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癌細胞に普遍的な「暗黒物質」が明らかに/ジョンズ・ホプキンス大学

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癌細胞に普遍的な「暗黒物質」が明らかに/ジョンズ・ホプキンス大学

発表日:2011年6月27日変更

この発見により、癌細胞の生化学的変化におけるカオス状態が明らかとなった。

最新の遺伝子配列解析ツールを用いて結腸癌細胞のDNA構造に関する、いわゆるエピジェネティックな影響を調べたジョンズ・ホプキンス大学の研究チームは、癌治療の目的が癌細胞を死滅させるという戦略だけでなく、癌細胞を正常の状態に戻すことにも重きが置かれるようになるならば、この研究結果は最終的に癌治療の忍容性と奏効率を向上させることにつながる可能性があると述べた。

6月26日付のNature Genetics誌に発表された報告によると、研究者らの着眼点は、遺伝子を不活化するメチル化として知られる特徴的なエピジェネティックな生化学的徴候であった。メチル化部位は遺伝子のDNA配列の中心的な部分ではないが、細胞分裂時に複製され、その活性は引き継がれる。

研究チームは8個のヒト組織検体――非癌性の結腸組織から3検体、結腸癌から3検体、ポリープ(結腸癌初期段階)から2検体――のエピゲノムを比較することにより、すべての結腸癌検体で確実に認められた特徴は、普遍的に「カオス化」されたメチル化パターンであった。非癌性組織において、メチル化は、小規模なメチル化「アイランド」領域または大規模なメチル化「ブロック」領域といった明確な輪郭を持った部位で起こっていることが認められた。メチル化領域をまとめるとゲノム全体の少なくとも3分の1を占めていた。

「癌組織において、それまで明確であったアイランド領域の境界群が共に移動したり消失したりしています。またメチル化部位の開始点や終始点が無秩序になっているようです」と、ジョンズ・ホプキンス大学医学部基礎生医学研究所のエピジェネティクス・センター所長である分子医学部教授のAndrew Feinberg医師・公衆衛生学修士は述べた。「メチル化の喪失も起こっているので、内部の遺伝子機能の無秩序性は高まっていると思われます」。

「エピジェネティックなレベルで癌を定義するのは、簡単でありふれたものかもしれません。つまり、どこにでも見られるカオス状態です。」と彼は付け加えた。

正常な結腸組織検体の細胞において、エピゲノム解析によると、大きな(これまで解析されなかった)ブロックの約80%の程度がメチル化された状態にあると研究者らは言う。それに比べて、このような大きなブロックを構成している結腸癌細胞に同様の安定性はなく、メチル化のレベルから見れば、より変化しやすい状態にある。

この知見は、ただ癌の徴候または癌の治療標的を検出するためだけにメチル化マーカーを同定しようとする現在の試みは、ともすると誤った方策となるか、下手するとまったく不毛なものとなる可能性があることを意味しているとFeinberg教授は述べる。代替策として考えられるのは、どの癌のエピゲノムにも等しく存在するカオス的エピジェネティックの検出という新たな方法であろう。

研究チームは結腸癌、乳癌、肺癌、腎癌、甲状腺癌について何千カ所ものメチル化部位を解析する中で、約20の非癌性組織検体を様々な腫瘍から採取した20の検体と比較する個別検査法を設計した。また、研究チームは、正常組織においてメチル化はよく制御されており、ほとんど常に限定された変異性の範囲内で起こることを見いだした。しかし、カオス状態を呈している結腸癌細胞のエピゲノムとちょうど同一の特定部位において、研究チームが解析を行った他のあらゆる癌組織でも、極めて変化が起こりやすくなっており、メチル化変異の「カオス状態」が認められた。

「おそらくこの普遍的なカオスの観察によりわれわれが得ることのできる大きな教訓は、癌細胞を殺すことを考えることだけに多くの時間を割くのではなく、癌細胞が本来あるべき姿は何なのか見つけ出し、本来の正常な性質を取り戻せるように再教育してゆけるような方法も考えていく必要があるのかもしれないということでしょう」とFeinberg教授は述べる。

癌細胞の「立場」から見ればカオス状態はありがたいことで、腫瘍が無秩序に遺伝子の発現スイッチを入れたり切ったりできるようにするものである。そして、どんなに異なった環境に対してであれ、癌細胞が適応しやすくし、未知の組織へ広がり生き延びることを可能とするものである。

「一般的にみられる様々な癌の少なくとも5種類において、メチル化状態が広範に散在して認められるエピジェネティックなカオス状態の領域は――完全に一致するわけではないが――正常な細胞の発生段階で、細胞分化の制御、すなわちどのような特徴を持つ細胞(例えば正常の結腸細胞)になるべきかが重要であるのというのとまったく同じことです」とFeinberg教授は述べる。

「同じDNAを持つヒトの細胞が発生段階において、様々な組織型に分化していくことができる同様のエピジェネティック的順応性は、脆弱性も伴います」と、Feinberg博士とともにこの研究を率いたジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部の生物統計学教授であるRafael Irizarry医学博士は付言した。「エピゲノム解析は、ある細胞が、例えば腎臓になったり他のものになったり、脳や脾臓になったりすることを可能にする変化が起こりやすくなっているこのような領域を含んでいますが、この非常に変化を受けやすいという性質こそ、最終的に癌をもたらすものなのかもしれません。このような領域を標的とすることで、細胞を正常の状態に近づけることができるのかもしれません」。

新たな研究ではこのエピジェネティックなカオス状態を制御していると思われるゲノム領域も同定されたため、新たな癌の治療法や予防の標的の発見という実りある成果が生み出される可能性を秘めているのかもしれないとFeinberg教授と研究チームは述べている。

この研究は米国国立衛生研究所の資金援助を受けた。

Feinberg教授とIrizarry教授の他、ジョンズ・ホプキンス大学の著者はKasper Daniel Hansen、Winston Timp,Hector Corrada Bravo、Sarven Sabunciyan、Benjamin Langmead、Oliver G. McDonald、Bo Wen、Yun Liu、Eirikur Briemである。またエモリー大学のHao Wu、カリフォルニア大学サンディエゴ校のDinh Diep、Kun Zhangも共著者である。

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窪田美穂 訳
石井 一夫(ゲノム科学/東京農工大学) 監修
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原文

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