2011/01/25号◆スポットライト「小児脳腫瘍、よりよい治療を模索して」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/01/25号◆スポットライト「小児脳腫瘍、よりよい治療を模索して」

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2011/01/25号◆スポットライト「小児脳腫瘍、よりよい治療を模索して」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年1月25日号(Volume 8 / Number 2)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

小児脳腫瘍、よりよい治療を模索して

癌治療の有害な副作用を最小限に抑えることはいかなる場合でも重要だが、とりわけ小児脳腫瘍治療では重要である。小児において最も頻度が高い悪性脳腫瘍である髄芽腫の大多数の症例は治癒可能であるが、放射線治療や化学療法により若年のサバイバーに認知障害が生じることがあり、その後長い生涯において健康障害につながることもあるからである。

新規治療の発見とすべての患者の治療改善のために、DNAシークエンス法やその他の新たな方法を用いて腫瘍ごとの特徴を明らかにする試みが行われている。その目的は腫瘍の背景にある生物学に即したよりよい患者分類の実施と、このような情報に基づいた新規治療の開発である。

「臨床医であるわれわれはみな、より洗練された髄芽腫治療を見つけ出そうと頑張っています。治癒できない患者がいることも事実ですし、発達過程の脳にとって治療はきついものだからです」とテキサス小児がんセンターおよびベイラー医科大学のDr. Will Parsons氏は述べた。同氏は先月刊行されたScience誌の髄芽腫に関する遺伝学的研究の筆頭著者である。

この報告と先月発表された別の2件の報告は疾患発生原因を遺伝および細胞レベルで検討したものであった。Science誌掲載論文は髄芽腫の「遺伝的見取り図」を調査するものであったが、別の報告(報告1報告2)では疾患の分子学的分類が説明され、これらの腫瘍を調べる新たな方法が紹介された。

「この3件の研究は数多くのゲノム学に基づく研究の先端を行くものですから、近い将来、髄芽腫の診断基準や髄芽腫患者の新規治療の開発方法は再定義されるでしょう」とNCI癌治療評価プログラム(CTEP)のDr. Malcolm Smith氏は述べた。Smith氏は研究に参加していない。

髄芽腫が複数の発症要因を持つ疾患であることは、医師の間では長く知られていた。比較的容易に治癒する腫瘍がある一方で、とりわけ再発性の腫瘍のなかには治療抵抗性を示すものも存在する。このようなばらつきの原因が完全に理解されたわけではないが、遺伝学的研究から髄芽腫にはそれぞれ特徴的な遺伝的・臨床的性質を持つタイプがすくなくとも4つ存在することが示された。

小児腫瘍のプロファイリング分析

「治療成績に影響を与えることなく安全に治療強度を下げることができる子どもたちをわれわれが知ることができるならば、これは実に大きな第一歩となります」とParsons氏は述べた。「2歳、3歳、あるいは4歳の子どもに放射線治療を行うことは、潜在的に重大な健康障害をもたらしかねないということです」。

この遺伝学的研究の中で、ジョンズホプキンス大学シドニー・キンメル総合がんセンターのDr. Victor Velculescu氏らは、髄芽腫患者から採取した22の腫瘍における遺伝子変異と遺伝子コピー数の変化を調べた。研究者らは乳癌、大腸癌、そして成人で最も頻度が高い脳腫瘍である神経膠芽腫などの成人癌に関する遺伝学的な先行研究にも同様の手法を取り入れた。(先週、研究チームは膵神経内分泌腫瘍の特徴を分析した報告書を発表した。)

おそらくこの研究結果で最も注目される点は、この小児癌で認められた遺伝子変異数が成人癌で認められる数よりも少ないことである。平均して髄芽腫では11の遺伝子変異が認められ、そのうち癌において重要な役割を果たしているのは1つ、または複数の遺伝子異常であろうと考えられるが、対照的にこれまでの研究から成人癌に認められている変異は50〜100の変異であると研究者らは報告した。

「遺伝子変異数が少ないことは小児癌すべてにおける一般的特徴であろうとわれわれは考えています」とVelculescu氏は述べた。理論的には、腫瘍の変異が少なければ、研究者は研究対象とする遺伝子変異の範囲を狭めることにより、ある疾患における最も重要な変異に焦点を絞りやすくなると同氏は続けた。

癌におけるエピジェネティック変化

NCIの資金提供による遺伝学的研究により、Wntシグナル経路やhedgehogシグナル経路における変異といった髄芽腫に関してこれまで知られている変異の存在と一般的頻度が確証された。しかし研究者は幾つかの腫瘍でMLL2 遺伝子とMLL3遺伝子にこれまで知られていなかった変異が潜んでいることも発見した。これらの変異はヒストンのメチル化に関わっている。ヒストンのメチル化はクロマチン構造とその他の遺伝子制御に影響を与えるエピジェネティック(非遺伝的、後成的)過程である。

