2011/02/08号◆スポットライト「転移細胞が戻ってくる:腫瘍増殖の自己播種仮説」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/02/08号◆スポットライト「転移細胞が戻ってくる:腫瘍増殖の自己播種仮説」

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2011/02/08号◆スポットライト「転移細胞が戻ってくる:腫瘍増殖の自己播種仮説」

同号原文 NCI Cancer Bulletin2011年2月8日号(Volume 8 / Number 3)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

転移細胞が戻ってくる:腫瘍増殖の自己播種仮説

原発部位から体内の別の部位への癌細胞の拡散(転移)は長い間一方向の旅と考えられてきた。しかし一部の研究者は、転移性癌細胞が原発腫瘍増殖を刺激し、癌治療の時期と性質に重要な意味をもつ可能性があるとも考えている。スローン・ケタリング記念がんセンターによって創出された腫瘍の自己転移、または腫瘍の「自己播種」という概念は、転移研究センター長のDr. Joan Massagué氏とセンターの乳癌プログラム責任者代理Dr. Larry Norton氏が率いる一連の研究に基づいている。

マウスを用いた試験で、Massagué氏は転移に関連する遺伝子を発現する乳腺腫瘍は発現していない腫瘍より増殖速度が速いことを発見したが、これらの遺伝子は細胞分裂の増加や細胞死の減少で明らかな役割がみられなかった。「そのうえ、増殖の遅い腫瘍に比べて増殖の速い腫瘍では分裂細胞の割合が高いわけではありません」と、Norton氏は説明した。

これらの結果は腫瘍増殖の一般的な学説に当てはまらなかった。2人の研究者は2006年に、腫瘍から飛び出して離れた組織でコロニー形成した細胞が、循環系を介して居心地のよい微小環境の原発部位に戻ることもあるとの説を提唱した

「われわれは、一部の腫瘍の成長が速いのは細胞がより速く分裂したり分裂細胞の割合が高いためではなく(これらは事実でなないとみられる)、腫瘤そのものが転移性細胞を受け入れているためではないかとの議論を始めました」と、Norton氏は述べた。「xの速度で成長する20の腫瘤は、xの速度で成長する1つの腫瘤より成長が20倍速いのです」。

概念の証明

2人の研究者はマウスの癌モデルでこの仮説を検証して、2009年、その結果をCell誌に発表した。彼らはある実験で、非転移性乳癌細胞株とそれから分離された肺への転移能を獲得した一連の娘細胞を選択した。 親細胞を一つの乳腺に、転移性娘細胞を「ドナー腫瘍」として反対側の乳腺に移植すると、娘細胞は肺を通って、親細胞によって形成された反対側の乳腺腫瘍に移動し、親腫瘍の最終的な大きさの5〜30%を占めた。娘細胞の播種が認められた親腫瘍は、娘細胞を移植しなかった親腫瘍に比べて成長が速かった。骨や脳に転移した娘細胞および大腸癌やメラノーマの細胞株でも同様の播種作用が観察されたが、非転移性の娘細胞を移植した場合はこのような作用はみられなかった。

Massagué氏は電子メールで次のように説明した。「実験室で行った確認実験で、原発腫瘍由来の細胞が血中の転移性腫瘍細胞を誘引できることを示し、この移動を促すと考えられるいくつかのタンパク質を同定しました。戻った転移性細胞が、腫瘍の血管や免疫細胞などの微小環境を変化させるタンパク質を遊離させることにより、原発腫瘍の増殖を促進することも発見しました」。

彼らの仮説は、それぞれの研究室でこれを検証した他の研究者から支持され始めた。「この研究を発表してから、彼らが使用している腫瘍株で再現実験を行った人や彼らの腫瘍株の自己播種を発見した人から週に1通程度の電子メールが届いています」とNorton氏は話した。

成長できるスペース

タフツ大学医学部癌システム生物学センター(ボストン)のシステム生物学者は、自己播種がどのように原発腫瘍の急速な成長を刺激するのかについて、より明確なイメージを示した。

Dr. Philip Hahnfeldt氏らは2009年、腫瘍で認められた次の2つの生物現象の関係を調べるためのコンピュータモデリング試験の結果を発表した。これらの現象の1つは、癌細胞のごく一部が幹細胞のように働くことである。際限なく再生する能力を持ち、自己と同様の無限に増殖できる細胞をより多くの生成すると同時に、徐々に分裂能を失う癌の娘細胞も生成する。

