2011/08/09号◆スポットライト「前立腺癌に対するロボット手術が増加」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/08/09号◆スポットライト「前立腺癌に対するロボット手術が増加」

更新日

Facebookでシェアする Twitterにツィートする LINEに送る print

2011/08/09号◆スポットライト「前立腺癌に対するロボット手術が増加」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年8月09日号(Volume 8 / Number 16)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

PDFはこちらからpicture_as_pdf

____________________

◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

前立腺癌に対するロボット手術が増加

米国食品医薬品局(FDA)が、初めて腹部手術および骨盤手術に対するロボット手術システムを承認してから11年間で、その使用は飛躍的に増加している。現在、ダヴィンチ手術システムは、米国において施行される根治的前立腺全摘除術5件中4件において使用されるに至っている。このロボットシステムは、婦人科癌や頭頸部癌など、前立腺癌以外の癌治療にもますます使用されるようになってきている。ダヴィンチの製造業者である Intuitive Surgical社によると、米国内の病院で1,000台以上のロボットシステムが導入されているという。

最近の研究では、ロボット前立腺全摘除術が優勢であるこの状況は、非常に多くの影響をもたらしていることが示唆されている。すなわち、前立腺癌患者がロボットシステムを導入している病院に大量に移動し、年々、前立腺全摘除術の施行数が全体として増加しているのである。後者に関しては、前立腺癌の罹患率が若干減少しているのと同時に起こっているため、ある種の懸念をもたらしている。

いかにしてロボット前立腺全摘除術がこれほど急速に増加したのか、そして患者と医療制度にとってどういう意味を持つのかは、いまだ研究中であり、議論されている点である。しかしながら、この変化は、前立腺癌の手術療法を永続的に変容させたようだ、とニューヨーク市マウントサイナイ医療センター泌尿器外科医のDr.Hugh Lavery氏は見ている。

「従来の開腹手術および腹腔鏡下での手術は、陰を潜めてしまっているように思います」とLavery氏は言う。入手可能なデータによれば、患者や外科医らはロボット手術を「強く求めている」ことが示唆されており、実際そうなりつつある。

人々の興味を引きつけるテクノロジーと魅惑される支持者

インターネットのサーチエンジンで「ロボット手術 前立腺癌」と入力してみると、ロボット手術を受けた患者による称賛に満ちた証言、手術機器ダヴィンチを用いて腹腔内を移動しながら組織の縫合、切断、脂肪除去などを見せる動画が出てくることが多い。これらの動画では、外科医は部屋の反対側におり、頭を制御盤(コンソール)にうずめて、ロボットの制御装置を手にしながら、手術野を鮮明かつ立体画像で映し出すカメラの補助のもとに機器を操作している。(ロボットシステムの詳しい作動の仕方はこちら

インターネット上の動画は、個々の病院およびロボットシステム製造業者によるマーケティング・キャンペーンの一環にすぎない。400病院のホームページを対象とした調査結果が5月にオンライン掲載された。それによると全体の37%がホームページ上でロボット手術を取り上げており、61%がロボットの製造業者による文章を転載、また3分の1近くのサイトで、ロボット手術により癌のコントロールの改善につながるという旨が書かれていたことがわかった。

「テクノロジーの発展が、よりよい治療に結びつくと関連づける傾向にあります」と主任研究医師のDr. Marty Makary氏(ジョンズホプキンス大学)は説明する。

Makary氏は、複雑な膵臓手術を含む手術の多くを腹腔鏡下で実施しているという。ロボットでは十分な触覚フィードバックが得られず、手術時間が長くなると考えるためである。しかし、複数の研究者らによれば、従来の腹腔鏡下手術は高度な技術が必要と考えられており、現在では前立腺全摘除術に用いられることはまれである。ある概算では、米国における腹腔鏡下での前立腺摘除術数は、毎年、全体の1%にも満たないという数字が出ている。

ロボットを使用した前立腺摘除術を受けたいがために、患者が受診してくることもよくあると、Dr. William Lowrance氏(ユタ大学ハンツマン癌研究所・泌尿器癌専門医)は述べる。ロボット手術に関して「インターネット上の情報や、良好な治療成績を得た友達や親戚からの情報によるものでしょう」と説明する。 Lowrance氏が実施する前立腺摘除例のうち約70%は、ダヴィンチを用いて実施している。

患者同士の口コミとロボット手術が低侵襲であるという事実が、ロボット手術が注目される2大要素となっている、と年間600件近いロボット前立腺全摘除術を施行するDr.Ash Tewari氏(ニューヨーク・プレスビテリアン病院/ワイルコーネル医療センター前立腺癌研究所所長)は言う。

