2010/09/07号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2010/09/07号◆癌研究ハイライト

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2010/09/07号◆癌研究ハイライト

 

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年9月7日号(Volume 7 / Number 17)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト

 
・予防的手術によりBRCA遺伝子変異を有する女性の癌リスクが低下
・多発性骨髄腫に低強度治療レジメンが有効
・初期のホジキンリンパ腫に対して低用量で治療しても臨床結果に影響しない
・化学療法は乳癌患者の脳の構造に影響する
・赤肉および脂肪を多量に摂取すると肝臓癌リスクが上昇する可能性
・ホスピスを退院した癌患者ではメディケア費用が増大する
【枠囲記事】〜その他の医療誌から:糖尿病治療薬メトホルミンはマウスの肺腫瘍を防ぐ

予防的手術によりBRCA遺伝子変異を有する女性の癌リスクが低下

BRCA1またはBRCA2の遺伝性変異を有する女性を対象とした、現在までで最大規模のプロスペクティブ試験の1つが行われ、予防的手術(乳房摘除および卵巣摘出術)はこれらの女性の乳癌および卵巣癌のリスクを低下させるのに有効な方法であると示された。JAMA9月1日号で発表されたこの知見では、疾患関連のBRCA1またはBRCA2遺伝子変異キャリアの癌および死亡リスクの低下に対する乳房摘除および卵管卵巣摘除術(卵巣および卵管の摘除)の有益性が評価された。これらの変異による乳癌発症の生涯リスクは56〜84%を占める。

当研究結果では、突然変異がBRCA1またはBRCA2遺伝子のいずれで起こっているかどうか、または癌の既往歴があるかどうかに関係なくリスクの低下が起こるとも示された。欧州および北米の22の医療センターの研究者らは、疾患関連のBRCA1またはBRCA2変異を有する女性約2500人を追跡調査した。 該当女性のほぼ半数は1件の予防的手術を行っていた。

3年の追跡期間中、乳房切除術を受けた女性はいずれも乳癌を発症しなかったが、同手術を受けなかった女性の7%は乳癌と診断された。また6年の追跡期間中、リスク低下のための卵管卵巣摘除術を実施した女性では1%のみ卵巣癌を発症したのに対して、同手術を実施しなかった女性は6%が卵巣癌を発症した。

「この研究は遺伝子検査が有用であるとのメッセージを強化するものである」と本研究の統括著者であるペンシルベニア大学のDr. Timothy Rebbeck氏は述べた。遺伝的に高リスクの変異があると判っている女性たちは、適切な遺伝カウンセリングを受けるとともに、予防的手術によって癌リスクを低下させるための手段を講じることができると同氏は続けた。

多くの女性は予防的手術を選択するが、実施しない女性は多数いると本研究の著者らは述べた。本研究では該当する女性の10%のみが予防的乳房切除術を選択し、38%は卵管卵巣摘除術を選択した。「これらの遺伝子変異を有する女性たちに対して、われわれは命を救えると考えており、それは大切なメッセージである」と同氏は強調した。

JAMAの添付論説の著者らはこのメッセージに同意して、予防的手術の選択肢が変化し改善されてきたと述べた。例えば、腹腔鏡下卵管卵巣摘除術は比較的リスクの少ない方法であり外来治療で行うことができ、乳房切除(術)の新技術ではより自然な外見を形成するとカリフォルニア大学サンフランシスコ校Dr. Laura Esserman氏とノースウエスタン大学Dr. Virginia Kaklamani氏は記した。

多発性骨髄腫に低強度治療レジメンが有効

スペインの研究者らによると、多発性骨髄腫患者に対してボルテゾミブ(ベルケイド)を低強度(less-intensive)用量で投与したところ、治療の有効性が低下することなく有害な副反応が減少した。本試験はThe Lancet Oncology誌の電子版に8月23日付で報告され、ボルテゾミブを基としたレジメンで低強度な導入療法を行った後に維持治療を行うことは「多発性骨髄腫と初めて診断された高齢患者にとって安全かつ有効な治療法である」と結論づけられた。