2つ目の現象は、スペースの大きさにより腫瘍増殖が限られることである。健康な正常細胞間にはスペースがあるが、腫瘍にはない。癌細胞は高密度の腫瘤中で密着して成長し、使用できる全スペースを占めると細胞分裂が停止する。しかし腫瘍の境界部には密度の低い正常組織が存在して、癌細胞は増殖を続けて外側に押し出されて腫瘍の大きさが増加する。

「これは、腫瘍増殖が転移性移動に助けられているという考えに意味を与えています」とHahnfeldt氏は説明し、「主な腫瘤から腫瘍細胞が移動して…できたスペースが埋まるといった具合に、急速に成長する多数の小さな腫瘤が生成されます」。このように、原発腫瘍の成長は、外向きの成長や原発腫瘍そのものの浸潤より、腫瘍の近傍に存在する転移性細胞に依存していると思われる。

彼らのモデルは、細胞移動、細胞死、腫瘍増殖間の重要な—反直観的な—関連性を示した。モデルでは、癌幹細胞の子孫が移動せず自然に死ななければ、110細胞程度で腫瘍増殖が停止した。一方、非幹細胞の子孫の高率の細胞死と高率の細胞移動が組み合わさった場合、短期間で大きな腫瘍、すなわち3年余りで約10万細胞の腫瘍が生成した。

自己播種の臨床的意味

この理論的な現象(高率の腫瘍細胞死により勢いづけられる腫瘍増殖の促進)が、癌の臨床治療に影響を及ぼす可能性がある。従来の細胞毒性化学療法薬は急速に分裂している多数の癌細胞を殺すが、どんな種類の腫瘍でも癌幹細胞には効果がない可能性がある。

「われわれのモデルは、移動を抑えることが癌抑制の代替手段になりうることを示す。結果は次のような重要な可能性を示唆した。すなわち、細胞分裂阻害薬単独では癌細胞を殺すものの、癌幹細胞を根絶できなければ、実際は腫瘍の進行を促進するかもしれない」と、Hahnfeldt氏らは2009年の論文に記している。

現在、転移過程を特異的に妨害する抗癌剤はないが、研究者らは転移を確実な治療標的にすることを目指して、癌細胞が腫瘍から離脱して血流中で生存する能力を左右する遺伝子変化の解明に積極的に取り組んでいる。 また、癌幹細胞の概念は議論のさなかにあるが、癌患者で自己播種が確認されれば、明らかになったことが癌治療の時期および性質に影響を及ぼすと考えられる。

「腫瘍に対してわれわれが行っていること—これらは播種過程を阻害しているのでしょうか、それとも促進しているのでしょうか?」とNorton氏は問う。「これらに対し、われわれはまだ答えを得ていません。しかし真剣に考えなければならないことです。一部の症例では、先に血中の腫瘍細胞を殺さずに原発腫瘍を摘出することにより、実際には遠隔転移を促進している可能性があります。これらの細胞が好む『家』が失われ、体内のどこかに留まるからです」と説明した。

Massagué氏の研究室では自己播種の分子的基礎の解明に取り組んでおり、将来的な抗癌剤の標的が明らかになるかもしれない。Norton氏も、戻ってきた自己の種を原発腫瘍内の細胞に攻撃させる、いわゆる「毒入りスポンジ(poison sponge)」効果の免疫療法的アプローチに興味を持っている。 Hahnfeldt氏も、NCIの癌生物学部門が監督する統合癌生物学プログラム(ICBP)からの助成で、彼のモデル化研究を拡大している。この研究では、癌細胞が互いに作用し合うところに免疫系がどのような影響を及ぼすかを検討する。

「システム生物学は癌細胞そのもの、つまり細胞内で生じる遺伝子変化に多いに注目しています。癌は遺伝子の疾患ですから、正常細胞内で起き、癌の特性を獲得させて悪性化させる変化に興味を持っています」と、ICBPのディレクターDr. Dan Gallahanは述べた。「しかし、集団動態や細胞相互作用が同じように重要であることも事実です。われわれは現在、これらの動態が微小環境や免疫系と共に、腫瘍発生に重要であることを理解しています」。

さらに、「自己の転移性細胞による腫瘍の自己播種は腫瘍発生の重大なステップを表しているのかもしれません」と続けた。

— Sharon Reynolds

【画像下キャプション】 癌の増殖と転移の自己播種の概念では、移動する腫瘍細胞は体内で異なる5つの経路のうち1つをたどる(Macmillan Publishers社の許可を得て転載:Norton L and Massagué J. Is cancer a disease of self-seeding? Nature Medicine、12(8); 2006: 875-878. Copyright 2006.)【画像原文参照

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榎 真由 訳
小宮 武文(呼吸器内科/NCI Medical Oncology Branch) 監修
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