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ロボット前立腺摘除術

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ロボット前立腺摘除術

Aleea Farrakhの報告
2009年3月19日

ベンチマークでは米国国立癌研究所(NCI)の一部である泌尿器科腫瘍部門の泌尿器科腫瘍フェローシップ・プログラムのディレクターであるPeter Pinto M.D.氏とロボット前立腺摘除術の詳細について議論を交わした。

ベンチマーク−ロボット前立腺摘除術を簡潔に説明すると?

Peter Pinto氏:前立腺手術を行う目的は、癌のある前立腺を切除し、癌が残存しないようにすることです。さらに、外科医は膀胱を尿道に再吻合し、排尿調節機能を維持する一方で、患者の性的能力を維持する神経を残すことを目指します。ロボット前立腺全摘除術は、外科医の指示によるロボット手術で、da VinchRロボットと呼ばれる装置が癌のある前立腺および周囲のリンパ節の切除を補助するのに用いられます。この方法は前立腺癌手術への低侵襲のアプローチです。

ベンチマーク−ロボット手術と通常の開腹手術および腹腔鏡下手術との違いは?

Peter Pinto氏:ロボット手術は開腹切除術と同じ方法で行われます。違いは、従来は大きな切開(臍から恥骨にかけて)が必要だったのが、現在では各々5〜12mmの長さの傷が4〜6箇所で済むという点です。これらの切開によって、外科医が患者の体内に手を入れることなく、手術器具をポート(器具を通す中空の円柱)に通すことができます。

この装置の出現前は、私のような外科医はこの手術を腹腔鏡下で行っていました。腹腔鏡下前立腺全摘除術は開腹手術に比べ低侵襲なアプローチで、ロボットプラットフォームと同じポートを用いて器具を通します。腹腔鏡下手術中、外科医の手はポートを通る器具に物理的に接触しており、器具の可動域は制限されます。さらに、腹部内で前立腺を可視化する腹腔鏡カメラはスクリーンに二次元の画像を映すため、外科医は手術で奥行き感のなさを克服しなくてはいけません。

とても一般的になっているロボットプラットフォームでは、通常は患者の体内に手を入れるか、器具に触れる外科医は、現在ではほとんどの場合患者の隣の手術室にあるコンソールにいます。このコンソールには両手用に2つのコントロールまたはマスターがあり、それらによってロボット・インターフェイスを介して患者の体内の器具を操作できます。しかも、ポートを通る器具は手首のような関節があるので、自由度が高く、器具を人間の手首同様に動かすことができ、手術に適した角度を作ることができます。また、コンソールで手術野を見るときには、拡大三次元画像を見ることができるため、自分自身の目で画像を見ているかのように奥行きを把握できます。

ロボット手術で使用する器具の種類は開腹手術で使用するものと同じです。剪刀、ピンセットまたは鉗子を使用し、クリップを利用し、縫合して縛ることができます。ロボットプラットフォームは開腹手術の技術を模倣していますが、手術時の手のふるえを取り除き、手の動きを小さくできます。開腹および腹腔鏡下プラットフォームでは、外科医の手がわずかに振動すれば、器具の動きに影響することがありますが、手術ロボットを用いれば、そのような微小な動きは器具に伝わりません。

ベンチマーク−開腹手術や腹腔鏡下手術に比べて、この技術を用いた手術は成功しているか?

Peter Pinto氏:まだ議論の余地はあるものの、答えは「いいえ」だと思います。ロボットプラットフォームで手術がうまくいくようになるという立場を支持する論文もあれば、この方法は従来と同等、または実際には事態を悪化させていると結論付けている論文もあります。手術の成果は、誰が装置を使用しているか、ロボット手術を行う際の術者の快適度、前立腺とその周辺構造に関する知識に全面的に依存しています。私たちの施設では、ロボットプラットフォームを用いた前立腺癌手術で大きな成功を収めています。この装置を用いることで、癌を切除すると同時に、患者の性機能や排尿制御機能を維持できます。私は2002年にロボット手術を開始し、現在では開腹または腹腔鏡下手術よりもこのプラットフォームを患者に薦めています。

ベンチマーク−この技術に関して安全上の問題は?

