2010/11/16号◆スポットライト「手探りのユーイング肉腫治療法開発」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/11/16号◆スポットライト「手探りのユーイング肉腫治療法開発」

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2010/11/16号◆スポットライト「手探りのユーイング肉腫治療法開発」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年11月16日号(Volume 7 / Number 22)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇
手探りのユーイング肉腫治療法開発

2010年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会において、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ジョンソン総合がんセンターのDr. William Tap氏は、第1相臨床試験の一環としてモノクローナル抗体治験薬AMG479を投与された若年のユーイング肉腫患者の症例を説明した。この抗体製剤は、1型インスリン様成長因子受容体(IGF-1R)の活性を阻害する。

初回治療の8日後、この患者の腫瘍は縮小しはじめた。そして3年後、試験薬の投与を継続することによって、寛解を維持している。同臨床試験に参加した他の11人の患者は、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍であった。腫瘍の一部縮小を経験した患者がもう1人いたが、骨髄障害により除外を余儀なくされた。残りの10人は「AMG479治療不応でした」とTap氏は説明した。

この経験は、ユーイング肉腫など肉腫患者に対する他のIGF-1R阻害剤(いずれもモノクローナル抗体)の早期臨床試験の結果と瓜二つである。つまり、完全に腫瘍が消失したごく少数の症例に加え、部分奏効や病勢安定など有効例が一部みられるものの、それ以上の有効性はない。

「ユーイング肉腫に対する〔AMG479の〕有効性の程度は、乳癌に対するトラスツズマブ(ハーセプチン)が初めて第2相臨床試験に進んだときの結果とほとんど同一です」とミシガン大学のDr. Laurence Baker氏は言った。同氏は米国Southwest Oncology Group(SWOG)臨床試験団体の理事として、肉腫に対する新治療を試みる数々の臨床試験にかかわってきた。

しかし、ユーイング肉腫の罹患者は全米で年間わずか400〜500人で、若年者が多数を占める。これに比べると、乳癌に罹る患者は非常に多く、著しい対照をなしている。しかも、薬が一番よく効きそうな患者を特定するバイオマーカーとしてHER2タンパク過剰発現が存在するトラスツズマブとは異なり、目下研究中のIGF-1R阻害剤にはそのようなバイオマーカーがまだ見つかっていない。

この事実から、IGF-1R阻害剤が晴れて臨床医薬品となるに至る険しい道程を乗り越えられるかどうか疑問を呈する向きもある。そのような疑念から、ある大手製薬会社はIGF-1R阻害剤開発を中止したほどである。

しかしながら、IGF-1R阻害剤は「一部の患者には信じられないほどの利益を」もたらすと、NCI癌研究センターの科学理事であるDr. Lee Helman氏は強調する。同氏は、IGF-1R阻害剤をはじめ、ユーイング肉腫など肉腫に対する新治療法開発の最先頭に立って尽力してきた。しかし「まだまだなすべきことが多いのは明らかです」と同氏は認める。

一寸刻みの前進

投与対象となる患者を特定するバイオマーカーなど、IGF-1R阻害剤に関わる喫緊の問題に少しでも応えるために、SARC 011という第2相臨床試験が計画された。その名の通り、非営利団体である肉腫に関する共同研究連携(Sarcoma Alliance for Research through Collaboration:SARC)が立ち上げたこの臨床試験では、ロシュ社が製造したモノクローナル抗体R1507が用いられた。しかし、2009年12月、臨床試験進行中に、ロシュ社はR1507開発を中止すると通告した。

開発中止決定は、即座に影響を及ぼした。SARC 011試験は、30人登録を目標とする「強化群」(臨床試験で集積されたデータによれば試験薬が効く可能性が高いと試験実施者が予想した患者集団)に6人の患者が登録された段階で、未完のまま中止を余儀なくされたのである。さらに、すでに米国食品医薬品局(FDA)の実施許可が得られていたにもかかわらず、R1507化学療法併用の第2相臨床試験計画も破棄せざるを得なかった。

同社の開発中止決定は「ジレンマの元となっています」とHelman氏は認めた。「この1年間ある患者に〔R1507〕を投与してきましたが、彼女は復学して順調に経過しています」と同氏は言う。同氏によれば、R1507の開発が再開されるかどうかは未知数である。

SARC 011試験には合計321人の患者が登録され、そのうち135人がユーイング肉腫であった。 臨床試験の遂行にあたり、非営利団体SARCは、SARC指定研究者が主導することを条件に大規模国際第2相臨床試験を支援してもらえないか、IGF-1R阻害剤を開発中の他の製薬会社にも打診したと、ミシガン大学腫瘍学看護師でSARC理事長のDenise Reinke氏は説明した。結局SARCはロシュ社と連携することに決めた。

「参加者登録は信じられないほど着々と進みました」とReinke理事長は説明した。「臨床試験は2007年12月に開始され、2008年12月までに220人の患者が登録しました。うち75人はユーイング肉腫患者でした」。

このような稀少癌で十分な人数の患者、つまり単剤での有効性を十分に示すために必要な統計検出力を保証するのに十分な症例数を確保するには、国際臨床試験が必要であった。「稀な癌でさらに一部の患者だけにしか奏効しないことがわかっている標的治療をする場合は、大規模な国際臨床試験が必要です」とHelman氏は述べた。

稀少疾患の場合、もっとも重要性の高い科学的問題に対する答を出せるように新治療の臨床試験を設計することも重要であるから、共同研究の重要性はますます高まる、と同氏は言い添えた。