ボルテゾミブは多くの多発性骨髄腫患者に有益である一方、本剤を服用する患者の一部では、末梢神経障害として知られる重度の神経痛を発現する。低強度での投与を検証するため、研究者らは患者260人を、導入療法としての低強度ボルテゾミブ+メルファラン+プレドニゾン(VMP)または低強度ボルテゾミブ+サリドマイド+プレドニゾン(VTP)にランダムに割り付け、その後最長3年間、それぞれの維持療法を実施した。いずれの導入レジメンでも第1サイクル以降は、ボルテゾミブを標準的な週に2回の投与スケジュールではなく週に1回投与した。

両方の低強度レジメンにて80%を超える寛解率が得られた。さらに、VTP群の36人(28%)およびVMP群の26人(20%)では完全寛解が認められた。より強度の高いボルテゾミブを用いた同様の試験(VISTA試験)では重度(grade 3以上)の末梢神経障害や胃腸症状の発現がみられたのに対し、本レジメンではその件数は少なかった。

付随論説にてメイヨークリニックのDr. Vincent Rajkumar氏は、「これは、臨床現場に直接に影響を与える点で、またボルテゾミブなどの新薬を全体的な治療戦略に効果的に導入する方法について重大な答えが得られた点で重要な試験である」と述べ、「本試験では新規患者を対象としたが、本所見は再発性または治療抵抗性の場合でも価値があるであろう」と付け加えた。

サラマンカ大学病院のDr. Maria-Victoria Mateos氏は、「本レジメンは、サリドマイドの代わりにレナリドミドを使用したり、また早期介入や予防措置を介して有害作用を減少させたりすれば、高齢の多発性骨髄腫患者に対し、最適な治療をさらに改良していくうえでの基盤となるであろう」と述べた。

初期のホジキンリンパ腫に対して低用量で治療しても臨床結果に影響しない

第3相試験において、初期で低リスクのホジキンリンパ腫患者に対して低用量の化学療法および低線量での放射線療法を実施したところ、高用量および高線量での治療を受けた患者と同程度であるとの臨床結果が得られた。有効性を維持しながら治療の有害作用を減少させるための戦略を検証した本試験の結果は、New England Journal of Medicineに8月12日付けで公表された。

第3相試験において、初期で低リスクのホジキンリンパ腫ドイツのケルン大学病院のDr. Andreas Engert氏およびドイツホジキン試験グループの研究者らは、I期またはII期のホジキンリンパ腫と初めて診断され臨床的危険因子(高齢者、ホジキンリンパ腫の治療歴または併発症)を有しない患者1,190人を対象に試験を行い、患者を4群のうちの1つに割り付けた。2つの群には、ABVD化学療法(ドキソルビシンブレオマイシン、ビンブラスチンおよびダカルバジン)4サイクルと30 Gyまたは20 Gyでの病巣部放射線照射療法(involved-field radiotherapy:IFRT)を実施した。残りの2つの群には、ABVD化学療法を2サイクルのみ実施し、1群には高線量でのIFRTを、もう1群には低線量でのIFRTを実施した。

7.5年後、全患者のうち96.6%が完全寛解を示し、8年生存率は94.5%であった。化学療法を2サイクル受けた患者では、結果は4サイクル受けた患者と同程度であり、同様に20 GyでのIFRTを受けた患者でも、30 GyでのIFRTを受けた患者と同程度の結果であった。

しかし、高用量の化学療法を受けた全患者のうち半数では、感染症、脱毛、貧血およびその他の血液障害など、重篤な有害事象が報告されたが、低用量を受けた患者では報告件数は3分の1であった。治療関連の死亡7件のうち6件は、高用量の化学療法を受けた患者であった。放射線による重篤な有害作用は、低線量放射線よりも高線量放射線において約3倍多くなった。

本試験では放射線療法を受けない対照群を設けていないが、初期のホジキンリンパ腫患者では余命が長いことから、二次癌のリスクを最小限にするため、放射線療法は可能であれば避けるべきであると考えられている。NCI癌治療・診断部門の臨床研究課で試験総括医師を務めるDr. Richard Little氏は、「私は医師に対し、ABVD化学療法2サイクル後にPET画像診断を用いて患者を評価し、放射線療法を使用しなければならない理由がなければ、放射線療法の併用をできるだけ避けることを推奨する」と述べた。

