2011/01/25号◆特集記事「遺伝学的研究による膵神経内分泌腫瘍の解明」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/01/25号◆特集記事「遺伝学的研究による膵神経内分泌腫瘍の解明」

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2011/01/25号◆特集記事「遺伝学的研究による膵神経内分泌腫瘍の解明」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2011年1月25日号(Volume 8 / Number 2)

日経BP「癌Experts」

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

遺伝学的研究による膵神経内分泌腫瘍の解明

ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターの研究者らは、神経内分泌腫瘍というまれな種類の膵臓癌を有する患者の遺伝子解析を行い、この疾患の遺伝学的基礎の概要を初めて示した。予後についての情報を与えうる遺伝子や、現在分子標的治療の対象となっているシグナル経路の遺伝子変異も同定された。これらの研究結果は、Science Express誌電子版1月20日号で発表された。

しばしば変異する3つの遺伝子において、実際に変異を有する癌患者は、変異のない患者に比べて長く生存することがわかった。また、mTOR経路のタンパク質をコードする遺伝子に変異がある患者がいることも判明した。これらの患者は、mTOR経路を介する増殖促進シグナルを阻害するラパマイシン(エベロリムス)などの薬が適応である可能性がある。

「この疾患に関するわれわれの初回報告に基づき、臨床応用への可能性がいくつか起こってきたことは本当に素晴らしいことです」と、研究責任者であり、ジョンズ・ホプキンスのルドウィグセンター腫瘍遺伝学・治療学でトランスレーショナル遺伝学を指導するDr.Nickolas Papadopoulos氏は述べた。ただし、基準を満たす患者におけるmTOR阻害薬の使用を評価する臨床試験のような、さらなる追加試験が必要であると同氏は指摘した。

「この研究はとても重要な一歩です」と、ミシガン州デトロイトのバーバラ・アン・カルマノス癌研究所の膵臓癌研究者で、今回の研究には参加していないDr. Philip A. Philip氏は述べた。「より効果的な治療法の探索を進める唯一の方法は、病態を今までよりずっと詳細に解明することであるという事実を、この研究結果は強く示しています。これは全ての癌に言えることです」。

膵島細胞腫瘍とも呼ばれる膵神経内分泌腫瘍は、全膵臓癌の5%に満たない。これらの患者は、一般的に膵臓癌と称される膵管腺癌の患者よりも予後がよい。しかし、神経内分泌腫瘍のなかには、静かに増殖し、他の臓器に転移して初めて見つかるものがあり、手術以外に効果的な治療法が求められる。

この腫瘍の遺伝学的基礎について洞察を得るために、研究者らは10人の膵神経内分泌腫瘍の患者における腫瘍組織と正常組織で発現するほぼ全てのタンパクの遺伝子を解析した。これらの患者は遺伝性の疾患ではなかった。 10人の腫瘍において、変異していることが最も多かった3つの遺伝子MEN1、DAXX、ATRXは全てDNAの折りたたみに関与する。これはクロマチン再構成として知られ、DNA配列の変化を伴わずに遺伝子の活性を制御するエピジェネティック(*非遺伝的、後成的)なプロセスである。ただ、クロマチン再構成に関わる遺伝子の変異は、ゲノムの他の場所にある遺伝子の調節に影響することがある。

「われわれは、ジェネティクス(*遺伝学)とエピジェネティクスの関係や、ジェネティクスがこれまで長く知られてきたエピジェネティックな変化をどのように生じさせるかを調べています」と、Papadopoulos氏は語った。最近、同氏のグループは卵巣癌と髄芽腫のゲノムに関する研究を発表したが、いずれにおいてもエピジェネティックなプロセスに関わる遺伝子に変異が見られた。(今週号の「小児脳腫瘍、よりよい治療を模索して」記事を参照)

クロマチンの安定は、正常な遺伝子発現には不可欠であると、NCIの癌疫学・遺伝学部門(DCEG)所属で、膵臓癌のゲノムワイド関連研究の指導者の一人であるDr. Laufey Amundadottir氏は述べた。「クロマチンが本来の形に維持されなければ、遺伝子発現はうまくいきません」と同氏は説明した。

ジョンズホプキンスのチームは、10人の組織において遺伝子変異を確認した後、さらに58人の膵神経内分泌腫瘍の患者の組織においてこれらの遺伝子の解析を行った。計68の腫瘍のうち、44%においてMEN1を不活化する体細胞変異(非遺伝性)があり、43%においてDAXXまたはATRXにおいて変異があった。

DAXXとATRXが産生するタンパクは、同じ分子複合体を構成する。 MEN1またはDAXX/ATRXに変異を有する患者は、変異のない患者に比べて長く生存する傾向があった。この違いは、転移病巣があり、MEN1とDAXX/ATRXの両方で変異を有する腫瘍の場合に特に顕著であった。このような患者は全員少なくとも10年は生存したが、変異のない患者の60%以上は診断後5年以内に死亡した。

MEN1とDAXX/ATRXに変異を持つ患者は、生物学的に別のタイプの膵臓癌であり、これにより生存期間の違いを説明できるかもしれないと研究者らは述べた。 全体の14%を占めるもうひとつのカテゴリーの腫瘍は、mTOR経路に関わるTSC2、PTEN、PIK3CAなどの遺伝子に変異を持つ。

「この研究結果は大規模臨床試験で確認される必要がありますが、『テーラーメイド医療』の良い例です」と、ジョンズホプキンスSol Goldman膵臓がん研究センターの所長であり、共著者のDr. Ralph Hruban氏は語った。 mTORが膵神経内分泌腫瘍の一部の患者における治療標的であるというエビデンスは、最近のいくつかの臨床試験でも得られていると、NCIの癌治療・診断部門(DCTD)のDr. Jack Welch氏は述べた。昨年中間報告された試験結果では、エベロリムスは一部の患者において無増悪生存期間を延長し、また他の試験では、化学療法が無効であった患者をエベロリムスで治療できることが示された

これらの結果に基づき、NCIの臨床試験共同研究グループ・プログラム(Clinical Trials Cooperative Group Program)は、局所進行もしくは転移した膵神経内分泌腫瘍患者においてエベロリムス単独あるいはベバシズマブと併用する第2相国内臨床試験(CALGB-80701)を開始した。

追加の試験が現在計画中であると、Welch氏は述べた。「これらの臨床試験では、相関する基礎的研究も一緒に行われる予定であり、ジョンズ・ホプキンスの研究に参加したような患者における、疾患の背景にある病態の理解が深まることでしょう」と、同氏は語った。 2008年に、ジョンズ・ホプキンスのチームは膵管腺癌患者の腫瘍を調査した

今回の新しい結果から、膵管腺癌と膵神経内分泌腫瘍は遺伝学的に明らかに異なる部分があることは明白である。例えば、膵神経内分泌腫瘍では膵管腺癌より遺伝子変異が少なく、変異が多くみられる遺伝子も異なる。 研究者らの説明によると、それぞれの癌の遺伝子変異は、異なるメカニズムによるものであり、おそらく異なる環境発癌物質への暴露や障害されたDNAへの異なる修復機構により生じた可能性があるという。

「この研究は、新しいDNA配列解析技術の力をよく示しています」と、NCIの癌診断研究プログラム所属で、今回の研究には参加していないDr. James V. Tricoli氏は語った。「より多くのグループがこの研究方法を行うようになり、新たな変異が同定されれば、腫瘍を細かく分類できるだけでなく、これらの患者に対するさらに効果的な治療方法が明らかになります。そして、このことが最も重要な成果なのです」。

— Edward R. Winstead

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野長瀬 祥兼 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修
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