Peter Pinto氏:あります。ロボットプラットフォームが開腹手術と何ら変わらないのであれば、なぜこの技術がこれほど一般的になり、安全性がその理由の一つになるのでしょうか。まず、ロボットプラットフォーム自体は開腹手術の代替法で、低侵襲なため、多くの患者が治療のオプションとしてこの方法を選択しています。また、ロボット手術では腹腔鏡下手術と同様、気腹を行います。これはガス(炭酸ガスなど)を用いて腹腔に到達するための空間を作る方法です。そのように圧力を加えることでより出血の少ない手術野で手術を行うことができるので、ロボット手術によって患者の出血量は少なくなります。これは、低侵襲であることに加えて、ロボット前立腺摘除術が開腹手術の代替法として一般的になっている理由です。

ロボットが「制御不能」になり、外科医の手を離れて作動し、それが間違った動作をするという安全性に対する懸念がありました。da VinchRシステムは外科医の指示によって作動するロボットであるため、すべての動作は外科医によって始動します。自動化または半自動化された動作はないので、ヒューマン・インターフェイスを離れて装置が動作するといった、サイエンスフィクションのような風景はありえません。外科医が器具を体のある部分に誤って適用した場合にのみ、この技術を用いた損傷が起こりえます。機器の部品のように、この装置は故障すると、ロボットプラットフォームが機械的に停止します。安全機能によって装置は停止し、それ以降は使用できません。このような場合は、ほとんどの病院で別の装置が利用できるようになっているか、外科医に腹腔鏡下または開腹手術の技術があれば、それらの手術が行われることになります。

ベンチマーク−この技術によって回復時間、手術時間、入院期間を短縮できるか?

Peter Pinto氏:ロボット技術は低侵襲のため、患者は早く回復します。大きな切開創の治癒に要する時間は、腹部の5〜8mmの小さな切開創の回復に要する時間よりも長いということです。

手術自体に関しては、前立腺と癌が広がっていくと考えられる周囲のリンパ節を切除し、性的能力維持のために神経を残し、膀胱から尿道への連続性を再建し、完全に排尿を制御できるようにします。つまり、前立腺を摘出し、膀胱を尿道へ縫合するので、尿が漏れることがないということです。手術では尿道と膀胱間の縫合を越えてカテーテルを挿入する必要があり、これによってその部位が治癒することができます。多くの機関で、この治癒期が7〜14日間以上とみなしており、その間カテーテルが留置されることになります。私たちの施設では、ロボットを用いた縫合が非常に正確で、膀胱と尿道の縫合が水を漏らさないように行なわれるため、カテーテルを3〜5日間で抜去できます。

入院については、開腹手術を受ける患者は術後1日または2日で退院できます。ほとんどの患者は2日間入院しますが、切開部の経過は良好です。ロボット手術では、大半の患者は翌日に退院します。ロボット前立腺摘除術と同日に帰宅する患者もいますが、退院までの時間はどちらかといえば、ロボットプラットフォームの方がわずかに短いのみです。両者には有意差は見られません。患者への利益は、患者が重要であると考える仕事や身体的活動への復帰など長期的なものであると言えます。いまだ論議のあるところですが、ロボットプラットフォームを用いれば、開腹アプローチに比べて数日から数週間早く通常の日常活動へ戻ることができるというのが(私たちの患者の)認識です。

ベンチマーク−どの患者でもロボット手術の対象となるか?
開腹手術や放射線治療の基準と同様、ロボット手術にも基準が定められています。基準は外科医の技術、つまりロボット手術をいかに快適に遂行できるかです。ほとんどどの候補患者にも、開腹、腹腔鏡下、またはロボット手術のどれであっても手術を受ける機会があります。体格、前立腺の大きさ、既往手術のすべてが開腹またはロボット手術の両方において同じくらい重要な要素であり、どれか一つの要素が他より重要であるということはありません。私たちの施設では、開腹手術を受けられるくらい健康な患者は全員ロボット手術を受けることができます。

ベンチマーク−患者はロボットを怖がるか?

