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セルメチニブが神経線維腫症1型の小児患者の転帰を改善

セルメチニブが遺伝性疾患である神経線維腫症1型(NF1)の小児患者の転帰を改善することが第2相臨床試験の結果から示された。本試験では、セルメチニブの投与によりNF1患者で発生する叢状神経線維腫という手術不能な神経線維腫症1型腫瘍の縮小や、痛みの軽減、機能改善、全般的な生活の質の向上といった効果が確認された。本試験は、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立がん研究所(NCI)のがん研究センター(CCR)内の研究者らが主導し実施された。試験の結果は、2020年3月18日付のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。


Brigitte Widemann医師とNIHにてNF1でセルメチニブ
治療を受けるトラビス・カーペンター君 動画はこちら

「これまでNF1および叢状神経線維腫の小児患者に有効な内科的治療法は存在せず、その治療薬を見つけるまでには長い道のりがありました」と、筆頭著者であり本試験を計画・調整したCCR小児腫瘍部門のチーフであるBrigitte Widemann医師は述べた。「まだ完治には至りませんが、セルメチニブ治療により腫瘍が縮小し、子供たちの体調が良くなり生活の質が向上する可能性があります」。

本試験は、NCIがん治療評価プログラム(CTEP)の後援を受け、NIH内のプログラムとして実施された。製薬メーカーのアストラゼネカ社は、NCIとの共同研究開発契約に基づき試験薬を提供し、本試験の一部である関連研究を支援した。同社は、新薬申請に際し研究者らと密に協力し、米国食品医薬品局(FDA)に提出するデータを収集した。また、神経線維腫治療開発促進計画(NTAP)は、参加施設での患者登録をサポートする資金を提供した。

本試験では、2015〜2016年にかけて、NF1で叢状神経線維腫を有する3〜17歳までの患者50人が登録された。腫瘍による症状で最も多く報告されたのは、外見上の障害、筋力や可動域の制限、疼痛であった。参加者に、セルメチニブを1日2回、28日を1サイクルとして継続的に経口投与し、評価は少なくとも4サイクルごとに行われた。研究者らは、各患者の特異的な腫瘍関連症状に合わせた治療成績を評価するという新しい手法を用いた。このような手法は、これまでのNF1患者を対象とした臨床試験では行われていない。

2019年3月時点で、35人の患者(70%)で部分奏効(腫瘍体積20%以上の縮小)が確認され、そのうちほとんどの患者が1年以上その奏効を維持していた。治療開始1年後、患者と保護者による報告では、痛みのレベルが低下し、痛みによる日常生活機能への支障、全般的な生活の質、筋力、関節可動域に関して臨床的に意義のある改善が認められた。

「この試験の最も驚くべき結果の一つは、治療が持つ痛みに対する影響でした」と、筆頭著者であるCCRのAndrea M. Gross医師は述べた。「慢性的で体を衰弱させる痛みを抱え生活していた患者が、痛み止めの薬を飲まなくなったという症例も認められました。これは予想外の結果で、本当に胸が躍るような発見でした」。

5人の患者は、薬剤に関連する可能性のある副作用のためセルメチニブの投与を中止し、6人の患者では、疾患の進行がみられた。最も頻度の高い副作用は、悪心と嘔吐、下痢、発疹などであった。

今回の新しい試験の結果は、セルメチニブが大きな腫瘍を縮小できることを初めて示した第1相試験の結果を支持していた。Widemann医師と彼女のチームは、2011年からNF1に対するセルメチニブの研究を行っている。セルメチニブは、NF1患者で過剰に活性化し、腫瘍の成長を促しているRASシグナル経路の一部であるタンパク質MEKをブロックすることにより作用する。FDAはセルメチニブをNF1の治療薬として、2018年にオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に、2019年に画期的治療薬に指定している。

叢状神経線維腫は、治療が困難であることがわかっている。腫瘍は急速に成長し、子どもの体重の20%にもなる非常に大きな腫瘍になることがある。腫瘍は健康な神経や組織と絡み合っていることがあるため、手術で腫瘍を取り除くことはしばしば不可能である。また、手術で部分的に切除された腫瘍も、特に幼い子どもの場合には再発する傾向がある。

Widemann医師は、2001年からNF1に対する様々な薬剤を用いた臨床試験を行っており、初めて腫瘍が縮小する症例を経験したときは興奮したという。彼女らは、NCI内外のプログラム、NTAP、小児腫瘍財団など、ここまで協力してきた様々なグループやプログラムに感謝を表明している。しかし何よりも、この試験に参加してくれた子供たちとその家族に感謝したいとしている。

「まだまだやるべきことはたくさんあります。一部の子供たちは腫瘍が縮小しましたが、多くの子供たちは未だ日常に支障をきたす腫瘍を抱えています」と、Widemann医師は述べた。「しかし、今回の発見は大きな一歩であり、NF1治療のさらなる進歩に向けてさらに努力を重ねることを鼓舞するものです」。

本試験は、メリーランド州ベセスダのNIH臨床センターと、3つの参加施設(フィラデルフィア小児病院、シンシナティ小児病院メディカルセンター、ワシントンD.C.の国立小児病院)で実施された。フィラデルフィア小児病院とシンシナティ小児病院は、NTAPから本試験の追加資金を受けた。

 

翻訳河合加奈

監修西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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