[ 記事 ]

免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害は微生物が原因か

免疫チェックポイント阻害薬は免疫療法の一種で、多くのがんの治療を一変させた。しかし、多くの患者にとってこれらの薬剤は、かゆみや痛みを伴う皮膚の発疹など、さまざまな副作用を引き起こす可能性がある。時には、重度の皮膚障害により、投薬を中止することもある。

マウスを用いた新たな研究では、免疫チェックポイント阻害薬により、皮膚に住み着こうとする新たな微生物を免疫系が攻撃するために皮膚障害が生じる可能性を示唆している。この知見がヒトで確認されれば、最終的には、免疫チェックポイント阻害薬治療による皮膚障害に対し、より適切な治療法や予防法につながる可能性がある。

「この知見は、私たちの体内や体表に生息する細菌、真菌、およびその他の微生物群(微生物叢や細菌叢と総称される)に新たな微生物が加わることによって、こうした皮膚障害が引き起こされる可能性を示唆しています。人々は常に新たな種類の微生物にさらされていて、特に病院で曝露しやすいのです」と本研究の主任研究者の1人である米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のYasmine Belkaid博士は述べた。

免疫チェックポイント阻害薬は、抗がん作用を有する免疫細胞のブレーキを解除する。しかし、これらの活性化した免疫細胞は正常な細胞や組織にも損傷を与え、炎症や免疫関連有害事象を引き起こすことがある。ステロイド薬で治療されることが多いが、これらの副作用の発現機序は不明である。

「この研究結果は、皮膚障害やおそらく他の炎症性副作用についても、新たな道を切り開くものですが、ヒトでの臨床研究で検証する必要があります」と免疫療法専門医であるJames Gulley医学博士(NCIがん研究センター、本研究には関与していない)は述べた。

微生物と免疫系の絶え間ないコミュニケーション

「免疫系は常に皮膚細菌叢と情報交換を行っています」とBelkaid博士は述べた。この双方向の情報交換により、脅威とならない新たな種類の微生物に、免疫系が皮膚で遭遇したとき、有害な免疫応答や炎症を回避できる。

「マウスを用いた研究から、皮膚細菌叢は免疫系の『教育』に関わって、免疫系が危険な病原体と有益または無害な微生物を識別できるように手助けしていることが示唆されます」と皮膚科医であるHeidi Kong医師(保健学修士、米国国立関節炎・筋骨格系・皮膚疾患研究所。本研究には関与していない)は解説した。

Belkaid博士の研究室や他の研究者らによるマウスを用いた研究でも、微生物と免疫系の相互作用が創傷治癒を促したり、感染防御したりする場合があることを示している。しかし、ある状況下では、こうした相互作用が有害に転じる可能性がある。

「マウスの研究では皮膚細菌への曝露を容易に制御できますが、ヒトにおける皮膚細菌叢の役割は、マウスほど研究しやすいものではありません。しかし、ヒトの皮膚が新たな微生物も含めて、接触するものすべてに対して炎症反応を起こしていたら、私たちは常に炎症を起こしながら歩き回っていることになるはずです」とKong医師は述べた。

免疫チェックポイント阻害薬が平和を乱す

免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害は、皮膚細菌叢と免疫系の正常な情報交換を薬剤が乱した結果ではないかと、Belkaid博士らは考えた。

Belkaid博士らは初めに、実験用マウスに免疫チェックポイント阻害薬イピリムマブ(ヤーボイ)を投与し、同時にマウスの皮膚に表皮ブドウ球菌を塗布した。

マウスの皮膚に表皮ブドウ球菌は通常みられないが、Belkaid博士らによる以前の研究では、この細菌がマウスの皮膚に容易に定着し、博士曰く「生涯のパートナーになる」ことがわかっている。

イピリムマブ投与と表皮ブドウ球菌曝露を同時に受けたマウスは、「顕著な皮膚炎」を発症した、と研究チームは論文で報告した。一方、これらの処理を単独で行った場合、炎症は生じなかった。

