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中咽頭がん診断の最大40年前からHPV16型に対する抗体を検出

のどのがん(=「中咽頭がん」を指す。以後「中咽頭がん」)の臨床診断される6年~40年も前から体内ではヒトパピローマウイルス16型(HPV16)に対する抗体が産生され、抗体が存在する場合はがん発症のリスクが高くなることが、国際的な研究チームにより明らかとなった。

がん関連の主要誌であるAnnals of Oncology 誌(1)に2019年6月12日(水曜日)に発表された研究では、HPV16に対する抗体が検出された場合の中咽頭がんリスク増は、黒人と比較して白人ではるかに大きく、黒人では17倍であるのに対して白人では100倍近いことも判明した。

HPVが原因の中咽頭がん患者は、HPV非感染の中咽頭がん患者と比較して治療への反応性が高い。つまり、これが黒人患者で生存率が低い一因であると著者らは考えている。

中咽頭がん(中咽頭扁平上皮がん、OPSCCとして知られる)の主な原因は、喫煙、アルコールおよびHPV16感染である。米国ではHPV16が中咽頭扁平上皮がんの原因の約70%を占めるが、欧州の一部の国では国ごとにばらつきはあるもののHPV16が原因である割合は米国と同等である(2)。

この研究を率いるフランス、リヨンの国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)のがん疫学者 Mattias Johansson医師は次のように述べている。「HPV16が原因で発症する中咽喉がんの割合は、この数十年で特に男性で上昇し、国によっては圧倒的多数がこのウイルスが原因であることが重要です」。

「診断のどの程度前からHPVに対する抗体が産生されるのか、その期間の範囲を調べることは、抗体陽性の患者が何年間高リスクにあるかを解明するために重要であり、この疾患の自然経過に関する重要な知見を与えてくれます。本研究では、がんの診断より数十年も前に抗体が産生されている例がありました。今後、中咽頭がんが増え続ければ、HPV抗体は、リスクが特に高く特定の予防法で利益が得られる患者を特定するバイオマーカー(生物学的指標)となるかもしれません」。

HPVがんコホート連合に参加する欧州、北米及びオーストラリアの研究者らは、中咽頭がん患者743人を観察し、がん患者でない対照群5,814人と比較した(3)。がん診断前の年余にわたる期間のうち少なくとも一回は抗体検出用血液検体(HPV16の発がん性E6タンパク質に対する抗体を検出する)をすべての患者で,また,111人の患者では最大40年間に複数回同様の血液検体が入手できた。最も古い検体の採取から中咽頭扁平上皮がん診断までの期間の中央値(平均値)は11年余りであった。

HPVに対する抗体検出率は、対照群では0.4%(5814人中22人)のみであったのに対し、中咽頭扁平上皮がん患者では26.2%(743人中195人)であった。中咽頭扁平上皮がん診断前の抗体検出率は、白人で27.2%(701人中191人)、黒人で7.7%(39人中3人)であり、この結果は、HPV16抗体の存在による中咽頭扁平上皮がん発症のリスクは白人で98.2倍、黒人で17.2倍であったことを意味する。

本報告の筆頭著者である米国ベセスダ の国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部門(Division of Cancer Epidemiology and Genetics)上席研究者 Aimée Kreimer医師は次のように述べる。「最近になってがんと診断された患者ほどHPV抗体検出率が高いことも判明し、これはHPV16が原因の中咽頭がんが増加しているという知見と一致します。1995年以前にHPV抗体が検出された患者もいますが、比較的まれです」。

年齢40~80歳でHPV16抗体が陽性となる傾向があり、抗体陽性となる年齢の中央値は52歳、中咽頭扁平上皮がんと診断された年齢の中央値は62歳であった。症状があらわれる前に中咽頭扁平上皮がんを判定する検査には、エビデンスに基づく適切な方法がないため、症状が発現する前の早期に中咽頭扁平上皮がんを検出する目的でHPV16抗体を使用できるようにするには、さらに研究が必要である。

Kreimer医師は次のように述べている。「HPV16抗体はがんのリスクが高い人々を特定できるかもしれませんが、現状ではスクリーニングにおいて抗体陽性となった場合に次に実施できる主要な手段がありません。また、抗体マーカーはがんを発症する可能性がある人とそうでない人々の識別に適しているものの、中咽頭がんはきわめてまれであるため、多くの偽陽性が生じる可能性大です」。

Johansson医師は次のように締めくくっている。「今後は、HPV16抗体陽性となった方のフォローアップに最も適した方法、および前がん病変を特定する方法の有無や最終的に中咽頭扁平上皮がん 発症リスクを低減する選択肢を中心に研究を進めます。つまり、このバイオマーカーを臨床で使用できるようにするには、やらなければならないことがたくさんあります。HPVワクチン接種がHPV関連がんの予防に期待される一方で、ワクチンにより中咽頭がん低減に効果があるかの結果が得られるまでには何十年もかかります」。

HPV16が原因の中咽頭がんがここ数十年で増加した理由には、20世紀半ば頃に性行為の営み方が変わってきたこと、および扁桃摘出術の減少に伴い、ウイルス感染を受ける扁桃組織が、摘出された場合よりもより多く残存していることが挙げられる。

本研究の限界として主なものに、研究に参加した患者群間の違いが挙げられる。例えば、最初の採血から中咽頭扁平上皮がん 診断までの期間が最も長い群はノルウェーの患者群であり、その他の患者群では短期間で少数回の採血しか実施されていなかった。

注釈
(1) “Timing of HPV16-E6 antibody seroconversion before OPSCC: findings from the HPVC3 consortium”, by A.R. Kreimer et al. Annals of Oncology. doi: 10.1093/annonc/mdz0138

(2) 中咽頭がんは鼻のすぐ後方にある咽頭内部で発症し、舌根および扁桃に広がる。今でも比較的まれな癌である。全世界で約500,00例ある頭頸部癌の一種である。女性と比較して男性で約2倍多い。

(3) 中咽頭扁平上皮がん患者743人中、66%が欧州、30%が米国、4%がオーストラリアの患者であった。

 

本研究は、HPV16抗体検査開発者であるドイツハイデルベルクGerman Cancer Research Centre(DKFZ)の感染症・がん疫学部(Infection and Cancer Epidemiology)長 であるTim Waterboer医師と共同で実施された。

 

 

翻訳石岡優子

監修松本恒(放射線診断/仙台青陵クリニック)

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