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2010/08/10号◆特集記事「癌治療による心機能障害の予測に役立つタンパク質」

  • 2010年8月17日

    同号原文NCI Cancer Bulletin2010年8月10日号(Volume 7 / Number 16) 日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜 PDFはこちらからpicture_as_pdf ____________________ ◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇ 癌治療による心機能障害の予測に役立つタンパク質 HER2タンパク陽性の乳癌女性251人を対象とした前向き試験で、トラスツズマブ投与前・投与中にトロポニンIと呼ばれるタンパク質の血中濃度が高い患者は、トロポニンI濃度が上昇しなかった患者に比べて、トラスツズマブ(ハーセプチン)投与中の心毒性(心機能障害)が有意に高かったことが明らかとなった。さらにトロポニンIが高濃度の患者では、心機能障害が回復しなかった率は3倍であった。これはDr. Daniela Cardinale氏が率いるミラノ(イタリア)にある欧州腫瘍学研究所(European Institute of Oncology)による試験結果であり、Journal of Clinical Oncology誌8月2日号電子版に掲載された。 Cardinale氏らは、トロポニンIの濃度を測定することで、「心機能が良好な患者と綿密な心臓のモニタリングが必須であり心毒性を防止するための予防策を講じる必要がある患者を特定できるようになると思われます」と記した。 増加するアントラサイクリン系の化学療法、トラスツズマブと心機能障害との関連性に関するこれまでの知見にこの新データが加わったことになる。アントラサイクリンの治療歴がある場合、トラスツズマブの投与により心毒性が起きる可能性が高く、また、アントラサイクリン系薬剤とトラスツズマブとの連続投与による治療を行った患者の心機能障害が回復する可能性は、同系薬による治療を行っていない患者ほど高くはない。アントラサイクリン系薬剤が心機能障害を引き起こす経路はよく知られている。イタリアの研究者らは、高濃度のトロポニンIは、化学療法が引き起こす心機能障害を予測することができると 以前から示唆していた。 本試験では、新たに乳癌と診断され術後補助療法としてトラスツズマブを投与した患者123人と、転移性乳癌の治療としてトラスツズマブを投与した患者128人を前向き試験として組み入れた。全参加者に対して心臓の機能を評価する左室駆出率(LVEF)とトロポニンI濃度の測定を、試験前、試験中、そして試験後のフォローアップ時に実施した。 試験中に心機能障害が生じた患者にはトラスツズマブの投与を中止し、エナラプリルとカルベジロールを用いて心不全の治療を開始し、必要があれば他の心臓治療薬の使用も認めた。トロポニンI濃度の変化によって治療法を変更した患者は一人もいなかった。 全体として、トラスツズマブ投与前からすでに高濃度であった7人を含む36人にトロポニンI濃度高値が認められ、前治療で受けた化学療法によって心機能障害が発生していた可能性が高いと思われた。年齢、高血圧、脂質異常、喫煙などの心機能障害のリスクと関連する因子を考察する解析によると、トロポニンI濃度の上昇が、トラスツズマブによる治療中に起きる心機能障害の唯一の独立した予測因子であった。また、アントラサイクリン系による前治療は統計的有意に近い因子と示された。 トラスツズマブによる心毒性(TIC)を発症した患者の62%は、治療中のトロポニンI濃度が高値であった。全TIC患者の60%は、トラスツズマブを中止して心不全治療薬による治療後には正常な心機能に回復した。しかし、この回復は低トロポニンI濃度と均一に関連してはいなかった。心機能が回復しなかった患者では治療中のトロポニンI濃度は高値であったが、同濃度が高値であった患者でみると36%は正常な心機能に回復した。 TICを発症した患者の90%は、アントラサイクリンによる化学療法の治療歴があった。これらの薬剤によって引き起こされる心機能障害との関係は未だ研究中であると、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Michael Ewer氏とウイスコンシン大学のDr. Steven Ewer氏は 付随論文で説明している。 アントラサイクリン系による治療歴がある患者にTICの発生率が増加したことに対する1つの説明として示されたのは、トラスツズマブ自体が心臓の組織に対して特に毒性があるわけではないが、トラスツズマブはHER2タンパクをブロックすることでアントラサイクリンが誘導する心機能障害を悪化させるということである。HER2タンパクは乳房組織と同様に心筋でも発現しており、心臓細胞の修復メカニズムにおいて重要な役割を担っていると思われる。そのため、HER2タンパクをブロックすることは、アントラサイクリン系による化学療法の暴露の後の心臓の修復を阻害するかもしれない。「今回の結果からは、壊れやすく、過去に障害を受けたミオサイト[心臓の筋肉細胞]に対して、トラスツズマブは調節作用を有するものとみられる」と彼らは記している。 これらの結果は、「不可逆性の心毒性を生じるハイリスク患者の特定に役立つという点で非常に有益である可能性があります」とNCIの癌研究センターの細胞分子研究室の上級研究員であり米国海軍医療センターの乳房ケアセンターの所属医であるDr. Stanley Lipkowitz氏は述べた。しかし、比較的小規模なこの試験にはいくつかの制約があると彼は説明した。この試験では、術後補助療法および転移した段階での治療で数種類の異なる化学療法レジメンで患者は治療を受けている。「各治療段階における大規模な試験で、そして、理想的には同一の化学療法の試験でこれらの結果を確認することは意味のあることでしょう」とLipkowitz氏は述べた。 さらに、転移性乳癌患者より長期生存が予想される術後補助療法としてトラスツズマブを投与した患者に対しては、長期間の経過観察が必要であるとLipkositz氏は続けた。これらの患者には晩期障害のリスクがあり、今後の研究においてTICの予測因子の精度があがるかもしれない。 「トラスツズマブ投与中にトロポニンIが高濃度であった36人中10人に心毒性が生じず、そして、トラスツズマブ投与中にトロポニンIが高濃度でTICが起きた26人中9人のLVEFが回復したことは軽視されるべきではありません」と、Lipkowitz氏は説明した。治療の指針となるためにこのような試験をいかにして最適に利用できるかと同時に、これらの結果を確認しトロポニンI濃度や反応速度の上昇が心臓の転帰に関連することを精査するための追加試験が必要だと同氏は述べた。 —Sharon Reynolds ****** Nogawa 訳 原 文堅 (乳腺腫瘍科/四国がんセンター)監修 ******

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