[ 記事 ]
乳癌リスク評価ツール
- 2010年10月9日
乳癌リスク評価ツール 2010年6月14日 更新2011年5月16日
■ リスク算出 ■
女性の乳癌発症リスク評価に役立つ双方向ツール
乳癌リスク評価ツールは、米国国立癌研究所(NCI)およびNational SurgicalAdjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)の科学者が、女性の浸潤性乳癌発症リスク評価のためにデザインした双方向ツールである。このツールは、避妊および生殖の経歴(CARE)に関する調査に基づいて、アフリカ系アメリカ人女性について更新が行われている。詳細については「ツールについて」を参照のこと。
ツール使用時には、以下に注意すること。
・ 乳癌リスク評価ツールは医療従事者向けにデザインされた。使用者が医療従事者でない場合、結果と個人の乳癌リスクについて主治医と相談することを推奨する。・ツールは、既に乳癌、非浸潤性小葉癌(LCIS)、または非浸潤性乳管癌(DCIS)の診断を受けている女性の乳癌リスクの算出に用いてはならない。
・ BCRA リスク計算機は、新たなデータまたは研究を入手次第、定期的に更新される。
・このツールは、濃厚な乳癌家族歴を持つ女性に対して病院で効果的に用いられてきたが、BRCA1 またはBRCA2 遺伝子に癌を生じさせる変異を有することが分かっている女性については、より具体的なリスク評価法が適切である。
・ 他の要因もリスクに影響することがあるが、それらはこのツールでは説明されない。これらの要因には、ホジキンリンパ腫治療のための胸部への放射線治療経験または中国農村部などの乳癌発症率の低い地域から最近米国へ移住してきたことなどが含まれる。ツールのリスク算出は、米国の一般母集団と同様に、女性が乳癌検診を受けていることを前提としている。マンモグラムを受けていない女性は、乳癌と診断される可能性がやや低くなる。
患者が癌リスクを理解するために役立つ情報については、http://understandingrisk.cancer.gov.を参照のこと。この双方向ウェブサイトは、どのようにリスクを低下させるかということについて患者が十分に情報を得た上で意思決定を行う一助となるだろう。
リスク算出 |
(設問番号をクリックすると、簡単な説明または説明全文が表示される。) 1.乳癌または非浸潤性乳管癌(DCIS)または非浸潤性小葉癌(LCIS)の既往歴の有無 はい 2.年齢 本ツールでは35歳以上の女性のリスクのみを算出する。 3.初潮年齢 不明 4.初産年齢 不明 5.乳癌に罹患した第一度近親者(母親、姉妹、娘)数 不明 6.乳房生検を受けたことがあるか。 不明 6a. 乳房生検(陽性または陰性)の回数 1回 6b. 一度でも生検で異型過形成と診断されたことがあるか。 不明 7.人種/民族 白人 |
結果 |
注意:乳癌リスク評価ツールは医療従事者向けにデザインされた。使用者が医療従事者でない場合、この結果と個人の乳癌リスクについて主治医と相談することを推奨する。 |
人種/民族 |
〔 〕 |
5年リスク |
本女性〔 歳〕:〔 〕% 平均的な女性〔 歳〕:〔 〕%説明 入力された情報(下記参照)に基づくと、本女性が今後5年間に浸潤性乳癌を発症する予想されるリスクは〔 〕%、米国の一般母集団の同一年齢および人種/民族の女性のリスクは〔 〕%である。この算出は、本女性が今後5年間に乳癌を発症しない可能性が〔 〕%であることも意味する。 |
生涯リスク |
本女性(90歳まで):〔 〕% 平均的な女性(90歳まで):〔 〕%説明 入力された情報(下記参照)に基づくと、本女性が生涯にわたり(90歳まで)浸潤性乳癌を発症する予想されるリスクは〔 〕%、米国の一般母集団の同一年齢および人種/民族の女性のリスクは〔 〕%である。 |
設問に関する説明
設問1: 乳癌または非浸潤性乳管癌(DCIS)または非浸潤性小葉癌(LCIS)の既往歴の有無
説明
非浸潤性乳管癌(DCIS)または非浸潤性小葉癌(LCIS)の既往歴がある場合、浸潤性
乳癌の発症リスクが増加する。乳癌リスク評価ツールで浸潤性乳癌のリスク算出に用いられる方法は、DCIS またはLCIS の既往歴のある女性については正確ではない。また、本ツールでは乳癌の既往歴のある女性の新たな乳癌リスクを正確に予測することはできない。
設問2:
年齢
説明
乳癌発症リスクは年齢とともに増加する。乳癌症例の大半は50 歳以上の女性で発症している。ほとんどの癌は長期間にわたり徐々{じょじょ}に進行するため、乳癌は高齢の女性により多くみられる。
注意:本ツールでは35歳以上の女性のリスクのみを算出する。
設問3: 初潮年齢
説明
