妊娠のための乳がん長期治療の中断は安全とみられる

早期乳がんと診断された若い女性は、多くが将来の妊娠の可能性について医師に尋ねる。ある国際共同臨床試験の新しい結果が、こうした話し合いに役立つ可能性がある。

この試験は、タモキシフェン(販売名:ノルバデックス)などの内分泌療法(ホルモン療法)の使用に焦点を当てたものである。ホルモン療法は、早期乳がんの治療を受けた女性に対してがん再発防止のために、通常5年から10年間行われる。

今回の試験では、女性が妊娠を試みる間、最長2年間ホルモン療法を一時的に中断しても、短期的に再発リスクを高めることはないことがわかった。

試験に参加した518人の女性の多くが治療中断中に妊娠し、健康な赤ちゃんを出産した。12月8日のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された結果によると、試験期間中に合計365人の赤ちゃんが誕生した。

テキサス大学サウスウェスタン・シモンズ総合がんセンターを指揮し、試験結果が発表されたSABCSの記者会見で司会を務めたCarlos Arteaga医師は、「これ(試験)は素晴らしいニュースです」と述べた。

このPOSITIVE試験には、妊娠を希望する43歳未満の女性が参加した。参加女性は、早期ホルモン受容体(HR)陽性乳がんに対する手術を受け、ホルモン療法を18カ月間以上受けていた。

試験参加者は、試験登録後、追跡調査を10年以上受ける予定である。この追加の追跡調査は、ホルモン療法を中断した女性の再発リスクを長期に渡って評価するために必要なものであるとArteaga医師は述べた。

この試験の共同責任者であり、SABCSで結果を発表したダナファーバーがん研究所のAnn Partridge医師(公衆衛生学修士)によると、多くの若い乳がん女性にとって、妊よう性に関する問題は「最も重要なもの」であるという。

早期ホルモン受容体陽性乳がんの女性は、まず手術、放射線、または化学療法を受け、その後5年から10年間の術後ホルモン療法を受けることがある。

ホルモン療法は、ホルモン受容体陽性乳がんの成長を遅らせたり、停止させたりするものである。この治療法では、体内でホルモンを産生する能力を抑制したり、乳がん細胞に対するホルモンの作用を阻害したりする。

しかし、ホルモン療法によって妊娠しにくくなる可能性があるため、若い女性の多くはこの治療に消極的であるとPartridge医師は述べた。


多くが妊娠に成功し、がん再発は増加しない

POSITIVE試験は、4大陸で実施され、ホルモン療法を中断し妊娠を試みた女性を追跡した初めての前向き試験であった。

Partridge医師は、治療中断中に「多くの女性が、少なくとも1回は妊娠しました」と述べ、その多くが2年以内に妊娠したと語った。

Partridge医師らは、NCIから一部資金提供を受けたこの試験で、20カ国497人の女性の妊娠状況を追跡調査した。このうち、368人(74.0%)が1回以上妊娠し、317人(63.8%)が1回以上出産している。

この試験の共同責任者であるInternational Breast Cancer Study GroupのOlivia Pagani医師によると、この妊娠率と出産率は一般の人々と同程度かそれ以上とのことである。

初回治療から3年後までに、参加者の約9%でがんが再発した。この再発率は、治療中断を伴わない同様の試験に参加した閉経前女性とほぼ同じであった。

Partridge医師は、この試験結果は、患者やその家族、そして医師がより安心して妊娠を目指すのに役立つだろうと述べた。そして、このアプローチはホルモン療法を中止するのではなく、中断するのであると強調した。

この試験では、追跡期間中央値3.4カ月の時点で、約76%の女性がホルモン療法を再開し、15%の女性がホルモン療法を再開していなかった。約8%の女性は、ホルモン療法の再開前に再発または新たながんの発症がみられたか、死亡していた。

試験終了後、参加者は最長で5年から10年間、ホルモン療法を受け続けることになる。各女性の治療法は、再発のリスクを考慮し、医師と相談の上、決定される。

大切な誕生日を祝う

サンアントニオ乳がんシンポジウムにおいて、Partridge医師は、試験に参加した女性たちに感謝の意を表し、必ずしも試験に参加してホルモン療法を中断する必要はなかったと述べ、「彼女たちの試験への参加は、非常に利他的なものでした」と語った。

Shayla Johnsonさん(40歳)は、今回の結果で他の女性が「家庭を持つことに少しでも安心感を抱く」手助けになればと思い、この試験に参加した。彼女は6年前、家族を作ろうとしていた矢先に早期乳がんと診断された。

診断後、両側乳房切除術と8クールの化学療法を受けた。そして、ホルモン療法を中断している間に体外受精で妊娠した。今では、息子のRonin君のいない生活は考えられず、彼女は自分の話を伝えたいと考えている。

Johnsonさんは「命を救うための治療と家庭を築くことは、二者択一ではありません」と言い、「特に若い女性にとって、がんはとても困難なものです」とも述べている。

Ronin君が1歳になった今月、この6年間Johnsonさんを支えてきた多くの友人や家族がパーティーに参加した。彼らはRonin君の一番のファンでもある。

「私はいろいろなことを経験したので、彼らは私の息子を奇跡だと思っています。そして、誰もが奇跡のそばにいたいものです」とJohnsonさんは語った。

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)
  • 翻訳担当者 成宮眞由美
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  • 原文掲載日 2023/01/20

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