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まれな白血病における早期死亡率低下を目指した画期的臨床試験

「医療従事者を対象に腫瘍内科医が24時間体制のヘルプデスクを設置する」という臨床試験は類例に乏しい。米国国立がん研究所(NCI)が資金援助を行った画期的な臨床試験として上記のような取り組みがなされている。非常に稀なタイプのがんである急性前骨髄球性白血病(APL)患者に発生した重篤な臨床経過に対処することがヘルプデスク設置の目的である。

過去数十年における治療の進歩により、APLと診断された人々の生存期間は劇的に延長した。

そのような中、前述した24時間不休の体制でサポートを敷くことが治療初期数週間の APL 患者の生存をさらに改善させることに寄与するのではないかということを検証することがこの臨床試験の目的である。

国によっては APL 患者のおよそ3分の1が治療開始後1カ月以内に死亡する。APL そのものや APL の治療時に多発する合併症が死因の多くを占める。このような国と比べ、米国の状況は幾分よく、1カ月以内の推定死亡率は全体で約17%、55歳以上の患者では概ね25%となっている。

臨床試験の共同責任研究者であるジョージア医科大学、血液・腫瘍学科長のAnand Jillella医師は、「APL の初期治療は困難を伴うことがあります。ただし、はじめの1カ月目を乗り切れれば事実上の治癒に近いと考えられます。APL の(全)再発率は約2%なのです」と話す。

そこでJillella医師は、いくつかの大規模ながんセンターから APL の治療経験がある腫瘍内科医を集めてグループをつくり、一般の医療従事者がいつでも相談できる体制を整えた。相談の方法としては携帯電話、eメール、チャットがあり、APL の初期治療時に起こり得る致死的な合併症を患者が乗り越えられるよう、全米の臨床試験に参加している病院で治療にあたる臨床医をサポートしている。

特徴的な合併症と少ない患者数

APL の罹患数について最近のデータは米国に存在しないが、Jillella医師は年間およそ3,000症例と推測している。

APL は急性骨髄性白血病の一種で、かつては死に至ることが多く、難病と考えられていた。しかし数十年の研究によりAPL は治療が可能ながんの代表となった。

1990年代に中国で APL について最初に実施された研究結果に基づいて、全トランス型レチノイン酸 (ATRA) に抗がん剤を併用する治療や、三酸化二ヒ素(ATO) に抗がん剤を併用する治療の2つの方法が現在の APL 治療の主流となっている。併用される抗がん剤はアントラサイクリン系として知られる薬剤である。

今回の試験責任医師のひとりであるエモリー大学Winship がん研究所 (アトランタ州)のVamsi Kota医師は「APL が希少疾患であることに加えて、疾患自体や治療に伴って生じる合併症が多くの医療者にとって経験したことのないものということが APL患者の早期死亡の主たる要因と考えられます」と説明する。

「APL は非常に珍しく、腫瘍内科医でも治療経験はほとんどないことが多いのです。ほとんどの病院で治療する患者数は年間でおそらく5人未満、小さな病院では2~3年に1人くらいでしょう」と Kota医師は言う。

ATRA および ATO は有効性が高い一方で、様々な副作用が生じることもある。なかでも多いのは、分化症候群とよばれるもので、高熱や重度の体液貯留が生じることで急激な臓器不全を引き起こすことがある。

このような合併症が生じる原因を理解して最善の治療法を考えることは臨床医にとって難しい問題であるとKota医師は話し、以下のように指摘する。

「例えば APL 患者の発熱は、原因が感染症ではなく分化症候群の場合が多い。その際の治療選択はステロイドの投与です。しかし、一般的に感染症のある患者さんの治療にステロイドは使用されません。そこが落とし穴となり得るのです。状況判断を誤ってしまい、合併症に対する適切な治療ができなければ、あっという間に患者さんの身に危険が及ぶこともあり得るのです」。

成功モデルに従う

ECOG-ACRIN臨床試験グループと米国国立がん研究所腫瘍学研究プログラム(NCORP)に属する一部のセンターが共同して実施する国際共同臨床試験は Jillella 医師と Kota 医師がジョージア州とサウスカロライナ州で主導した臨床試験をモデルにして発案された。

試験の実施前の数年間、Jillella医師を含むジョージア医科大学の研究者らは自らが所属する病院とその他数カ所の大規模病院で亡くなった APL 患者のカルテを徹底的に検証した。

「カルテの検証により問題点がいくつも浮かび上がりました。中には患者の合併症に対する治療について『もっとこうした方がよかったのではないか』と思われるものもありました」とJillella医師は述べている。