12歳以前に初潮を迎えた女性は、乳癌リスクがわずかに高い。女性ホルモンのエストロゲン濃度は月経周期に伴って変化する。初潮年齢が早い女性は乳癌リスクがわずかに高く、これは一生涯のエストロゲン暴露期間が長くなることと関連している。
設問4: 初産年齢
説明
リスクは初産年齢や乳癌の家族歴など多くの要因に依存する。これら2 つの要因の関連性を下記の相対リスク表に示す。
乳癌発症相対リスク*
初産年齢 | 罹患近親者数 | ||
0 | 1 | 2以上 | |
20歳以下 | 1 | 2.6 | 6.8 |
20〜24歳 | 1.2 | 2.7 | 5.8 |
25〜29歳または未経産 | 1.5 | 2.8 | 4.9 |
30歳以上 | 1.9 | 2.8 | 4.2 |
罹患近親者数が0 または1の女性の場合、リスクは初産年齢が上がるごとに増加する。2人以上の罹患した第一度近親者のいる女性は、リスクは初産年齢が上がるごとに低下する。
*表1の出典:Gail MH, Brinton LA, Byar DP, Corle DK, Green SB, Shairer C,
Mulvihill JJ: Projecting individualized robabilities of developing breast
cancer for white females who are being examined annually. J Natl Cancer
Inst 81(24):1879-86, 1989. 〔PubMed Abstract〕
設問6: 乳房生検を受けたことがあるか。
6a. 乳房生検(陽性または陰性)の回数
6b. 一度でも生検で異型過形成と診断されたことがあるか。
説明
乳房生検を受けたことがある女性は、特に生検標本で異型過形成が認められた場合、乳癌リスクが増加する。乳房生検を受けた女性は、どのような乳房の変化で生検を受けることになったにしても、それによりリスクが増加する。乳房生検自体は乳癌発症の原因とはならない。
設問7: 分かる場合は、女性の人種/民族を入力する。
説明
人種/民族は算出の考慮に入れるが、他の要因ほど乳癌リスクに影響を及ぼさない。アフリカ系アメリカ人女性のモデルは、避妊および生殖の経歴(CARE)に関する調査(参考文献5 参照)およびNCI のSEER プログラムにより算出された。ヒスパニック系女性については、モデルの一部をBreast Cancer Detection Demonstration Project に参加した白人女性およびSEER のデータから算出している。したがって、ヒスパニック系女性のリスク予測は白人女性よりも不確実になる傾向がある。アメリカン・インディアン、アラスカ原住民、アジア系および太平洋諸島系の女性についての算出は、全面的に白人女性のデータに基づいており、正確でない可能性がある。研究者は、より多くのデータを収集し、これらの集団の女性についてツールの精度を向上させるため、少数集団での研究など、さらなる研究を行っている。
注意:女性の人種/民族が不明の場合、本ツールでは白人女性のデータを用いて予想されるリスクを算出する。
結果に関する説明
乳癌リスク評価ツールは入力された女性の年齢およびリスク要因情報に基づいて、今後5年間および90歳まで(生涯リスク)に浸潤性乳癌を発症するリスクを算出する。さらに、本ツールでは比較のために、平均的な乳癌発症リスクがある同年齢の女性の5年リスクと生涯リスクを算出する。乳癌リスクは年齢とともに増加するため、生涯リスク予測は5年リスクよりも高くなる。
本ツールが算出するリスク予測は、乳癌の絶対リスク予測である。乳癌の絶対リスクとは、規定の年齢区間で浸潤性乳癌を発症する確率または可能性である。リスク予測の精度を評価する方法のひとつは、同一リスク要因および同年齢の女性集団の平均リスクを正確に予想しているかどうかを判定することである。乳癌リスク評価ツールは、そのような平均リスクを適切に予想する。
女性のリスクを正確に予測できるが、この予測によってどの女性が乳癌を発症するか正確に分かるわけではない。実際に、乳癌を発症する女性のリスク予測の分布は、発症しない女性のリスク予測と重複している。
BCRAリスク計算機は新たなデータまたは研究を入手次第、定期的に更新される。
ゲイルモデルについて
乳癌リスク評価ツールは、NCI の癌疫学・遺伝学部門生物統計学科上級試験責任医師のMitchell Gail 博士にちなんで「ゲイルモデル」として知られる統計モデルに基づいている。モデルでは、女性個人の既往歴(乳房生検の回数、これまでの生検標本での異型過形成の有無)、出産歴(初潮年齢および初産年齢)、第一度近親者(母親、姉妹、娘)の乳癌歴を用い、一定期間中の浸潤性乳癌発症リスクを予測する。NCI と米国癌協会共同の乳癌スクリーニング研究である35 歳から74 歳までの28 万人の女性が参加した
