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PI3Kα特異的阻害薬アルペリシブ、初の試験で乳がん患者の転帰を改善

ESMO 2018 プレスリリース

ESMO 2018で報告された最新の結果によれば、ホルモン(HR)陽性HER2陰性進行乳がん患者を対象に、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)α特異的阻害薬アルペリシブを用いて患者に共通する遺伝子変異を標的とすることで、無増悪生存期間が有意に改善された。

「アルペリシブは、共通の遺伝子変異を持つ乳がん患者のグループに対して初めて効果を発揮した薬剤です」と、腫瘍内科医でありフランスのヴィルジュイフにあるギュスタブ・ルシー研究所の腫瘍内科学教授のFabrice  André氏は述べる。「HER2タンパク質を標的とした薬剤はこれまでにもありましたが、メラノーマや肺がんとは異なり、がんゲノミクスは乳がんの実際の治療には導入されていませんでした」。

HR陽性乳がん患者の約40%がPIK3CA変異を有するが、この遺伝子変異がPI3K経路を活性化し、がんの進行および内分泌療法に対する耐性をもたらす。アルペリシブ(BYL719)は、PI3Kのαアイソフォームに特異的に作用する経口のPI3K阻害剤である。「乳がんにおいて変異が起きているのはPI3キナーゼのαアイソフォームですが、これまでのPI3K阻害剤は4つのアイソフォームすべてを標的としていたため、毒性が高かったのです」とAndré氏は指摘する。アルペリシブを試みた過去の第1相試験では有効性に関する有望な予備的結果および管理可能な安全性プロファイルが示されている。

SOLAR-1試験では、HR陽性HER2陰性進行乳がんの閉経後女性および男性572人が無作為化された。うち341人は、腫瘍組織の検査時にPIK3CA変異を有していた。試験参加者は良好な全身状態(米国東海岸がん臨床試験グループ(ECOG)の定義によるパフォーマンスステータス(PS)が1以下)であり、進行乳がんに対して1つ以上のホルモン療法を受けているが、化学療法による治療歴はなかった。また、フルベストラント、PI3K、AktまたはmTOR阻害薬のいずれの投与も受けたことがなく、他のがん治療を同時進行で受けていなかった。

試験参加者は、フルベストラント(500mg を 28日毎、1サイクル目のみ1日目、15日目に投与)を筋肉内投与するのに加え、アルペリシブ(300mg /日)群またはプラセボの経口投与群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、PIK3CA変異が腫瘍組織から検出された患者における、各治験実施施設で評価された無増悪生存期間(PFS)であった。

その結果、アルペリシブ群のPIK3CA変異を有する患者ではプラセボ群と比較して無増悪生存期間が約2倍であることが示された。追跡期間中央値20.0カ月で、無増悪生存期間中央値は、アルペリシブ群で11.0カ月、プラセボ群では5.7カ月であった(ハザード比0.65, 95% 信頼区間 [CI]: 0.50-1.25、p=0.00065)。

プラセボ+フルベストラント群の全奏効率は16%(p = 0.0002)であったのに対し、測定可能病変を有するPI3KCA変異を有する進行乳がん患者262人の3分の1以上(36%)がアルペリシブ+フルベストラントに反応した。副次的評価項目であるPI3KCA変異を伴わない患者における各治験実施施設で評価された無増悪生存期間は、予め定義された概念実証の評価基準(ハザード比0.85、95% 信頼区間 [CI]:0.58-1.25、中央値7.4-5.6カ月)を満たさなかった。

André氏は、「アルペリシブは、PI3KCA変異を有するHR陽性HER2陰性進行乳がんの患者の寿命を延ばす可能性を秘めています」。「追跡期間が短いため、現在のところ長期の延命効果の有無に関しては言及できません。しかし、アルペリシブは無増悪生存期間を延長しており、それが転帰の改善につながることを望んでいます」と述べている。

イタリア、プラトー病院の腫瘍内科学部門長であるAngelo Di Leo教授は、ESMOにおいて本研究に対して下記のようにコメントしている。「これはPIK3CA変異を有するHR陽性HER2陰性進行乳がん患者において内分泌療法とPI3K阻害剤を併用し、臨床的に意味のある有効性を示した初の臨床試験です 」。

また、Di Leo氏は「アルペリシブを内分泌療法とCDK4 / 6阻害剤の前に投与するのか、それらと同時に組み合わせるのか、または内分泌療法とCDK4 / 6阻害剤による治療後、疾患が進行した後に投与するのか、現在の治療アルゴリズムにこの薬剤をいつどのように組み込むべきかを理解することが次のステップとして不可欠です」と述べるとともに、「この試験における限界は、対象となった乳がんにおける標準治療になりつつあるCDK4 / 6阻害薬による前治療歴のある患者が少ないことです」と注意を促している。

アルペリシブの最も頻度の高い副作用は高血糖(André氏によれば、メトホルミンにより管理可能)、吐き気、食欲減退、発疹であった。André氏によれば、「生命にかかわる毒性やQOLに影響を与えると考えられる重大な毒性は見られませんでした。アルペリシブは化学療法の前に投与することが想定されているため、これは良い結果です」。

また、より大きな影響を考慮し、「この研究は患者の腫瘍の遺伝子プロファイル、具体的にはPI3KCA変異に基づいた治療が転帰を改善できることを示す初の研究として、乳がんの臨床ゲノム医学の扉を開くことになります」とAndré氏は述べている。

また、André氏は、「乳がんでは遺伝子検査を実施する必要があるため、これらの結果は実際の実地臨床に大きな影響を与えることでしょう」と予測しており、これについてDi Leo氏も「PI3K阻害剤が進行乳がん患者の治療選択肢になるとすれば、血漿サンプル(リキッドバイオプシー)を用いたPIK3CA変異の評価が標準診療となるでしょう。これは非侵襲的であるという点で非常に有利です」と同意している。

参考文献

  1. Abstract LBA3_PR ‘Alpelisib (ALP) + fulvestrant (FUL) for advanced breast cancer (ABC): results of the Phase 3 SOLAR-1 trial’ will be presented by Fabrice André during the Presidential Symposium 1 on Saturday 20 October, 16:30 to 18:20 (CEST) in Room 18 – Hall A2. Annals of Oncology, Volume 29 Supplement 8 October 2018
  2. Mayer IA, Abramson VG, Formisano L et al. A phase Ib study of alpelisib (BYL719), a PI3Kα inhibitor, with letrozole in ER+/HER2- metastatic breast cancer. Clinical Cancer Research 2017; 23;: 26-34.

翻訳高橋多恵

監修原野謙一(乳腺・婦人科腫瘍内科/国立がん研究センター東病院)

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