に移行させている可能性がある。この研究は、血管新生を阻害する方法と、癌治療につながる可能性もあり、カリフォルニア大学サンディエゴ校のDr.David ChereshらがNature Medicine誌8月1日号電子版で発表した。

    内皮細胞は成人では最も増殖しない細胞のひとつだが、成長因子など特定の要因に反応して活性化される。研究者らは、遺伝子を調節することが知られるマイクロRNAがなんらかの役割を担っていると考え、ヒト血管発生の幹細胞モデル中のマイクロRNAを分析し、miR-132が血管新生中に大きく亢進されていることを見いだした。続いてmiR-132の発現が、血管の良性病変である血管腫やヒトの腫瘍血管で高くなっているが、正常の血管では検出できないことを確認した。

    分子経路を分析した結果、miR-132はp120RasGAPタンパクをコードする遺伝子の発現を抑制することが明らかとなった。p120RasGAPタンパクはRasタンパクの抑制因子である。Rasは癌細胞では変異していることが多く、miR-132を標的とするということは重要な経路を阻害する手段になる可能性があると研究者らは述べた。さらに、miR-132は主に内皮細胞にみられるので、このような治療法は内皮細胞に特異的となるであろうと研究者らは指摘した。

    この原理を証明するために研究者らは、自ら開発したナノ粒子技術を用いてmiR-132の阻害剤を腫瘍マウスの血管に直接送達させた。この治療の結果、腫瘍の血管新生と増殖は阻止された。さらに、血管新生をきたした網膜病変を持つマウスでは、抗miR-132薬の眼球への直接注入によって網膜の血管新生が抑制された。

    「われわれは血管新生が行われている最中に、血管新生スイッチを大本から切ったことになります」とCheresh氏は言った。このような細胞で盛んな増殖を抑えることができたことにより、活発な血管新生を特徴とする癌や網膜疾患を抱える患者にこの種の方法を用いることが可能となりました、と同氏は付け加えた。

    米国/カナダの腫瘍医の多くは臨床での費用対効果の導入にいまだ準備段階

    カナダと米国の腫瘍医は、両国の医療システムに大きな違いがあるにも関わらず、薬剤コストや効果比較をどのように患者の治療決定に取り入れるべきかについて同様の意見をもっていることが最近の調査で報告された。(カナダ政府は医療に公的資金を提供しているが、米国政府はしていない。)また両国の腫瘍医とも、治療コストや効果比較について患者と話し合う十分な準備ができていないと感じていることも明らかになった。この結果はJournal of Clinical Oncology誌8月9日号電子版で発表された。

    米国臨床腫瘍学会(ASCO)から無作為に選ばれた約800人のメンバーが調査に参加し、資金の一部はCalifornia HealthCare Foundationから提供された。カナダでは国の医療組織や癌研究組織のメンバーに対して調査が行われ、138人から返答を得た。

    両国の多くの医師は、「費用に見合う優れた価値」がある場合にのみ、患者には効果的な治療へのアクセス権があるべきであると確信しており、カナダ人医師は米国人医師よりもこのように考えている割合が多い(それぞれ75%、58%)ことが調査により示された。「優れた価値」に対する閾値は、米国人医師よりもカナダ人医師のほうが高かったが、両国の多くの医師は1年の生存延長に対して10万ドル未満が適切であると考えていた。しかし、治療決定に費用対効果の要素を取り入れるだけの十分な下地が整っていると考える腫瘍医は半数未満であった(米国人医師で42%、カナダ人医師で49%)。

    両国の臨床医とも、ある薬剤が優れた価値を持つかの判断は政府や保険会社ではなく、医師や非営利機関が行うことが望ましいと考えていた。また両国の大半の医師は癌治療薬の価格決定にさらなる政府のコントロールが必要であると感じていたが、この意見は米国(57%)の方がカナダ(68%)より少なかった。

    著者らは両国での調査方法が異なるため調査結果に偏りがある可能性を指摘した。しかし、両グループの意見はほぼ共通で、両国の腫瘍医が新しい癌治療薬のコストが急激に上昇し健康保険で負担できるかどうかの状況に瀕していることを目の当たりにしているので、米国とカナダの腫瘍医は今後の課題に協力して対処すべきであると著者らは結論している。

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    野長瀬 祥兼(工学/医学) 訳
    関屋 昇(薬学)監修
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