研究チームは、炎症を起こしたマウスの皮膚ではT細胞が増加することを発見した。これらのT細胞は表皮ブドウ球菌を特異的に標的とし、炎症を促進するIL-17という物質を産生した。さらに実験を行ったところ、T細胞から過剰に分泌されたIL-17が、マウスの皮膚に炎症を引き起こしていることがわかった。

免疫チェックポイント阻害薬による患者の皮膚障害は治療終了後に生じることもあるため、研究チームは免疫チェックポイント阻害薬治療による長期的予後も調査した。

イピリムマブ投与マウスでは、表皮ブドウ球菌への初回曝露に対する反応と比較して、初回曝露から1カ月後に再曝露すると、より強く、より速い炎症反応を示すことがわかった。

また、再曝露マウスでは、表皮ブドウ球菌に対する指向性メモリーT細胞の数が増えていた。メモリーT細胞は体内に残っているため、脅威が再び現れてもすぐに動員できる。Belkaid博士らは、免疫チェックポイント阻害薬治療終了から数カ月が経過しても、同じ微生物に再び遭遇したマウスでは、異常なメモリーT細胞応答が長期にわたり生じる可能性があると結論付けた。

微生物が炎症を過剰な状態へ傾ける

「私たちの研究では、マウスにおいて、微生物叢と免疫系の穏やかな関係が、免疫チェックポイント阻害薬治療によって深刻な影響を受ける可能性を示しています」とBelkaid博士は述べた。

「免疫チェックポイント阻害薬治療の開始と同時期に、皮膚や腸など人体の他の部位で新たな微生物に曝露すると、炎症が生じる可能性があります」とGulley博士は述べた。

「このマウスモデルで、皮膚細菌叢に反応して、炎症を起こしすぎる方向に状態が傾く機序は興味深いです」とKong氏は述べ、「ヒトの免疫系により近い免疫系をもつ野生型マウスで同じ影響がみられるかどうかが、興味深いところです」と言い添えた。

「最終的には、マウスにおけるこうした知見がヒトで生じることを反映しているかどうかを確認するために、免疫チェックポイント阻害薬投与患者を対象とした研究が必要です」とBelkaid博士は強調した。本研究の筆頭研究者であるZ. Ian Hu医学博士(元NCI臨床研究フェロー、現セントルイス・ワシントン大学)は、臨床研究を進めたいと考えている。

例えば、「今後の研究で、免疫チェックポイント阻害薬治療前および治療中の患者における皮膚細菌叢の構成を調べれば、細菌叢の変化が皮膚障害の重症度や発症にどのように影響を及ぼすのかを解明できるだろう」と研究チームは論文に記している。

「本研究は、検証可能な仮説となる新たな一連の疑問へと導くものです」とGulley博士は述べた。

もう1つの重要な問題は、結腸の炎症(大腸炎)など、皮膚以外の臓器における免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象にも、この結果があてはまるかどうかである。大腸炎は、免疫チェックポイント阻害薬で認められるほとんどの皮膚障害よりも重篤である。

また、イピリムマブとは分子標的が異なるペムブロリズマブ(キイトルーダ)やアテゾリズマブ(テセントリク)など、一般的に使用されている他の免疫チェックポイント阻害薬でも、同様の影響が認められるかどうかは不明である。

「Belkaid博士らがマウスで観察した免疫チェックポイント阻害薬の影響がヒトでも生じるなら、IL-17の作用を阻害することで、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象を予防または治療できる可能性があります」とGulley博士は述べた。IL-17阻害薬はすでに、乾癬や一部の関節炎の治療に使用されている。

最後に、「もう1つの疑問は、免疫チェックポイント阻害薬治療の開始前に多様な微生物叢を確保しておけば、新たな微生物に曝露する機会が減り、免疫関連有害事象のリスクを低減できるのではないかということです」とGulley博士は述べた。例えば、運動や食物繊維の多い食事をすることで、微生物叢の多様性が増す可能性を示唆する研究がある。

日本語記事監修:北丸綾子(分子生物学)

 

翻訳担当者渡邊 岳

原文を見る

原文掲載日

【免責事項】

当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。
翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。