Breast Cancer Detection Demonstration Project(BCDDP)およびNCI のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムのデータがモデル開発に用いられた。アフリカ系アメリカ人女性についての予測は、避妊および生殖の経歴(CARE)に関する調査およびSEER のデータ基づく。CARE には、浸潤性乳癌に罹患した1,607 人の女性と、1,637 人の罹患していない女性が参加した。
ゲイルモデルは白人女性の大規模集団で検証されており、正確な乳癌リスク予測を提示している。つまり、同モデルは白人女性に関して「実証された」ということである。モデルはアフリカ系アメリカ人女性の健康イニシアチブのデータでも検証されており、うまく機能しているが、生検を受けたことがあるアフリカ系アメリカ人女性のリスクを過小評価することがある。モデルはさらにヒスパニック系女性、アジア系女性、その他のサブグループについて実証する必要があり、ホジキン病で胸部への放射線治療を行った女性や乳癌リスクを増加させる遺伝子変異の保有者など、特別なリスク要因を有する女性に対して、医療機関は結果を説明しなくてはならない。研究者は、より多くのデータを収集し、モデルの検証や改良を行うため、少数集団での研究など、さらなる研究を行っている。
BCRA リスク計算機は、新たなデータまたは研究を入手次第、定期的に更新される。アルゴリズムは2007 年に最終更新された。
参考文献:
- Gail MH, Brinton LA, Byar DP, Corle DK, Green SB, Shairer C, Mulvihill JJ: Projecting individualized probabilities of developing breast cancer for white females who are being examined annually. J Natl Cancer Inst 81(24):1879-86, 1989. [PubMed Abstract]
- Costantino JP, Gail MH, Pee D, Anderson S, Redmond CK, Benichou J, Wieand HS: Validation studies for models projecting the risk of invasive and total breast cancer incidence. J Natl Cancer Inst 91(18):1541-8, 1999.
[PubMed Abstract] - Gail MH, Costantino JP, Bryant J, Croyle R, Freedman L, Helzlsouer K, Vogel V: Weighing the risks and benefits of tamoxifen treatment for preventing breast cancer. J Natl Cancer Inst 91(21):1829-46, 1999. [PubMed Abstract]
- Rockhill B, Spiegelman D, Byrne C, Hunter DJ, Colditz GA: Validation of the Gail et al. model of breast cancer risk prediction and implications for chemoprevention. J Natl Cancer Inst 93(5):358-66, 2001. [PubMed Abstract]
- Gail MH, Costantino JP, Pee D, Bondy M, Newman L, Selvan M, Anderson GL, Malone KE, Marchbanks PA, McCaskill-Stevens W, Norman SA, Simon MS, Spirtas R, Ursin G, and Bernstein L. Projecting Individualized Absolute Invasive Breast Cancer Risk in African American Women. J Natl Cancer Inst 99(23):1782-1792, 2007. [PubMed Abstract]
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吉田加奈子 訳
原 文堅(乳腺科/四国がんセンター) 監修
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