化学療法は乳癌患者の脳の構造に影響する

化学療法は脳領域において物理的影響を及ぼし、そこで変化が起きた場合はしばしば「ケモブレイン」と呼ばれる一連の認知症状を生じ得ると、現在までで最も強力な直接的エビデンスが新たな研究により提供された。この研究は8月6日付電子版Breast Cancer Research and Treatment誌で発表された。

乳癌女性を対象とした小規模試験において、インディアナ大学医学部の研究者らはMRIの画像を用いて化学療法は脳の灰白質密度の低下と関連があることを示した。患部には記憶に関わる領域と情報処理能力の領域が含まれる。他の複数の研究がこれらの脳の領域において同様の変化を示したが、これは女性たちをプロスペクティブに追跡し、化学療法の前後で画像を比較した最初の研究であった。

「化学療法群で認められた灰白質密度の変化は、神経認知学的研究で明らかにされた認知愁訴および障害のパターンと一致する」とDr. Andrew J. Saykin氏らは記した。

この研究には、術後化学療法を受けた乳癌女性17人、術後化学療法を受けなかった乳癌女性12人、対照群の健康な女性18人が含まれる。 癌患者の術後まもなく行われた最初のMRI画像では3群間の灰白質密度で注目すべき差異は示されなかった。しかしながら、MRIの画像は化学療法完了1カ月後に乳癌女性で灰白質密度の著しい低下を示し、手術のみ受けた女性の変化は化学療法を受けた女性ほど大きくはなかったが、同様に灰白質密度の変化があった。対照群女性では変化は認められなかった。1年後、化学療法を受けた女性たちは一部の領域で灰白質の損失を回復したが他の領域の欠損は存続した。

化学療法がこれらの変化を生じる仕組みは正確には判っていないと共著者のDr. Brenna McDonald氏は述べた。「しかし、化学療法完了後1年で自然にある程度その変化は回復するとみられるとの当知見は非常に肯定的なものだ」と同氏はメールに記している。この研究では期間限定追跡調査のため、さらなる回復が自然に起こる可能性がどの程度なのかは明確ではないと同氏は続けた。多くの研究でこのような認知的影響は長年存続しうることが明らかにされていると同氏は言い添えた。その後の研究で、タモキシフェンのような他の治療は脳の構造に同様の影響を及ぼすかどうか調査中である。

本トピックに関する詳細は「ケモブレインのメカニズムについて考察する」を参照。

赤肉および脂肪を多量に摂取すると肝臓癌リスクが上昇する可能性

最新の前向き研究によると、赤肉や飽和脂肪の大量摂取は慢性肝疾患(CLD)による死亡および肝臓癌発症のリスク上昇と関連する一方、白肉(※鶏肉など)は両疾患のリスク低下と関連することが示された。本結果は、Journal of the National Cancer Instituteの電子版に8月20日付けで公表された。

研究者らは、NIH-AARP Diet and Health Studyに参加した男女約500,000人から得たデータを分析した。自己申告による赤肉摂取量が上位20%にあった参加者では、慢性肝疾患により死亡する可能性が2.6倍であり、肝臓癌の最も典型的な型である肝細胞癌(HCC)を発症する可能性が、赤肉摂取量下位20%にあった参加者と比較して74%であった。

一方、自己報告による白肉摂取量が上位20%にあった参加者では、慢性肝疾患により死亡する可能性や肝細胞癌を発症する可能性が白肉摂取量下位20%にあった参加者と比較して半減した。また、脂肪の大量摂取は慢性肝疾患および肝細胞癌双方のリスク上昇と関連していたが、飽和脂肪の摂取は最も高いリスクと関連しており、飽和脂肪摂取量上位20%にあった参加者では、摂取量下位20%にあった参加者と比較して、慢性肝疾患のリスクが3.5倍、肝細胞癌のリスクが約2倍となった。

研究者らは、分析において飲酒、糖尿病、肥満、その他の飲食およびライフスタイルの因子について調整し、これらの危険因子による交絡を回避した。残りの交絡因子は依然として存在するであろうが可能性は低いと、研究者らは記している。なぜならば、アルコールを飲まない、BMI(肥満度指数)が正常範囲にあるとの申告、または糖尿病と診断されているとは申告していない参加者のリスク推定値は総人口集団での推定値と同程度であるからである。

