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がん細胞を正常細胞に戻す再プログラムが可能となる遺伝情報の発見/メイヨークリニック

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がん細胞を正常細胞に戻す再プログラムが可能となる遺伝情報の発見/メイヨークリニック

2015年9月10日

がん研究者らは、腫瘍細胞を元の正常細胞に戻すことができる日を夢見ている。最近、メイヨークリニック、フロリダキャンパスの研究者らは、がん細胞を正常細胞に戻すよう再プログラムする可能性がある方法を発見した。

 Nature Cell Biology誌に発表されたこの発見は、「がんのスイッチを消し去るソフトウェアと遺伝情報の供給に関する予想外で新しい生物学*1を説明します」と本研究の上級研究者であるPanos Anastasiadis博士(メイヨークリニック フロリダ分院がん生物学科長)は述べる。

その遺伝情報は、マイクロRNA*2microRNAmiRNA)と呼ばれる分子の生成に重要なマイクロプロセッサ複合体*3と相互作用する細胞接着タンパク質(細胞同士を付着させる接着分子)の発見により解明された。miRNAは遺伝子群の発現を同時に調節することで、細胞の生命現象全体を調整する。正常細胞が互いに接触すると、特定のmiRNA群が細胞増殖を促進する遺伝子を抑制する。しかし、がん細胞ではこの細胞接着が崩れていて、miRNAによる調節は無くなり、細胞増殖は制御を失うことを研究者らは突き止めた。研究者らは、がん細胞内のmiRNA発現量を正常に回復することで、こうした異常な細胞増殖が元に戻る可能性があることを研究室内の実験で示した。

「本研究により、細胞接着とmiRNAの生物学というこれまで無関係だった2つの研究分野が1つに繋がり、研究者らを困惑させていた細胞挙動における細胞接着タンパク質の役割についての長年にわたる問題が解決されます」と本研究の筆頭著者であるAntonis Kourtidis博士(Anastasiadis研究室助教)は述べる。「何よりも重要なのは、本研究ががん治療の新規戦略を見出すことです」とKourtidis氏は言い添える。

その問題とは、長い間腫瘍抑制因子と見なされてきたE-カドヘリンとp120カテニンという正常上皮組織の形成に必須の細胞接着タンパク質に関する相反する報告のことである。「しかし、私たちや他の研究者らは、E-カドヘリンとp120カテニンはいずれも腫瘍細胞内にも存在し、腫瘍の進行に必須なので、こうした(腫瘍抑制因子)仮説は事実ではないらしいことを突き止めました。」とAnastasiadis氏は述べる。「この結果から、私たちはこれらの分子には2つの側面があると確信しました。良い面は正常な細胞挙動の維持であり、悪い面は腫瘍形成を促進することです」。

この二面性の理論は正しいものであったが、何がこうした細胞挙動を調節しているのかは未だに不明であった。その疑問に答えるため、研究者らは極性を持つ正常な上皮細胞の「頂端部」側でのみE-カドヘリンやp120カテニンと共に存在する新規タンパク質のPLEKHA7に注目した。そして研究者らはPLEKHA7がマイクロプロセッサ複合体をE-カドヘリンとp120カテニンに結合させることで、一連のmiRNAを介して正常な細胞状態を維持することを突き止めた。この状態では、E-カドヘリンとp120カテニンは、腫瘍を抑制する良い面を発揮する。

しかし、「PLEKHA7の欠失によってこうした頂端部側の細胞間接着複合体が破壊されると、これら一連のmiRNAによる調節は失われ、E-カドヘリンとp120カテニンは発がん性へとスイッチが切り替わります」とAnastasiadis氏は述べる。

「頂端部側のPLEKHA7―マイクロプロセッサ複合体の欠失は、がんの早期に生じ、かつ、普遍的な事象であると私たちは確信します」とAnastasiadis氏は言い添える。「私たちが検査したヒト腫瘍標本の大多数では、E-カドヘリンとp120カテニンが存在しているにも関わらず、頂端部側の複合体構造がありません。これは、燃料(発がん性のp120カテニン)がいっぱい入っていて、ブレーキ(PLEKHA7―マイクロプロセッサ複合体)がない暴走車と同じです」。

「がん細胞に機能性miRNAを投与し、その発現量を正常レベルに回復することで、こうしたブレーキを修理して、正常な細胞機能を回復することができるはずです」とAnastasiadis氏は述べる。「一部の悪性タイプのがん種についての初期実験では実際、非常に有望です」。

共著者は以下のとおりである。Siu Ngok, Ph.D.; Ryan  Feathers; Lomeli Carpio; Tiffany  Baker; Jennifer Carr; Irene  Yan; Sahra Borges, Ph.D.; Edith Perez, M.D.Peter Storz, Ph.D.John Copland, Ph.D.Tushar Patel, M.B., Ch.B.; and E. Aubrey Thompson, Ph.D., from Mayo Clinic; and Pamela Pulimeno, Ph.D., and Sandra Citi, M.D., Ph.D., from the University of Geneva in Switzerland.

本研究は
、米国国立衛生研究所(NIH)助成金 R01 CA100467R01 NS069753P50 CA116201R01 GM086435R01CA104505R01CA136665、フロリダ保健局BankheadColey助成金10BG11、米国乳がん研究財団、スイスがん同盟、ならびにメイヨークリニックJay and Deanie Steinがん研究キャリア開発奨学金による支援を受けた。

メイヨークリニックフロリダキャンパスの研究者らは、がん細胞を正常細胞に戻すよう再プログラムする可能性がある方法を発見した。


(監修者注)

*1
 従来、マイクロRNAは、核の中でDroshaを含むマイクロプロセッサ複合体によって1次転写物から前駆体が切り出された後、細胞質に運び出され、Dicerによりさらに切り出されて成熟マイクロRNA分子が生成されると考えられていた。この論文では、PLEKHA7がマイクロプロセッサ複合体を(核を離れた)細胞質辺縁の頂端部側の接着帯にリクルートし、かつその局所において機能性のマイクRNAを生成している事を初めて明らかにした。

*2
 マイクロRNA2125塩基長の一本鎖RNA分子。RISC複合体に取り込まれた後、RNAサイレンシング効果による遺伝子の転写後発現調節に関与している機能性RNA。ヒトでは1000種以上が見つかっており、1分子で複数の遺伝子の発現に作用する。

*3
 マイクロプロセッサ:長鎖の1次マイクロRNA転写物からヘアピン構造のマイクロRNA前駆体を切り出すRNA切断酵素複合体

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渡邊岳訳
高山吉永(北里大学医学部分子遺伝学) 監修
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原文

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