外科医がロボット手術の技術を習熟するのは、かなり困難であることがいくつかの研究で実証されている。しかし、Dr. Warner K. Huh氏(アラバマ大学バーミンガム総合癌研究所・婦人科癌専門医・外科医)によれば、ロボットは多くの低侵襲手術の施行を容易にするという。

「外科医の多くは、ロボットの使用によって低侵襲手術がより効率的かつ安全に施行できると感じており、それが急増の大きな理由であると思います」とHuh氏は述べる。

ロボット手術の増加は、単なるマーケティング現象にとどまらないとTewari氏は認めている。「多くの科学的根拠に支えられたものであり、われわれはこの分野をよりよいものへと発展させ、ロボット手術の宣伝以上のものとしたいと考えています」と同氏は述べている。

今日までの科学的根拠

今日までの諸研究によれば、ロボット手術が、出血量の点で、従来の腹腔鏡下手術に匹敵し、出血量および入院期間の点で開腹手術よりも優れているということに異論はないようである。手術後の回復期間も、ロボット手術の方が開腹手術よりも短いとみられる。

しかし、癌のコントロール、排尿のコントロールおよび性的機能という3つの大きな転帰に関してはどの方法が他よりも優れているのか、はっきりとした答えがまだ存在しない、と Lowrance氏は指摘する。

複数の手術方法を比較する大規模ランダム化臨床試験を実施することは、現時点では不可能とみられる。 コーネル大学で、Tewari氏はロボット前立腺全摘除術と開腹手術を比較する試験実施の承認を得たことがある。しかし、この試験は実現されることはなかった。ロボットなしでの手術にランダムに振り分けられることを望む患者が十分にいないため、と同氏は言う。

また、ランダム化試験では十分な情報が得られない可能性さえある。「開腹手術を施行する外科医の多くは優れた成績を上げているので、これ以上の成績を上げることは難しいかもしれません」と Lavery氏は述べる。「いずれの手術でも熟達した外科医が行うのであれば、優れた結果が得られることとなるでしょう」。

「ロボット時代」のピーク?

全米各地で手術用ダヴィンチシステムの使用が目覚ましく、急速に増加していることは、国民レベルで影響を与えたと思われる。3月に開催された米国泌尿器科学会年次総会でLavery氏が発表した試験結果によると、1997年から2004年にかけて米国で施行された前立腺全摘除術の数は、年間約60,000件と一定した数であることが明らかになった。

しかし、2005年から2008年、Lavery氏らはこの時代を初期の「ロボット時代」と呼んでいるが、前立腺全摘除術およびロボット手術の件数が急増した。前立腺全摘除術の件数は2008年にはおおよそ88,000件に増加し、ロボット手術の件数は2004年に約9,000件であったのが、2008年には約58,000件に跳ね上がった。

近年、狭い地理的地域を調べた2つの異なる分析が行われ、一方の試験はニューヨーク、ニュージャージーおよびペンシルベニアで、もう一方はウィスコンシンで調査がなされたが、同様の結果であった。しかし、この他にも明らかになったことがある。ロボットを所有している病院では、根治的前立腺全摘除術の施行数が有意に増加していた。同時に、ロボットを所有していない病院では、同手術の施行数が減少していたのである。

「全体的な結果としては、科学技術が引き金となって集団規模で突然起こった一極化を表しており、これは過去に例をみないものです」と ニューヨーク、ニュージャージーおよびペンシルベニアの試験を実施したDr. Karyn Stitzenberg氏(ノースカロライナ大学腫瘍外科)らは書いている。手術以外の治療法(監視療法を含む)を本来強く勧められる患者が、代わりに手術を選択していることを、手術施行数の増加が意味しているのかどうかは「推測に過ぎない」とLowrance氏は述べた。

「個人的な見解ですが、概して根治的前立腺全摘除術の施行率はピークを迎えており、下降傾向をたどるのではないかというふうに感じます」と同氏は述べる。その理由の一部として、限局性低リスク前立腺癌男性に対する監視療法への注目が高まっていることが挙げられる。

コスト面での影響は不明

もう一方の不確かな側面とは、この極めて高価な技術の使用増加によって、何らかの経済的影響が起こらないのかという点である。病院側は、ロボットを使用した手術を施行しても、非常に多くの追加費用がかかるにもかかわらず、費用が余分に支払われるわけではない。

ロボット自体の費用はどこであっても、120万ドルから170万ドルかかる(しかも多くの病院では複数台所有している)、必要な年間メンテナンス契約は約15万ドルであり、ロボットを1回使用するごとに使い捨て器具の費用が2,000ドルかかる。研究によれば、ロボットを使用した場合、手術を1回施行するごとに追加される費用は、実に4,800ドルにのぼる可能性があることが示唆されている。

