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NIHの研究が明かす、致死的皮膚癌の新たな容疑者遺伝子

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NIHの研究が明かす、致死的皮膚癌の新たな容疑者遺伝子

NCIニュース 2009年8月30日

DNA塩基配列決定法のパワーを生かして、米国国立衛生研究所の研究者らは、最も死亡率の高い皮膚癌、メラノーマに関わる新しい遺伝子変異のグループを同定した。この発見は特別に有望視されている。このグループの中にメラノーマ患者の5分の1近くに認められる変異があるが、この変異が存在する遺伝子を標的とする薬剤が、あるタイプの乳癌で既に承認されているからである。

米国や他の多くの国々で、メラノーマは増加の一途をたどっている。メラノーマの主な原因は日光に当たること、すなわち日光の紫外線が皮膚細胞のDNAを傷つけて、癌が発生するような遺伝子の変化を引き起こすと考えられている。

Nature Genetics誌の9月号に掲載された研究は、米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI:National Human Genome Research Institute)のYardena Samuels博士率いるチームによるもので、転移性メラノーマ患者から得た腫瘍サンプルや血液サンプルのタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)遺伝子ファミリーのDNA塩基配列を決定した。サンプルを採取したのはこの研究の共著者Steven Rosenberg医学博士、メラノーマ研究の第一人者で米国国立癌研究所(NCI)の外科部長である。

PTKファミリーの遺伝子は、変異が起きるといろいろなタイプの癌を引き起こすものが多い。しかしヒトのメラノーマにおいてPTK遺伝子がどのような役割を果たすのか、あまり多くは知られていなかった。NIHの研究は大規模なDNA塩基配列決定を行い、メラノーマサンプルのPTK遺伝子ファミリーのメンバー、86個の遺伝子すべてを系統的に分析した最初の研究の一つである。

研究チームの最初の調査では29人のメラノーマ患者から得たサンプルを使い、19個のPTK遺伝子で、その機能的に重要な領域に変異があることを確認したが、その中で既にメラノーマとの関連が知られていた遺伝子は3個だけだった。チームはその後、合計79人のメラノーマ患者から得たサンプルで、この19個の遺伝子をさらに詳しく分析した。

新しくメラノーマと関連することがわかった遺伝子のうちの1個、ERBB4遺伝子は、その他のものとは違っていた。研究者らはERBB4遺伝子(HER4としても知られている)内の変異を患者の腫瘍の19%から検出した。メラノーマにおけるPTK遺伝子の変異としては、群を抜いた頻度である。さらにERBB4変異の多くは、遺伝子の中で機能的に重要な領域(肺癌、脳腫瘍、胃癌に関連する他のPTK癌遺伝子でみられるのと同様の領域)に存在していた。

次に研究者らはERBB4変異のあるメラノーマ細胞を調べる研究に移った。メラノーマ細胞の増殖は、変異したERBB4が存在するかどうかに依存していたことを見い出した。何よりも、ERBB4を阻害する化学療法薬剤をメラノーマ細胞に投与すると、メラノーマ細胞の増殖は格段に遅くなった。この薬剤はラパチニブ(タイケルブ)と呼ばれるもので、カペシタビン(ゼローダ)による治療をすでに受けている乳癌患者を対象に、カペシタビンと併用する薬剤として米国食品医薬品局に2007年に承認されている。

今回の研究結果に希望を持った研究者らは、ERBB4変異がある転移性メラノーマ患者にラパチニブ治療を行う臨床試験を計画している。この臨床試験はRosenberg博士指揮の元、NHI臨床センターにおいて行なわれる予定である。「今回の共同研究は、洗練された遺伝学的分析がいかに癌患者の利益へと還元され得るか、その理想的な例になります。」Rosenberg博士はいう。

「私たちは、かなりの割合のメラノーマでアキレス腱になると思われるものを発見しました。」と、NHGRI内部研究事業部門(Division of Intramural Research)癌遺伝学課(Cancer Genetics Branch)の研究者、Samuels博士はいう。「これらの遺伝子変異やその癌生物学的な役割をもっと完全に理解するには、さらに研究が必要です。しかし私たちの発見によって、ERBB4変異を有するメラノーマに対して特異的な治療法が有効かどうかを検証する道が開かれたのです。」

ERBB4のほかにも、研究者らはあと2個のPTK遺伝子、FLT1とPTK2に、メラノーマにおいて比較的高い割合で変異が見られることを確認した。この2個の遺伝子はそれぞれ、今回調べたサンプルの約10%で変異が認められた。

NHGRIの科学ディレクター、Eric D. Green医学博士は、オーダーメイド医療時代の基礎を築くために、こうした研究が役立つことを指摘している。「癌患者一人ひとりがそれぞれの癌の遺伝子プロファイルに合わせてオーダーメイドした治療を受ける日を、私たちは心に描いています。こうした研究は、究極的にはもっと効果的でもっと毒性の少ない癌治療につながるのです。」こう述べるGreen博士は、NIH内部シークエンスセンター(Intramural Sequencing Center)(今回のメラノーマの研究でDNA塩基配列データの作成を担当)を指揮している。

NIHの研究者のほか、今回のチームにはジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンター(バルチモア)の研究者も参加した。

2009年5月にSamuels博士のグループは、別の研究をNature Genetics誌で報告しており、メラノーマに関わる別の遺伝子グループ、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)遺伝子ファミリーについて、大規模なDNA塩基配列決定を行っている。こちらの研究では、癌の増殖を促進すると考えられていたMMP-8遺伝子が、実際には癌の増殖を阻害することを明らかにした。この研究結果により、MMP遺伝子を標的としたメラノーマ治療戦略が練られている。

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転移性メラノーマの高解像度顕微鏡写真はこちら:
http://www.genome.gov/pressDisplay.cfm?photoID=20152
http://www.genome.gov/pressDisplay.cfm?photoID=20153

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安田 詠美 訳
林 正樹(血液/腫瘍内科医) 監修
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原文

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