2011/06/28号◆癌研究ハイライト「有毛細胞性白血病に共通の遺伝子変異を発見」「新たな癌ワクチン、腫瘍モデルマウスで有望」「メラノーマに関わる遺伝子変異を精査」「バレット食道から癌に進行する可能性は意外に低い」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/06/28号◆癌研究ハイライト「有毛細胞性白血病に共通の遺伝子変異を発見」「新たな癌ワクチン、腫瘍モデルマウスで有望」「メラノーマに関わる遺伝子変異を精査」「バレット食道から癌に進行する可能性は意外に低い」

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2011/06/28号◆癌研究ハイライト「有毛細胞性白血病に共通の遺伝子変異を発見」「新たな癌ワクチン、腫瘍モデルマウスで有望」「メラノーマに関わる遺伝子変異を精査」「バレット食道から癌に進行する可能性は意外に低い」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年6月28日号(Volume 8 / Number 13)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

PDFはこちらからpicture_as_pdf

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癌研究ハイライト

・有毛細胞性白血病に共通の遺伝子変異を発見
・新たな癌ワクチン、腫瘍モデルマウスで有望
・メラノーマに関わる遺伝子変異を精査
・バレット食道から癌に進行する可能性は意外に低い

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有毛細胞性白血病に共通の遺伝子変異を発見

まれな血液の癌である有毛細胞性白血病(HCL)にも、メラノーマなどの癌に生起する遺伝子変異が見つかった。 V600Eと呼ばれるこの変異は、BRAF遺伝子に起こり発癌に関わるようであると、6月16日付New England Journal of Medicine誌で報告された

臨床試験に参加した48人のHCL患者全員に、この変異があった。 HCL患者では、異常なBリンパ球(白血球の一種)が大量に増殖する。 この異常細胞が顕微鏡下では「有毛」に見えることが、病名の由来である。

イタリアのPerugia大学のDr. Enrico Tiacci氏らは、まず、HCL患者の腫瘍細胞と正常細胞の両方について、完全エクソーム(つまり、ゲノムのタンパク質コード領域全体)の塩基配列解析を行った。 その結果、正常細胞にはなく腫瘍細胞だけに特異的に発現する5つの遺伝子変異が判明した。その一つがBRAFのV600E変異である。

残る4つの変異遺伝子についてはほとんど何もわかっていないが、BRAF変異はしばしば癌に見られ、なかでもV600E変異は頻繁に起こる。 次に、研究者らはさらに別の47人のHCL患者にV600E変異を見いだした。しかしながら、他のB細胞性リンパ腫や白血病の患者195人を検査しても、V600E変異はなかった。

V600E変異の存在は、医師がHCLと類似の特性を持つ他の癌とを判別するのを助ける診断ツールとなる可能性がある。

より大規模な患者群におけるV600E変異の頻度を確定し、他の遺伝子の変異がBRAF変異と協調してHCL発症に関わるのかどうかを明らかにするために、さらなる研究が必要であるとTiacci氏らは指摘している。

ベムラフェニブ(PLX-4032)など、BRAF遺伝子変異による作用を標的とする薬剤はすでに開発中である。Tiacci氏らがHCL患者の細胞にBRAF阻害剤PLX-4720を投与したところ、成長促進経路の活性低下を示す生化学的変化が見られた。これらの阻害剤を用いて、他の薬剤を用いた一次治療に不応または再発した患者を対象とする臨床試験を実施してもよいだろうと、Tiacci氏らは述べている。

この研究結果は「予想外で」かつ「大変興味深い」と、NCI癌研究センターのDr. Robert Kreitman氏は述べた。 「[V600E]変異は治療および診断の標的となる可能性があり、また、正常リンパ球が有毛細胞となる際に一定の役割を果たしているのかも知れない」と、HCLの臨床試験の研究代表者でもあるKreitman氏はつけ加えた。

(“Treating Multiply Relapsed or Refractory Hairy Cell Leukemia”および“Eliminating Hairy Cell Leukemia Minimal Residual Disease”を参照のこと。)

新しい癌ワクチン、腫瘍モデルマウスで有望

正常なヒト前立腺組織表面抗原のDNAコードの断片をもつウイルスを用いた静注ワクチンを一定回数投与すれば、確立した前立腺腫瘍をもつマウスの約80%で癌が治癒することが、新たな研究によって示された。

