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遺伝子組換えはしかウイルスによる卵巣癌治療/NCIベンチマーク

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遺伝子組換えはしかウイルスによる卵巣癌治療/NCIベンチマーク

 2011年6月30日

癌ゲノムアトアラス計画(TCGA)では癌遺伝子の大規模な検討が進行中である。今回、最新の研究結果が2011年6月30日発行のNature誌に掲載された。この研究の一環として、TCGAの研究者らは、既存の薬物の中から卵巣癌に関与することが示唆される遺伝子を阻害するものを探索した。探索によりFDAの承認を受けた既存の治療薬および臨床試験中の薬剤の標的となる可能性のある68個の遺伝子が同定された。その結果、癌細胞の不安定な遺伝子に作用する薬剤に卵巣癌腫瘍の50%が奏効する可能性が見出された。

 しかし、TCGAの試験結果から他の治療方法についても研究をすすめていく必要があることが指摘された。その一例は、弱毒化したエドモンストン麻疹(はしか)ウイルスワクチン株に特異的遺伝子を挿入して作成した遺伝子組換えウイルスである。この種の組換え麻疹ウイルスは、卵巣癌の新しい治療薬としてヒトに対する抗腫瘍効果および安全性に則って浮上したものである。

 この治療法は、メイヨークリニック(ミネソタ州)の研究者らによって再発性卵巣癌患者のために開発された。彼らは麻疹ウイルスを遺伝子操作することにより、正常細胞には無害のまま腫瘍細胞を攻撃するよう改変し、第 1相臨床試験において、その新しいウイルス株が卵巣癌治療に対して安全性および忍容性が良好であることを確認した。

 「われわれは卵巣癌に対する組換え麻疹ウイルスの利用法を開拓し、3年以内に非臨床的な研究からこの種の薬剤の最初の臨床試験へと移行させました」と研究代表者の、腫瘍医でありメイヨークリニックの分子医学部部長であるEvanthia Galanis医師は述べた。「今回、臨床試験への迅速な移行により、治療困難な癌患者さんは有望な新治療を受けられるようになります」

 これらの試験研究は、メイヨークリニックがんセンターで実施され、NCIの卵巣癌に関する重点研究特別プログラムSPORE(Specialized Program of Research Excellence)による研究助成を受けた。以下に研究の概要を述べる。

 麻疹ウイルス株は細胞表面受容体タンパク質を介し癌細胞内への侵入能を獲得する

 エドモンストン麻疹ウイルス株は、細胞表面受容体CD46を介して細胞内に侵入する。CD46は、細胞破壊を防御するために免疫系で働くタンパクの一種であり、卵巣癌など多くの癌種で正常細胞と比べ過剰に発現している。

 ウイルス株は、卵巣癌細胞やCD46発現細胞に侵入する際に複製を開始し、ウイルス誘導性の細胞間融合を生じる。その結果、合胞体(多核巨細胞)を形成して、最終的に細胞を死に至らしめる。正常細胞では、CD46の発現量が低いため合胞体を形成せず影響を受けない。この発現の差を利用して、エドモンストン株は腫瘍細胞を死滅させる効果を発揮すると研究者らは説明している。この種のウイルスは腫瘍を溶解または破壊するため、腫瘍溶解性ウイルスといわれる。

 研究者らは実験室での試験に次いで、マウスによる腫瘍溶解性ウイルスの安全性試験を実施したいと考えた。しかし、げっ歯類 (マウスなど)は麻疹受容体遺伝子であるCD46を発現しないため、研究用モデルとしては不適 であり、まずCD46遺伝子発現するマウス系統を遺伝子操作により作製する必要があった。メイヨークリニックの分子医学部門のRoberto Cattaneo博士の研究室で、これは酵母人工染色体(YAC)によるクローニング技術を用いて実施された。

 腫瘍溶解性ウイルスの毒性試験は、マウス以外に麻疹感受性である霊長類種でも実施された。これらのモデル動物にウイルスを接種したところ、なんら毒性はみられなかったことから、癌攻撃性麻疹ウイルスを用いた基盤技術をヒトに安全に利用できる可能性がさらに再確認された。

