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癌ゲノムアトラス計画で卵巣癌の詳しい解析が完了: NCIプレスリリース

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癌ゲノムアトラス計画で卵巣癌の詳しい解析が完了: NCIプレスリリース

NCIプレスリリース 2011年6月29日

NIH共同研究から、これまでで最大の癌ゲノム研究が報告された。これらの知見により患者の生存期間を評価する新しい方法が提示された。

卵巣癌の遺伝子変異の解析によって、あらゆる癌種の癌遺伝子に関し、これまででもっとも包括的かつ統合的な見解が明らかされた。癌ゲノムアトラス(TCGA)研究ネットワークは500例の卵巣漿液性腺癌を調査し、2011年6月30日号のNature誌に解析結果を発表した。

漿液性腺癌は卵巣癌でもっとも多い癌であり、全卵巣癌死の約85%を占める。TCGAの研究者らは全エクソンのシークエンシングを完了した。これは316という前例のない数の腫瘍のゲノムについてタンパク質コード領域を調べるというものであった。彼らはこれら腫瘍に加え、さらなる173検体においても別のゲノム特性を調べた。

TCGAは米国国立衛生研究所(NIH)の一機関であるNCI(米国国立癌研究所)と米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI:National Human Genome Research Institute)が共同で資金出資し、所管している。

「この画期的な研究では、本癌種に対する優れた生物学的洞察をおこなっている。」とNIH長官であるFrancis Collins医学博士は語る。「本研究は、この致死的疾患を有する女性の治療に役立つさらなる発見をもたらすための癌研究分野に対して大きな活力となるであろう。さらにこれは、TCGAへわれわれの投資がもたらしたことを示す良い例である」。

特徴的な知見の一つとして、この癌の96%以上で単一遺伝子TP53の変異が確認された。TP53は正常時には癌形成を妨げる腫瘍抑制タンパク質をコードしている。この遺伝子の変異は、このタンパク質の機能を妨げ、コントロール不能な卵巣細胞増殖の一因となる。さらにTCGAは、他の遺伝子にも発生頻度の少ない変異が数多くあることが突き止めた。

TCGAの研究者らは、患者の生存を予測しうる複数組の遺伝子がどのように発現しているかを明らかにした。すなわち生存率が不良な108の遺伝子パターンと生存率が良好な85の遺伝子パターンを同定したのである。生存率不良な遺伝子発現シグネチャーのある患者は、そのような遺伝子発現シグネチャーのない患者と比較して生存期間が23%短かった。卵巣癌の5年生存率は31%で、これは今年卵巣癌の診断を受けた患者のうち69%が2016年には生存していないことを意味しており、本疾患の解明を進めることが急務であることが浮き彫りにされた。

「卵巣癌のゲノム変異に関わるこの新たな知見により、本疾患の分子接触(molecular catalysts)は個々の遺伝子が関わる小さな変異のみに留まらないことが明らかになった」とNCI 長官である Harold E. Varmus医学博士は述べた。「これらの癌ゲノムで発生する大規模な構造変化も重要である。癌研究者らは卵巣癌の生物学に対する理解を深め、この恐ろしい疾患の診断と治療を向上させるためにこの包括的な情報を利用できる」。

研究者らは標的治療をおこなうため、卵巣癌において何らかの役割を果たしているであろう遺伝子の増殖あるいは過剰発現を阻害する可能性がある既存の薬剤を調査した。この調査により、FDAがすでに承認している治療薬あるいは開発中の薬剤が標的としうる68の遺伝子が同定された。研究者らは、ある種のPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)阻害薬が、調査した卵巣腫瘍の半数にみられるDNA修復遺伝子に作用しうる可能性があることに注目した。研究者らはこれらの薬剤が本疾患に対し有効である可能性を知っていたが、腫瘍の遺伝的不安定性を利用して癌細胞に死をもたらすこれらの薬剤が50%の腫瘍に対し奏効する可能性を本試験で明らかにした。

「あらゆる癌と同じく卵巣癌もゲノム異常の結果である」とNHGRI 長官であるEric D. Green医学博士は語る。「腫瘍細胞のゲノム変異について学べば学ぶほど、癌に罹患した人々への理解を深めることができるようになるのだということが、TCGAの取り組みにより確認されつつある」。

