アントラサイクリンはHER2陽性乳癌患者の生存を改善するものの、HER2陰性患者の生存は改善しない | 海外がん医療情報リファレンス

アントラサイクリンはHER2陽性乳癌患者の生存を改善するものの、HER2陰性患者の生存は改善しない

更新日

Facebookでシェアする Twitterにツィートする LINEに送る print

アントラサイクリンはHER2陽性乳癌患者の生存を改善するものの、HER2陰性患者の生存は改善しない

Anthracyclines Improve Survival for HER2-Positive, But Not HER2-Negative, Breast Cancer
(Posted: 01/30/2008) –2008年1月2日号Journal of the National Cancer Institute誌に掲載されたメタアナリシスによると、ドキソルビシンまたはエピルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤はHER2陽性乳癌患者の生存を延長するものの、HER2陰性患者の生存は延長しないことがわかった。


要約
ドキソルビシンやエピルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤による化学療法は、HER-2陰性ではなく、HER-2陽性の乳癌女性の生存期間を延ばすことが、8つのランダム化臨床試験のデータを合わせたものから明らかになりました。これらの結果は、まれに心臓に対する障害を含む重篤な副作用を起こす可能性のあるこれらの薬剤を、HER-2陰性の乳癌女性が使用回避できるかもしれないことを示しています。

出典 Journal of the National Cancer Institute誌、2008年1月2日号(ジャーナル要旨参照
(J Natl Cancer Inst. 2008 Jan 2; 100(1): 14-20. オンライン発行 2007年12月25日)

背景
初期の浸潤性乳癌の女性は、外科手術と放射線治療に加えて、しばしば化学療法も受けます。

アントラサイクリンと呼ばれる一連の薬剤による乳癌の化学療法は、アントラサイクリンを用いない化学療法に比べて生存期間を延ばすことが、いくつかのランダム化試験で示されてきました。しかし生存期間の絶対増加量は大きくはなく、またアントラサイクリンによる化学療法は、心臓障害や二次性白血病を含む深刻な副作用を一部の女性に引き起こす可能性があります。

最近の試験で、HER2と呼ばれるタンパク質を過剰に生成する(HER-2陽性と呼ぶ)腫瘍を持つ女性のみが、アントラサイクリンによる化学療法の効果を得られるのでは、ということが示されてきました。HER-2陽性の腫瘍とは、HER-2の遺伝子増幅(HER-2遺伝子のコピーが多すぎる状態)、あるいはタンパク質の過剰発現(余分なHER-2タンパク質がある状態)がみられる腫瘍のことです。

しかし今までの試験では、HER2の状態(陽性か陰性か)とアントラサイクリンによる化学療法の有効性の首尾一貫した関連付けは示されていません。多くの試験が違いを見るには規模が小さすぎるのです。さらに、試験ごとに乳房組織標本を集める方法やHER2の状態を測定する技術が異なっており、そのため試験ごとの結果の比較が困難になっています。

HER2の状態が、アントラサイクリンによる化学療法の効果に影響するかどうかを知ることは、医師が個々の患者に応じてより良い治療をするのに役立ちます。

試験
イタリアの国立癌研究所(National Cancer Research Institute)の研究者が、乳癌の化学療法についての8件のランダム化臨床試験データを組み合わせました(メタ解析と呼びます)。これら8つの試験は医学文献と、英文での論文発表がなされたもの、および未発表の臨床試験についての会議での議事録など包括的に検索されたものです。メタ解析に用いられたすべての臨床試験は以下の3つの基準を満たすものでした。

・ すべての患者が、無作為に治療に割り当てられている
・ 乳癌の外科手術後に、アントラサイクリンを用いた化学療法と、アントラサイクリンを用いない化学療法とで比較した試験である
・ HER2の状態に基づいて、無病生存期間と全生存期間を比較した、あるいは入手可能なデータからそれらの計算が可能な試験である

試験者らは、アントラサイクリンによる化学療法を受けた女性において、腫瘍が余分なHER2を生成しているか否かで、無病生存期間や全生存期間に違いが生じるかを比較しました。

結果
8つの試験のいずれかにおいて無作為に割り当てられた6564名の患者のうち、5354名(82%)が腫瘍のHER2の状態を調べていました。そのうちの1536名(29%)がHER2たんぱく質を余分に生成しているか、HER2遺伝子の過剰なコピーを持っていました。つまり、HER2陽性です。

6つの試験で無病生存期間のデータが示されていました。7つの試験で全生存期間のデータが示されていました。メタ解析が完了したデータによると、アントラサイクリンを用いた化学療法は、アントラサイクリンを用いない場合に比べて、再発リスクと、あらゆる原因による死亡のリスクを有意に低下させました。

しかし結果をHER2の状態によって2つのグループに分けたところ、HER2陽性の腫瘍を持つ女性のみにおいて、アントラサイクリンを用いた化学療法後、実際に再発と死亡のリスクが有意に低下していました。

制限事項
筆者らは、この試験において幾つかの制限事項を認めています。彼らは他の試験の結果をまとめたに過ぎず、患者の実際のデータを入手したわけではありません。したがって、最初に出た結果を裏付けたり、他の統計的検定を行ったりすることはできません。

さらに、メタ解析に用いられた8つの試験では、HER2の状態を調べるのに皆が同じ手法を用いてはいません。しかしこのことは、この試験での検定において、アントラサイクリンを用いた化学療法について測定された有効性に影響を与えてはいないようです。

最後に、著者らが見つけることができなかった、HER2の状態とアントラサイクリン治療の成功との関係が確認できない未発表の臨床試験が存在する可能性もあります。これらの試験をメタ解析に加えないことで、偽陽性の結果が出てしまったかもしれません(これを出版バイアスと呼びます)。しかし、著者らは出版バイアスを検出するための統計検定を行ったところ、そのようなバイアスを示すものは見つかりませんでした。

コメント
「私たちの結果は、アントラサイクリンによる補助化学療法による付加利益が、HER2が過剰発現、あるいは増殖している乳房の腫瘍を持つ女性に限られることを裏付けました。」と、著者らは結論づけました。「HER2陰性の患者でアントラサイクリンの効果が見られなかったことは、そうしたグループの患者がこれらの薬剤に関係する不要な毒性効果を回避できるであろうことを示しています。」

米国国立癌研究所の癌治療・診断部門の乳癌専門家であるJo Anne Zujewski医師はこれに賛同し、こう述べました。「エストロゲン受容体陽性、HER2陰性の女性はアントラサイクリンを含む化学療法を避けることについて、医師に尋ねるべきです…。根拠には確固として一貫性があり、アントラサイクリンの化学療法による効果は、HER2陽性の場合のみで、他ではみられないということでしょう。」

いわゆる「トリプルネガティブ」、つまりHER2陰性、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性の乳癌において、どのタイプの化学療法が最適かを決定するために、さらなる試験が必要だと彼女は説明しました。トリプルネガティブの疾患を持つ女性の中には、アントラサイクリン治療による効果が得られる人がまだいるかもしれません。

******
水向絢子 訳
平 栄(放射線腫瘍科)監修

printこの記事を印刷する Facebookシェアする Twitterツィートする LINE送る

免責事項当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

注目キーワード

新着ドキュメント

一覧

arrow_upward