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前立腺腫瘍の生物学的性質には遺伝的祖先が影響

2022年9月16日

本知見は、アフリカ系患者の治療に示唆を与えるものである。

アフリカ系男性の前立腺腫瘍にみられる特定の遺伝子変異は、アフリカ系の祖先と関連していることが、9月16日〜19日に開催された第15回米国癌学会(AACR)Conference on Cancer Health Disparities in Racial and Ethnic Minorities and the Medically Underservedで発表された2件の研究により明らかになった。

そのうちの1件は、AACRのCancer Research Communications誌に同時掲載された。

米国において、黒人男性は前立腺がん関連死亡率が最も高い。両研究の統括筆者であり、タスキギー大学生物医学研究センター所長およびAACR Minorities in Cancer Research Councilの議長であるClayton Yates博士は、「格差に関する研究のほとんどは、人種に焦点を当てており、人種は通常、自己申告によるもので、肌の色と社会的および文化的特徴によって定義される」と説明した。

しかし、Yates氏は、健康格差に対処するためには、腫瘍の生物学的性質に対する遺伝的祖先の影響を理解することも必要であると主張した。遺伝的祖先に関する知見を得ることで、アフリカ系の祖先を持つ患者に特有の潜在的な治療標的が明らかになり、精密医療の取り組みに役立つかもしれないと同氏は説明した。

最初の研究では、アフリカ系男性を対象に、高い免疫原性と悪性度をもつ前立腺がんに関連する炎症免疫遺伝子特性にアフリカ系の祖先がどのような影響を与えているかについて、Yates研究室の大学院生でAACR NextGen StarでもあるIsra Elhussin医学士、理学修士らが調査した。

Elhussin氏らは、アフリカ系アメリカ人男性から採取した前立腺腫瘍では、炎症性シグナル伝達が2倍も活性化されており、これがアフリカ系の患者で典型的に観察されるより悪性度の高い疾患の一因になっている可能性があると以前に報告している。

しかし、Elhussin氏は、アフリカ系男性における前立腺がん関連死亡率の高さは、米国に住む男性に限ったことではないと指摘した。「アフリカ系の男性は世界中で前立腺がん関連死亡率が最も高く、このような差異のある転帰には祖先が影響している可能性が示唆される」と彼女は述べている。

Elhussin氏らは、前立腺がんにおけるアフリカ系祖先の影響を明らかにするために、米国で未治療の患者72人の前立腺腫瘍の塩基配列を同定した。これらの患者のうち、16人はアフリカ系アメリカ人、25人はヨーロッパ系アメリカ人、1人はアジア系と自己申告しており、30人は人種を申告していなかった。Elhussin氏は、参照データベースを用いて、アフリカ系アメリカ人である患者のほとんどが、アフリカ系の祖先、特にバントゥー系(サハラ以南)やヨルバ系(ナイジェリア)の遺伝子マーカーと一致することを突き止めた。

ヨーロッパ系の祖先を持つ患者の腫瘍と比較して、アフリカ人の祖先を持つ患者の腫瘍は、前立腺がん全体の約10〜15%で変異している腫瘍抑制遺伝子であるSPOPの変異を保有している可能性が高いことが判明した。SPOPの変異は、悪性度の高い前立腺がんと関連しているとElhussin氏は指摘した。さらに、Elhussin氏は、アフリカ系の祖先を持つ患者におけるSPOP変異は、炎症性免疫遺伝子シグネチャーの発現の増加、腫瘍への免疫細胞の浸潤の増加、免疫チェックポイントタンパク質PD-L1およびPD-1の発現の増加と相関があることも明らかにした。

「われわれは、アフリカ系の遺伝的祖先がSPOP変異と関連し、それがより高い免疫原性、炎症性免疫シグネチャーのアップレギュレーション、疲弊マーカーを発現する免疫細胞の高い腫瘍浸潤をもたらすことを初めて実証した。これらの知見は、アフリカ系の祖先を持つ男性における高い前立腺がん関連死亡率の潜在的なメカニズムであるという可能性を示唆しており、前立腺がんの治療に影響を与え、アフリカ系男性の疾病負担を軽減するための抗炎症薬や免疫調整薬を用いた新しい治療戦略につながる可能性がある」とElhussin氏は述べた。

