マスター遺伝子制御経路が、小児の悪性脳腫瘍治療の重要な標的である可能性/ジョンズホプキンス大学 | 海外がん医療情報リファレンス

マスター遺伝子制御経路が、小児の悪性脳腫瘍治療の重要な標的である可能性/ジョンズホプキンス大学

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マスター遺伝子制御経路が、小児の悪性脳腫瘍治療の重要な標的である可能性/ジョンズホプキンス大学

現在、小児を対象とした臨床試験で試験中である抗癌剤が、この遺伝子経路を阻害している可能性が基礎研究で示唆される
2015年2月23日

 概要 ______________________

  • ある遺伝子経路は、何千もの異なる遺伝子を制御するマスター制御因子として機能し、腫瘍細胞の増殖と抗癌剤治療に対する耐性を促進している可能性がある。
  • AT/RT(非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍)患者由来の細胞を調べると、現在別の小児脳腫瘍に対する臨床試験で試験中の抗癌剤、セルメチニブ[selumetinib]が、マスター制御因子のひとつに制御されている分子経路の一部を阻害している可能性があることがわかった。
  • LIN28やHMGA2に関する研究は、AT/RTのような腫瘍はなぜ悪性度が高いのかという原因究明だけではなく、その弱点の解明にもつなげていくべきだ、研究者らは述べている。
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ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らは、極めてまれであるが悪性度が高い脳腫瘍を有する小児由来の細胞を調べたところ、何千もの異なる遺伝子のマスター制御遺伝子として機能し、がん細胞増殖や抗癌剤治療に対する耐性を促進していると考えられる遺伝子経路を同定した。

ジョンズホプキンス大学、医学部腫瘍学助教授であるEric Raabe医学博士が主導した研究チームによると、AT/RT(非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍)を有する患者由来の細胞を調べたところ、別の小児脳腫瘍に対する臨床試験において現在試験中である抗癌剤セルメチニブが、マスター制御因子に制御されている分子経路を阻害している可能性があることがわかった。

AT/RTは6歳以下の小児に多く、積極的な手術、放射線治療、化学療法といった、思考力や学習能力、成長の妨げにもなるような治療をおこなっても生存率は50%未満である。AT/RTは、米国で報告される4,500人以上の小児脳腫瘍のうち1%であるが、非常に低年齢の小児によくみられ、乳児においては全脳腫瘍の10%を占めている。

「この試験でおもしろいのは、すでに小児患者で試験されている実験薬を用いて、AT/RTを治療する新たな方法を確認したということです」とRaabe氏は述べる。同氏と研究メンバーは、AT/RTと関連している明らかな遺伝子突然変異や創薬ターゲットがほとんどないことから、AT/RT腫瘍細胞に存在する何千もの遺伝子を制御する遺伝子に注目した。LIN28として知られる遺伝子は、脳腫瘍の増殖に関わっている遺伝子の制御に重要な役割を果たしている可能性が、ショウジョウバエを用いた実験ですでに示されている。具体的には、LIN28タンパク質は正常な幹細胞において何千ものRNA分子を制御し、成長、増殖、損傷への耐性、などの能力を与える。

「この因子により、幹細胞は、外界刺激への抵抗など腫瘍細胞と同じ特性を示します。この因子により、腫瘍細胞は化学療法や放射線療法に耐性を示します」と   Raabe氏は述べる。「これらのタンパク質はまた、幹細胞の体内循環や、腫瘍細胞の転移を促します」。

12月26日発行のOncotarget誌で、同氏らは、小児AT/RT患者由来の細胞株と腫瘍標本とを検証した研究について報告をした。同氏らは、LIN28遺伝子ファミリーのうち2つの遺伝子が標本の78%に高発現していること、また短鎖ヘアピンRNAと呼ばれる、遺伝子を特異的に標的とするサイレンサーを用いてLIN28の発現を阻害すると、腫瘍細胞の成長や増殖を抑制し、細胞死を引き起こすことを発見した。同氏らと研究チームがマウスに移植したAT/RT腫瘍細胞のLIN28Aを阻害すると、マウスは2倍以上(48日対115日)の寿命を得た。

セルメチニブを用いた細胞株の実験では、AT/RT腫瘍細胞の増殖が半分になり、細胞死の割合が4倍になった細胞株もみられた。Raabe氏は、セルメチニブがLIN28によって制御されている重要な分子経路を阻害していると思われる、と述べている。

Journal of Neuropathology and Experimental Neurology誌に掲載された次の研究では、Raabe氏と研究チームは、LIN28同ようにAT/RT腫瘍で高発現し、HMGA2と呼ばれるLIN28経路での別の因子を検証した。同氏らは、再び短鎖RNAを用いてHMGA2を“サイレンス(発現停止)”させたところ、細胞の成長、増殖レベルが低下し、細胞死が増加した。HMGA2の阻害により、小児AT/RT細胞株から腫瘍を移植したマウスの生存期間もまた、2倍(58日間対153日間)になった。

Raabe氏は、LIN28とHMGA2に関する研究は、AT/RTのような腫瘍はなぜ悪性度が高いのかという原因究明だけはなく、その弱点の解明にもつなげていくべきだと述べている。「AT/RTにおいてLIN28の下流にあるこういった重要なタンパク質を標的することで、腫瘍が解明できることをわれわれは示したのです」。

Oncotarget誌掲載の研究に貢献した研究者はRaabe氏の他に以下のとおりである。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのMelanie F. Weingart、Marianne Hutt-Cabezas、Harpreet Kaur、Antoinette Price、Rachael Maynard、Jeffrey Rubens、Isabella Taylor、Xing-Gang Mao、Charles G. Eberhart。フィラデルフィア小児病院のJacquelyn J. Roth、Tracy M. Busse、Jaclyn A. Biegel.

チルドレンズ・ホスピタル・ロサンゼルスのJingying Xu、Anat Erdreich-Epstein。ノースカロライナ大学チャペルヒル校のYasumichi Kuwahara、Bernard E. Weissman。St. Jude Children’s Research HospitalのSariah J. Allen、Brent A. Orr。

Kaur、Hutt-Cabezas、Weingart、Xu、Kuwahara、Erdreich-Epstein、Weissman、Eberhartは、Journal of Neuropathology and Experimental Neurology誌掲載の研究にも貢献した。

上記の研究に関して、Alex’s Lemonade Stand Foundation、米国国立がん研究所(NCI)(P30 CA006973、CA91048)、米国国立衛生研究所(46274)およびSt. Baldrick’s Foundationより資金提供を受けた。研究で使用した細胞株の一部は、Grayson’s GiftおよびMichael Hoefflin Foundationから資金援助のもと作成された。

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平沢沙枝 訳
寺島 慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター腫瘍科)監修
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原文

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