がん発生の主な原因は、ランダムな変異によって起こる不幸な偶然/ジョンズホプキンス大学 | 海外がん医療情報リファレンス

がん発生の主な原因は、ランダムな変異によって起こる不幸な偶然/ジョンズホプキンス大学

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がん発生の主な原因は、ランダムな変異によって起こる不幸な偶然/ジョンズホプキンス大学

幹細胞の分裂回数によるがんリスク統計学的モデリング

2015年1月1

ジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らは、多くの組織について、幹細胞分裂時に生じる(DNAの)ランダムな変異が主な原因でおこる、がんの発生率を評価する統計モデルを作成した。この統計から、成人組織でのがん発生のうち、3分の2は主にがん化促進遺伝子内で生じるランダムな変異、つまりこの「不運な偶然」が原因であると説明することができる。一方、残りの3分の1は環境要因や遺伝形質が原因である。

「全てのがんは、不運な偶然と環境と遺伝の組み合わせにより引き起こされます。そして、これらの3つの要因がどのくらいがんの発生原因になるのかを定量化するのに役立つモデルを私たちは作成しました」とBert Vogelstein医師(ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍科クレイトン記念教授、同大学医学部ルートヴィッヒがん遺伝学・治療センター共同所長、ハワード・ヒューズ医学研究所治験責任医師)は述べる。

「煙草などの発がん物質に曝露されている人々ががんを発生せずに長生きすることができるのは、大抵の場合『遺伝子が優れている』ためと思われています。しかし実際は、彼らの多くは単に運が良かっただけです」とVogelstein氏は言葉を添える。また、生活様式が好ましくない場合、がん発生の不運な要因が増すことになると、Vogelstein氏は警告する。

このモデルのもたらす影響は、がんのリスク要因についての一般的認識を変えるに留まらず、がん研究の財政的支援にまで及ぶと研究者らは述べる。「各組織でのがんの発生の3分の2が幹細胞の分裂時に生じるDNAのランダムな変異によって説明されるならば、生活様式や生活習慣を変えることが一部のがんの予防に非常に役立つとしても、多様な他のがんに対しては有効ではないのかもしれません」と生物数学者であるCristian Tomasetti博士(ジョンズ・ホプキンス大学医学部兼ブルームバーグ公衆衛生大学院腫瘍学助教)は述べる。「私たちはこのようながんを治癒可能な早期に発見する方法を見出すことにより多くのリソースを集中すべきです」とTomasettiは言葉を添える。

Science 2015年1月2日号誌上で発表された統計結果に関する論文で、Tomasetti氏とVogelstein氏は、人の一生にわたる31種類の組織幹細胞の平均的な累積総分裂回数に関する情報が掲載されている科学論文を調べ、結論をまとめた。特定の器官で死滅する細胞の再生は、幹細胞の「自己複製」によりなされている。

組織特異的な幹細胞が、細胞分裂の複製過程で、DNAの塩基1つが他の塩基に不適切に置き換えられるランダムな誤りである変異によってがんが発生することは良く知られていた。これらの変異が多く蓄積されるほど、細胞が制御されずに増殖する(つまり、がんの特徴)というリスクが増加すること、遺伝や環境要因の関与と比較して、これらのランダムな誤りががん発生に実際に関与していることは、これまでは知られていなかったと、Vogelstein氏は述べている。

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らはがんリスクにおけるこのようなランダム変異の役割を解明するために、31種類の組織における幹細胞分裂回数を図示し、これらの分裂回数を米国人の同じ組織におけるがんの生涯リスクと比較した。Tomasetti氏とVogelstein氏はこのいわゆるデータ散布図から、幹細胞総分裂回数とがんリスクの間の相関係数は0.804であることを確定した。この値は数学的に1に近くなるほど、幹細胞分裂回数とがんリスクは相関性が高くなる。

「一般的に、ある組織型における幹細胞分裂回数の変化は同一組織のがん発生率の変化と大幅に相関していることが私たちの研究により示されます」とVogelstein氏は述べる。1つの例が結腸組織で、ヒトでは結腸組織の幹細胞分裂回数は小腸組織のそれの4倍であり、同様に、結腸がんは小腸がんよりもはるかに多い。

「結腸は潜在的な獲得型変異率の増加する小腸と比較して、より多くの環境要因に曝露されているとの議論があります」とTomasetti氏は述べる。しかし、研究者らはマウス結腸で正反対の結果を見出した。それは、マウス結腸は小腸よりも幹細胞分裂回数が少なく、かつ、マウスでは結腸がん発生率は小腸がんのそれよりも低いことである。この事実はがん発生における幹細胞総分裂回数に関する重要な役割を裏づけると研究者らは述べる。

研究者らは統計理論を使用して、幹細胞分裂回数によるがんリスクの変動をどの程度説明できるかを算出した。その数値は0.804×0.804、すなわち、約65%である。

最後に研究者らは、調べたがん種を2群に分類した。次に、どのがん種が幹細胞分裂回数により発生率が予測されるか、ならびに、どのがん種でその発生率が高くなるのかを統計学的に算出した。そして、22種類のがんは細胞分裂時に生じるランダムなDNA変異の「不運」な要因によって大部分は説明が可能であることを突き止めた。残りの9種類は「不運」によって予測される以上に発生率が高く、かつ、不運と環境要因もしくは遺伝要因の組み合わせに由来すると推定された。

「幹細胞分裂回数により予測される以上にリスクが高いがん種はまさに予測どおりのもので、具体的には、喫煙と関連する肺がん、日光曝露と関連する皮膚がん、および遺伝子疾患と関連するがん種が含まれることを私たちは突き止めました」とVogelstein氏は述べる。

「喫煙や他の好ましくない生活様式の要因により、がん発症リスクが増加することが本研究から示されます。しかし、多くのがんは生活様式や遺伝要因とは無関係に、がん化促進遺伝子内の変異の獲得という不幸が主な原因です。これらのがんを完全に治療する最善の方法は、がんがまだ外科手術で治癒可能な早期に発見することです」とVogelstein氏は言葉を添える。

乳癌や前立腺癌などの一部のがんでは、幹細胞分裂回数に関する信頼性のあるデータが科学論文に示されていなかったために、本論文には含まれなかった。他の研究者らがより正確な幹細胞分裂回数を見いだし、統計モデルの改良を促すことを期待している、と研究者らは述べる。

本研究は、バージニアおよびD.K. ルートヴィッヒがん研究基金、ラストガーテン膵臓がん研究財団、ソル・ゴールドマン膵がん研究センター、および、米国国立衛生研究所所属米国国立がん研究所(助成金P30-CA006973、R37-CA43460、RO1-CA57345、P50-CA62924)による資金援助を受けた。
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渡邊岳 訳
高山吉永(北里大学医学部分子遺伝学) 監修
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原文

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