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2010/11/02号◆癌研究ハイライト

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2010/11/02号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年11月02日号(Volume 7 / Number 21)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト
・膵臓癌は長期にわたりゆっくりと進行するとの報告
・セツキシマブはKRAS遺伝子変異のある患者に効果があるかもしれない
・腫瘍の血管に認められるタンパク質は癌のターゲットになるかもしれない
・アスピリンが結腸直腸癌を予防する可能性がより多くの証拠から示唆される
(関連記事)・試験的DNA検査で大腸ポリープおよび癌を検出できる可能性
膵臓癌は長期にわたりゆっくりと進行するかもしれない

患者7人から採取した腫瘍の遺伝子変化を解析した結果によると、膵臓癌は致命的なステージまで進行するのに10年以上かかるかもしれないという。この知見はNature誌10月28日号に掲載され、発癌原因となった膵臓病変の最初の遺伝子変化から生命を脅かす転移癌まで進行する間には長期間の時間差があることは研究者自身も驚いた。この時間差は、早期段階で癌を発見できる可能性があることを示唆していると研究者らは指摘した。

ジョンズ・ホプキンス大学ソル・ゴールドマン膵がん研究センターの研究者らによるこの研究は、膵臓癌は急速に進行するため非常に致死的な癌であると広く受け入れられている概念と相反する。膵臓癌は他の組織に転移して初めて診断される場合が多く、膵臓癌患者の多くは診断後1年以上生存していない。

この研究は、ホプキンス大学の研究者らが2008年に発表した膵臓癌ゲノム24個の解析を基とする。今回の研究では、同一患者の原発膵臓腫瘍において複数の異なる部位の遺伝子解析を行った。患者7人の原発および転移腫瘍に関連した変異を同定したのち、膵臓癌の進行過程に要した時間を推測するために数理モデルを用いた。

研究者らは、腫瘍細胞の発癌イニシエーション遺伝子変異から、膵臓癌の発生を推進することが知られている遺伝子変異の全てを含んだ「親クローン」となった最初の癌細胞が発生するまで、平均して11.7年かかったと推定した。少なくとも1つのサブクローンが転移するために遺伝的潜在能力を獲得するまでにさらに6.8年が過ぎた。その時点から患者が死亡するまでに、平均してさらに2.7年が過ぎた。

「膵臓癌が発生する自然の経過がどれほどゆっくりであると思われるかにわれわれ全員が驚いた」と研究チームを率いるDr. Christine lacobuzio-Donahue氏は述べた。「膵臓癌は非常に致命的であると思われており、多くの人が膵臓癌に対しては打つ手がないと感じている。しかし、膵臓癌が転移するには何年もかかるということが判明した。そして、早期発見の観点において何をする必要があり、そして、いつそれを行う必要があるかということがついにわかった」。

Nature誌に掲載された付随研究は、Wellcome Trust Sanger研究所の研究者らによる、患者13人から採取した原発膵臓腫瘍と転移膵臓腫瘍における、DNAが損傷し何らかの方法で入れ替わった結果の染色体異常であるゲノム再編成のプロファイリング結果である。ゲノム再編成の大部分が膵臓癌の初期段階で起きることが判明した。「これら初期の変異を特定し理解する能力は、標的となる薬の開発方法をもたらす」とこの試験の筆者らは締めくくった。

セツキシマブはKRAS遺伝子変異のある患者に効果がある可能性

ヨーロッパの研究者らは、KRAS遺伝子に特異的変異がある大腸癌患者にも分子標的薬であるセツキシマブが有効であるかもしれないとの証拠を発見した。これまでの研究では、KRAS遺伝子変異を有する患者にはセツキシマブは有効ではないことが示唆されており、米国臨床腫瘍学会は、変異型KRAS遺伝子を有する患者にはセツキシマブの投与を推奨していなかった。化学療法抵抗性がある大腸癌患者579人のデータのこの新たな後ろ向き解析は、JAMA誌10月27日号に掲載された。

