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癌ゲノムアトラス計画、脳腫瘍の包括的研究の最初の結果を発表

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癌ゲノムアトラス計画、脳腫瘍の包括的研究の最初の結果を発表

大規模プロジェクトにより新たな遺伝子変異と主要経路を同定

NCIニュース 2008年9月4日

米国立衛生研究所(NIH)の一機関であるNCI(米国立癌研究所)と米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI:National Human Genome Research Institute)が資金提供する共同プロジェクト『癌ゲノムアトラス(TCGA: The Cancer Genome Atlas)研究ネットワーク』は、最も一般的な脳腫瘍である多形性膠芽腫(GBM)に関する大規模かつ包括的な研究の最初の結果を本日発表した。Nature誌2008年9月4日号先行オンライン版に発表された論文で、TCGAチームは、GBMの診断と治療に影響を及ぼしうる新たな遺伝子変異と別のタイプのDNA変化の発見について述べている。

TCGAの研究成果には、GBMに関与する多くの遺伝子変異(そのうちの3つはかなりの頻度で発生するが、これまで未確認だった)の同定、およびこの型の脳腫瘍における混乱された経路の解明などがある。最も興味深い研究成果の一つは、脳腫瘍の治療に使用される一般的な化学療法薬に対して潜在的な耐性機序が存在するという、予期せぬ発見であった。

米国では今年、新たに21,000人以上が脳腫瘍を発症すると予測されており、そのうち13,000人以上がこの疾病により死亡するといわれている。GBMは成人に多く発生するタイプの脳腫瘍で、急激な増殖を特徴とする。GBMに罹患した患者のほとんどが診断後約14ヶ月以内にそれが原因で死亡する。

TCGAネットワークは、206人のGBM患者から提供された腫瘍検体のゲノム(DNAの総体)を解析した。その研究は、本日、Science誌に掲載されたジョンズホプキンスによる22個のGBM腫瘍を対象とした並行研究を補完し深化するものである。

「TCGAの目覚しい研究成果により、この致死的な癌がもつ複雑なゲノム構造に関する、今までで最も包括的な見解が生まれた。膠芽細胞腫の分子機序について知識を深めるにしたがって、迅速にこの悲惨な疾病に罹患した患者を救うより優れた治療法を開発することができる。私たちは明らかに、この大規模なゲノム研究の威力をその他の多くの種類の癌の研究に活用し、前進する時期に来ている」と、NIHの所長Elias A. Zerhouni医師は述べた。

ほとんどの癌と同様、GBMは長い年月をかけて細胞のDNA内に蓄積した変化が起因して発症する。その変化は最終的には制御されない細胞増殖をもたらす。しかしながら、最近まで、DNA変化の明確な特徴や、それらが生物学的経路へ及ぼす影響など、新たな癌治療の開発に重要な事実についてほとんどわかっていなかった。

大規模なゲノム塩基配列解析など最新のゲノム解析技術を活用することで癌の分子機序の解明の促進を目指し、2006年、NCIとNHGRIがTCGAプロジェクトを立ち上げた。TCGAは、あらゆるタイプのヒト癌に関与するゲノム変化の領域を体系的に調査するため、総力をあげたプロジェクトの可能性を判定するパイロットプログラムとして開始した。

TCGA研究ネットワークは、TCGAパイロットプロジェクトで一番初めに研究が進められたGBMの解析の中間結果をNature誌論文で発表した。この先駆的な研究では、18のTCGA参加施設および機関の研究者による複数のゲノム解析技術により得られた多様なデータをまとめ一体化した。それらのデータには、遺伝子変異として知られるDNA塩基配列の小変化、コピー数変異および染色体転座として知られる染色体の大規模な変化、遺伝子発現として知られる遺伝子がタンパク質をコード化するRNAを生産する量、エピゲノミクスとして知られているメチル基など特定の分子とDNAとの相互作用のパターン、および患者の臨床治療に関する情報が含まれる。

「研究者たちが最新技術を活用することにより、過去に類のない多次元的データをこの様に包括的かつ組織的に解析することができた。」とNCI所長のJohn E. Niederhuber医師は述べた。「今後、この重要な情報を癌の新たな救命治療や診断に展開していくのは、献身的な研究者たちの仕事である」

TCGAの研究者らはGBM検体から601個の遺伝子の塩基配列を解析し、対照組織と比較することにより、今までGBMで頻出すると報告されていない3つの重要な遺伝子変異について明らかにした。それらは、神経線維腫症1型(神経に沿った組織の制御されない増殖を特徴とするまれな遺伝性疾患)の原因として同定されている遺伝子NF1、乳癌への関与でよく知られているERBB2、および多くの癌において制御不能にされているP13キナーゼと呼ばれる酵素の活性に影響を及ぼす遺伝子PIK3R1である。P13キナーゼは既に治療開発の主要な標的になっている。PIK3R1遺伝子内で変異を頻繁に発見したということは、腫瘍が遺伝子変異を有するかどうかということにより、GBM患者のP13キナーゼ阻害剤に対する感受性は決定するかもしれないという事を意味する。

