2010/09/07号◆スポットライト「自己貪食:癌細胞の奇異な食習慣」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/09/07号◆スポットライト「自己貪食:癌細胞の奇異な食習慣」

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2010/09/07号◆スポットライト「自己貪食:癌細胞の奇異な食習慣」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年9月7日号(Volume 7 / Number 17)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇
自己貪食:癌細胞の奇異な食習慣

多くの癌細胞は厳しい生存条件にある。例えば、腫瘍の中心部に奥深くはまりこんでいる癌細胞は、酸素、増殖因子および栄養素を、腫瘍に栄養を送る血管から限定的に得るのみである。しかし、状況が困難になると強者は貪食し始める。こうした悲壮な状況では、多くの癌細胞が自己貪食と呼ばれる自己喰殺(しょくさい)行為にはしるようになり、細胞質の部分を定期的に貪っては高分子に分解し、それを再利用して自己の生存に必要な他の成分へと変換する。
(癌細胞が自己貪食によって自らを食べ尽くす様子はインターネット上のビデオで視聴可

正常細胞は、成長時やストレスにさらされた時、自己貪食に依存してタンパク質や細胞小器官の合成と分解との均衡を維持する。癌細胞もまた、腫瘍にとって不利な環境下で生存するため、および化学療法や放射線療法にさらされた時にその殺細胞効果を無効にするために自己貪食を行う。癌細胞では、「現在行われている癌治療方法のほとんどがこの自己貪食経路を誘発しています」とフロリダ州ジュピターにあるスクリプス研究所のDr. John Cleveland氏は説明する。Cleveland氏は次のように続ける。「自己貪食の活性化は癌細胞が本来持っている細胞生存のメカニズムであり、これによって癌細胞は、抗癌剤治療や放射線治療を受けても、細胞が生き残るのに必要な構成要素を取り戻します」。

癌における自己貪食の役割に対する理解が深まることにより、重要な逃避経路とみられる自己貪食を遮断し、阻止することで癌治療の効果を高めることができるかどうかの研究も着手され始めている。この研究は初期段階のもので、ヒトを対象とした自己貪食阻害剤の初の臨床試験がここ数年ようやく開始された。しかし、成功すれば、原発腫瘍を根治し、転移の予防や阻止に役立つ方法として、この過程は多くの種類の癌に有効となり得ると研究者らは考えている。(彼らは同様の目標を想定し、解糖として知られている過程を積極的に研究中である。解糖は癌細胞のもう1つの栄養源である。)

生存と抵抗

自己貪食は捕獲と移送の過程である。細胞に自食する仕組みを強化させる何らかのストレスが加わることによって始まり、自食胞と呼ばれる二重膜を有する嚢(ふくろ)が、タンパク質や細胞小器官などの、古くなったり不必要になったりした構成要素を細胞の細胞質から貪食し始める。次に、自食胞は消化酵素に満ちた別のタイプの膜結合型構造体であるリソソームと融合し、オートリソソームを形成する。オートリソソームは捕獲した成分を細胞が再利用できるような形(アミノ酸、脂肪酸、ヌクレオチドなど)に分解する。

ニュージャージー癌研究所では、主要な研究グループの中でDr. Eileen White氏らが、癌における自己貪食の役割をより明確に定義して自己貪食プロセスの阻害を癌治療に利用できるかどうかを究明しようと試みている。2006年にWhite氏らは、腫瘍の深部にある癌細胞では自己貪食の量が著しく多いことを初めて示した。White氏は「自己貪食によって腫瘍深部の低酸素環境での生存が可能となっていたのです」と述べる。

その後の研究で、White氏の研究チームは一貫したパターンを発見した。White氏はこう説明する。「腫瘍細胞はストレスを受けると、自己貪食を開始してどんどん小さくなり、ある時点で分裂を中止し、何もしなくなるのです。つまり、本質的に休眠状態になります」。しかし、一旦ストレスが取り除かれると、わずか24時間で腫瘍細胞は通常の代謝挙動を回復し、増殖を再開する。「腫瘍細胞がこのようなパターンを取りストレスや治療による細胞死を回避できる限りにおいて、この問題はつきまといます」とWhite氏は述べる。

分子標的療法に対する耐性を含め、治療抵抗性における自己貪食の役割がいくつかの研究で裏づけられている。例えば、スペインの研究者らは昨年、トラスツズマブ(ハーセプチン)に抵抗性を示すHER2陽性乳癌細胞の自己貪食活動が著しく高い(自己貪食プロセスに関与するある種のタンパク質の量に基づく)ことを報告している。このトラスツズマブ抵抗性乳癌を自己貪食阻害剤で治療したところ、細胞増殖が低下し、自己貪食阻害剤の追加により癌細胞のトラスツズマブに対する感受性が回復した。

自己貪食により細胞は死滅するかもしれないが、腫瘍細胞では、自己貪食は細胞が死滅するよりもむしろ生き残るために利用されているとみられる、と自己貪食阻害剤に関する複数の初期相臨床試験に関与しているペンシルベニア大学アブラムソンがんセンターのDr. Ravi Amaravadi氏は説明する。しかし、基礎研究結果では腫瘍細胞における自己貪食能は癌腫ごとにあるいは腫瘍ごとに大きな相違があるようだということに注意を促しながらも、現在入手可能なエビデンスは、自己貪食が「多くの癌で重要となる可能性のあるプロセスだと思われる」ことを示唆していると同氏は述べる。