本研究結果は本疾患に4つの異なるサブタイプがあることを裏づけている。そのサブタイプはDNAからRNAへの転写の際にみられるパターンを基礎としている。さらにDNAのメチル化パターンを基礎とした4つの関連サブタイプの存在を本結果は裏づけている。メチル化とはメチル基と呼ばれる小さな分子をDNAに加えると個々の遺伝子の活動が変化する化学反応である。これらのパターンは卵巣漿液性腺癌が関与する機能的変化を示しているように考えられるが、生存期間との強い関連はない。

ある種の乳癌に関与するBRCA1とBRCA2遺伝子の変異も、卵巣癌のリスクを上昇させる。本試験では約21%の腫瘍においてこれらの遺伝子に変異がみられた。これら腫瘍の解析をすると、BRCA1とBRCA2遺伝子が変異している患者では、これらの遺伝子に変異がない患者と比較して生存オッズが良好であるという観察結果が裏付けられた。重要なのは、BRCA1とBRCA2遺伝子が欠損する機序も生存に関わることを研究者らが発見したことである。もしBRCA1と BRCA2遺伝子のどちらかが変異すると、生存期間が延長する。しかし、BRCA1の活性がメチル化によってむしろ低下した場合、生存期間は延長しない。

「複雑なゲノムデータセットを統合すれば、ゲノム変異の複雑な配列を明らかにし、全卵巣癌のほとんどで発生する特異的変化を確認することが可能となるかもしれない」と筆頭著者でカリフォルニア州バークレーにあるローレンス・バークレー研究所に所属するPaul T. Spellman医学博士は述べた。「BRCA1と BRCA2遺伝子が生存期間の決定に果たす役割に関し、新たな情報を発見したことも意義深い」。

この最新の研究でTCGAの研究者らは、2008年の多形性膠芽腫ゲノムの特性を明らかにする際に用いたアプローチを踏まえて研究をおこなった。多形性膠芽腫とはもっとも一般的な脳の悪性腫瘍である。

2006年に開始したTCGAとは、大規模なゲノム・シークエンシングを含むゲノム解析技術を利用し、癌に対する分子レベルの理解を加速させる包括的かつ組織的な取り組みである。TCGAのデータは研究者に向けて、こちらのデータベースから迅速に公開されている。このデータベースでは、ほとんどの解析データおよび患者の治療記録やDNA配列データそのものなどについて、NIHの審査と承認を経た資格のある研究者は直接アクセスできる。20を越える他の癌種に対する今後のTCGAの解析は、アメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)の資金から主に提供される予定である。

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参考文献: Spellman, et al. Integrated Genomic Analyses of Ovarian Carcinoma. Nature. June 30, 2011. DOI:10.1038/nature10166.

Spellman医師がTCGAと卵巣癌の知見について語るビデオは閲覧可能です。

TCGA研究ネットワークは、全米の多数の施設の150人を上回る研究者らで構成されている。研究参加者の一覧はこちらからご覧ください。

癌ゲノムアトラスの詳細は、Quick Facts、Q&A、グラフ、用語集、ゲノム学に関する簡潔なガイド、閲覧可能な画像を掲載したメディアライブラリーを含め、こちらからご覧ください。

NCIは、予防法や癌生物学の研究、新しい治療法の開発、新しい研究者への研修や指導を行うことにより、国家癌プログラムならびに、NIHの取り組みである癌の負担の劇的な軽減と癌患者およびその家族の生活向上を主導している。癌に関するさらに詳しい情報についてはNCIのウェブサイトを参照するか、NCIの癌情報サービス1-800-4-CANCER (1-800-422-6237)へご連絡ください。

NHGRIはNIHの27の施設およびセンターのうちの一つである。NHGRIの委託研究部門では、研究およびキャリア開発に対する助成金交付を世界各地で支援している。NHGRIに関するさらに詳しい情報についてはこちらをご覧ください。

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大倉 綾子 訳
勝俣 範之 (腫瘍内科、乳癌、婦人科癌)監修
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原文

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