しかし、入院期間が減少し、輸血の必要が少なくなれば、これらの費用の一部は補うことができるかもしれない。実際、 Lowrance氏らが近刊で発表する研究データによると、メディケア患者群を対象に、さまざまな要因で補正し、ロボットの固定費用を除外した後のロボット前立腺全摘除術+次年度に必要な医療費は、開腹手術+次年度の治療にかかる費用と差がなかった。

Lavery氏によれば、ダヴィンチの他にFDAによる承認を得ている手術用ロボットは現在ないが、少なくとも2社が同様のロボットシステムを開発しており、最終的にはダヴィンチの競合品となりうるという。そうすれば、これまでより費用を抑えることができるであろう。

ロボット前立腺全摘除術の極端な一極化は、両刃の剣であると Stitzenberg氏らは結論づけた。多くの試験では、手術の件数が多ければ治療成績がよくなることを示しており、すなわち前立腺全摘術を施行する施設数が少なくなれば、治療の全体的な質は改善される可能性があることが示唆される。しかし、一極化は、特に地方では、市場の力により手術ができる外科医が制限されてしまい、治療へのアクセスが不足してしまうのではないかという不安もまた高まる。

ロボット前立腺全摘除術の急速な成長は、医学分野における科学技術の役割についてという大きな議論と置き換えうると、Lowrance氏は確信している。例えば、ロボット手術より何万ドルもの費用が余分にかかる強度変調放射線治療陽子線治療は、いずれも従来の放射線療法よりも良好な治療成績は得られていないにもかかわらず、限局性前立腺癌の治療として人気を集めるようになっている。

「大きな問題は、新しい科学技術の取り込みおよびその費用と、それがもたらす(臨床上の)付加価値とのバランスをどう取っていくかです。こうした試験を実施するのは困難ですが、(新しい科学技術に)常に価値があるのかを問い続けなくてはなりません」。

— Carmen Phillips

前立腺だけではない:婦人科癌にもロボット手術が浸透している

 

「肥満女性に対する開腹手術は、非常に困難を極めるものです」と同氏は言う。「中には、切開に関連して、ひどい合併症を起こすこともありました」。

アラバマ州は、肥満率が米国内で最も高い州の一つであり、多くの女性にとって、ロボット手術は臨床上、重要な新しい選択肢となっている。同氏によれば、肥満患者に対する開腹手術後の平均入院期間は4〜5日であったという。現在は、ロボット手術を施行した場合、平均入院期間は24時間以内であることも少なくない。合併症の発症率は、開腹手術では5〜10%程度だったのが、ロボット手術では1〜2%に低下した。

「病的肥満女性に対する、これらの疾患の治療方法が一変しました」と Huh氏は語る。

ここ10年における前立腺癌治療に対するロボット手術の華々しい成長は、子宮頸癌および子宮内膜癌等の婦人科癌治療に対するものとよく似ている。(婦人科癌へのロボット手術は、通常子宮切除の際に施行され、リンパ節切除を伴うこともある。)

従来の腹腔鏡下での低侵襲手術は、20年にわたって婦人科癌に対する一般的な治療となっているとDr. Warner Huh氏(アラバマ大学バーミンガム総合癌研究所)は述べる。しかし、多くの外科医はロボット手術に切り替えている。特にロボット手術は、肥満女性に対する重大な新しい選択肢となっていると、Huh氏は述べる。従来の腹腔鏡下での手術では、肥満女性に対しては施行できないことがよくあるため、ロボット手術が出てくる前はこうした患者は、概して、開腹手術を受けなくてはならなかった。

【上段画像下キャプション訳】NCI泌尿器腫瘍科学支部のDr. Peter Pinto氏と Dr. Gennady Bratslavsky氏が、前立腺全摘除術を受ける患者に対して、ダヴィンチ手術システムで手術を施行する準備をしているところ(写真提供: Bill Branson氏、 NIH)

【下段画像下キャプション訳】Dr. Peter Pinto氏が低浸襲前立腺手術を施行するため、ダヴィンチロボットの制御盤(コンソール)に座っているところ(写真提供:Bill Branson氏、NIH)

******
濱田 希 訳
榎本 裕(泌尿器科/東京大学医学部付属病院) 監修
******

printこの記事を印刷する Facebookシェアする Twitterツィートする LINE送る

免責事項当サイトの記事は情報提供を目的としてボランティアで翻訳・監修されています。翻訳の記事内容や治療を推奨または保証するものではありません。

注目キーワード

新着ドキュメント

一覧

お勧め出版物

一覧

arrow_upward