6月19日付Nature Medicine誌電子版で公表されたこの研究の責任医師は、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニックのDr. Richard Vile氏と、リーズ市にある英国癌研究所臨床センターのDr. Alan Melcher氏であった。 もし、この新たなアプローチがマウスからヒトに応用できれば、そのワクチンは「テーラーメイドではない汎用品として容易に製造でき、簡便に〔静注により〕投与できる」と、本研究の著者らは記している。

著者らは、正常なヒト前立腺細胞から採取したDNA断片の広範な網羅的「ライブラリ」を、水疱性口内炎ウイルス(VSV)というウイルスの変異体に挿入することによって、癌ワクチンを作成した。 一つひとつのVSV粒子はそれぞれ異なるDNA断片をもち、各々の断片が特定のヒト前立腺特異抗原(つまり、免疫反応を惹起する能力を持つタンパク質)を作成するためのコードを有する。

著者らがウイルス粒子を前立腺腫瘍モデルマウスに静脈注射すると、表面抗原をコードする相補的DNA(cDNA)というDNA断片が、マウス体内で、広範なヒト前立腺抗原に翻訳された。

強力な免疫反応を起こすVSV自体に補強されて、抗原は、正常な前立腺組織やその他の正常なマウス組織を傷つけることなく前立腺腫瘍細胞だけを特異的な標的とする免疫反応を惹起した。 ワクチンを前立腺腫瘍に直接投与した場合、その効果は静注の足もとにも及ばないどころか、マウスに自己免疫反応の徴候がみられた。

「これらのタンパク質すべてを免疫原性が高いウイルスに発現させることによって、タンパク質が免疫系に認識されやすいようにした。その結果、免疫系はウイルスの侵入を受けたと認識するが、そのウイルスが発現しているのは、排除されるべき癌関連抗原なのである」とVile氏は報道発表で述べている。

著者らは、隔日に9回の静注を実施する方が、3回または6回の投与よりも効果的にマウスの腫瘍が治癒することを見いだした。 初めの3回のワクチン静注後に残存した腫瘍細胞は、耐性腫瘍細胞の表面抗原をコードしたDNA断片を用いた「二次治療のウイルス・ベクター免疫治療によって容易に治療できた」と著者らは論じた。

NCI癌研究センターのDr. James Gulley氏はヒト癌ワクチンの研究者であるが、今回の研究には携わっていない。Gulley氏は、新たなアプローチの強みとなりうるのは「標的となりうる抗原が多数あることだ」と述べた。もっとも、そのせいで、ヒトの臨床試験において、類似したワクチンに対する免疫反応を監視することがより困難にもなると、Gulley氏は言う。 Gulley氏はまた、有望なワクチン研究をマウスモデルから臨床へと橋渡しすることにおける本質的な困難さを指摘した。

Vile氏らが説いた方法は、ヒトに有効な癌ワクチンを追究した進行中の研究手法のほんの一例に過ぎない、とGulley氏は付け加えた。「結局のところ、免疫学的な腫瘍細胞の殺傷が何によって惹起されるかは大して重要ではないと思われる」とGulley氏は述べる。「肝心なのは、腫瘍細胞を殺傷するよう免疫系に教え込むことである。もしかしたら、複数の異なるワクチン手法が同等の有効性を示すかもしれない」。

メラノーマに関わる遺伝子変異を精査

研究者らは、今までに発表された研究の中でメラノーマに関わっているとされる745組の遺伝子変異の中から、もっとも有効な罹患性のマーカー5つを特定した。メラノーマに関する145の遺伝子関連研究を分析したこのメタアナリシスの結果は、6月21日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版に掲載された。

5つの各変異は全ゲノムレベルでメラノーマと統計的に有意な関連性を示し、「疫学的信頼性が高い」ことが、ギリシャにあるアテネ大学医学部のDr.Alexander Stratigos氏と共同研究者らにより明らかにされた。

本解析を実施するに当たり、研究者らは最近の全ゲノム関連解析の結果を含むメラノーマ分野の遺伝子関連研究を全て集計、分類した。世界各国の共同研究者らと協力し、特定された各遺伝子変異に対し系統的メタアナリシスを行った。著者らはまた、今回のメタアナリシスの中でメラノーマと統計的に有意な関連性を示した各変異に対し、これを裏づける疫学的エビデンスについても検討した。

