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遺伝子検査を受ける卵巣がんや乳がん患者は少ない

卵巣がんや乳がんと診断された女性にとって、遺伝子検査を受けることは、親族への影響を含め、二次がんに対する治療法の決定や長期間の検診の指針になりうる重要な情報を得られる。しかし、卵巣がんや乳がんの女性患者の多くはこうした遺伝子検査を受けていないことが新たな研究(以下本研究)から示唆される。

カリフォルニア州とジョージア州での大規模がん登録による女性患者83,000人以上に関するデータ分析(NCIが資金提供)から、2013~2014年、乳がん女性患者の約4分の1と卵巣がん女性患者の約3分の1しか、乳がんや卵巣がん感受性遺伝子における既知の有害な遺伝子変異(バリアント)に関する検査を受けていないことがわかった。

本研究から、遺伝子検査を受けた患者のうち、乳がん患者の8%と卵巣がん患者の15%に「行動変容をもたらす」 遺伝子変異、すなわち、治療法、検診、およびリスク軽減対策を変更する正当な理由となるバリアントが認められたこともわかった。

Journal of Clinical Oncology誌2019年4月9日号に掲載された本研究結果から、特に卵巣がん女性患者における遺伝子検査受診率が低いことは驚くべきだ、と筆頭著者であるAllison Kurian医師(スタンフォード大学医学部)は述べた。

「遺伝子検査は非常に低額で利用できるようになっています。また、本研究ではさらに低額になっている期間が含まれるので、現在でも遺伝子検査受診率が低いことは驚くべきことです。このことから恐らく費用以外の障壁があることが示唆されます」とKurian氏は述べた。

本研究は卵巣がんと診断された女性間の遺伝子検査受診率における人種格差や社会経済的格差も示した。遺伝子検査受診率は、黒人女性では白人女性よりも著しく低く、また、無保険患者では被保険患者よりも低かった。

「こうした結果は格差を明らかにしていますが、格差は考えていたよりも遥かに重大です」と同氏は述べた。

遺伝子検査を受ける理由とその推奨

卵巣がんの約15%は遺伝性の変異により引き起こされ、いくつかの医療機関は、卵巣がんと診断された女性全てが遺伝子検査を受けるように推奨している。

乳がん女性患者に対する遺伝子カウンセリングや遺伝子検査の推奨は、通常がん診断時の年齢や家族歴などの要因により限定される。しかし、乳がんと診断された女性全てが遺伝子検査を受けられるよう米国乳腺外科協会などの一部の団体は推奨している。

卵巣がんや乳がんの女性患者が遺伝子検査を受ける理由が多数存在するとKurian氏は解説した。

「特定の遺伝性の変異を有する患者に対し、新薬であるPARP阻害剤が有益な可能性がわかっています」とKurian氏は述べた。

米国食品医薬品局は3種のPARP阻害剤をBRCA1とBRCA2関連卵巣がん治療薬として、2種をBRCA1/2関連転移乳がん治療薬として承認している。BRCA1とBRCA2の有害な遺伝子変異は乳がんや卵巣がん、および他の数種類のがんのリスクを増加させることが知られている。

「検査を受ける2つ目の理由は、乳がんや卵巣がん関連遺伝子変異を有する患者では二次がんのリスクが増加するので、問題になりうる二次がんを見落とさないようにするためです」とKurian氏は述べた。

「遺伝子変異の結果は患者の親族にとっても命を救う情報になりえます。女性が遺伝子変異保因者であることがわかると、あらゆる第一度近親者は男女問わず50%の確率で同一の変異を有する可能性があります」と述べた。

したがって、遺伝子検査により、保因者である家族に対して、検診と予防を促進することが可能になると解説した。

「基準になる」集団に基づく遺伝子検査に関する研究

本研究には、2013~2014年にカリフォルニア州とジョージア州で乳がんや卵巣がんと診断され、そのデータがNCIのSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)登録にて報告された20歳以上の女性全てが含まれた。乳がん患者は77,085人で、卵巣がん患者は6,001人であった。SEER登録データは、本研究実施期間中にこの両州で遺伝性すなわち生殖細胞系列変異に対する大半の遺伝子検査を実施した4カ所の 医療施設からの結果と関連づけられていた。

Kurian氏らによると、本研究は医療施設で確認された検査結果を有する米国での遺伝性がんの遺伝子検査に関する初の集団研究である。

「私たちはこれまで、標準的な検査が行われているかどうかを確認するための基準を提供するこうしたつながりを活用できませんでした。このことこそが、本研究が真に重要な理由です。これらのデータを活用することによって、われわれの現状と今後の方向性を検討することができます。今後遺伝子検査の適切な使用が増すよう、私たちはこうした情報を提供し続けます」と本研究の共著者であるLynne Penberthy医師(NCI監視研究プログラム参事 )は述べた。

