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ASCOアドバンス・オブ・ザ・イヤー2021は「分子プロファイリングによる消化管がん治療の進歩」

分子プロファイリング(がん遺伝子パネルなどを含む)により、分子や遺伝子の特徴に基づいたがん治療を行うことができるようになった。こうした検査は、 過去1 年間で消化器がん治療に数多くの進展をもたらし、患者ケアは改善されつつある。この進展を認め、本日、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は「Clinical Cancer Advances 2021(がん臨床の進歩 2021)」報告書において、「分子プロファイリングが消化器がんの進歩を牽引」を本年のアドバンス・オブ・ザ・イヤーに選出した。

本報告書はがんに対するこの1年間の進歩を報告するものだが、それだけでなく1年分の研究上の重要な進展を列挙し、有望な研究分野を明示し、がん研究に対する米国連邦政府の資金援助の重要性を強調している。

今年の報告書には、がん研究における「健康の公平性」の必要性を検証した特別セクションが設けられ、その達成のためにとりうる戦略が述べられている。

「もし臨床試験が人種、民族、その他のマイノリティなどについて実際に治療を受ける人たちを反映していなければ、科学は進展せず、命を脅かす状況にある患者さんは、もしかすると唯一の選択肢であるかもしれない治療を受けられなくなるかもしれないのです」とASCO会長のLori J. Pierce医師は述べる。

さらに、この報告書には、乳がん、肺がん、前立腺がん、肝細胞がん、血液腫瘍などの治療に関するきわめて重要な研究が含まれる。多くの場合、こうした研究の進歩は、新しい治療の承認につながってきた。

「過去 1 年間のがん治療の進展により、乳がんや肺がんなどに対する治療は大きく向上した 」とがん臨床の進歩 2021 報告書の編集長、Sonali M. Smith医師は述べる。「また、膀胱がんや上咽頭がんなどの、治療困難ながん患者に対する新しい治療法も出てきています」。

これらの進展は、臨床がん研究に対する米国連邦政府の支援なしには実現できなかっただろう。

「がん臨床の進歩」報告書は、過去1年の主要な進歩を示すだけではなく、将来を展望しながら、ASCOResearch Priorities(がん研究優先課題)の中で最も飛躍が期待される分野を浮き彫りにする。ASCO がん研究優先課題は、がん医療において解決されるべき課題、および研究の推進が期待される分野を特定するものである。

現在、16版である本報告書はオンラインではasco.org/ccaにて、雑誌Journal of Clinical Oncologyではascopubs.org/jcoで公開されている。

アドバンス・オブ・ザ・イヤー: 消化器がんの進歩を牽引する分子プロファイリング

全世界で、消化器がんはがん罹患数の26%、がんによる死亡数の35%を占める。消化器がんを分子レベルで解析できるようになったことで、消化器がん治療の選択肢が広がり、副作用を最小限に抑えながら生存期間を延長できるようになった。

「次世代シーケンシングなどの分子プロファイリング検査は、特定の分子標的治療法およびゲノム標的治療法が有効であろう患者さんの特定を可能にしてくれます。個別化医療が現実のものになりつつあるのです」とASCO理事会会長のHoward A. “Skip” Burris, III医師は語る。

昨年、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)標的治療が、胃がんの生存期間が延長し、HER2陽性の大腸がん患者にも有望である可能性を研究結果が示唆した。現在、特定のBRAF遺伝子変異を標的とした転移性大腸がんに対する治療が承認されている。こうした進歩により、消化器がんの治療は個別化医療により近づいている。

がん研究において公平性を実現する

本報告書では、がん医療および臨床研究における「健康の公平性」を検証している。昨年国内および世界的に影響を及ぼしたパンデミックは、医療と社会が現在直面している最大の課題の1つとして、健康格差があることを浮き彫りにした。がんの転帰における格差は、いつくかの点において、新しい診断法および治療法の開発、すなわち新しいがん治療法の有効性と安全性を実証する臨床研究に根ざしている。

がん研究に参加するマイノリティ(社会的少数派)患者の割合が低いと、医師はマイノリティがん患者を安全に治療するための科学的根拠を示すことが難しくなり、がん医療および転帰の格差を助長することになる。本報告書では、臨床試験参加への障壁を下げ、臨床試験への多様な患者層の参加を促進する戦略と実践方法を概説している。これらの戦略には、臨床試験の適用条件の緩和、地理的対象範囲の拡大、および経済的支援などが含まれる。

がん対策を加速させるための研究優先事項

今年、ASCOは、がん研究における人工知能(AI)とディープラーニングを「がん対策を加速させるための研究優先課題」リストに追加した。AIは、診断、治療、トランスレーショナル研究を推進する可能性を秘めている。特にがん研究においては、病変診断;医用画像の撮影、読影およびレポートの改善および発展;臨床的意思決定およびアウトカム測定を支援するための大規模な臨床データの統合、といった分野へのAIの適用に注力するべきである。

優先課題全リスト(順不同):

  • がん研究における人工知能とディープラーニングの開発および統合を行う
  • 免疫療法に対する反応および抵抗性を予測する方法を特定する
  • 固形がんに対する集学的治療を最適化する
  • 小児がん、および希少がんに対する精密医療研究および治療アプローチを促進する
  • 高齢のがん患者に対するケアを最適化する
  • がん臨床試験への公平なアクセスを促進する
  • がん治療による有害な影響を軽減する
  • がん罹患率と転帰への肥満の影響を低減する
  • 前がん病変をより適切に識別し、治療が必要な時期を予測する

「臨床研究は多くのがん患者の生存期間を延長し、QOLの向上をもたらしましたが、私たちはまだ満足していません。ASCOのがん対策を加速させるための研究優先課題では、がん予防および医療における重要なギャップを継続的に評価して明確にしています。われわれは、こういったギャップは非常に切迫したものであり、急激な進歩のチャンスが大きい分野であるとも考えています。これらの優先事項を設定することにより、研究の方向性を定め、進歩を加速させようとしているのです」とBurris医師は述べる。

パンデミック下における進捗:危機にさらされるがん研究資金

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による公衆衛生上の緊急事態によって、長年にわたって推進されてきたがん研究開発が失速する恐れがある。がん研究を行う研究室は、閉鎖されたりCOVID-19の研究スペースに転換されたりしている。臨床試験の停止または遅延によって、研究の進捗は大きく損なわれ、また患者の命を救うかもしれない治療開発も遅れることになる。

パンデミックによる混乱を緩和し、国の生物医学研究事業を再稼働するためには、米国国立衛生研究所(NIH)および米国国立がん研究所(NCI)の年間予算増額に加えて、追加の緊急資金投入が必要である。些細な資金削減ですら、がん研究に多大な影響を及ぼす可能性がある。

「研究資金が安定して増加するという見通しがあることで、米国で進行中の研究活動を継続し、すべてのがん患者の転帰の改善へとつなげることが可能になるのです」と、ASCO最高医学責任者兼副会長 Richard L. Schilsky医師は語る。

全報告書はasco.org/cca または Journal of Clinical Oncologyにて閲覧できる。

 

翻訳為石万里子

監修泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院 消化器内科)

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