Jillella医師らは検証結果をもとに APL患者の治療に関する診療ガイドラインを作成した。「APL の治療には迅速な決断が不可欠であることを考慮すると、15ページの診療ガイドラインでは3~4年に1度しか APL の治療を経験しない医師たちを十分にサポートすることはできないと考えました。連休に入る前の金曜日に患者が危険にさらされるかもしれませんしね」とJillella医師は話す。

Jillella医師らは時間をかけて改良を加え、さらにコンパクトにまとめた 2ページのチェックリストを作成した。病院のスタッフが診療ガイドラインとこのチェックリストを使用したところ、ジョージア医科大学では治療した9~10人の APL 患者で早期死亡が発生しなかったのである。

「『うまくいったかな』と思いましたね」とJillella医師は当時を振り返った。

ジョージア医科大学のチーム(Kota医師も当時加わっていた)は、ジョージア州とサウスカロライナ州で白血病患者の治療を行うほぼすべての医療機関 (および近隣州の医療機関もいくつか含まれる) にこの手法を広めた。「私たちは『APL 患者がひとりでもいたら連絡をください。いつ何時でも構いません。力になります』と声をかけたのです。この呼びかけは好意的に受け止められました。医師と医師の間のパートナーシップとはこういうことなのでしょう。腫瘍内科医はこういった考えを信じて、自発的に患者の臨床経験を教え合うのがよいのではないでしょうか。目的は患者さんの予後改善ですから…その思いが通じたのか、沢山の問い合わせをいただいています」とKota医師は話す。

ジョージア医科大学の努力により成し遂げられたこの成果は、後に何倍にも膨らむこととなった。4年以上にわたり取り組んだ結果、大学病院や一般病院で治療を受けた APL 患者165にのうち早期死亡はわずか11人(6.6%) にとどまった。このうち3人は特にリスクが高いとされる70歳以上の患者であった。

全米を対象とした新たな臨床研究に参加する研究者らは、ジョージア医科大学の手法とほぼ同じ手法を踏襲している。この臨床試験でヘルプデスクを担当している医療従事者は6カ所の大規模な大学病院に在籍する腫瘍内科のエキスパートであり、比較的多数の APL 患者の治療経験を有する。さらに前述のガイドラインとチェックリストにも精通している。

Kota医師によれば、ヘルプデスクの担当者は、それぞれの地域に属する臨床試験登録の NCORP各センターを訪問したり電話連絡をしたりしている。これによって各医療機関のスタッフに対する臨床試験の指導がなされているというのだ。

この臨床試験の登録目標人数は200人であり、すでに9名の患者が登録している。臨床試験に参加している医療現場の臨床医は APLを新規に診断してから3日以内にヘルプデスクの担当医まで連絡をするよう求められている。

「治療の初期段階から臨床医をサポートして合併症を防ぎたいと考えています」とKota医師は語る。

基準を守って命を救う

ミルウォーキーにあるSt. Luke’s医療センターの腫瘍科内科医であるRubina Qamar医師は、Jillella医師と相談してこの臨床試験に参加する患者をこれまでに1人担当した。Qamar医師はSt. Luke’sに在籍している5年間で、APL 患者5人に治療を行ったと話している。

「Jillella医師は信じられないくらい親切で、メールの質問にもすべて答えてくれました。それだけでなく、相談後も患者さんのフォローアップ方法について一緒に考えてくれたのです。幸いこの患者さんの状態はとてもよくなりました」とQamar医師は述べる。

Qamar医師はこう続ける。「臨床医が対処困難な症例や普通経験しない状況に遭遇した場合などにおいて、国を代表する医療専門家に相談することは珍しくありません。しかし、臨床試験という形で常時相談可能な医療専門家グループにアクセスできるというのは初めての経験です。」

「その上で St. Luke の医療チームは、アウトラインが分かりやすくて標準化されている診療実施計画書をもとに診療していくというやり方に賛同し、この臨床試験に是非参加したいと思ったのです」とQamar医師は話す。

 

「この研究は、ほとんどのがん臨床試験が検証したい内容とはまるで違うものだと思います」とKota医師は強調する。

「この試験は新たな治療法の検証でもなければ、標準治療を変えていくことを目的とする試みでもありません。ある患者グループに対して治療の水準を保持することを目的とする試みなのです。患者さんが適切なケアを受けることができれば患者さんの治療目標を達成できるのを確かめることがこの臨床試験の目的なのです。

翻訳 岡部師才
監修 佐々木裕哉(血液内科・血液病理/久留米大学病院)
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原文掲載日 1/3/2018

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