「SEER登録データを遺伝子検査のデータと関連付けることにより、“卵巣がん患者において遺伝子検査が行われていないことを示す実に客観的なデータ”が示されました」とSusan Domchek医師(ペンシルベニア大学アブラムソン・がんセンターBRCA遺伝子関連がん研究センター 事務局長、本研究には不参加)は述べた。

「遺伝子検査は卵巣がん患者全てに推奨されます。従って、その3分の1しかこの期間に検査を受けていなかったという事実は、彼女らを適切に検査していなかったという明確な実例です」とDomchek氏は言い添えた。 

予想外の格差と遺伝子検査の低受診率

乳がん患者で遺伝子検査受診率における著しい人種格差や社会経済的格差は認められなかったが、卵巣がん患者ではその受診率は黒人女性の方が白人女性よりも(21.6%対33.8%)、無保険女性の方が被保険女性よりも著しく低かった(20.8%対35.3%)。

遺伝子検査受診率が卵巣がん患者で低く、受診率において人種格差や社会経済的格差が存在する理由を理解することは困難であるとKurian氏は述べた。

「卵巣がんの遺伝子検査はこれまで広く研究されていませんでした。すなわち一般集団レベルでは全くなく、また、このような多様な集団においても研究されていませんでした。したがって、障壁に関して知らないことが多くあります」とKurian氏は言い添えた。

例えば、乳がん患者を診療する医師と同程度に、卵巣がん患者を診療する医師 が遺伝子検査を知っているかどうかはわからないとKurian氏は述べた。遺伝子検査費用に関する患者内の誤解もあるかもしれないとDomchek氏は述べた。

「しかし、遺伝子カウンセリングや遺伝子検査に関する情報に辿り着きにくいと、こうした誤解を解くことは難しいかもしれません。従って、(カウンセリングや教育を)さらに整備し、卵巣がん患者全てが確実に遺伝子検査を受けるようにする方法を明らかにすることが、現行の研究の主題です」。

NCIは、遺伝子検査ががんリスクの高い可能性のある家族を特定するのに有用かどうかを確かめるために、遺伝子検査を卵巣がんの既往歴や家族歴を有する女性に行う研究に資金提供していると指摘した。

BRCAだけではない

BRCA1とBRCA2遺伝子のバリアントが本研究では最も高い頻度で検出されたが、医療施設はがん遺伝子パネル検査を使用して、他の遺伝性がん関連遺伝子変異も調べている。

「この結果から、こうした遺伝子変異の頻度がより広く理解されます」とKurian氏は述べた。

がん遺伝子パネル検査が他の注目すべき結果をもたらしたとPenberthy氏は述べた。

「実に興味深いことは、BRCA1とBRCA2が本研究で検出された最も高い頻度の生殖細胞系列変異である一方、それほどまれではない頻度で、治療標的となりうる他の変異が検出されました」とPenberthy氏は解説した。

例えば、本研究で乳がん女性患者60人にCDH1、PALB2、またはPTEN遺伝子変異が検出された。「こうした変異は乳がんリスクの著しい増加と関連します。したがって、こうした変異を有する女性は、乳房に腫瘍が見つけるよりは、両方の乳房の切除手術を受ける(リスク減少両側乳房切除術)ことを検討するかもしれません」とKurian氏は述べた。

また、広く用いられている診療ガイドラインでは、ATMやCHEK2といった特定の遺伝性の遺伝子変異を有する乳がん患者に対しては、二次がんに対するさらなる集中的な検診を受診するよう推奨している。本研究では、ATMとCHEK2の遺伝子変異が乳がん女性患者でそれぞれ、0.7%と1.6%の割合で検出された。

CHEK2、PALB2、および他の数種類の遺伝子の変異が乳がん女性患者と卵巣がん女性患者の両者で検出された。こうした遺伝子を卵巣がんリスクの増加と関連させる研究はまだ存在しないので、さらなる研究が必要になるとKurian氏らは記した。

しかし、本研究からの最も重要なメッセージは、検査が必要なはずの卵巣がん患者において遺伝子検査の受診率が低かったことだとDomchek氏は述べた。

「(遺伝性の遺伝子変異に関する)集団検査をすべきであるとか、どの遺伝子を検査すべきか、どのように検査するなどを議論すべきでないと言っているのではありません。しかしまず、お願いですから、遺伝子検査が絶対に必要な人々に対しては検査をしましょう。それは、卵巣がんが家族に影響を与えるだけでなく、現在ではPARP阻害剤による一次治療があるからです。すべての卵巣がん患者は自分のBRCA1やBRCA2の状態を知るべきです」と述べた。

翻訳渡邊 岳

監修原野謙一(乳腺・婦人科腫瘍内科/国立がん研究センター東病院)

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