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HER2陽性乳がんに対する治療の軽減(de-escalation)には個別化が必要

HER2陽性乳がんの女性に対する治療の軽減(de-escalation)アプローチには患者ごとの個別化が必要であるとイタリア、ミラノにあるヨーロッパがん研究所のCarmen Criscitiello医師は述べている。5月2日~4日、ドイツ、ベルリンで開催されるESMO乳がん学会2019(ESMO Breast Cancer congress 2019)の最新研究結果プレゼンテーションの場で発表される。

「抗HER2療法の導入により、HER2陽性の早期および進行乳がんで大きな生存利益がもたらされました。したがって現在は治療の頻度と副作用を軽減することが必要とされています。しかし、優先すべきは、どの患者で生存利益を減ずることなく毒性の強い治療を減らすことが可能かを突き止めることです」とCriscitiello医師は述べた。

HER2陽性転移性乳がんに対する一次治療から化学療法を省くという治療の軽減(de-escalation)がPERNETTA試験で試みられた。以前の報告のとおり、治療の軽減により2年全生存率が低下することはないが無増悪生存期間が大幅に短縮される。

第2相試験であるPERNETTA試験では、210人の患者をトラスツズマブ+ペルツズマブのみの群、またはトラスツズマブ+ペルツズマブと化学療法併用の群のいずれかに無作為に割り付け、増悪までこれらの治療を行った。増悪後は両群とも二次治療としてT-DM1療法を施療した。主要評価項目である2年時の全生存率はトラスツズマブ+ペルツズマブ抗体療法のみの群で77%、トラスツズマブ+ペルツズマブ抗体療法と化学療法併用の群で76%であった。一次治療後の無増悪生存期間は抗体療法のみの群で8.4カ月、抗体療法と化学療法併用の群で23.3カ月であった。

ESMO乳がん学会2019で本日明らかになった新たな知見から、ホルモン受容体の状態のいかんにかかわらず結果は同様であったこと、また一次治療中の全QOLについても両群間で同様であったことが示された。(しかし、有害事象および患者から報告された症状を解析したところ、抗体療法のみの患者の方が毛髪脱落、口内炎、悪心、疲労が少なかったことがわかった。

無増悪生存期間において両群間で上記の相違が示されたことを受け、治験医師たちは予測因子の探索に乗り出した。無増悪生存期間をほとんどあるいは全く短縮することなく分子標的薬のみで治療することが可能な患者を同定するための予測因子である。これらの医師たちはPAM50検査を用いてPERNETTA試験参加者全員の腫瘍プロファイルを調べている。

筆頭著者であるドイツ、ウルム大学病院のJens Huober教授は次のように述べた。「術前薬物治療段階でのHER2陽性乳がんに関する試験から、HER2-enriched型が抗HER2療法に対する感受性がもっとも高いことが示されました。このことは進行再発事例にも当てはまると推測されます。もし、HER2-enriched型で無増悪生存期間の差がより小さければ、一次治療から化学療法を省くことはHER2-enriched型の患者にとって良い選択となる可能性があります」。

PERNETTA試験は、一次治療で2剤による抗HER2療法、二次治療でT-DM1療法を受けるHER2陽性転移乳がん患者に対する一次治療から化学療法を省いても安全であるかを検証するために実施されたとHuober教授は述べた。「われわれは2年全生存率に着目しました。なぜならもし最大限の治療を行わなければ患者を早期に亡くしてしまうのではと医師は危惧するためです。無増悪生存期間は短くなりましたが、長期的にみて全生存期間には影響するとは思えませんでした。全身の腫瘍量が低度~中等度の場合、ひとつの選択肢として一次治療から化学療法を省くことについて患者と話し合うことは可能かもしれません。しかし、抗体療法のみで治療を開始しても早期に死亡するリスクはないという確証を得るために第3相試験を実施する必要があります」。

ESMOスポークスパーソンであるCriscitiello医師は、この分野の試験では治療の頻度の最適化を試みるべき特定患者集団を選択することが重要であると強調し、PAM50検査はHER2-enriched型の患者の選定に有用であることに同意した。また「PERNETTA試験では生物学に基づく患者の選択は行いませんでした」と述べ、この試験の主要評価項目の選択についても言及した。「無増悪生存期間は、化学療法を用いる場合の3分の1近くにまで短縮されるという結果になりました。短期全生存率という評価項目からは、有意にもっとも有効であることが立証されている治療を行わないことで長期生存率に影響が及ぶかどうかを把握することはできませんでした。また、全生存率の差を検出するには症例数が非常に少ないです。HER2陽性乳がんにおいて化学療法を避けるということは患者や治験医師にとって魅力的です。しかし、安全でなければなりません」。

今、乳がんに関しては学会による試験が必須であるとCriscitiello医師は付け加えた。「いくつかの新たな治療法が利用可能になったおかげで乳がん患者の予後は劇的に改善されました。しかしその結果、乳がんへのさらなる投資、特に治療の軽減を試みる試験への投資に対する産業界からの関心が弱まるかもしれません。したがって、患者や医師に直接関わる課題、たとえば、治療の軽減によって毒性がより低く負担のより少ない治療を目指す、またこの方法からもっとも利益を得られる患者を同定するといった課題に関する研究には学会支援による独立した試験が非常に重要となります」。

参考文献

(1) Abstract 288PD ‘PERNETTA – A non comparative randomized open label phase II trial of pertuzumab (P) + trastuzumab (T) with or without chemotherapy both followed by T-DM1 in case of progression, in patients with HER2-positive metastatic breast cancer (MBC): (SAKK 22/10 / UNICANCER UC-0140/1207)’ – Jens Huober et al. – Presented at the ESMO2018 Congress. Annals of Oncology, Volume 29, 2018 Supplement 8, doi:10.1093/annonc/mdy268

(2) Abstract -150O_PR ‘Pertuzumab (P) + trastuzumab (T) with or without chemotherapy both followed by T-DM1 in case of progression in patients with HER2-positive metastatic breast cancer (MBC)- The PERNETTA trial (SAKK 22/10), a randomized open label phase II study (SAKK, UNICANCER, BOOG)‘ will be presented by Jens Huober during the Proffered Paper session 1 on Thursday, 2 May, 14:30 to 16:00 (CEST) in the Vienna Hall. Annals of Oncology, Volume 30, 2019 Supplement 3, doi:10.1093/annonc/mdz095

翻訳八木佐和子

監修小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人 石川記念会HITO病院)

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