ベルギーのルーヴェン大学のDr. Wendy De Roock氏率いる研究チームは、6つの臨床試験で化学療法との併用使用を問わずセツキシマブを投与、または、臨床試験以外でセツキシマブを投与した進行大腸癌患者のデータを解析した。研究者らは、正常KRAS遺伝子を有する患者、KRAS遺伝子の最も頻度の高い遺伝子変異であるコドン13という部位の遺伝子変異を有する患者と、その他KRAS遺伝子変異を有する患者の生存を比較した。

コドン13(p.G13D)に変異を有する患者は、セツキシマブを投与したそれ以外のKRAS遺伝子変異を有する患者より長期間生存した(中央値7.6カ月対5.7カ月)。さらに、p.G13D変異を有する患者と正常なKRAS遺伝子の患者の全生存率は同等であった。

細胞株での一連の実験結果でも同様に、セツキシマブは、正常KRAS遺伝子とp.G13D変異の細胞を持つ大腸癌細胞の成長を阻害したが、その他のKRAS遺伝子変異の細胞では効果がなかった。大腸癌細胞を移植したマウスにセツキシマブを投与した実験でも同様な結果が認められた。

患者データのこの新しい解析は、「大部分が非ランダム化試験あるいは異なる治験間の比較に依存した後ろ向きコホート研究であるため、p.G13D遺伝子変異とセツキシマブを中心とした治療後の生存期間延長の関連を示唆できるのみである」と筆者らは述べた。そして、「セツキシマブの潜在的有効性の結論を推論する前に」、p.G13D変異を有する患者を対象とした前向きランダム化試験が必要であると締めくくった。

腫瘍血管に認められるタンパク質は癌のターゲットになるかもしれない

これまでは、卵巣や精巣の特殊な領域のみに存在すると考えられていた卵胞刺激ホルモン(FSH)受容体と呼ばれる細胞表面タンパク質が、11の異なる腫瘍タイプの血管表面には認められた。しかし、正常組織の周囲には認められなかった。New England Journal of Medicine誌10月21日号に掲載されたこの研究結果は、FSH受容体を癌の画像診断や標的治療に利用できるかもしれない可能性が出てきたことを示唆している。

マウントサイナイ医科大学のDr. Aurelian Radu氏率いる研究チームは、術前化学療法や術前ホルモン療法を行っていない癌患者1,336人より採取した腫瘍検体を調査した。FSH受容体を含んだ血管が、前立腺癌患者773人から採取した全ての腫瘍検体の周辺で認められた。

10の異なる腫瘍タイプの患者563人から採取した検体一式を追跡調査したところ、腫瘍タイプや病期に関係なく、全ての検体にFSH受容体が認められた。さらに、正常組織検体と、炎症や再生、増殖性の疾患・状態の患者から採取した非癌性組織検体の精査も行った。これらの検体にはFSH受容体は認められなかった。

これらのうち腎臓癌の検体を除いて、FSH受容体が存在する血管は厚さおよそ10mmの層となって腫瘍周辺に限定していた。特異的にFSH受容体を標的とする画像診断薬剤は、手術や放射線治療の際の正常組織と腫瘍組織の境界を決めるために用いることができたと筆者らは仮定した。

In situ試験では、分子画像診断薬と結合させたFSH受容体抗体の溶液を、前立腺腫瘍異種移植片を持っている安楽死させたマウスの血管内にかん流した。抗体は選択的に腫瘍の血管の外側に結合し、画像診断薬は血管細胞に取り込まれた。しかし、研究者らは、実験が実施された方法には限界があり、この結果は「腫瘍関連の血管に発現したFSH受容体が臨床的に利用できるという原理証明にはならない」と警告した。だがFSH受容体が腫瘍血管形成において生物学的に重要な役割を果たすかもしれないため、FSH受容体シグナル伝達をブロックすることが腫瘍に対する新たな戦略となるかもしれないとの仮説をたてた。