これらの変異が髄芽細胞腫で果たす役割に関してはまだ知られていないが、他の癌におけるエピジェネティック過程関連の遺伝子変化に関する最近の報告と、一致する知見である。「最近の他の研究とともに考えると、この新たな知見は後成的な遺伝子修飾が重要な発癌経路の一つとなっていることを示しています」とScience誌掲載論文の共著者であるNCIの癌ゲノム学オフィスのDr. Daniela Gerhard氏は述べた。

「しかしデータの収集は始まったばかりですから、われわれはこれらの変化の重要性を判断しなくてはなりません」と同氏は続けた。例えば、エピジェネティック変化が疾患を引き起こすものであるのか、もしくはこれらの変化が腫瘍の生存にとって重要なものであるのかといったことは知られていない。Gerhard氏は、これらの研究ははじめてゲノムに目を向けたというだけのものであると慎重に述べたうえで、「これからももっと多くの遺伝的変化が髄芽腫で発見されます」と語った。

4つの特徴的サブタイプ

2番目の研究でトロントの小児病院(Hospital for Sick Children)のDr. Michael Taylor氏らは、100以上の腫瘍における遺伝子発現とDNAコピー数の変化に対する解析に基づき、髄芽腫の4つの明確なサブタイプを同定した。それぞれのサブタイプには、人口学的特性、臨床的特徴および治療成績に明確な特徴があり、腫瘍の遺伝子シグネチャーや異常パターンにも明確な特徴がある患者が含まれていた。

この知見はJournal of Clinical Oncology(JCO)誌に発表された。 Smith氏はJCO掲載論文で同定されている腫瘍のタイプはその他の研究者らの研究成果からも裏づけられると指摘した。腫瘍タイプは患者の特徴的な転帰と関連しているため、今後これらの腫瘍分類を用いて医師の治療決定を行える可能性があると同氏は続けて述べた。例えば、とりわけ悪性度の高いタイプの患者に対しては治療強度を上げることが可能であろうし、初回治療での奏効の可能性が高いとされる患者では不要な治療は保留しておくことが可能となろう。

予期せぬ起始細胞

3番目の研究では、髄芽腫のあるタイプにおいて、これまでの知見と異なる起始細胞が一つ同定された。先行研究では、髄芽腫は腫瘍が発生する場所である小脳が起源であると考えられてきた。しかし、聖ジュード小児研究病院のDr. Richard Gilbertson氏らは、Wntシグナル経路の変化に関連する腫瘍が小脳ではなく背側部脳幹に由来することを見出した。

「われわれは起始細胞が異なっているかもしれないという仮説を立てていましたが、起始細胞の所在が小脳ですらないということは驚くべきことでした」とGilbertson氏は述べた。この知見は「髄芽腫の異なるサブタイプは本質的に別々の疾患であるということをありのままに示すものです」と同氏は述べた。

Nature誌で研究者らは、これらの疾患に対しては異なる治療法が求められることになると結論づけた。研究の一部で同研究チームはこれらの腫瘍の生物学的研究をさらに進めていくうえで利用できるマウスモデルを開発した。

標的治療の試験

髄芽腫の生物学的洞察により、同疾患への標的治療の臨床試験がすでに開始されている。Hedgehogシグナル経路を阻害するGDC-0449と呼ばれる試験薬の評価が再発性髄芽腫患児に対して行われている。昨年夏に研究者らは、12人の若年患者を含む第1相試験において同薬の安全性と良好な忍容性が認められたとの報告を行った

「目下のところ、これらの患者へ導入できる新規治療があることに期待と興奮を抱いています」と聖ジュード小児研究病院のDr. Amar Gajjar氏は述べた。同氏はNCIが依頼した現在行われている同薬に関する小児脳腫瘍コンソーシアム臨床試験の責任者である。

今のところ、これまで発表されている研究ではWntサブタイプ患者の治療成績は極めて良好な傾向にあると同氏は述べた。「ですから、これらの患者に対する臨床的課題は、良好な治療成績を維持しつつも化学療法の強度を慎重に慎重を重ねたうえで下げていけるかということになります」。

髄芽腫が最初に報告された1925年以来、これらの腫瘍の生物学に関する研究成果は膨大な量に上る。かつては一様に致死性であった髄芽腫であるが、医師たちは患者の4人に3人を治癒できるようになっている。複数の研究者が指摘しているように、現在の主要な課題は、現在の生存率をさらに向上させつつ、一方で治療の副作用を軽減していくことである。 また、今後は髄芽細胞腫の各腫瘍分類に認められる分子生物学的多様性が、実は「4つの別個に独立した疾患を生じさせている」のではないかという発想を探っていくことができるとTaylor氏らは報告をまとめている。

— Edward R. Winstead

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窪田 美穂 訳
寺島 慶太(小児科/テキサス小児病院)監修
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