2011/01/25号◆特別リポート「アスピリンは発癌リスクと死亡率を低下させるか」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/01/25号◆特別リポート「アスピリンは発癌リスクと死亡率を低下させるか」

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2011/01/25号◆特別リポート「アスピリンは発癌リスクと死亡率を低下させるか」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年1月25日号(Volume 8 / Number 2) 日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

アスピリンは発癌リスクと死亡率を低下させるか

一錠のしかも安価な薬を日常服用するだけで、心臓発作や作や脳卒中のリスクが減るだけでなく、数種類の癌の発生率と死亡率も下げられるかもしれない。この可能性は実に魅力的であり容易には退けがたい。

その錠剤とはアスピリン(*アセチルサリチル酸)である。アスピリンが数種の癌を予防し、死亡リスクを下げる可能性があることは、いくつもの研究で示唆されてきた。アスピリンの制癌効果を支持するデータが最近さらに追加された。過去最大規模の分析となる、アスピリンの定期的な服用に関する8件の臨床試験のメタアナリシスによりさまざまな種類の癌で死亡率の低減に相当の効果を示したという結果が、Lancet誌電子版2010年12月6日号に掲載された。

例に漏れず、この話もそれほど単純なわけではない。たとえば、メタアナリシスに使用した臨床試験のいずれを取っても、アスピリンが癌の発生率や死亡率を低下させるかどうかを評価するためにデザインされたわけではない。そして、数件の臨床試験を含め、多くの研究では、アスピリンまたは他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が癌の発生または死亡のリスクを低下させるという見解を裏づけているが、臨床試験を含む他の研究では別の結論に達している

1世紀以上も前から使われているこの薬が、癌治療を次に大きく一歩前進させるとしたら、実に歓迎すべきニュースである。しかし、現段階では、この分野の研究者の意見はまちまちであり、アスピリンを抗癌治療に利用するガイドラインや勧告を出している医学組織はひとつもない。少なくとも今のところ、アスピリンが癌の予防薬として登場するのは保留になっている。

データは多いが、不明の点も多い

オックスフォード大学のDr. Peter Rothwell氏が主導したメタアナリシスでは、5年間の追跡調査を実施し、用量にかかわらずアスピリンを平均4年間毎日服用していた臨床試験の参加者は、プラセボを服用していた参加者と比較して、癌の死亡リスクが44%低下した。最もリスクが低下したのは消化器癌であった。 Rothwell氏は、このメタアナリシスの長所として、もとの臨床試験のデータを単に合わせただけでなく、8件の臨床試験のうち3件において、個々の患者を20年間追跡したデータがあることを挙げている。この患者のサブグループは、20年後に癌の死亡リスクが20%低下した。やはり消化器癌に対する効果が最も高かった。

メタアナリシス全体では、アスピリンを服用していた臨床試験の参加者では、膵臓癌や食道癌など比較的に発生頻度は低いが死亡率の高い癌による死亡リスクと、肺癌や前立腺癌など患者数の多い癌の死亡リスクのいずれもが低下した。臨床試験でのアスピリンの服用期間が長期であるほど効果は大きかった。 最近、同じ研究チームが実施した類似のメタアナリシスでは、特に大腸癌に対するアスピリンの効果に焦点を当てているが、大腸癌の発生率と死亡率の両方に大きな統計学的に有意な低下がみられた。

研究チームが示唆した知見は、定期的なNSAIDの服用が、大腸の前癌病変の成長を抑制または予防するという多くの研究結果とも一致している。 「アスピリンに強力な制癌効果があることの証拠がますます増加する状況は無視できません。少なくともデータは、アスピリンに大腸癌を予防する高い効果があることを示しています」とRothwell氏はいう。

この意見を唱えるのはRothwell氏だけではない。オハイオ州立大学のDr. Randall Harris氏は、「さまざまな種類の腫瘍に治療レベル以下の用量でNSAIDを処方するという使い方があると考えています」という。Harris氏は、女性の健康イニシアチブ(WHI)参加者への前向き観察研究を主導しているが、少なくとも週2回5年以上アスピリンまたはイブプロフェンを服用した女性は乳癌のリスクが低減した。「データ上、大腸癌に高い効果がみられ、乳癌にもかなりの効果がみられました」。

しかしながら、皆が同じ意見を持っているわけではない。 アメリカ癌協会(ACS)の薬剤疫学戦略ディレクタのDr. Eric Jacobs氏は「特に癌予防の目的でアスピリンの服用を開始するよう勧めるのは時期尚早だと思います」とメールで回答を寄せてくれた。「低用量のアスピリンでも、副作用の可能性を考慮する必要があります。重篤な胃腸からの出血を引き起こすリスクが増加するのです」。

十分な慎重さが求められる

積極的に動かない理由の多くは、特に癌の転帰に焦点を当てて適切にデザインされたランダム化試験のデータが不足していることから来ていると、NCIの癌予防部門のDr. Asad Umar氏はいう。「ランダム化された臨床試験を実施した場合にのみ、有益性と有害性も含めた全体像が見えるのです」。

Umar氏は、COX-2阻害薬セレコキシブ(セレブレックス)というNSAIDの例を引く。セレコキシブは、家族性大腸腺腫症(FAP)の疾患を持つ患者において、大腸癌のリスクを増大させるポリープ形成を予防するために、手術の補助療法としてFDAに承認されている。セレコキシブの常用によってFAPに罹患していない参加者の大腸ポリープの再発を予防できるかどうかを調べる小規模な臨床試験が過去にあったが、そこでは薬の著しい副作用は起こらずに、ポリープの形成と成長が有意に減少した。