SARC 011試験は終了し、研究チームは最新の結果に基づく原稿をすでに用意しているとReinke氏は語る。 ロシュ社がIGF-1R阻害剤開発から撤退したうえ、相対的に罹患数の多い癌(肺癌、大腸癌など)に対するIGF-1R阻害剤の臨床試験において生存期間の延長が示されていないことから、一部の研究者はSARC 011試験を頼みの綱としている。本試験の結果は「肉腫に対する同種の標的治療の将来を占う上で要となる可能性が高い」と、ロンドンのロイヤル・マースデンがんセンター国民保健サービス(National Health Service、NHS)基金トラストのDr. David Olmos氏は今年、共著で書いた

展望の拡大

IGF-1R阻害剤の将来に関わって、何が必要かについてはほぼ満場一致の見解がある。「奏効した患者は何が違うのかまだ解明されていません。ですから、〔バイオマーカーの開発〕がまさに次の決定的に重要な一歩なのです」とオレゴン健康科学大学Doernbecher小児病院のDr. Suman Malempati氏は言う。同氏はこれまで、NCIとの共同研究開発契約のもとでイムクローン社が開発中のシクスツムマブ(cixutumumab)というIGF-1R阻害剤の、早期臨床試験2件に携わってきた。

細胞毒性化学療法併用でのIGF-1R阻害剤の臨床試験も必要だとBaker氏は強調する。「既知事項はいずれも、大多数の〔標的治療〕は単剤よりも併用が有効であることを示唆しています」と同氏は言う。 前臨床および動物モデル研究によれば、「化学療法と併用できれば、IGF-1R阻害剤は有益な相乗効果を発揮すると考える根拠が十分あります」とBaker氏はつけ加えた。

IGF-1R阻害剤併用療法の臨床試験は「今後いかに研究を進めるべきかを示す突破口となるでしょう」と、ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターのDr. Jeffrey Toretsky氏も賛意を示す。 これまでの臨床試験結果に基づけば、「IGF-1R阻害剤を単剤で現行治療に取り入れることは、まったく考えられません」と、同氏は言った。

肉腫に対するIGF-1R阻害剤併用療法の臨床試験が1件進行中である。 Malempati氏は、小児腫瘍グループ(COG)が主導するパイロット研究の責任研究者である。この研究は、横紋筋肉腫患者に対する多剤併用化学療法レジメンへテモゾロミドを併用する群と併用しない群にシクスツムマブ追加効果を比較する。 COGはまた、ファイザー社のIGF-1R阻害剤フィギツムマブ(figitumumab)をユーイング肉腫患者に投与する一連の臨床試験実施について同社と協議中であり、その中には併用療法の臨床試験も含まれることを期待していると、COG会長のDr. Gregory Reaman氏は言った。

しかし、期待を担うのはIGF-1Rを標的とするモノクローナル抗体だけではない。 数社が、早期臨床試験へと進む可能性のあるIGF-1R標的低分子薬も有している。低分子薬は目指す標的に対する特異性が低い傾向があるため、諸刃の剣となり得るとMalempati氏は説明する。特異性の低さは「癌の成長を助長する複数の過程を同時に阻害することができるかも知れないので」利点ともなり得る、と同氏は言う。しかしながら「それはまた、標的以外の副作用が多くなるおそれがあるということでもある」と同氏は続けた。(下記囲み記事参照)

IGF-1Rの活性を阻害するために使用する薬剤の種類にかかわらず、IGF-1Rを標的とする治療によって得られる有用性は不透明である、とToretsky氏は考える。しかし、「その潜在的可能性を十分に精査することができるよう」IGF-1R阻害薬についてさらなる研究を「する必要がある」と判断するに足る成果が今日までに実現されていると、同氏は述べた。

— Carmen Phillips

かくして低分子は融合タンパク質と出会う…2010年10月、Toretsky氏は、ユーイング肉腫に有用であることを期待する阻害低分子薬の開発をすすめるため、米国復興・再投資法の下でNCIから440万ドル近い交付金を受けた。 しかしながら、この化合物はIGF-1Rを標的とするものではない。 標的は、EWS遺伝子の一部とFLI1遺伝子の一部が染色体転座によって融合して生じる融合タンパク質EWS-FLI1である。この融合タンパク質はユーイング肉腫の腫瘍中に存在することが多く、肉腫の発生を促す重要要素であると考えられている。いまだ予備的段階にあるものの、このアプローチは標的化治療の中できわめて斬新である。なぜなら、Toretsky氏が共同研究している低分子は、腫瘍形成を促すために必須の別のタンパク質と融合タンパク質が結合することを阻止する初めての阻害剤だからである。

「うまく機能するためには、肝心かなめの融合する相手を見いださなければならないことがわかっていました」とToretsky氏は説明する。やがて、その相手が見つかった。RNAヘリカーゼA(RHA)タンパク質である。Toretsky氏らは、EWS-FLI1と結合する化合物がないか、3,000種類を保管するNCIの低分子ライブラリーを探索した。すると、首尾よくヒットしたうえ、その化合物は融合タンパク質がRHAと結合するのを阻止するという幸運にも恵まれた。ロンバルディ総合がんセンターの化学者と共同で、この化合物のアナログが開発された。YK-4-279というアナログは、タンパク質-タンパク質結合をより強力に阻止する薬剤である。
「NCIの交付金は、この化合物の薬物動態学、毒物学のみならず、臨床試験を始めるためのFDA治験薬承認申請の資金となるでしょう。本研究は、臨床試験開始が妥当であることを証明していると思います」とToretsky氏は説明した。研究には時間がかかり、どんなに急いでも早すぎるということはない。

「ユーイング肉腫患者の家族から、毎週2−3通の電子メールを受け取っています」と同氏は言った。

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盛井 有美子 訳
大渕 俊朗(呼吸器・乳腺内分泌・小児外科/福岡大学医学部)監修

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