Dr. Herbert Zeh氏らはピッツバーグ大学医療センター内がんセンターで、最も死亡率が高く最も治療抵抗性を示す膵臓癌における自己貪食の研究を開始した際、癌を異なる視点から捉えるようになったという。「癌は細胞増殖が抑制不能になった疾患ということではないかもしれないとわれわれは考えたのです」とZeh氏は言う。「癌細胞における問題の本質は、正しい死滅方法を単に忘れたということだとしたらどうでしょう」Zeh氏は、2期および3期の膵臓癌患者を対象とした自己貪食阻害剤の、第1相および第2相試験の試験責任医師である。

自己貪食を阻害する療法と細胞増殖を標的とした従来の化学療法とを併用することで、癌細胞を、最も一般的な細胞死の形態であるアポトーシスに導くことができる、とZeh氏らは仮説を立てている。「単に腫瘍細胞を死滅させようとしているわけではないため、これは新しい考え方となります」とZeh氏は言う。「われわれは、腫瘍細胞を適切な方法で確実に死滅させようとしているのです」。

最良の処方を求めて

自己貪食阻害剤の多くの臨床試験では、乳癌、大腸癌、骨髄腫および慢性リンパ球性白血病など、さまざまな種類の癌患者を積極的に募集している。これらの臨床試験ではいずれもヒドロキシクロロキン(HCQ)と呼ばれる特許切れの薬剤が使用されている。HCQは自己貪食プロセスを阻害する薬剤であり、マラリアや関節リウマチなど、いくつかの疾患の治療にすでに使用されている。大半の試験では、HCQ療法は他の療法と併用されている。

HCQは、リソソーム内部のpHを変化させ、内容物を分解してリサイクル・プロセスを完了する小胞の能力を狂わせることで作用すると考えられているとWhite氏は説明する。「HCQが最良の自己貪食阻害剤かどうかはわかりませんが、この薬剤はすでに患者に使用されている薬剤です。このような薬剤を用いることで速やかな臨床開発が可能となり、自己貪食阻害剤が患者の転帰を改善するかどうかがより早く明らかになります」。

HCQを含むこれまでで最大の試験は多型性膠芽腫と新たに診断された患者を対象とした試験であり、その結果が今年初めに米国臨床腫瘍学会で発表された。多施設共同の第1/2相試験でHCQがテモゾロミドおよび放射線療法と併用された。最高用量で重篤な毒性作用が若干みられたが、より低用量では毒性作用は弱まり、貪食阻害を示す強力な証拠が認められたとAmaravadi氏は言う。

自己貪食の遺伝子異常を明らかにしたり自己貪食能を評価するしっかりとしたバイオマーカーの同定や検証を行ったりするなど、多くの領域でさらに多くの研究を行う必要があるが、現在入手可能なエビデンスは「この薬剤が有望であることを示している」とAmaravadi氏は述べる。しかし、何らかの癌療法にHCQを追加することによって治療結果が改善することを裏づけるエビデンスは未だ存在しないと同氏は強調した。

多くの製薬会社が自己貪食阻害剤を研究しているがまだ準備段階であり、自己貪食経路はかなりの見込みがあるが隠れた危険も存在する、とCleveland氏は言う。例えば、分解しなければDNA傷害の誘発や細胞の癌化を招く可能性のある不要な成分を分解することで、自己貪食は健康な細胞の癌化防止に役立っていると考えられる。免疫系が潜在的脅威を認識する上でも自己貪食経路が役に立っているため、この経路を阻害すると、理論的には癌に対する免疫応答を低下させる可能性がある。

「自己貪食に関しては未知のことが数多くあります」とCleveland氏は述べる。「状況によって機能の仕方が異なります。ですから、研究は慎重に行わねばなりません。自己貪食阻害剤の投与方法を検討することがとても重要になります」。

— Carmen Phillips

NCIの支援により自己貪食関連研究が推進されるNCIの癌生物学部門(DCB)による自己貪食関連研究への研究費の支出が過去数年で飛躍的に増加した。この研究分野の新しい科学の結果として、DCBはこの分野の先駆者らが一堂に会するワークショップをクローズドな会議として計画中である。このワークショップでは、自己貪食がどのように癌細胞に影響を与えるか、特に、癌の発生と増殖のあらゆる段階で癌細胞の恒常性維持を可能にする上での役割に着目する。「自己貪食の研究は、DCB内で関心の高い新しい分野です」とDCBの癌生物学部門主任であるDr. Barbara Spalholz氏は述べる。「このワークショップでの癌生物学者と細胞生物学者との対話から癌における自己貪食の重要性が明らかになり、可能性ある予防策が特定され新しい治療標的が見つかることを期待しています」。

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川瀬 真紀 訳
田中 文啓 (呼吸器内科/兵庫医科大学病院 准教授)監修

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