セレコキシブを長期的に常用すると循環器系の有害作用が発生する可能性があることは、NCIが資金提供するセレコキシブの腺腫予防試験など、より大規模な臨床試験ではじめて明らかになった

NCIの試験は、セレコキシブを3年間毎日服用して効果を評価するものであった。 Rothwell氏によると、Lancet誌に掲載されたメタアナリシスに含まれたある臨床試験では、プラセボを服用した患者にアスピリンを服用した患者より高い頻度で(60対40)致死的な出血の有害事象が発現した。また、分析の結果、対象となった臨床試験の終了時点でのアスピリン服用者の全死因死亡率も8%以上減少したことがわかった。

減少した原因のほとんどは、癌による死亡が減少したためだという。 このように臨床試験から有望なデータが集まっているにもかかわらず、ノース・カロライナ大学のDr. John Baron氏は、癌予防のためにアスピリンを広範囲に使用することには依然として賛成できないという。Baron氏によると、「われわれは、さまざまな母集団でアスピリンの服用から生じるあらゆる有益性と有害性を考慮する必要があります。まだ準備が整ったとは言えないのです」。

未解決の問題

昨年(2010年)出された合意声明では、国際的な研究グループが、癌の発生と死亡に対するアスピリンの効果について公開されているデータを検討し、臨床上最も重要な問題で未解決のものを提示した。

たとえば、最適な効果を得るためにどのくらいの期間アスピリンを服用するのか。何歳から服用を開始するのか。特に重要なのは、至適用量である。 合意声明の共著者のBaron氏は、これらの問題に答えるのは難しいことを認めた。「最も早く解決しなければならない重要な問題は、用量の問題です」。

用量についての見解は異なっている。Rothwell氏は、低用量のアスピリン(81mgなど)を日常的に服用するのが適切な選択ではないかという。しかし、Harris氏は、やや多い用量、325mg以下を週2回以上服用するのも効果的ではないかと考えている。 Lancet誌のメタアナリシスでは、癌の死亡リスクはアスピリンの用量とは関係なく低下していた。

しかし、最新のHarvard研究の観察データによると、少なくともすでに大腸癌の治療を受けている患者について、リスク低下の程度は用量が増えるにつれ大きくなっているようである。

Baron氏によると、「これには十分な検討が必要です。アスピリンの副作用も、顕著ではありませんが、用量が増えるにつれて大きくなっているからです」。 通常は、至適用量を決定するには臨床試験が有用である。しかし、アスピリンの癌予防効果に関する大規模臨床試験を実施するのは非常に困難であるとUmar氏は述べている。

癌による死亡率をエンドポイントとする臨床試験でなんらかの効果を実証するには、多くの患者で非常に長い期間の観察を行う必要がある。そして、多くの人が心臓病の予防や痛みの軽減のためすでにアスピリンを服用しているので、比較のためにアスピリンを服用していない参加者を十分な数だけ集めることも難しい問題であるとHarris氏はいう。

臨床試験に関してUmar氏は、「われわれは、注意深く試験をデザインして、高リスクのグループと代替エンドポイントを洗い出し、臨床エンドポイントに加えて、応答する遺伝子シグネチャーを得る必要があります」という。

高リスクのグループに焦点を当てた複数の臨床試験が、計画中または進行中である。(枠囲記事を参照)たとえば英国では、胃酸の逆流を予防し治療する(さらに消化管からの出血の予防または抑制に効果のある)薬剤とアスピリンを併用して、癌の前駆状態にもなるバレット食道(逆流性食道炎)の患者で食道癌のリスクを低減できるかどうかを調べるための第3相AspECT臨床試験への参加者を登録中である。

Rothwell氏は、これらの臨床試験や他の研究の結果、アスピリンが癌の予防に効果があることを裏づけるための「エビデンスが固まる」と予測している。 当面の間、平均的な健康状態の人は慎重すぎるくらいの対応がよいでしょうとJacobs氏は助言している。「アスピリン服用についての決断は、リスクと有益性のバランスをとって下さなければなりません。アスピリンの常用は主治医と相談の上で決めることです」。

— Carmen Phillips

大腸前癌病変を標的とした臨床試験データ上、NSAIDの服用による癌抑制効果が最も高いと思われるのは、大腸癌である。NSAIDのスリンダクと試験薬のDFMOを併用して、過去に大腸ポリープを切除した患者の大腸ポリープ(進行すると最終的に大腸腫瘍になる可能性がある)の再発を予防できるかどうかを評価する第3相臨床試験が間もなく開始される。Umar氏によると、この臨床試験は以前に実施した第3相試験を追跡調査するもので、スリンダクとDFMOの併用治療を受けた患者はプラセボを服用した患者と比較して大腸ポリープ再発が著しく減少した。大腸悪性腫瘍に進行する可能性の高い進行性腺腫では95%減少している。

この新たな臨床試験は以前の臨床試験より大規模であり、スリンダクとDFMOのそれぞれ単独および併用で効果を試験する。Umar氏によると、主要エンドポイントは進行性腺腫の縮小である。以前の臨床試験と同等の結果が得られれば、進行性腺腫を予防する薬剤の組み合わせをFDAに承認申請するための根拠とする予定とのことである。

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月橋 純子 訳

辻村 信一(獣医学/農学博士・メディカルライター)監修

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