メラノーマと最も強い関連性を示したのは、皮膚や、髪、目の色を決定する際に重要な役割を担う遺伝子に含まれる変異であった。この結果は、メラノーマのリスク因子としてよく知られる色素形成に関して、これまで候補遺伝子として研究が行われていたことを正しく反映していると言える、と著者らは記している。

しかし、全ゲノム関連研究の中でいくつかの変異を同定することにより「これら変異のメラノーマ罹患性への関わりは強く裏づけられるが、メラノーマのリスクに対する影響が、完全にこれらの変異が色素形成におよぼす影響を通してなのか、または部分的に独立したものなのかは、われわれの系統的メタアナリシスの手法では評価決定することができない」とStratigos氏はメールの中でつけ加えた。

今回の結果はメラノーマにおける「遺伝子関連のエビデンス集積に統合的な見解を示した」と著者らは結論づけた。これらのエビデンスについてはインターネット上のMelGene Databaseというサイトで閲覧可能であり、メラノーマに関する遺伝子関連研究の概要を定期的に更新しているということである。

バレット食道から癌に進行する可能性は意外に低い

バレット食道(BE)から食道癌に進行するリスクはこれまで考えられていたよりも低いかもしれないことが、この種の最大の研究のうちのひとつにより明らかにされた。この研究は米国とは異なるバレット食道の臨床診断基準を設けているアイルランドで実施された。よって、この結果が米国の治療に適応できるかどうかは不明である。本研究は、6月16日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版に掲載された。

米国での食道癌の発生率は急激に増加しており、過去30年間で300~400%増加している。バレット食道は食道癌を発生する大きなリスク因子のひとつである。現在の臨床ガイドラインでは、異形成として知られる明確な細胞変異を伴わないバレット食道患者に対して3~5年ごとに内視鏡検査を行うことを勧めており、より明確な異形成の認められるバレット食道患者に対してはさらに頻回に内視鏡検査を実施するよう推奨している。

今回の研究から、研究者らは北アイルランド・バレット食道罹患者登録(Northern Ireland Barrett Esophagus Registry)に登録された8,500人以上の患者について追跡調査した。平均7年のフォローアップ期間後では79人が食道癌、16人が胃噴門癌(食道と胃の接合部)、36人が高度の異形成、つまり食道組織の重大な前癌病変と診断された。これら3つを合計した発生率は1年に0.22%であり、過去の研究にみられた数字よりも低かった。また、過去の研究と同様に、癌発生リスクは男性と50歳以上の患者で、より高かった。

過去の研究に比べて低い進行率が示されたことに加え、本研究では、「サブグループでのリスクをより正確に特定し、期間全体にわたる進行リスクの変化予測を可能とした」と本研究の試験責任医師である Queen’s University BelfastのDr. Shivaram Bha氏とその共同研究者らは記した。

しかし、米国におけるバレット食道診断基準である特殊腸上皮化生(SIM)という食道上皮の病変(内視鏡検査による診断)を生じていたのは、登録されたバレット食道患者のうち46%のみであった。他の患者は、食道上皮の病変はより軽度であり、生検によりバレット食道と診断された。SIM患者のうち、バレット食道から食道癌 胃噴門癌、または高度異形成に進行する合計発生率は1年に0.38%であった。初回生検でSIMの認められなかった患者の発生率はずっと低く、1年で0.07%のみであった。

SIMの認められない患者でバレット食道 と診断すると「結果に重大なバイアスを生じうる」と、カイザーパーマネンテ病院北カリフォルニア研究部門のDr.Douglas Corley氏は付随論説の中で述べた。SIM患者の癌発生率は過去の推定値よりもわずかに低いだけであるとも書いている。「この研究は、バレット食道の診療の背景にある多くの基本的な考え方を全般的に裏づけるものである。実際に癌死を減少させるのが追跡観察調査なのか治療(訳注:焼灼や薬物療法)なのかを明らかにするには、またリスク分類のためのより優れた手法を確立するにはさらなる研究が必要であろう」とCorley氏は説明した。

バレット食道診断基準に差があるために「これらの結果と他の研究を比較することが難しい」と、NCI癌予防部門のDr.Asad Umar氏は同様の見解を示した。また、Umar氏は「内視鏡的評価と病理学的評価が、臨床と研究グループの間で大きな差があるため、今回の結果については注意深く分析する必要がある」と述べた。

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盛井 有美子、武内 優子 訳
田中 謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部門)、畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター) 監修
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