現役の軍人の前立腺癌患者の担当をする機会がありました。彼は以前空軍で訓練を受けており、F-14やF-18戦闘機を操縦していたこともありました。旧型の航空機では、スロットルを実際に手で握ることができ、それを動かすことで航空機が動くのを感じ、直接制御できると彼は言いました。しかし、彼が操縦する新型の航空機はボタンや電子機器といったインターフェイスであり、実際に操縦している感覚がありません。私は腹腔鏡下前立腺手術とロボット前立腺手術の違いを彼に説明していました。私がまだ両方の手術を行っていた何年も前に彼の手術を行っていました。彼の私への最初の反応は次のようなものでした。「ロボットでないほうがいいです。先生が手で直接器具に触れて、ポートに通して欲しいと思います。私は先生にこの手術を腹腔鏡下で行なって欲しいと思います。」彼は経験から、外科医と彼の体の間に何かがあることに不安を感じていました。私はロボットプラットフォームを用いたほうが、私が腹腔鏡下で行う手技の多くは改善するでしょうと説明すると、彼はロボット手術に同意し、実際にその手術を受けました。彼のロボット手術はうまくいき、尿制御や性的機能を完全に取り戻し、現在癌は再発していません。

ベンチマーク−da VinchRロボットの操作に必要なトレーニングは?

Peter Pinto氏:レジデントやフェローが現在勤務しているほとんどの大学病院や病院ではトレーニングの一環としてロボット手術を行っています。私たちの施設には1年間に約4人のフェローがおり、トレーニングを受け(フェローは2、3年滞在します)、ロボットの使い方を学んでいます。そのため、この外科医らがフェローシップを終了する頃には、たいてい少なくともロボットプラットフォームに精通し、装置を使用することができます。腹腔鏡下またはロボット技術に触れたことのない泌尿器外科医は、私がその多くを指導支援している講座を受講し、さらに監督下に動物を用いてトレーニングを行なうセッションへと進み、システムに習熟しなくてはいけません。通常は週末または4〜5日のコースです。また、この外科医らがロボット手術の最初の数回を行う際にはこの技術に慣れさせ、手術を監視するために指導者が付きます。多くのトレーニングを受けた医師がこのプラットフォームに精通しつつあるので、次第にこれはそれほど懸念事項ではなくなると思います。個人的には、私はジョーンズ・ホプキンスでトレーニングを受けていた頃腹腔鏡下およびロボット手術の装置の使用法を学ぶ機会があったので、NCIに来て、この装置を使用したのは自然なことでした。

ベンチマーク−ロボット手術は最終的には開腹手術に取って代わると思うか?

Peter Pinto氏:ロボット手術の症例数は引き続き増加するでしょうし、より多くの泌尿器外科医が前立腺手術を開腹手術ではなくロボットを用いて行うことを快適に感じるようになると思います。しかし、装置の故障、患者の要因などの先に述べた点に留意するべきで、ロボット手術が開腹手術に完全に取って代わるには長くかかるかもしれません。開腹手術が果たす役割はこれからも常にあると思いますが、月日を経るにしたがって、ますます多くの症例がロボット手術を用いて行なわれるようになるでしょう。

ベンチマーク−開腹から腹腔鏡下、そして現在のロボット手術に至るまで、技術は大きく進歩してきた。技術がさらに進化したり、da VinchRロボットの新たな改良版ができたりすると思うか。

Peter Pinto氏:そう思います。技術は進化し続けています。日々の生活でも、職場で私たちを支援しているコンピュータや技術は躍進的な進歩を遂げています。手術の分野でも同じことが起きるに違いないと考えています。当初のda VinchRロボットシステムがさらに高度なシステムに更新されました。新しいロボットシステムは旧型と類似していますが、いくつかの小さな改良が加えられています。コンピュータが超大型のデスクトップ型パソコンからノートパソコンや現在の携帯端末へと変貌したのと同様に、ロボット手術も小型で、より優れたものにきっとなっていくでしょう。他の企業も関与して、ロボット支援手術のプラットフォームを供給するようになるかもしれません。

ベンチマーク−遠隔手術分野も持続的に進歩している。最終的には国中または世界中で手術ができるようになると思うか。

Peter Pinto氏:外科医が室内のコンソールにおり、患者は別の場所にいるという、ロボット手術を用いた症例が報告されています。外科医はニューヨークにおり、患者はフランスにいた胆嚢手術も報告されています。外科医が目にするもの(患者の体内で動く器具など)とそれが遠隔地で実際に起きている時間との遅延を克服する必要があるという点において、遠隔手術はロボット手術とは少し異なります。また、特に患者が他国にいる場合は、外科医と患者間の通信回線の安定を確認することが重要です。しかし、外科医が別の場所でCTスキャンやMRIを見るなどの診断目的での遠隔医療は拡大し続けており、プラットフォームが遠隔手術などの外科的応用の方向へ進むのは自然な成り行きだと思います。

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吉田加奈子 訳
榎本 裕(泌尿器科)監修
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原文


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