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ASH2022:脳・脊髄リンパ腫へのCAR-T療法は初期臨床試験で有望

脳および脊髄のリンパ腫患者を対象とした小規模パイロット試験で、アキシカブタゲン シロルユーセル(販売名:axi-celまたはイエスカルタ)というCAR-T細胞療法が、安全で有望な有効性を示している。このことが、ダナファーバーがん研究所の研究者から第64回米国血液学会(ASH)年次総会で報告された。

この研究の特徴は、患者の血液、および脳と脊髄を取り巻く脳脊髄液から分離した個々のCAR-T細胞に対する綿密な分子レベルの観察である。この前例のない解析は、ダナファーバーおよびボストン小児病院において、Leslie Kean医学博士率いる細胞治療学・システム免疫学研究所(CTSI)との共同で行われ、2つのCAR-T細胞集団の間に驚くべき違いがあることが明らかになった。脳脊髄液中の細胞は、免疫系を回復させる重要なステップであるインターフェロン経路の活性化を示す分子シグネチャーを示すことがわかったのである。これらの研究は、米国血液学会の2件の口頭発表演題で報告される。「多くの中枢神経系リンパ腫患者には、優れた治療選択肢がありません」と、ダナファーバーのCaron Jacobson医師(MMSc)は言う。この試験を主導した同医師が、ASHで今回の結果を発表することになっている。「私たちの初期結果は、この疾患にCAR-T細胞の適用を拡大することで、患者の転帰が改善する可能性を示唆しています」。

リンパ腫は脳や脊髄の中で発生することもあれば、体の他の部位で発生した後にこれらの部位(中枢神経系またはCNSと総称される)に浸潤することもある。これらの原発性および二次性CNSリンパ腫の根底にある生物学的性質はまったく異なることもあるが、これらのがんは多くの場合、治療が困難で、特に腫瘍が標準治療を回避してしまうと治療は難しくなる。その場合、多くの患者が通常2年以上生きることはない。

CAR-T細胞は、患者自身の病気と闘うT細胞から作られ、腫瘍に結合して破壊するように遺伝子を改変したもので、他の種類のリンパ腫では有効性が証明されている。しかし、脳や脊髄におけるCAR-T細胞の有効性は、これまであまり研究されていなかった。Jacobson医師らは、先行研究からCAR-T細胞が脳に作用することを知っていたが、治療中に生じることがある神経毒性が、中枢神経系を標的とした治療法の展開に対する懸念をかき立てていた。このため、研究チームは、原発性および二次性中枢神経系リンパ腫に対するaxi-celの安全性を評価するパイロット臨床試験に着手した。

この試験は、複数のポイントで安全性を評価するために中断するよう設計されており、2つ以上の治療制限毒性が現れた場合には、研究者が試験プロトコルを修正することになっていた。しかし、試験は中断することなく進めることができた。研究者らは、患者を2つのコホートに分けて登録した。第1コホートは中枢神経系のみにリンパ腫がある患者、第2コホートは中枢神経以外の身体部位と中枢神経系の両方にリンパ腫がある患者である。

第1コホートに登録された患者9人での結果は、米国血液学会で報告される。現在までに、患者全員がaxi-cel治療を受け、治療から1カ月以上経過している。治療により78%の患者で腫瘍が縮小または消失し、67%の患者で腫瘍が消失する完全奏効が認められた。これらの奏効の持続期間は10カ月であった。無増悪生存期間の中央値はほぼ1年、全生存期間の中央値は19カ月であった。さらなる臨床試験が必要ではあるが、今回のデータから、axi-celは中枢神経系リンパ腫に対して現行の治療法よりも持続性のある奏効をもたらす可能性をもつことが示唆される。

今回の分子的研究はKean医師の研究室で行われ、ダナファーバーのUlrike Gerdemann医師(ボストン小児病院兼務)、Alexandre Albanese博士(ボストン小児病院)、James Kaminski博士(ボストン小児病院、ブロード研究所兼務)が中心となって実施された。研究チームは、第1コホートに登録された患者から血液と脳脊髄液を採取した。脳脊髄液サンプルは、オンマヤリザーバーと呼ばれる特殊なポートを介して採取された。このポートは頭皮のすぐ下に設置され、従来の腰椎穿刺よりも頻繁に、そして痛みを伴わずに脳脊髄液を採取することができる。

血液と脳脊髄液は、CAR-T細胞が体内で最も速く増殖する期間(axi-cel治療後5日目から9日目)に毎日採取された。CAR-T細胞と非CAR-T細胞の両方を分離し、単一細胞RNAシーケンシングやT細胞受容体の単一細胞シーケンシングなどの高度な単一細胞技術を使用して解析した。

「この方法は、中枢神経系の免疫環境を調べ、末梢血と比較するという前例のない機会を与えてくれます」とGerdemann医師は述べている。「さらに、血液と脳脊髄液の両方で同一の細胞集団を比較することができ、T細胞動態の高解像度画像から、何が治療反応を引き起こすのかより深く理解することができます」。

Gerdemann医師、Kaminski医師、Albanese医師らは、125,000個以上の細胞を解析したが、これは技術的および臨床的偉業である。研究者らの広範で奥深い探究により、脳脊髄液中CAR-T細胞に特有の、抗腫瘍反応を促進するために重要と思われる分子シグネチャーが明らかになった。このシグネチャーから、脳脊髄液CAR-T細胞が高度に活性化され、免疫活性に重要なインターフェロン経路をオンにしていたことがわかる。

「これらの細胞をさらに研究することで、それら細胞特有の生物学的性質と体内での活動についてさらに解明されるでしょう」とKaminski医師は述べる。「これは本当に途方もない取り組みでしたが、これを実現させてくれた患者さん、臨床医、関係研究者に非常に感謝しています」。

 

監訳:喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

翻訳担当者山田登志子

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