「ほとんどの前立腺腫瘍では免疫細胞の浸潤が認められないが、本研究では、このSPOP変異を有する前立腺腫瘍では、非常に高いレベルの免疫細胞浸潤が認められている」とYates氏は述べている。「これは、免疫療法が有効な患者を特定するのに役立つ可能性があり、特に、アフリカ系アメリカ人が免疫療法を評価する臨床試験に十分に参加できていないことを考えると、非常に重要な発見だ」

Cancer Research Communications誌に同時に掲載された2つ目の研究では、筆頭著者のJason White理学修士を含むYates氏らが、ナイジェリア人、アフリカ系アメリカ人、ヨーロッパ系アメリカ人の前立腺腫瘍のDNA配列を比較した。この研究は、Prostate Cancer Transatlantic Consortium(CaPTC)との共同研究として完遂されたものである。

「私たちの目標は、これまで研究されたことのなかったナイジェリア人男性における前立腺がんへのゲノムの影響を理解することだった」と、Yates氏は述べた。「アフリカ系アメリカ人やヨーロッパ系アメリカ人の腫瘍とは異なる、ナイジェリア人集団に関連する特有の変異が存在するかどうか、また、これらの集団間の類似性を確認するために、塩基配列解析を行った」

Yates氏、White氏らは、ナイジェリア人患者から採取した45個の進行期未治療前立腺腫瘍と11個のマッチさせていない非腫瘍性前立腺検体の塩基配列を決定した。彼らは、これらの配列を、The Cancer Genome Atlasデータベースにあるアフリカ系アメリカ人およびヨーロッパ系アメリカ人の前立腺腫瘍の既存データと比較した。

その結果、ナイジェリア人とアフリカ系アメリカ人の前立腺腫瘍の間で遺伝子変異が類似しており、両者で最も頻繁に同定された変異の中にBRCA1 DNA修復遺伝子の特異的変異が含まれていたことが判明した。さらに、BRCA1変異の頻度は、アフリカ系の遺伝的祖先の割合が大きいほど高く、アフリカ系の祖先の割合が小さいほど低いことが明らかになった。

「われわれは、通常臨床では検査されないユニークな変異をBRCA1遺伝子において同定したが、これらの変異はアフリカ系の祖先に特有のものであった」と、Yates氏は述べた。「一方、ヨーロッパ系アメリカ人の腫瘍には、アフリカ系アメリカ人やナイジェリア人の腫瘍では観察されなかった、異なるDNA修復遺伝子の変異が認められた。これは、ヨーロッパ系アメリカ人では、アフリカ系の祖先を持つ男性とは異なる遺伝子変異が前立腺がんに寄与していることを示唆している」

これらの知見は、アフリカ系患者の前立腺がんの治療に影響を与える可能性があるとYates氏は説明した。「現在、がんで検査されているBRCA変異は、マイノリティーではない集団から同定されたもので、われわれが同定したアフリカ系に特有の変異は含まれていない」と彼は述べており、これにより多くのアフリカ系アメリカ人をBRCAを標的としたがん治療の対象から事実上除外することになると付け加えている。

「以上のような変異の検査を追加することで、BRCA標的治療の対象となる患者をさらに特定するのに役立ち、予後の利益にもつながるかもしれない」と、彼は付け加えた。今後の研究では、同定された変異が前立腺がんの発生と進行にどのように寄与しているかを理解することを目指したいとYates氏は述べた。

これらの研究を総合すると、前立腺がんの遺伝学に対するアフリカ系祖先の寄与が明らかになり、前立腺がん患者の転帰における人種・民族格差の一部を説明できるかもしれないと、AACR Disparities Meetingでナイジェリア人の前立腺腫瘍に関する研究発表を行ったWhite氏は説明した。また、エピジェネティックな要因や社会的な要因も、がんの健康格差の重要な一因であると付け加えた。

両研究の限界として、症例数が少ないこと、人種・民族的に少数派の生物試料が少ないこと、ゲノム研究および既存のデータベースにおけるアフリカ人の数が十分ではないことをElhussin氏は指摘している。

両研究ともに、米国国防総省と米国国立衛生研究所の米国国立癌研究所(National Cancer Institute)の支援を受けている。また、ナイジェリア人の前立腺腫瘍に関する研究は、Leidos社の支援を受けている。

Elhussin氏とWhite氏に開示するべき利益相反はない。Yates氏はRiptide Bioscienceの株主であり、QED Therapeutics、Riptide Bioscience、Amgenのコンサルタントを務めている。

 

監訳:榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

翻訳担当者河合 加奈

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