同研究チームによると、赤肉、慢性肝疾患による死亡および肝細胞癌リスクとの間の因果関係の基には、考えうるたくさんの機序がある可能性がある。例えば、飽和脂肪、鉄、高温での調理により生成された発癌性物質(複素環アミンや多環芳香族炭化水素など)への曝露が挙げられる。しかし、本試験では、飽和脂肪は両評価項目と関連しており、ヘム鉄は慢性肝疾患による死亡と関連していたが、特定の複素環アミンや高温での調理法(炒めたり揚げたりすること以外)は慢性肝疾患による死亡および肝細胞癌リスクと関連していなかった。白肉により癌リスクが低下する機序は不明である。

試験著者であるNCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Neal Freedman氏は、「これらの結果は興味深いが、これらの関連性を検証した試験はほとんどない。赤肉や飽和脂肪は他の部位の癌と関連するが、肝細胞癌および慢性肝疾患に関する試験がさらに必要である。他の試験集団でも同様の結果が得られれば、食事内容の変更が肝細胞癌や慢性肝疾患発症を減少させるうえで有効な戦略となりうる」と述べた。

大半の集団において肝細胞癌の主因となるB型およびC型肝炎に関する参加者の既往歴については、研究者らは把握していなかった。Freeman氏は、これらのウイルスと食事における肉や脂肪との関連性を肝細胞癌および慢性肝疾患について検証すべきであると記している。

ホスピスを退院した癌患者ではメディケア費用が増大する

末期癌ホスピス患者の解析により、ホスピスケアの登録を抹消した患者では入院率および病院で死亡する可能性が高く、ホスピス登録してから死亡するまでのメディケア(公的保険)の負担費用は死亡するまでホスピスケアを継続した患者よりも多かったことが示された。 研究者らはホスピス登録から死亡までの日数等多くの要因を調整したところ、ホスピス登録を抹消した患者の平均でメディケア総額が2,475ドル多かったことを明らかにした。この解析は8月30日付電子版the Journal of Clinical Oncologyに掲載された。

マウントサイナイ医科大学のDr. Melissa Carlson氏らは1998〜2002年の間、癌の診断を原因として死亡した66歳以上のホスピス患者90,826人にリンクしてSEERメディケアデータベースを解析した。死亡時の患者の平均年齢は78.5歳であり、86%は非ヒスパニック系白人であった。

ホスピスプログラムの登録を抹消したのは患者(9,936人)の10.9%、そのうち25%は48時間以内に入院し57%は30日以内に死亡した。ホスピスの登録を抹消した患者の約40%がその後再入院した。研究者らはこのパターンの要因または因果関係を評価できず、登録抹消理由のデータも所有していなかった。メディケア追加費用は主として施設入院および診療所への来院により発生した。

「ホスピス利用癌患者のメディケア総額の40%が同一利用者の5%のみで占められていて」と著者らは記し、「さらに高額のメディケア費用と関連する主たる事項は、患者がホスピスの登録を抹消したかどうかであった」。

100万を超すメディケア加入者が現在ホスピスケアを受けており、その約3分の1が癌と診断されている。年間110億ドル以上のメディケアホスピスの支払いがあり、 政治家たちはメディケアホスピスの有益性に対する適格基準の強化を考慮中であると著者たちは述べた。彼らは、患者がホスピスを退去する理由(特定のホスピスの登録抹消率等)を調査することによってホスピスの有効利用を制限せずにメディケア費用を減少させるのに有効な方法へ導けると示唆した。

著者らは、症状管理と終末期計画を提供できる外来の緩和ケアチームの利用が、ホスピスを退去した患者の入院を回避し、その一方で腫瘍クリニックとの連絡を継続させるのに役立つ有効な方法であるとも提唱した。

その他の医療誌から:糖尿病治療薬メトホルミンはマウスの肺腫瘍を防ぐ糖尿病治療薬メトホルミンは、タバコに含まれる発癌物質に曝されたマウスの腫瘍を阻害する働きをするとNCI癌研究センターのDr. Phillip A. Dennis氏らが今春発表したが、当知見に基づき、研究者らは肺癌の発現リスクが最も高い患者を対象としてメトホルミンを用いた臨床試験を検討中である。マウスを用いた当研究の最終結果は、9月1日付Cancer Prevention Researchで公表された。

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福田 素子、齊藤 芳子 訳
原 文堅(乳腺腫瘍科/四国がんセンター)
林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修
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