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癌の転移抑制の標的となり得る新たな機構を解明

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癌の転移抑制の標的となり得る新たな機構を解明

NCIニュース 2009年6月25日

癌の転移を抑制するタンパク質など、細胞内における重要なタンパク質の発現レベルの制御を助ける特異的なタンパク質の機能の鍵となるメカニズムが、研究者らにより明らかにされた。gp78と呼ばれるタンパク質の作用機構に関するこの新たな知見により、癌の転移を抑制する新たな治療法の開発が可能になるかもしれない。米国国立衛生研究所の一機関である米国国立癌研究所(NCI)の研究者らにより実施された研究がMolecular Cell誌2009年6月26日号に掲載された。

すべてのヒト細胞において損傷したタンパク質や不要なタンパク質は、鎖状に連なったユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質による標識化などの複雑な過程を経て破壊される。ユビチキンで標識されたたタンパク質は、次にプロテアソームという複雑な細胞構造へ輸送され分解される。

標的タンパク質にユビキチンが付加される過程のことをユビキチン化と言い、それは多段階のステップを介して行われ、その過程において数種類のタンパク質もしくは酵素がバケツリレー式に順番に機能していく。最初に、ユビキチンはE1として知られている酵素により活性化される。活性化されたユビキチンは、次に、E2という別の酵素に転移する。続いてE2は、標的タンパク質へのユビキチンの転移には欠かせないE3またはユビキチンタンパク質リガーゼとして知られている別のタンパク質と結合する。この過程は高度に制御されているため、特定のタンパク質を認識し、標的にすることができる。必要な特異性を得るために、ヒト細胞には約40種類のE2酵素と500種類以上のE3タンパク質が存在する。

E3のほとんどはRINGフィンガーと呼ばれる構造部分(ドメイン)を有し、それはE2に弱く結合し、ユビキチン化を実行する。本報告書の筆頭著者の一人であるNCIの癌研究センター(CCR)のAllan M. Weissman医師が過去に行った研究では、gp78として知られるRINGフィンガーE3は、E2に強力に結合するG2BRと呼ばれる特異領域を有すことを発見した。Weissman医師をはじめとするNCI の科学者らは、gp78のレベルが高いと癌転移抑制タンパク質に分解の標識が付加され癌の転移を促進させること、また、このタンパク質の分解にはgp78のユビキチンリガーゼ活性が必要であることを見出した。gp78は他にも嚢胞性繊維症や脂質代謝制御に関与するタンパク質なども標的とする。

この新たな研究において、R.Andrew Byrd博士、Xinhua Ji博士およびWeissman医師の率いるCCRの研究者チームは最先端の構造技術を用いてgp78およびその結合酵素であるE2の構造を研究し、その複合体が細胞内でいかに機能するかということを明らかにした。研究者らは、gp78とその結合酵素E2間の相互作用の構造基盤を解明し、これまで知られていなかったユビキチン化の制御機構を明らかにした。gp78のG2BR領域は、gp78RINGフィンガードメインがE2に結合する部位とは異なる部位でE2に結合することがわかった。この結合によりE2の形状が微妙に変化し、それによりgp78RINGフィンガードメインとE2は通常の50倍強力に結合する。このように結合の強度が増すとgp78の標的タンパク質のユビキチン化が促進されることが、更なる研究により示された。

この発見により、がん細胞内のgp78の機能を阻害する方法が研究されるようになり、癌やその他の疾病に対する新種の治療法がもたらされるかもしれない。「われわれの研究により、今まで評価されていなかったユビキチン化の制御機構が明らかになりました。」とWeissman医師は述べた。「その他のE2とE3の組み合わせも、まだ特性は明らかになっていませんが、gp78G2BRやそれに対応するE2上の結合部位と類似したドメインを介して相互作用していると思われます。この研究により、癌やその他の疾患に対する全く新しい治療法が生まれるかもしれません。」

本研究チームは目下、E2とRINGフィンガードメインの相互作用を更に明確にするための研究に取り組んでいる。またNCIの他の研究者と共同で、彼らの研究結果に基づき、動物モデルでの試験に向けてgp78の阻害剤の設計と合成に取り組んでいる。

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Weissman医師、Byrd博士およびJi博士の研究の詳細は、それぞれ以下のurlを閲覧のこと。
http://ccr.cancer.gov/Staff/Staff.asp/profiled=6524
http://ccr.cancer.gov/Staff/Staff.asp/profiled=5544
http://ccr.cancer.gov/Staff/Staff.asp/profiled=5860

NCIは、癌による負担を大幅に軽減し、癌患者やその家族の生活を改善するために、国家癌プログラムおよびNIHの取り組みを統率し、癌予防や癌生物学の研究、新たな治療法の開発、新人研究者の育成や指導を行っている。癌に関するより詳しい情報は、NCIウェブサイトhttp://www.cancer.gov、またはNCI癌情報サービス1-800-4-CANCER (1-800-422-6237)まで。

米国国立衛生研究所(NIH)-米国保健社会福祉省の医学研究機関で、27の施設とセンターで構成されている。基礎、臨床、トランスレーショナル医学研究の実施と支援行う主要な連邦政府機関であり、一般的疾患および稀な疾患の原因や治療法の研究を行っている。NIHおよびNIHが提供しているプログラムに関する詳細情報はwww.nih.govを参照のこと。

参考文献: Das R, Mariano J, Tsai YC, et al. Allosteric activation of E2-RING finger mediated ubiquitylation by a structurally-defined specific E2 binding region of gp78. Molecular Cell. Vol. 34, No.6. June 26, 2009

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Yuko Watanabe 訳
大藪 友利子(生物工学) 監修
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原文

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