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抗うつ剤が乳癌女性におけるタモキシフェンの効果を弱める

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抗うつ剤が乳癌女性におけるタモキシフェンの効果を弱める

乳癌の治療でタモキシフェンを服用しているオンタリオ在住の女性についての研究で、同時に抗うつ剤パロキセチン(パキシル®)を服用していた人は乳癌による死亡リスクが上昇した。死亡リスクはこの2つの薬剤を併用していた期間に比例して上昇した。

キーワード
乳癌、エストロゲン受容体陽性、タモキシフェン、うつ病、ホットフラッシュ、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、パロキセチン塩酸塩(パキシル®)。(癌関連用語の定義は、http://www.cancer.gov/dictionary/ に多数あります)

要約
乳癌の治療でタモキシフェンを服用しているオンタリオ在住の女性についての研究で、同時に抗うつ剤パロキセチン(パキシル)を服用していた人は乳癌による死亡リスクが上昇した。死亡リスクはこの2つの薬剤を併用していた期間に比例して上昇した。

出典
British Medical Journal誌電子版2010年2月8日号(ジャーナル要旨参照)(BMJ. 2010; 340:c693)[url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20142325](ジャーナル要旨参照)[/url]

背景
ホルモン感受性乳癌(女性ホルモンエストロゲンによって成長が促進される乳癌)の女性は治療の一環でタモキシフェンを服用することが多い。タモキシフェンは乳房内でエストロゲンの作用を阻害する。研究によると、タモキシフェンはエストロゲン受容体陽性の初期乳癌の女性において、再発リスクを約半分に、死亡リスクを約1/3に低下する。

乳癌の治療を受ける女性のうち1/4がうつ病にかかる。うつ病の治療には通常選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)という種類の薬剤が使われる。乳癌の治療でタモキシフェンを服用する女性に、うつ病治療のため同時にSSRIを投与されることがある。SSRIはタモキシフェン治療でよく見られる副作用ホットフラッシュの治療にも使用される。

抗癌作用を発揮するために、タモキシフェンはまず肝臓でCYP2D6という酵素で代謝(分解)されなければならない。しかし、いくつかのSSRIを含めて薬剤のなかには、この酵素の作用を阻害するものがある。パロキセチンとフルオキセチン(プロザック®)はどちらもCYP2D6を阻害することが知られているSSRIである。この既知の薬物相互作用から、これらのSSRIがタモキシフェンの効果を阻害するのではないか、という疑問が提起された。

研究
カナダの研究者らは、診療および投薬記録を用いて、1993年から2005年までに乳癌治療のためにタモキシフェンを処方され、服用開始した時点で66歳以上、かつその期間の一部でSSRI治療も併用された2430人のオンタリオ在住の女性を特定した。研究者らは死亡診断書からこの集団の死亡者数と死亡原因を判断した。

これらの女性らのタモキシフェン服用期間の中央値は4年であった。最も多く処方されたSSRIはパロキセチンであり、25.9%の女性が服用した。その他に処方されたSSRIには、シタロプラム(セレクサ®)、フルオキセチン、セルトラリン(ゾロフト®)、ベンラファキシン(エフェクサー)があった。

本研究の筆頭研究者は、カナダトロントのサニーブルック健康科学センターのDavid N. Juurlink医学博士である。

結果
研究の終了日(2007年12月31日)までに研究に登録された女性のうち1074人(44.2%)が死亡し、うち374人(15.4%)の死因が乳癌であった。パロキセチンとタモキシフェンを同時に服用した女性では、2剤の併用期間が長いほど乳癌による死亡リスクが(全死亡リスクとともに)上昇した。著者らは、タモキシフェンによる治療期間の41%の期間(併用期間の中央値)パロキセチンを服用すると、タモキシフェン服用中止後5年以内に20人につき1人の割合で死亡すると推定している。タモキシフェンと同時に他のSSRIを服用した女性では死亡リスクの上昇は見られなかった。

制限事項
本研究は、ある種のSSRIがタモキシフェンの代謝を妨げタモキシフェン治療の効果に影響を及ぼし得るとする知見を支持する集団ベース研究である。しかしながら、SSRIの1種フルオキセチンはパロキセチン同様CYP2D6を阻害することが知られているが、乳癌による死亡リスクは、フルオキセチンをタモキシフェンと併用した女性では上昇しなかった。著者らはフルオキセチンとタモキシフェンを併用した女性の数が少なく、乳癌死亡リスクの上昇を検出するのが困難であった可能性があると指摘している。

「我々の結果は、フルオキセチンがタモキシフェンと安全に併用可能であることの証拠とみなすべきではない」と著者らは記す。同様にその他のSSRIをタモキシフェンと併用した女性の数は、併用に起因する有害作用が乳癌生存率に現れるには少なすぎた可能性がある。しかしタモキシフェンの代謝を阻害しないSSRIもあり、それらはタモキシフェンを服用中の患者に処方することも可能であろう。

研究に参加した女性の乳癌ステージについての情報は得られなかった。もしパロキセチンがより進行したステージの女性に処方される傾向があるなら、パロキセチンの服用が生存率の低さに関連している可能性がある。しかし、著者らは、特定のSSRIが乳癌のステージと関連して処方される事は考えにくいと注記している。

コメント
「我々の研究結果は抗うつ剤の選択が、タモキシフェンを乳癌治療で服用している女性の生存に顕著に影響を及ぼすことを示している。タモキシフェンと抗うつ剤の同時処方が必要な場合、CYP2D6をほとんどあるいは全く阻害しないタイプの抗うつ剤を優先するべきである。」と記している。

現在パロキセチンをタモキシフェンと併用している患者は、パロキセチンの服用を突然中止するべきではない、と米国国立衛生研究所臨床センターの腫瘍診療薬学スペシャリストDavid R. Kohler薬学博士は述べる。うつ病の再発などの悪影響があるかもしれないからである。

かかりつけの医師に相談し、パロキセチンのように、人体のタモキシフェン分解能力に影響しない抗うつ剤への変更について助言を求めるべきである、とKohler博士は続ける。

セルトラリンは他のSSRIのひとつで本研究中何人かの女性に処方された。パロキセチンやフルオキセチンと比べるとCYP2D6の阻害作用は弱いが、やはり人体のタモキシフェン分解能力を妨げる、とKohler博士は付け加える。抗うつ剤のブプロピオン(ウェルブトリン®)やデュロキセチン(シンバルタ®)はSSRIではないが、これらもCYP2D6の中程度の阻害剤である。

「タモキシフェンのCYP2D6による代謝に影響を及ぼさないと思われる抗うつ剤には、シタロプラム、エシタロプラム(レクサプロ®)、ベンラファキシン、ミルタザピン(レメロン®)などが挙げられる。」と彼は述べる。

閉経後の女性の場合、医師はタモキシフェンからアロマターゼ阻害剤(AI)と呼ばれる別の種類の抗乳癌剤への変更を勧めてもよいのではないかとNCIの癌治療評価プログラムのJo Anne Zujewski医師は付け加える。タモキシフェンのようにエストロゲンを阻害するのではなく、AIは人体のエストロゲン産生能力を妨げる。しかしAIは卵巣が機能している女性には単体で使用しても効果的ではない。閉経前の女性には、卵巣でのエストロゲンの産生を抑圧するために、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログと呼ばれる別種の薬剤とAIを併用する必要がある。

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杉田 順吉 訳
原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修
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原文

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