 第1相臨床試験の結果、卵巣癌治療に対する遺伝子組換え麻疹ウイルスの安全性は高い

 Galanis氏、Kah Whye Peng博士および Lynn Hartmann医師による研究チームにより、 第1相臨床試験において、再発性卵巣癌患者を対象とした麻疹ウイルス株の安全性試験が順調に進められた。この試験に用いたウイルスには、追加指標として癌胎児性抗原(CEA)というマーカータンパクが搭載された。

 CEAは、患者に麻疹ウイルスCEA複合体を接種した後に患者の腫瘍内での拡散を経過観察するために用いる。CEAは体内のさまざまな細胞内で頻繁に見出され、腫瘍に関連することも多い。しかし卵巣癌細胞がCEAを発現するのはまれであるため、治療後のCEA検出はすなわちウイルスの感染を意味する。

 試験結果から、麻疹ウイルスCEA複合体の安全性と忍容性に関し明らかな生物学的活性が示された。つまり、試験参加前に化学療法などの十分な前治療を受けた患者21人中14人(67%)において、最大8カ月間の病態の安定性が認められた。これは、類似の初期臨床試験でみられた患者の生存期間中央値の2倍であった。現在これらの結果から、さらに高い有効性を期待して高容量でウイルスを投与できると研究者らは考えている。

 新しい遺伝子を搭載した麻疹ウイルス複合体を試験するため第1相臨床試験の延長がFDAにより承認

 研究チームは、さらに16人の患者に新しいウイルスである麻疹ウイルスNISを投与するためFDAによる第1相臨床試験延長の承認を受けた。この複合体はヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)遺伝子を含み、これが放射性ヨウ素を捕捉するため、in vivo(生体内)でのウイルス遺伝子発現部位の画像診断が可能となる。

 この研究により、麻疹ウイルスNIS複合体が麻疹ウイルスCEA複合体と同様の安全性結果が示されれば、麻疹ウイルスNIS複合体の実用性が確立され、腫瘍の画像診断が容易になるであろう。また放射性ヨウ素の利用は腫瘍溶解性ウイルス療法の効果を高めるかもしれない。試験を開始した11人の患者に有意な毒性は認められていない。

 麻疹ウイルスの伝達を高めるための幹細胞の利用

 抗麻疹ウイルス抗体が、ウイルスを無効にしウイルス療法の効果を抑制する可能性があるため、Galanis氏とPeng氏は抗腫瘍効果を高めるべく麻疹ウイルスの輸送担体として間葉幹細胞(MSC)の利用を試みている。MSCは多分化能を有する幹細胞で、種々の細胞に分化することができる。新規の臨床試験では、卵巣癌患者を対象に麻疹ウイルス担体として脂肪組織由来のMSCを用いることを計画中である。

 また、抗ウイルス免疫反応を改変する他の方法、例えばシクロホスファミドのような免疫抑制剤の使用なども試験中である。

 今後に向けて

 メイヨ―クリニックでは、卵巣癌以外にも、多形性グリア芽細胞腫(脳腫瘍)や多発性骨髄腫を対象とした遺伝子組換え麻疹ウイルスの臨床試験を実施中である。中皮腫(肺、心臓、腹腔内を覆う膜の腫瘍)、頭部癌、頸部癌を対象とした臨床試験も間もなく開始される。

 「再発性卵巣癌に対する安全で効果的な治療法はほとんどありません。われわれは、癌治療の研究にこの革新的な腫瘍溶解法を用いて、卵巣癌だけでなく他の癌に対しても、今後の臨床試験結果に期待しています」と、 NCIの癌治療・診断部門トランスレーショナル・リサーチプログラム部の副部長代理であるToby T. Hecht博士は語った。

 

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武内優子  訳
石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学農学系ゲノム科学人材育成プログラム) 監修

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原文

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’NCIベンチマーク’は、医療や科学ライター向けに、癌研究に関するトピックの背景を紹介するNCIメディア広報部提供のシリーズです。

 

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