TCGAチームは、遺伝子発現やDNAメチル化パターンなどの塩基配列データとその他のゲノム特性情報をまとめ、GBMへの関与が示唆されている主要な生物学的経路について解明するという、前例のない概観を作成した。4分の3以上のGBM腫瘍において破壊されていた3つの経路とは、細胞分裂の調節に関与するCDK/cyclin/CDK inhibitor/RB経路、DNA損傷への反応や細胞死に関与するp53経路、増殖因子シグナルの調節に関与するRTK/RAS/PI3Kである。

経路のマッピングは、特定の癌または個々の患者の腫瘍のサブタイプにあわせた治療戦略の開発を研究している研究者たちにとって、特に有用なものになるかもしれない。

例えば、CDK経路のある箇所で遺伝子変化が見られる腫瘍を有する患者には、CDKを阻害する薬剤が有効であるかもしれないが、同じ経路上の別の箇所に変異を有する患者は、そのような薬剤に対し反応を示さないと予測されるであろう。同様に、GBMの治療に既に使用されているいくつかの薬剤はRTK経路を標的にしているが、新たな研究結果によると、RTK経路に関与する遺伝子内の変異の特定パターンによって治療薬を調節する必要があるとみられる。

解析した殆どのGBM腫瘍において、3つの経路は相互に影響し合い、協調的に制御不能になっていた。従って、3つの経路すべてを標的とする併用療法は、効果的な戦略になるかもしれないとTCGA研究者らは述べる。

特に興味深い知見は、MGMT遺伝子に関するもので、急速な臨床への影響が期待される。医師らには既に分かっていることだが、不活化(すなわちメチル化)されている、MGMT遺伝子を有するGBM腫瘍患者は、GBMの治療に一般的に使用されているアルキル化化学療法剤のテモゾロマイドに対してより反応を示す。メチル化および塩基配列に関するデータと組織提供者の臨床上のデータとを統合したTCGAの多次元的解析により、メチル化したMGMT遺伝子を有する患者では、アルキル化剤による化学療法が、一般にミスマッチ修復遺伝子として知られているDNA修復に不可欠な遺伝子に変異をもたらす可能性があることがわかった。このようにして発生する変異は、結果的に異常に多くのDNA変異を含み、化学療法に対して耐性を持つ可能性のある再発腫瘍の発症につながる。追跡調査でこのようなメカニズムが確認された場合、MGMTおよびミスマッチ修復遺伝子の欠損の組み合わせを基に設計された治療法が、GBM患者の第一または第二治療選択となるであろう、と研究者らは言う。この新たな知見は、臨床研究者らがアルキル化剤による化学療法と次世代型標的療法を組み合わせた最良の治療方法を編み出す手助けにもなるであろう。

「これは、ヒトゲノム情報をヒトの健康改善に役立たせるというわれわれの最終目標へのさらなる大きな前進を意味している」とNHGRI所長代理のAlan E. Guttmacher, M.D.氏は述べた。「複数の癌および遺伝子学の研究団体が協力し、共同研究を行うことで何が達成できるか非常に興味深い。この論文は今後TCGAが発表する数多くの興味深い知見の第一番目に過ぎないと確信している」

「膨大な数の良質の腫瘍および対照検体に関するTCGAの前例のない多次元的データは、分子に関する新たな識見をもたらし、それは間違いなく新たな癌治療の発見に有用であるだろう」とNIC副長官で、本リサーチプログラムの主導者の一人Anna D. Baker博士は語った。

ヒトゲノムプロジェクトでは、TCGAのデータは、研究団体がオンライン上のデータベースhttp://cancergenome.nih.gov/dataportalを通じて即利用可能である。データベースから公開データセットへのアクセスも可能で、研究者はID確認と承認の上、さらに詳細なデータを入手できる。

TCGA研究ネットワークのメンバーであり、Nature論文を発表したTCGA委員会の委員長を務めているのは、ボストンのダナファーバー癌研究所Lynda Chin医師およびハーバード大学医学部のMatthew Meyerson医学博士である。Meyerson氏はマサチューセッツ州ケンブリッジのMIT/ハーバード大学ブロード研究所にも所属している。

TCGA研究ネットワーク参加者の完全リストは以下のウェブサイトで閲覧可能。http://cancergenome.nih.gov/components/index.asp
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米国保健社会福祉省の一機関であるNIH は27の機関およびセンターからなり、NCIおよびNHGRIはその一部である。

Q&A、図表、用語集、遺伝子学の概要、使用可能な画像のメディア・ライブラリーなど癌ゲノムアトラスプロジェクトの詳細は[url=http://cancergenome.nih.gov]http://cancergenome.nih.gov[/url]を参照のこと。

癌および米国立癌研究所に関しての詳細は、NCIのウェブサイトhttp://www.cancer.govを参照、またはフリーダイアルでNCIの癌情報サービス1-800-4-CANCER(1-800-422-6237)に問い合わせ可能。

NHGRIに関する追加情報はhttp://www.genome.govで閲覧可能。

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Yuko Watanabe 訳
大藪友利子(生物工学)

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原文

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