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限定的な脳転移のある癌患者において全脳照射は延期してもよい

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限定的な脳転移のある癌患者において全脳照射は延期してもよい

Whole Brain Radiation May be Postponed in Cancer Patients with Limited Metastasis to the Brain
(Posted: 08/28/2006) Journal of the American Medical Association2006年6月7日号によると、4個以下のさほど大きくない脳転移のある患者において、全脳照射を延期しても生存期間を悪化させることはないかもしれない。


要約
4ヶ所以下の脳転移を有する患者で、定位手術的照射を受けた人は、全脳照射も行った患者と同じくらいの期間生存し、放射線治療による副作用や精神機能もほぼ同程度でした。しかし、定位手術的照射のみを受けた患者は、脳内での再発の可能性が高く、また救済処置をより必要とする傾向にあります。

出典 Journal of the American Medical Association, 2006年6月7日号(ジャーナルの要旨参照)
JAMA, 2006 June 7;295(21): 2583-91

背景
米国では毎年17万人以上の癌患者で、身体の他の部位から脳への転移が起こり、脳転移は致命的となる場合があります。標準的な治療法は脳全体に対する放射線治療ですが、全脳照射を選択することにより、認知神経学的な(精神機能の)変化をきたしてQOL(生活の質)を損なうリスクが生じます。
まれではありますが、手術で完全に切除しきれるような小さな一個の脳転移巣に対して、残存する癌細胞を破壊する目的で術後に全脳照射がなされることもあります。

1990年代、定位手術的照射として知られる技術が発達しましたが、これは放射線を腫瘍部分に照準を合わせてより正確に当てることで、健康な脳細胞へのダメージを最小限にとどめ、また侵襲的な手術を避けることを目的としています。全脳照射が数週間を要するのに対し、このより病巣に絞った手法は1日で済みます。しかし、定位手術的照射を受けた患者の50%以上で腫瘍が再発していることが過去の試験で示されています。

どちらの放射線治療がどういったタイプの転移脳腫瘍に効果があるのか、またどのような時に両者を組み合わせることが好ましいのかなど、更に試験を行う必要があります。

試験
この試験は、少数の脳転移巣しかない患者のうち、定位手術的照射のみを受けた人と、定位手術的照射と全脳照射治療を組み合わせて受けた人とで、生存期間を比較するために設計された、初めての第3相試験です。

1999年から2003年の期間、日本国内11の病院の132人の患者が、2つのグループに無作為に割り付けられました。患者は皆、脳に癌転移がみられ、脳内の腫瘍は1~4つで、いずれも3cm未満でした。患者が最初に発症した癌には、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、腎臓癌などが含まれました(これらのタイプの癌からの脳への転移は、脳腫瘍とは異なります)。試験の初めの頃、患者は全員ほぼ同様かよく似た精神能力を示していました。

67人の患者が定位手術的照射のみを受け、65人の患者が定位手術的照射の後、全脳照射の治療を受けました。両グループの患者は、腫瘍の再発、精神機能、1ヵ月後、3ヵ月後、そしてその後3ヵ月ごとの副作用の有無で評価されました。再発の際には、担当医師が最良と判断した治療を更に受けました。

この試験は、日本国札幌の北海道大学、青山英史医学博士の主導により行われました。

結果
92%の患者が、課された治療を完了しました。治療開始後の平均経過観察期間である7.8ヵ月後、両グループの生存率に統計学的な有意差はみられませんでした。

定位手術的照射のみを受けた患者は平均8ヶ月生存したのに対して、全脳照射を受けた患者群は7.5ヶ月生存しました。試験終了までに、定位手術的照射のみを受けた患者のうち62人が、また全脳照射を受けた患者群のうち57人が死亡しました。生存に関して意味のある差を見つけるのには患者の数が不十分だということが明らかになった時点で、この試験は早めに打ち切られました。

予測に反し、精神機能や放射線治療による有毒な副作用に関して、両グループ間で有意な差は見られませんでした。すなわち、定位手術的照射単独であっても、定位手術的照射単独と全脳照射の両方を受けた患者と同じような副作用を示す傾向があるということです。

しかし、脳腫瘍の再発に関しては意味のある違いがみられました。定位手術的照射のみを受けた患者群で、12ヵ月後の再発率が76.4%だったのに対し、全脳照射も受けた患者群では46.8%でした。これは、全脳照射治療を加えることで再発のリスクが68%減少することを示します。

脳腫瘍の発達により救済処置が必要になった患者は、定位手術的照射のみを受けた患者群では29人でしたが、全脳照射も受けた患者群では10人のみでした。

コメント
この試験は、全脳照射治療を「遅らせても患者の生存率を下げることはないだろう」という他の研究結果とも一致する、と、ノースウェスタン大学Feinberg School of MedicineのJeffrey Raizer医師が、出版物内の論説で述べています。

脳転移を有する患者のうち、60%までは今回の臨床試験での患者のように抑えられ、落ち着いた状況の1~4個の転移巣です。米国国立癌研究所、Center for Cancer Researchの放射線腫瘍学部門に所属するAnurag Singh医師は「(こうした患者は)決断を下す必要があることをこれらの結果は示している」と説明しています。「もし、全脳照射をしないと決定し、脳転移が早期に再発するかもしれないとわかっていれば、理想的には患者も主治医も慎重に脳転移を見つけようとするだろうし、すみやかな救済治療の対処をするだろう。」

このような経過観察が可能かどうかということも、決断の際重要となるだろう、と彼は述べています。というのも、多くの社会環境下にある患者は、都市部の癌センターにいる時のような綿密なフォローを受けられないからです。

制限事項
主執筆者の青山氏と同グループはこう述べています。定位手術的照射のみを受けることも治療の選択肢として可能です。しかし一方で、今回含め今までの試験では、全脳照射治療の有無ごとの全生存率や、さまざまなアプローチにおいてどれだけの放射線治療を行うべきか、また定位手術的照射による再発率の上昇が神経機能の低下を招くのか、などといったことについて、一貫した結果は得られていません。

(水向絢子 訳・平 栄(放射線腫瘍科) 監修)

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