アスピリンが大腸癌を予防する可能性がより多くの証拠から示唆される

大腸(結腸直腸)腺腫と前癌性ポリープに対してはアスピリンとセレコキシブ(COX-2選択的阻害剤)が、その発生リスクの高い人において危険性を減少させることがこれまでの結果から示されているが、新たにメタアナリシスを行った結果、長期にわたってアスピリンを日常的に使用することで大腸癌とそれによる死亡が減少することが示された。本結果は10月21日付けLancet誌の電子版に掲載された。

オックスフォード大学のDr. Peter Rothwell氏らは、英国、スウェーデン、オランダで行われた5件の無作為化試験に登録された14,000人以上の統合データから、20年間のリスク推定値を算出した。試験は心臓発作や脳卒中のリスクに対するアスピリンの効果を検証するように計画されたものであったが、同時に癌に関するデータも収集された。およそ5年間日常的にアスピリンを少なくとも75mg服用していた患者は、大腸癌の発症リスクが24%低下し、またそれによる死亡リスクは35%低下したことが明らかとなった。

結腸内部位に対してデータが得られたこれら研究に関し、アスピリンの予防的効果は主に近位結腸に限定されるように思われ、発生率減少はおよそ55%であった。遠位結腸における癌については、発生率減少は認められなかった。この部位の区別は重要である。というのは、S状結腸鏡検査(ヨーロッパで広く行われているスクリーニング方法)では近位結腸内の癌を検出しないためである。(米国で通常行われる大腸内視鏡検査では全結腸を検査するが、主に遠位結腸に有益性が限定される)。

著者らは本研究上にある多数の限界を認めている。例えば、「私たちはアスピリンを長期使用した場合のリスクと効果の全体的なバランスに対し、大腸癌による死亡の減少効果をモデル化しなかった」と記している。アスピリンの長期使用については、嘔気、胸焼け、過敏症、腸、腸管、胃などからの出血を起こす可能性がある。さらに、本研究に含まれる5件の試験は「腺腫の内視鏡スクリーニング導入前のものであり、これが大腸癌の発生率や死亡率をも減らし、したがってアスピリンの絶対的効果を低下させている可能性がある」とも記している。

「これら知見は5年間の投与後の最も長い追跡データを表しており、また積年の疑問である『予防効果にどのぐらいの投与量が必要か』に対する回答でもある。本研究から、最適な使用量は75mgであることが示唆されている」と、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Ernest Hawk氏は述べている。

関連記事:試験的DNA検査で大腸ポリープおよび癌を検出できるかもしれないDNAの変異あるいはメチル化を糞便サンプルにおいて検出する大腸癌に対する試験的スクリーニング検査によって、前癌性腺腫および癌のいずれも検出できるのではという期待が示された。メイヨークリニックとExact Sciences社の研究者らにより先週報告された。次世代試験の最初の臨床検証試験から得た本知見は、フィラデルフィアで開催されたAssociation for Cancer Research(癌研究連盟)の特別会議『大腸癌:生物学的治療』 において発表された。本試験は数種の遺伝子へのメチル基置換とKRAS遺伝子における変異として知られる遺伝的変化を検出するもので、サンプルを採取した患者における既知の所見を基に、大きさが1cm以上の腺腫約64%と癌85%が確認された。試験では腺腫と癌を大腸の部位にかかわらず検出した、と本試験の試験者であるメイヨークリニックのDr. David Ahlquist氏は説明した。Ahlquist氏によると、検出数値は特異度が90%、つまり偽陽性率が10%と予想されるようデザインされた試験に基づき算出されている。

研究者らが使用した糞便サンプルは異なる4施設の患者から採取したものであるが、サンプルの採取や保管についてはシステム的に統一されていなかった、とAhlquist氏は記している。本試験の前向き試験が来年開始されることが期待されている。Ahlquist氏は、メイヨークリニックはExact Sciences社とのライセンス契約に基づき、同社からのロイヤルティーとその他報酬を受け取るとしている。

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Nogawa、山下 裕子 訳
寺島 慶太(小児科/テキサス小児病院)、九鬼 貴美(腎臓内科) 監修
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